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第四章『星月の選択』
Act.38:これからの事
しおりを挟むまるで子供のように泣きじゃくってしまったわたしは、最初は凄く恥ずかしくて二人の顔をまともに見られないでいたのだが、何とか落ち着いてきた所で、ラビの話を聞いている。
まさか、大泣きしてしまうとは思わなかった。しかも、妹とラビの前で……恥ずかしいったらありゃしない。しまいには真白に「泣いてるお兄、凄く可愛かったよ」とか言われる始末。
……。
いや、思い出すのは辞めておこう。
「司が願いの木に願った時に倒れた原因は、魔力の急激減少ね」
「急激減少? あれ、前にもあったような……」
魔力の急激減少。
急激に体内の魔力を失ってしまう事の総称。大体は、自分の魔力量を超えるようなでかい魔法を撃った時とかになる。徐々に減るのは自分自身でも減っているというのを感じれるのだが、一気に消費した場合は感じる前に倒れる。
そういう急激な魔力消費は身体にも負担をかけてしまうのだ。
「あ」
「思い出したかしら? 以前の魔法少女襲撃事件の時よ」
そうだ。
魔力を奪うとかいうとんでもエーテルウェポンに刺された時を思い出す。あの時は結構焦った……急激に減少するとあそこまで辛くなるんだなって実感したよ。
何とか、魔石のお陰で窮地を脱したが嫌な記憶でもある。わたし自身が油断していたのも原因なので、何も言えないのだが。
「今回の願いの木が発動させた事象は世界的に影響のある物よ。一人のデータと言うか人生を書き換えている……流石にここまで影響のある事例は妖精書庫にもないわ」
「世界的? でもわたし、日本出身だよ?」
「ええ。書類とか戸籍だけを見れば日本だけに影響があるように見えるけど、もしかすると海外にもあなたのデータがあるかも知れない。そうなると、それも書き換えていると考えるのが普通よ。あの時の魔力量は尋常ではなかったし」
「……」
「世界全体に影響を与える……流石にそれは願いの木でも難しかったんだと思うわよ。だから、近くに居たあなたの尋常ではない魔力量も使った。それによって、願いは叶ったけどあなたは急激な魔力減少によって、その場に倒れた」
「なるほど」
「と言ってもまだ、確実という訳ではないけれどね。あなたの事についての変化が何処まで影響を及ぼしたのかも、まだ詳しく分からないもの」
世界中のデータを見るなんて流石に無理だしね。妖精書庫には妖精世界の事についての記録はあるけど、別世界である地球についての記録は無い。世界が違うのだから当たり前だ。
なので、全て知ることは出来ない。ただ少なくとも、日本という国の中では書き換えがされている。戸籍謄本とか、国民健康保険とかが証拠である。
書類関係は変わっているのは分かった。ただ気になるのは、俺としての司を知っている人はどうなのだろうという所だ。上書きされているという事は、俺という司はもう消えてしまっている……そこが気になる所。
ただ、ラビと真白を見ると普通に覚えているように見える。そうなると、何処かで何か矛盾が発生しないだろうか? 少し不安ではあるけど、仮に元の司を覚えていたとしても、名前自体はそこまで珍しくない。
知らないフリをすれば、特に何もないと思う。それに、知ってる人に「わたしがその司です」と言っても信じないと思うし、変な子と見られるだろう。
と言っても、俺としての交友関係はあまり無いんだけど。おいそこ、可哀想な目で見るんじゃない。
まあ、それは置いておこう。
俺としての意識は確かに、こうして残って居るけどわたしになると決めたのは自分自身。なら、自分で決めたのだからそのまま突き進めば良いだけの話だ。
「とは言え、謎は多いけれど全てを解き明かすのは現状では無理よ。司の願いは叶ってる、少なくともこの国で暮らす事には困らないようにね」
「ん」
免許証は消失しているが、保険はある。しかも今のわたしとしてのデータに変わっているので、身分証としては申し分ない。それに、年齢も丁度良い。中学生だったら義務教育期間なので、平日とかに出掛けた場合補導にあう可能性は高い。
でも、16歳なら高校だし、高校は行ってない人も居るので大丈夫……と思いたいが、保険証見せた所で分かるのは年齢とか住所くらいなので、補導に捕まると面倒になる場合はある。
まあ、身長も低めだし基本出歩かないのが一番なのだが、どうしても出掛ける必要がある時は土日とか祝日を使うのが一番かな? とは言え、もう少しは真白が居るので一緒であれば問題なく出歩けるだろうが。
というかそもそも、今は冬休み期間なので問題はないだろうけど。
「それにしても、お兄が妹になるって何か変な感じだね」
どうせなら、同じ年齢だったら良かったが流石にこの見た目で28歳は無理か、と思ったけど良く考えたら真白は今のわたしより少しだけ身長が高いだけで20を超えているのでおかしくはないよね。
それに、合法ロリというワードがある。見た目は中学生かそこらではあるけど、実際は既に成人済み。身長が低いからってその年齢とは限らない訳で……。
まあ、でもこれで良かったのかも知れない。
ホワイトリリーやブルーサファイアには15歳って言ってしまってるし、年齢については秘密にしておいて欲しいとかも言ってないので、魔法省内でリュネール・エトワールは15歳っていう事が知れ渡っているかも知れない。
それに魔法少女は10代に多い。28歳という年齢で魔法少女してたら何か恥ずかしいかも知れない。仮に都合が良いように年齢の記憶とか書き換えられていても何か恥ずかしいな。
……未成年からやり直しか。
まあ、この姿は自分で望んだ事だし嫌というわけではない。ただリアルバレしても問題なくなったとは言えこっちの姿での自由度は下がったかも知れないな。
魔法少女リュネール・エトワールに変身していれば、問題なく自由に動けるだろうけど。
それにしても、何故目の色だけ変わったんだろうか? どうせならハーフモードのような黒髪黒目だったら良かったんだけど……黒髪黒目でホワイトリリーやブルーサファイアに会ってるからそこはどうなるんだろうか?
いやまあ、本当はこの髪色であの時は染めていたとでも言っておけば通用するかも知れないが……。
あれれ? 身分証とかは問題はなくなったとは言え、別の問題が出てきてるな?
「どのみち、問題が残っているというのは分かっていたけど」
おいおい考えていくしか無いか。
「改めて思うと、あの願いの木は少し危険かもしれないわね」
「ん」
「一人の人生を書き換えてしまうほど強力……魔力を感知した時から、疑問には思っていたけど」
世界すら変えてしまう力を持つ木。
確かにかなりやばい代物だろう。幸いなのは、この木がそういう木だと言うことは地球で知ってる者は居ないという事。別世界のものなのだから、まあ知らなくて当然なんだけど。
「あの木についてはもう少し調査が必要ね……」
「お兄……っていうのはもうおかしいかな? 司って呼ぶべきなのかな?」
難しい話にしびれを切らしたのか、真白が話題を変えるべく乱入する。
調査が必要なのは同感だけど、今すぐ何が出来るのかと問われれば難しい所だろう。ラビもそれを分かっているのか、少し難しい顔をしている。
そして真白の話だが……確かに今は姉妹という事になってるし、しかもわたしは妹。でも真白との思い出自体は消えておらず、ただ単にその時のわたしが俺ではなくわたしという存在に変わっているというだけだ。
そう考えると、本当に都合良いように変えたな……あの願いの木、一体何なんだろうか? 何時、誰が植えたのか? 過去にでも行かない限りこの謎は一生解けないだろう。
「ん。真白の自由にして良い。ただそうなるとわたしは真白のことをお姉ちゃんと呼べば良いのかな?」
「っ! お兄、もう一回言って!」
「え? 嫌だよ」
「そこを何とか!」
「……お姉ちゃん」
「私もう死んでも良いかも……」
「真白!?」
「なあに、巫山戯てるのよ」
そんな様子にラビが突っ込む。
でも、妹となってる以上、呼び方も改めないと駄目だよねえ……お姉ちゃん……う、何か恥ずかしい。でも慣れないと変だし、うーん……後でビデオデータとか見てみよう。
写真とかが変わっているなら、ビデオも変わっているはずだし。
その時のわたしはどういう話し方とか、呼び方をしていたのか……あると思いたい。
何にせよ……自分で選んだ以上、突き進むしか無い。わたしはもうわたしなんだから……。
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