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第四章『星月の選択』
Act.26:崩壊した町②
しおりを挟む崩壊した町の中を進むこと、数分経過した頃。
特に魔物も居らず、平和だった。まあ、周りの景色というか風景は平和とは言い難い状態だが。ただ魔物が居ないというのと同時に、人影も全く無い。
「うわ、歩道橋も酷いわね」
「ん」
道を渡るために設けられている歩道橋が見えたが、他の建物と同じように悲惨な状態になっていた。
「それにしても、全然魔物の気配がしないわね」
「うん。やっぱり遠くに行った?」
「どうかしら……」
結構進んだはずなのだが、一向に魔物は見当たらない。クラゲの魔物は一体何処へ行ったのか……そんな事を思っている中、ブラックリリーが何かを見つける。
「ねえ、あれを見て」
「え?」
ブラックリリーの指差した方向に目を向けると、瓦礫の山に背中を向けて倒れている人を発見する。慌てて俺たち二人はその倒れてる人の元へ駆けていく。
「大丈夫?」
声をかけるが、少女からの反応はない。念の為、脈の確認をしてみた所、生きているようで安心した。
ん? ちょっと待てよ? この衣装……それからこの子から感じる魔力……。
「これ、魔力の装甲よね」
「ん。魔力を纏ってる……という事はこの子は魔法少女」
魔法少女の衣装特有の独特な衣装を身に纏ってるし、更には魔力も感じ取れる。変身はまだ解除されてないようだが、魔力残量の方が大分少ない。このまま放っておけば変身が解除される可能性があるな。
周りには誰も居ないが、万が一解除した状態で魔物とかに襲われたら大変だろう。そもそも、こんな所に女の子放っておける訳がない。
「魔法省の子?」
「ん……分からない。わたしも魔法省に所属している魔法少女全員を知ってる訳じゃないから」
「それもそうよね……」
人手不足とは言え、茨城地域の魔法少女は30人も居る訳だ。そんな全員を知ることなんて出来ない。最も……最近はドタバタしているようで、遭遇すること自体少なくなってしまってるが。
「取り敢えず魔力譲渡する」
「分かったわ。何があったかも聞きたいしね」
「ん」
気を失ってしまってるので、話が聞けないがそもそも今の状態のままだと解除されて本当の姿の方がバレてしまうだろう。俺は知ったとしても言いふらす気はないが、それでも意識のない内にばれるなんて言うのはこの子も本望ではないだろう。
気を失っている少女のおでこ辺りに手を触れる。魔力譲渡は別に、場所が決まっている訳ではないので何処触れても可能だ。一番無難なおでこに触れた所で、徐々に魔力を送り込む。
「っ」
一瞬だけ少女の身体が動くが、目が覚めた訳ではないようだ。うーん? 俺の知らない魔法少女だよな? いやでも、何処かで見た事あるような。
白い髪に、白い衣装……目は閉じているのでわからないけど、白が基本な感じの魔法少女だ。ホワイトリリーに近いかも知れない。まあでも、明らかにホワイトリリーとは衣装が違うし、彼女ではないのは確かだ。
そこそこの魔力を譲渡した所で、止める。これで大分この子の魔力は回復したはずだ。まず、変身解除が起きる事はないはず。
「ヒール」
次に使うのは、傷を癒やす魔法のヒール。少女の衣装はあっちこっちがぼろぼろになっていて、肌が出ている場所についてはそれなりの切り傷やかすり傷などが見られる。
まあ、俺がさっき魔力譲渡で魔力を流したのでそれを使用して衣装の自動修復が始まってる。しばらくすれば、衣装は元通りになるだろう。
後は、今俺が使ったヒールで傷を癒やしていく。傷を負っているということは、魔力装甲が少し破られたのかな? 魔力装甲が残っていれば直接生身にダメージはないはずだしね。まあ、衝撃とか反動で痛みは感じると思うが。
「ふう」
「どう?」
「魔力自体は回復したと思う。後は目を覚ますのを待つだけかな」
「そっか……」
相変わらず、どんよりとした空のままだ。
「これは……ララ」
「ああ。間違いないね……これは」
気を失っている魔法少女の治療をし終えた所で、少し離れた場所からブラックリリーと、ララのの驚いたような声が聞こえる。何かあったんだろうか。
「うん? どうしたの、ブラックリリー?」
「この辺り」
「ん?」
「この辺り周辺に魔法が使われた痕跡が残っているのよ」
「痕跡? ここで戦っていたからそれは普通では?」
「ええ、確かに普通なら良かったんだけれど」
「?」
「……ここで使われた魔法は、空間の魔法よ」
「空間? ブラックリリーが使える魔法と同じ?」
「同じかまではわからないけど、同類ね」
ブラックリリーの話をまとめるとこんな感じだ。
今俺らが居るこの一体の区画全体に、空間系統の魔法の痕跡があるとのこと。俺は何も感じないが、同じ魔法を使う者同士なら分かるのかな?
それは置いておき、つまりブラックリリーのように空間の魔法を使える存在が他にも居るということだ。
「空間のどの魔法?」
「うーん……流石にそこまでは分からないわね。でも私が使うテレポートに似ている気もするわ」
「つまり瞬間移動?」
「ええ。確信した訳ではないけれどね」
テレポートの魔法。それは瞬時に場所を移動できる、普通の人から見れば喉から手が出る程欲しい力だろうと思う。だって、それが使えれば出勤とか通学とかで、満員電車とか満員バスとか乗らずに済むし、何より一瞬なので家でゆっくりしてから行けるというのもある。
いい事ずくめではあるな。ただ、そんな瞬間移動に頼りきりだったら肉体が衰えて、歩けなくなる可能性がありそうだが。
っと、話が逸れたな。
要するにここで使われた魔法はテレポートに似た何かということ。しかも、この辺全体と来た。なにか引っかかるな? 何かまでは分からないが……。
「それに、あっちの方を見てみなさい」
「ん」
ブラックリリーに言われた方向を見る。向こうと言えば、水戸駅の方角だな。それがどうしたのかと思ったが、俺はそこではっとなる。
視線を戻し、今居るこの場所周辺を見て、また向こうを見る。それを繰り返した所で気付いた。
俺達がいるこの場所に比べて、あっちの方は被害が少ない。
全くの無傷とは言えないが、崩壊した建物はなく、あったとしてもガラスが割れてたり、少しだけ凹んでたりヒビが入っている程度がほとんどだ。
更にその向こうを見れば、無傷な建物すら見えてくる。つまり、この先には被害があまり出ていない? 俺とブラックリリーがテレポートした場所からこの辺りまでが、大きな被害を受けてる。
そしてこの近くには転移系統かも知れない魔法の発動痕跡。残念ながら俺には感じれないから何ともえ言えないが。ブラックリリーを見る限りでは本当っぽい。それに一緒に居るララという兎も同じらしい。
「(ラビは何か感じる?)」
「(ええ一応はね。確かにこの辺りには魔法が発動した痕跡があるわ。何かまでは分からないけど)」
ラビも言ってるし、そうなんだろう。
「何こそこそ話してるのよ。既にバレているんだから大人しく出てきなさいな」
どうもカマをかけているわけでは無さそうだ。向こうはこっちにラビが居るということを確信している感じ。それに今思ったんだが、ラビの過去を見る魔法で何が起きたか見れるのでは?
「はぁ……分かったわよ」
「おや、ようやく出てきてくれたようだね」
観念したのか、ラビが俺のとんがり帽子からそろりと出てきて、この場にいる全員にその姿を晒す。
「! ラビリア様?」
「え?」
完全に姿を晒したラビを見て、ララと呼ばれている黒い兎が驚いた顔でラビを数回見る。ブラックリリーも何でそんなに驚いているのか分かっていない様子。
「ん? ラビリア様?」
ブラックリリーが首をかしげる。
「ララだっけ? その話は一旦置いておいて」
「ああ、了解した。ごめん、ちょっと取り乱したよ」
「ラビ?」
「ごめんなさい。今は話せないわ。でも後できちんと話すから待っててくれないかしら?」
ラビリア……もしかしてそれがラビの本名なのだろうか? 気になるが……まあ、無理に聞くようなことはしないさ。
「うぅ」
「!」
そんなこんな話をしていると、どうやらさっきの魔法少女が目を覚ましたっぽい。俺とブラックリリーはお互いの目が合ったと同時に頷き、少女の元へ戻るのだった。
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