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第四章『星月の選択』
Act.27:崩壊した町③
しおりを挟む「う……ここは?」
先程の魔法少女がゆっくりと目を覚まし、起き上がる。
「大丈夫?」
「え? あれ、あなたは……リュネール・エトワールさん?」
起き上がった少女に俺が声をかけると、こちらを向くと同時に俺を見た瞬間驚く顔を見せる。ん? 俺のこと知ってるのか? そうなると、俺も何処か出会ったことがある訳だが……うむ、思い出せない。
白い半袖ワンピースを元にしたような衣装に、白手袋。白く長い髪に、ほんのりと赤みのあるグラデーションが上から下にかかっている。緑色の目はこちらをじっと見ている。
「? 会ったことある?」
「あ、いえ。多分私自身が会ったことはないかと……後方支援がメインなので。ただ魔法省内では結構有名なので、それで聞いた容姿と似ていたのでもしかしたらと思ったんですが……」
なるほど。
魔法省内で話が広がっているのはまあ、ホワイトリリーたちに聞いたことあるから知っている。容姿とかの話が出ていても何もおかしくないだろうしな。それに、何となくだが俺のこともマークしてそうな気はする。
かと言って、魔法省に所属は今の所する気もない。今の状態ならリアルの容姿がバレても、大丈夫だろうが……。
「なるほど」
「はい。えっとそれから……そちらの方は」
「ブラックリリーよ。今はリュネール・エトワールと行動している感じね」
「そうなんですね……」
ブラックリリーがそう言うと、さっきまで俺を見ていたようにブラックリリーの方もじっと見る。
「私の顔に何か付いてる?」
「あ、いえ……ちょっと」
「?」
流石にホワイトリリーやブルーサファイアのようには言わないか。多分、彼女を見たのは魔法省内でも話になっているであろう、黒い魔法少女の容姿に似ているから、と思う。というより、実際この子が犯人ではあるが。
とは言え、恐らく男の証言のみしか今の所ブラックリリーの容姿とかは分からないから確信が持てないのだろう。そもそも、黒い魔法少女って他にも居ると思うんだよな。
「それで何があったの?」
「それが……」
とにかく、ここで何があったのかを俺は聞きたい。魔物の行方もそうだが、戦っていたはずの魔法少女たちも何処に居るのか。それにブラックリリーが言ってた空間魔法の痕跡も気になるよな。それは流石にブラックリリーしか分からないだろうけど。
「消えた?」
「はい。この辺りで戦闘していたのは確かで、最初は良い感じに相手を出来ていたんですけどね」
彼女の話を聞いてみると、まず、この辺りで戦闘をしていたのは間違いなく、しかも総勢で相手していたようだ。だからティラノサウルスもどきの魔物の方には誰も来てなかったのか。
まあ、物事には優先順位があるのは仕方がないのだが……あのティラノサウルスもどきが居た場所よりも、こちらのほうが都心と言っても良い場所。優先度はこっちのほうが高いのだろう。
しかも相手は脅威度Sときた。ティラノサウルスもどきも同じくS……そしてこの地域にいるSクラスの魔法少女は一人のみ。仮に分散させたとしても片方の戦力が絶対足りないだろう。
それにSの魔物はSクラスの魔法少女複数で対応するのが基本な魔物だしな。これはもう知っての通りだろうが……脅威度AならAクラス魔法少女数名って感じで脅威度1:魔法少女クラス2みたいな感じ。
脅威度に対して該当する魔法少女複数で、相手するのが基本ということになってる。
あくまで基本ってだけなので、別に単体で倒せる魔法少女も普通にいると思う。これは安全性とかを考えた上での基本的な考えだからな。
話が逸れたが、クラゲの魔物は空中からビームのようなものを撃ってきたり、自分の触手を使って攻撃してきたりなど、見た目から考えられる行動パターンで襲ってきたみたいだ。
ティラノサウルスもどきや、ゴジラもどきとは違ってブレスのようなものは吐いてこなかったらしい。使ってないだけかも知れないから何とも言えないが。
それで最初は善戦していたようなのだが、それなりにダメージを与えられた時に事は起こった。
「見えない壁と言えば良いのか、そんな物が出現してこの辺りを包んでました」
「見えない壁……」
「中から外へ出ようとしてもその見えない壁にぶつかって出られないと言った感じです。私は、見えない壁の範囲外? に向かっていたところだったので免れました。異変に気付いて慌てて向かおうとしたんですが、どうも外からも中に入れないようで弾き返されてしまったんです」
見えない壁がこの辺を囲った、か。
中に居た魔法少女は閉じ込められ、外に居た魔法少女は近付こうとしても弾かれたらしい。何だそれは……でも何かこんな事できそうな魔法を知ってるような……。
「空間の魔法ね。恐らく一定範囲の空間を作って中に閉じ込めたって所かしら」
そうだ。
ブラックリリーの空間操作の魔法の中に、任意の形の空間を作れるっていうとんでも魔法があったな。でも、ここで使われた空間魔法の痕跡は転移系統って言ってたような。
「あれ? でも空間魔法の痕跡は転移のものって言ってなかった?」
「言ったわね。あれは、まだ確証がある訳では無かったし。と言っても空間を作ったっていうのものまだ確信できないけれど」
「?」
「閉じ込めたなら、何でここに誰も居ないのって話よ。それにさっきその子も言ってたじゃない? 消えたって」
「そう言えば……ねえ、消えたっていうのはどういう事?」
「見えない壁が生成されてしばらくした所で、一瞬にして魔物と壁の内側に居た魔法少女たちが消えました」
「……転移の魔法はこれかしらね」
わざわざ空間作って、転移させたという事になるが魔物目的は何なんだろうか。やっぱり、魔法少女の持つ魔力か? 一箇所に集めてまとめて? でも魔物も一緒に消えたって言ってたし、わざと連れて行ったように見えるな。
魔法少女たちが無事なら良いのだが……しかし、それだと困ったな。何処に飛んでいったかが分からないし。
「内側に居た魔法少女たちが、ってことは、外側にはあなた以外にも魔法少女が居たのかしら?」
「はい。私を含めて5人ですね。今は周囲の見回りと魔法省と連絡をとってるかと思います」
肝心な何故ここで気を失っていたのかと言えば、これは何と言えば良いんだろうか……辺りを散策中に瓦礫が落ちてきたり、コケたりとかしたのが原因で……うん、不幸な子だ。
瓦礫とかそういうのでも、魔力装甲は削れる。脅威度Sの魔物と戦っていたわけなので、その時点で結構消耗していたはず。不幸が重なったって感じだな。
そもそも、一度離れたのも後方に行って回復してもらうためだったそうな。
「あ、すみません。私は魔法省茨城支部所属Aクラス魔法少女、ホワイトパールです」
「ホワイトパール……」
「直接、は会ったこと無いと思います。ただ遠回りに助けられたのは事実です。ありがとうございます、リュネール・エトワールさん」
ホワイトパール、か。
いや、Aクラス魔法少女で名前だけなら何となく知ってたが、姿までは見たことなかったし。というか待て、Aクラス魔法少女?
「一応聞きたいけど、他の4人のクラスは?」
「えっと、ニ人がBクラス、もうニ人がCクラスの魔法少女ですよ。後方支援で偶々、外側に居たので免れた感じです」
「なるほど」
Aクラス魔法少女は茨城地域には9人だから……今、魔物と一緒に居るのは8人と言ったところか。それからホワイトリリーも恐らくそうだろう。こればっかりは、ホワイトリリーも一緒っていうのは安心出来る。
でも相手はSの魔物だし、心配は尽きない。Bクラス魔法少女が二人ということは、もしかするとブルーサファイアが含まれている可能性があるな。まだわからないが。
そうなると、今クラゲもどきの魔物と一緒に居るであろう魔法少女は25人か。
「あの」
「ん?」
そんな事を考えてると、ホワイトパールに何処か遠慮がちに声をかけられる。
「あの。リュネール・エトワールさん……皆を助けて下さい! 野良であるあなたにこんな事言うのは間違いなのは分かってますが、私たちでは何も分かりません」
「それを言ったらわたしも状況把握しきれてないよ?」
何せ、当時の事を見た訳ではないしな。ティラノサウルスもどきを相手してたから。そしてそれはブラックリリーも。ただまあ、ブラックリリーの場合は空間魔法の痕跡とかが分かるらしいが。
「それは分かってます。私たちも出来る限りやります……どうか手伝ってもらえませんか。そちらの魔法少女の方も」
「だそう。ブラックリリー」
「私は別に……リュネール・エトワールが決めれば良いじゃないの」
「わたし?」
「ええ。少なくとも今は協力関係だし、情報が少ないのも事実よ」
まあ、俺も気になるし、答えは決まってるさ。ブラックリリーもこう言ってる訳だし、ね。
俺はホワイトパールに向き合い、答えを告げるのだった。
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