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第四章『星月の選択』
Act.35:星月の選択①
しおりを挟む「お兄、良かった無事で……」
「ん。ごめん、心配かけた」
色々あったのが終わり、わたしは自分の家に帰ってくる。
県北地域については魔物はあの時以降、出現してなかったので別に避難警報のようなものはなく、避難することはなかったみたいだ。だから家には真白が居る。
今回魔物が出現し、大きな被害が出てしまったのは県央、水戸市……と言っても、わたしとブラックリリーが向かったあの町くらいしか完全崩壊してる箇所は無いみたい。
あの町については残念だと思うが、反対に考えればあの町だけで済んだのは魔法少女たちが戦ってくれていたからだ。あの町に住んでいたり、居た一般人たちは既に避難は完了していて、人的被害はない。
まあ、あそこまで崩壊してしまっているといくら国や県が補償してくれるとはいえ、復興までは時間がかかるだろう。建物は使い物にならないので、一度壊してから建て直すしか無いだろうし。
「真白?」
「本当に良かった……」
そんな事を考えていると、急に真白がわたしを抱き寄せる。突然のことでわたしは固まる。だけど、真白の言葉には何処か震えもあって、わたしははっとなる。
わたしは何をしてた?
今日のお昼の警報がなる前まで、昨日から部屋に閉じこもっていた。途中、いつもの習慣で見回りに出ていたけど、それは別として真白とは顔を合わせてない。
お昼の警報の時に部屋から出たのは良いものの、真白に心配されつつその場からすぐに現場に向かっていた。それから何時間も居なかった訳だ。
真白がどれだ心配していたのか。
それは分からないけど、今のこの現状を見る限り、そういう事なのだろう。真白には悪い事しちゃったな……。
「ごめん」
「うん、良いの。こうして無事に帰ってきてくれてだけで嬉しい」
本当に心配をかけてしまった。これは後で猛反省しよう。だけど、自分の行動に後悔はしてない。あのままだったら、茨城地域の魔法少女は5人になっていたかも知れないから。
「お兄、何か雰囲気変わったね」
「え?」
「何て言えばわからないけど、こう何処かすっきりしたような感じがする」
「なにそれ」
「さあ?」
二人で笑う。
雰囲気が変わった、か……心当たりが無い訳じゃないけど、多分ごちゃごちゃしていた気持ちが無くなったからかな? そうとは言い切れないけど。
「はいはい、仲が宜しいのは良いことだけど、もう少しで今年が終わるわよ」
「あ、そう言えば今日は大晦日だったね。何か色々あって忘れてたかも」
どうやら真白もわたしと同じだったようだ。
まあ、今日一日で色々ありすぎだったのは確かだな……脅威度Sの魔物二体出現に、反転世界に行けるクラゲもどきの魔物。うん……今日は異常だな。
嫌な予感も的中したし……。
それは何とかなったから良かったな。それにしても、大晦日か……そんな事もあってゆっくりなんて出来なかったし、掃除も出来なかったな。でも掃除については、わたしが定期的にやってるからそこまでで汚れてないと思う。見落としはあるかも知れないけど。
『さあ、今年も残り僅かとなりました。千葉県の成田山では――』
丁度、大晦日の恒例のテレビ中継がやっているようで今回撮影してるのは、千葉にある成田山。まあ、あそこは人が多いよなあ……にしてもこうして見ると、茨城地域だけなんだなあって思う。
茨城にも有名な場所としては鹿島神宮や大洗磯前神社とかがあるが、大洗については多分無理かもな。一応あそこって県央だし、避難警報が鳴っていたはず。
鹿島神宮の方は鹿行地域の方だから、大分離れているので普通にやっていそうだな。あそこは出店とか結構良く並ぶし、人もそれなりに集まる。出店なら他の神社とかでもあると思うけど。
今年の年末は家で過ごす事になりそうだ。どうせなら鹿島神宮とかに連れていけたら良かったのだが、今のわたしだと車の運転ができない。真白が運転するというのも手だけど、それはそれでうーん。
この前、服とかを買いに行った時は真白が運転で行ったけど……だいぶ吹っ切れたと思うが、問題は山積みである。
「来年もよろしくね、お兄」
「ん」
もう今年も終わりを告げる……8月までは特に何もなく、普通な年だったと思う。カオスになったのは9月からだよな……男なのに魔法少女に変身して、野良として活動していた。
魔物の異常出現もそうだし、エーテルウェポン事件もあった。更には今のわたし……本来の姿まで変わってしまったというとんでも事件もあった。
かなり濃い後半だったな?
「話を変えて申し訳ないのだけど……司」
「ん?」
そんな事を話したり考えてたりしていると、ラビが声をかけてくる。ラビの方を向けば、真剣な顔が伺えた。
「あなたを元に戻す方法だけど、もしかしたら出来るかも知れないわ」
「え? ラビそれは本当?」
「ええ。ただ確実とは言い切れないんだけれど」
元に戻れる?
リュネール・エトワール似の少女から男の姿に……?
「……」
「どうしたのよ、急に黙り込んじゃって」
「あ、ごめん」
元に戻れる。
それは確かにわたしが望んでいる事……でも何だろう。嬉しいはずなのに、嬉しくない。原因は……まあ、反転世界での出来事だろうな。そんなのはもう分かってる。
この姿は自分自身が望んだ理想の姿。この姿であれば、今までの関係なんて壊さずに過ごせる。隠す必要もなくなり、自由にホワイトリリーやブルーサファイア、ブラックリリーたちとリアルでも会えるだろう。
わたしは――
わたしは、どうしたい?
「……戻れる方法っていうのは?」
「願いの木よ」
「え?」
願いの木と言ったらわたしをこの姿にした元凶……100%とはまだ言い切れないけど、ラビの過去を見る魔法や、わたし自身の願いから限りなく100%に近い。
でも確かに、願いの木なら戻りたいという願いを叶えられるかも知れない。
「でも、願いの木は……」
「ええ。同じ人が二回叶ったという事例は過去にはないわ」
そう。
ラビのあの時の話から、願いの木は一度叶えた者の願いを叶えることはない。何度か叶った者が、また願いの木に来て願ったという事例があるらしいが全て叶わずに終わってる。
妖精書庫の情報にもそうきちんと記載されているようだ。
「でも、今の司は元の司とは別の姿となってる」
「!」
今のわたしは男の時とは全く別な人間となってる。中身は同じではあるが、中身のことを正直に誰かに伝えたとしても信じる人が居るだろうか?
「女の子としての司の願いなら、もしかすると叶うかも知れないわ」
この姿を望んだのは男の司だ。確かに何か単純ではあるけど、別人という事になる。
「えーと、良く分からないんだけど、流石にそう都合良く行くの?」
「そうなのよねえ。だからこそ、もしかしたら、って付けてるのよ」
願いの木がそう簡単に騙されるのだろうか? そもそも、叶えた者のデータというか記録というか……何か持ってそうな気がする。
「今の司は、男の時と比べて更に魔力量が増えているわ。魔力の質も心なしか更に高くなっている……男の時と比べて魔力自体も微妙に違うし、可能性はあるはずなのよねぇ」
「増えてるの?」
「まあ、以前言ったと思うけど魔力っていうのは何故か女性の方が高いし、質も良い。その法則みたいなものにあなたも乗ったのかも知れないわね」
「……」
これ以上増えてどうするの? まあ、多いのに越したことはないのは確かだが……正直、自分が怖くなってきたぞ。
「まあ、だから試す価値はあるかも知れないわ」
「そっか……お兄、やるだけやってみよう?」
「……ん」
複雑な心境だ。
確かに戻りたいと思っていたのは確かだが、今はどうだろうか? 守るべきモノがリュネール・エトワールの方が多くなってる。本当に戻って良いのか? と問いかけてくる声も聞こえる。
わたしは何を望んでいる?
確かにこの身体では不便な事が多い……元に戻った方が良いのかも知れない。だけど、そうなると、わたしはまた偽りのキャラを演じるしかなくなるだろう。
今までだって演じてきてるんだから何を今更という話になるけど。
願いの木……願いを叶えてくれる木。
わたしの願いは……この女の子としての司の願いは何だ?
……。
あ、そっか。
そうだよね。
うん。願いはある。
わたしの願いは……
「ん。試してみる」
「そうね、駄目ならまた別の方法を探せば良いのだし、やるだけやりましょ」
「え? 今から行くの?」
「ん。今日は何処にも行けなかったし、せめて変わった場所で年を終えたいでしょ?」
「それは確かに……まあ、あそこは景色も良いもんね。まあ寒いけど」
「それは仕方ない」
わたしは、いやわたしたちは再び願いの木の場所へ向かうのだった。
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