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第四章『星月の選択』
Act.28:協力関係
しおりを挟む「まずは、協力してくれるってことで、お礼を言うわね。リュネール・エトワールと、ブラックリリー。それからもう一体の魔物を倒してくれて本当に感謝しているわ」
「ん」
「別に……」
魔法省所属のAクラス魔法少女ホワイトパールに遭遇し、一時的に協力するという答えを告げた後、何故か茜たちがやってきていた。いや、茜が魔法省に勤めているっていうのは分かってたけど……。
なんか色んな人に、指示とか飛ばしていたしかなり偉い地位なのでは? と思ってる。幹部かそれ以上か……まあ普通ではないのはもうお察しの通りである。
「まずは情報共有って言いたい所なんだけど……こちらも何が何だか分かってないっていうのが現状よ」
崩壊していた町から少し離れた場所……水戸駅付近に止まっている魔法省の車の中で茜がそう切り出した。やっぱりあの町だけが特段に大きな被害を受けていたっぽくて、水戸駅の方はそこまで酷くはない。無傷な所もあるしな。
そんな水戸駅周辺には魔法省の人や、自衛隊の人たちなど多くの人が集まっていた。今回の脅威度S魔物の出現について、重く捉えており自衛隊も派遣されているとのこと。
テントがあっちこっちに設置されていて、そこには陸上自衛隊や警察、消防とかも待機してる。パトカーや消防車以外にも陸自の96式装輪装甲車や、10式戦車等の兵器も投入されている様子。空にはヘリコプターとかも飛んでいるみたい。
活動としては崩壊した町の調査や、逃げ遅れてしまった一般人とかが居ないか等様々で、自衛隊と魔法省が連携をとってる。後は周囲の哨戒とかかな?
今の所、魔物の出現は確認されてないからある程度自由に行動ができている状態か。いくら自衛隊といえども、魔物には攻撃が効かないからどうしようもない。
ただ今回、どうやら噂の魔導砲の試作型を搭載している戦車も数台居るっぽい。実際使ってどういう感じなのか、そういうのを実験している所での今回の魔物である。
「ホワイトパールから話は聞いてると思うけれど、一瞬にして見えない壁の内側に居た魔法少女たちが消えてしまったのよね。免れた魔法少女たちもそう言っていたから」
他の4人の魔法少女たちも同じ所を目撃していたようで、消えたというのは本当みたいだ。今は、自衛隊たちと協力して辺りの捜索や、見回り、哨戒等を行ってるそうな。
「そんな訳で現状お手上げなのよね。辺りの捜索をしているけれど、これと言った手がかりは見つかってないわ」
そんな訳で茜もとい、魔法省も手こずっている様子。
「ん。大体は理解した。次はこっちの番」
「ええ、宜しく頼むわ」
「と言っても、こっちもそこまで情報を持ってるわけじゃないけど」
「今は何か分かればそれで良いわ」
俺たちもそこまで情報があるわけじゃないからな。
あるのはブラックリリーが感知した、転移系統の魔法の痕跡があるという事。まだ確証がある訳ではないものの、俺もそれが濃厚かと思い始めてる。
だって消えたって言ってるんだぜ? それから思い浮かぶのはテレポートの魔法だ。一瞬にして移動ができるあの魔法は、傍から見れば消えたように見えるだろう。いや、実際その場からは消えているんだけどな。
そんな訳で俺とブラックリリーはその魔法についての事を茜に話す。
「転移の魔法……そんなのもあるのね」
「ええ。ただまだ確実とは言えないから分からないけれどね」
「ん。仮に転移の魔法として、行き先が分からないと助けに行くことが出来ない」
「そうね……」
そうなのだ。
さっきも言ったのだが、テレポートのような魔法であった場合、それはつまり別の場所へ移動しているということ。行き先が分からない以上、こっちから迎えに行くのは難しい。それにテレポートのような魔法ではない可能性だってまだある。
「ブラックリリーはその転移が使えるんだったわよね? どんな感じなのかしら」
「やってみる?」
「ええ、お願いするわ」
茜がそんな事を言うので、ブラックリリーは立ち上がりそしてキーワードを紡ぐ。
「――テレポート」
すると、一瞬にしてブラックリリーの姿が消える。
「消えた……」
「ん。これがテレポート、らしい」
最初はまあ、驚くよな。一瞬で姿が消えるわけだし……そんな事を言ってると、ブラックリリーがこの場に戻ってくる。
「どう?」
「ええ……驚いたわね。確かに消えたと言っていた現象と同じね」
「それで、これからどうするのかしら」
確定という訳ではないが、そんな事考えていても分からないものは分からない。まずは行動しないと何も始まらない訳で、ぶっちゃけ転移の魔法を使ったっていう事前提で動いた方が良いと思ってる。
俺たちでも、何処へ飛んだとかまでは流石にわからない。だが、こっちには他にもラビとララという妖精も居るわけで、もしかしたら何か分かるかも知れない。
「そうね、私たちももう少し調べるわ」
「ん。わたしたちはどうすれば良い?」
「今の所はうーんって感じね。出来れば周りの捜索とかに協力してもらいたい所だけど、野良だからそこは強制できないし……」
協力するのは別に良いのだが、野良の魔法少女について他の人がどう思っているのかって所だな。全員が全員、野良に対して好意がある訳ではないだろうしな。
「それなら私たちは私たちで調べることにするわね。多分これが一番だとは思うわ」
「そっか……でも確かに、全員が野良に対して良い印象を抱いてるとは言えないし、それが一番かしらねえ」
結局協力と言っても、情報が互いに不足していることもあって進展はなし。でもまあ……俺たちは俺たちで行動したほうが都合が良いのも確かだ。ラビやララがいるから、他にはあまり見せたくないしな。
「協力と言っておいて進展無くて申し訳ないわ」
「ん」
とりあえず、俺たちは別で調べるという事にしたのだった。
□□□□□□□□□□
「はあ……」
車内のモニターを見ながら、私はため息をつく。その原因はやっぱり、消えてしまった25人の魔法少女たちだろう。クラゲもどきの脅威度Sの魔物が動き出して、それに対抗するために魔法少女たち30人総勢で出動した。
同時に、別の場所でも魔物が観測されていてそちらも脅威度Sと判定。でも茨城地域に居る魔法少女は30人しか居らず、Sに対抗できるのは一人しか居ないのよね。
ホワイトリリー……大人びていた女の子だったけど、最近では年相応の表情とか言動とかを見せるようになった。それ自体は良いことなのだけど。
脅威度Sの魔物は本来Sクラス魔法少女複数人で対応する魔物。でも、私たちのところには一人しか居なくて他はA以下。Aクラス魔法少女も9人しか居ない。
もう片方の魔物に対しては、分散させてしまうと彼女たちに危険が及んでしまうだろう。だから今回は優先度の高い、都心へ戦力を集中させた。これでも散々悩んだ結果でもある。
それに仮に分散させたとして、Sクラス魔法少女はホワイトリリーしか居ないので片方が戦力不足になるのは必至。勝ち目がないとは言い切れないけれど、勝率は格段に低くなるだろう。
そんな事もあって私は片方を切り捨てた。
本当にこの判断で良かったのかと何回も思ったけど……ただ今回もまた件の魔法少女に助けられた形となった。リュネール・エトワール……未だに謎多き魔法少女。
そして今回もまた一緒に居た黒い魔法少女……名前はブラックリリーと言っていたわね。最初、彼女が以前の事件の男が言っていた魔法少女なのかと思ったけど、実際会ってみた感じでは悪意を感じることはなかった。
おまけに、リュネール・エトワールと一緒に協力してくれている。新たな情報として、件のエリアで空間魔法が発動した形跡があったと言ってた。
魔法については私もまだまだ知らないことが多いけど、そんな魔法があるんだなと思ったわね。実際見せてもらったけど、あれは反則な気がするわ。
一瞬で目的の場所に飛べるわけでしょう? 反則よね。
お互い情報が不足しているのもあって、今回の話し合いでは進展はなかった。でも、見つけ出さないといけない……茨城地域の魔法少女たちだ。私には見つけ出して助ける義務がある。
今も何処かで戦っているかも知れない。
後方支援……回復とかの魔法が使える魔法少女が居るとは言え、相手はSの魔物。長期戦になったら間違いなく、彼女たちが不利になるわ。
「無事で居てくれるわよね」
こちらにはリュネール・エトワールとブラックリリーという野良の魔法少女が加わってくれた。リュネール・エトワールは魔法の威力が桁外れで良く分からない私でも強い、と思ってる。
ブラックリリーについては今回が初めてだから何とも言えないけれど、テレポートという一瞬で移動する魔法を使える。この二人が居るだけでもかなり心強いわね。
私たちも負けてられないわね。
今は自衛隊と協力して情報収集や、逃げ遅れた人が居ないかの確認等を行ってる状態。今魔物が出現すると、結構きついかも知れないけど、幸いな事に魔物は観測されていない。
ただ油断はできないのよね。いつ出現するか分からないのだから。空も何だかどんよりしていて、嫌な感じだし、勘弁してほしいわよね。
今回は試作型の魔導砲も用意しているけど……一部の戦車砲に試験的に搭載している感じね。何もないよりはマシだと思ってるけど、何処まで通用するか。
「今は……懸命に調べるしかないわよね」
ええ、そうよ。
それしか今はない。何か……あれば良いんだけれど。私はそんな事を考えながら、アリスへと回線を繋げるのだった。
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