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第四章『星月の選択』
Act.36:星月の選択②
しおりを挟む願いの木の元へ、再びやってきたわたしと真白、ラビ。外は当然のように寒く、今の格好でもまだ寒い感じがする。時間は既に23時半……こんな時間にここにやって来るとは思わなかった。
いやまあ、行くと言ったのはわたしなのだが。この場所で年明けを待っても良いかも知れないというのもあったし……本当なら鹿島神宮とかに行ければ良かったけど、知っての通り色々あってそんな暇はなかった。
「また来たね」
「ん」
高台の一本木。
昔から告白スポットとしてそこそこ有名な場所で、言い伝えのある木。この木の下で結ばれた者たちは、幸せな日々がずっと続くと言われている。
その正体が、妖精世界にあると言ってた願いの木だとは誰も思わなんだ。そもそも、妖精世界という存在自体知らなかった訳だし。
ただそんな妖精世界の木が、何故この世界にあるかは分からない。大分前からずっとあったはずだし、もしかすると昔この世界やってきた妖精世界の住人が植えたのかも知れない。
まあ、真相は分からないが……ラビの過去を見る魔法では、流石に昔過ぎて魔力が絶対足りない。多分わたしの魔力でもあやしいかもしれない。
そもそも、その魔法が使えるかはわからないけど……一週間前にしたって結構使うってラビは言ってた。それなら一ヶ月前は一週間よりも更に増えるだろう。そして数年前数十年前……と来たらどれだけ消費するか分かったものではない。
それもあるので、誰がここに埋めたかを調べるのは恐らく無理。仮に知れたとしても、知った所でどうするのって話になるのだが……まあ、謎が消えるのはすっきりするじゃない?
まあ、それはともかく……。
願いの木にやってきたわたしは、その木を見上げる。夜であり、ライトアップがされている訳でもないので当然ながら暗い。周りに街灯はあるけどね。
そして木から感じる不思議な感じの魔力……こう魔法を使った時や魔物とは違う、不思議な魔力。何が不思議なのか……分からないから不思議だとも言える。
「司……」
「……お兄」
木の幹に軽く手を触れる。
触り心地は普通の木とそう変わらないけど、やっぱり違うのはさっきも言ったようにこの木から感じ取れる魔力だろうか。
ラビと真白に心配そうな顔をされながら、わたしは目を瞑る。願い……男の司ではなく、今のこの姿……女としての司の願い、叶えてくれるだろうか?
男に戻りたい?
確かに最初は、そんな気持ちが一番強かった……この姿では色々と不便だし、戻りたいと何度思っただろうか。そもそも、どうしてわたしはこんな目に? とまで思ったくらいだ。
だけど、今はどうだろうか?
戻りたい気持ちというのはいつの間にか、薄くなっていた。むしろ、戻りたくないとまで思ってしまう始末。関係とかが壊れてしまうのを恐れている。
いや……恐れているというのも間違いではないが、一番は……リュネール・エトワールとして守るべき存在が増えてしまったから。もっと仲良くなりたいなんて欲も出てきた。
最初は負担を減らせれば良いなと思っていたけど、交流していく内に守りたいと思い始めていた。今はもう、出来る限り魔法少女たちを守りたいという気持ちが強い。
確かに元に戻っても、リュネール・エトワールとしての活動はできる。ハーフモードになれば、リアルでの交流もできるだろう。でも、違う……偽りの姿ではなく本当の姿で交流したい。
男であるということがバレてしまうリスクを背負うのはもう嫌である。何時からこう思い始めたんだろうな……そもそも男の時だって変化があった。あのまま変化し続けたら……。
だから決めた。
わたしは戻らない……戻るつもりもない。この姿がわたしの理想の姿……もう知っている。このままであれば、これから先も変に隠したりせずにやっていける。
全てはわたしが望んだ事だ。認めよう。わたしは……わたし自身がこの姿を望んだ。今更何を言うんだ。そう、これがわたしの理想の姿……普通に考えればおかしいのかも知れない。でも、おかしくたって自身が望んだんだ。誰にも文句は言わせないさ。
だからこそ……わたしとしての願いは一つ。
――俺をわたしにしてくれ。
もうわたしはわたしであって俺ではない。
わたしは……わたしはこのままでいることを望む。
わたしの中に俺は……もう要らない。これがわたし自身の願いだ!
刹那。
願いの木が眩い光を放つ。眩しすぎてわたしは目を瞑るが、それでも眩しい。
「こ、これは!?」
「お兄!?」
真白とラビの声が聞こえるが、何が起きているのか……目を瞑っているわたしには分からない。だが……何かが変わる。それだけは確信する。
周りが、町が、国が、世界が……変わって行くようなそんな謎の感覚。わたし自身もどうやら木と同じように光ってるらしい……らしいと言ったのは目を瞑っていて分からないから。ラビと真白の反応から予想しただけ。
謎の浮遊感、不思議な感覚……色んなものをわたしは今感じているけど、不快という気持ちはなかった。むしろ何処か心地が良い。そのままわたしは流れに身を任せ、自然の意識を手放したのだった。
□□□□□□□□□□
「あれ……わたしは」
結構長い間、わたしは眠っていたような気がする。外から入り込む日差し……どうやら夜が明けてしまってたようだ。
「今何日……」
そこではっとなって、近くにある変身デバイス兼スマホを手に取り、日付と時間を確認する。
「1月1日……12時」
わたしは何があったのかを思い返す。
すると、思ったよりすぐに理解できた。昨日の夜遅く、元に戻れるかも知れないとラビに言われ、真白とラビとわたしの三人で願いの木の所へ向かった。
そこでわたしは願ったんだ……元の姿に戻るではなく、別の事を。それが叶ったかは分からないけど、その後気を失った……ここは自分の部屋だから真白がここまで運んでくれたのかな?
「お兄……良かった」
「ん?」
昨日の出来事を思い出して居ると、聞き慣れた真白の声が聞こえたのでそちらを向く。それと同時に、真白はこちらに駆け寄ってきては、昨日と同じようにわたしの事を抱き寄せる。
「真白?」
「良かったよぉ! 突然倒れて、心配したんだから!!」
「……」
新年早々、真白を泣かせてしまった。
目の前で突然パタリと倒れたら、もう心配どころではないだろう。逆に真白がわたしの目の前で倒れたらきっと、冷静には居られないかも知れない。
「ごめん、真白……」
「うぅぅお兄、お兄……良かった良かったよぉ」
これはしばらくは泣き止まないだろうなあ。
二日連続で真白に辛い思いをさせてしまった……猛反省すると言っておきながら次の日でもやらかすなんて、わたしは馬鹿だ。でも、わたし自身何故気を失ったのかわからないんだよね。
あれからどうなったんだろうか?
あの時感じた、あの不思議な感覚は……願いの木が発動したのかな? 分からないけど、あの時何かが変わった……そう直感した。何がと聞かれたら分からないけど……。
真白を見た感じでは特に変わったことはなさそう。
不発に終わったのだろうか? それならあの時のあれは何だったんだ? いや、まだ結論を急ぐのは良くない。色々と確認とかしたい所だが、今は真白に抱き寄せられているので動けない。
まあ、わたしは悪いから何にも言えないんだけど。
「ラビ、居る?」
「ええ、居るわよ」
顔を動かせないので、何処に居るかまでは分からないけど近くにいるのは確かか。
「何か変わったことは?」
「……あるわ。でも今はそのままで居てあげなさい。後で話すから。あ、これについては真白も知ってるわ」
「真白も……」
「ええ」
やっぱり、何かが変わったのは確かなようだ。
でも今は……ラビの言う通り、真白が優先だ。わたしが悪いんだから……ごめんねと言って、許してくれるかは分からないけど泣き止んだらしっかりと謝らないと。
わたしは、そう決めるのだった。
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