84 / 137
第四章『星月の選択』
Act.39:エピローグ①
しおりを挟む「あら、もう元気になった?」
私が魔法省内を歩いていると、茜さんに声をかけられます。
クラゲの魔物との戦いで私たちは疲弊していたので、魔法省にすぐに送られました。といっても、魔力枯渇が殆どの原因なのですけどね。
「茜さん。はい、魔力も回復しましたし身体も元気になりました」
元気いっぱいとまでは言えないですが、少なくとも普通に動けますし問題は無いです。ゆっくり休んだのも良かったのでしょう。
「それなら良かったわ」
そう言いながら茜さんは私の方に向かって近づいてきました。目の前まで来たところで、頭に手を乗せられそのまま撫でられます。
「茜さん?」
「無事で良かったわ、本当に……」
「茜さん……」
司さんもとい、リュネール・エトワールに撫でられた時は違いますが、それでもほんのり温かい気持ちになります。
「私たちが無事だったのはリュネール・エトワールのお陰です」
「そうね。また彼女に助けられてしまったわね」
リュネール・エトワール。
星月の魔法少女と呼ばれる、野良の魔法少女です。以前に私も彼女に助けられたことがあって、いつの間にか好きになっていた子でもあります。
実際リアルの姿でも会ってました。ただこれについては、茜さんにも内緒にしていますが。彼女もリアルの姿が知られるのは望んでいないでしょうし。
リアルでのリュネール・エトワールは、司さんという私と同じくらいの女の子でした。身長は私よりも少し高く、年齢も15歳と1歳上という近さでした。
髪の色や瞳の色は違っていて、最初印象が違いましたが、実際話してみると殆ど変わりません。優しいというところも変わってませんでした。
そんな彼女に私たちはまた助けられました。
本当に感謝してもしきれませんね……一度会ってお礼を直接言いたかったのですが、残念ながら当日はここに送られてしまったので会うことは叶いませんでした。
ただ、ホワイトパールと茜さんはリュネール・エトワールと話したと言ってましたね。ちょっとずるいです。
失礼しました。
ずるいのは確かですが、私も大分疲弊していたので仕方がありません。でも、今は回復しましたし、会いたいですね……。
CONNECTで連絡とるべきでしょうか。
でも、司さんも忙しいかも知れません。そう思うと中々連絡が取れないっていうのが、私の駄目なところですね。
大体魔物が出現した時とかは、良く会えたりします。勿論、会えない時もありますが。後は、彼女は定期的に見回りをしているらしいので、もしかすると偶然ぱったり会える場合もあるかもしれませんね。
でも、偶然にばかり頼るのはやっぱり駄目ですよね。
私は司さんが好きなのですから。蒼ちゃんも好意を持っていますし、こっちからアプローチをしないと先手を取られてしまいますよね。
でも最終的に決めるのは司さんです。
もしかしたら、司さんはどちらも選ばないかもしれません。その時はその時ですが、やっぱりいっそのこと当たって砕けろで、突っ込んだ方が良いのでしょうか。
……。
自分の胸に手を当てます。やっぱり、司さんの事を思い浮かべると、鼓動が早くなりますね。本当に好き、なのですね。
「何か悩み事かしら? ふーん、見た感じだとリュネール・エトワールの事ね」
「! やっぱり分かりますか……」
「ええ。伊達にあなたたちと顔を合わせている訳じゃないわよ。というか、分かりやすいわよ」
「そ、そうなのですか?」
「顔に出ているもの」
「うぅ……」
茜さんには知られてるとはいえ、実際こう言われると恥ずかしいですね。
「そんな雪菜に朗報よ。1月4日以降の何処かで彼女が来るわ」
「え?」
「今回もそうだけれど、あの子には何度も助けられているわ。だからこそ、魔法省茨城地域支部長としてお礼をしたいのよ。今回ばっかりはちゃんと言ってみたわ。そしたら若干渋々ではあるけれど、魔法省に来てくれるそうよ」
「!」
リュネール・エトワール……司さんが来る?
話によれば1月の4日以降に来てくれるという約束をしてくれたらしいです。司さんが約束を破るという事はしないはずですし、来てくれるのでしょう。
……。
「彼女と会ってどうするかは、あなた次第ね。私はあくまでお礼をするだけだからその後は、自由にしなさい」
「茜さん……」
どの姿で来るのでしょうか?
いえ、魔法少女の姿に決まってますよね。わざわざリアルの姿で来るとは考えられませんしね。
でも来てくれるのであれば……司さんと話をしたいです。それにさっきも言ったように、直接お礼も言いたいですし……いつ来るのでしょうか。
1月4日以降と言うことは、少なくとも1月5日が最速ですよね。もしかしたら4日に来るかも知れませんが……どっちにしろ、司さんと会えるのは嬉しいです。
魔法少女の姿で来るはずでしょうから、呼び方はリュネール・エトワールにしておかないとですね。間違えて司さんって呼んでしまったら大変ですし。
「まあ、頑張りなさい」
「ありがとうございます、茜さん」
「良いのよ。あなたたちは私の家族のようなものなんだから」
茜さんは、この茨城支部の支部長というこの地域では一番偉い地位の方ですが、所属している魔法少女たちにとても優しくしてくれます。地位なんて関係ないとも言っていましたね。それもあって、皆さんは支部長とは呼ばずに茜さんとかで呼ぶ方が多いです。
というのも、茜さん自体が支部長っていう堅苦しい呼び方はしないで良いと言っていたからなのですけどね。他の地域は分かりませんが、茜さんは多分少数な部類なのでしょう。
何はともあれ、茜さんが支部長で良かったと思います。
□□□□□□□□□□
「……」
ベッドの上で起き上がった状態で、窓の外をじっと見る。
クラゲもどきに謎の空間に連れて行かれ、そこで25人の茨城地域の魔法少女で魔物を相手していたけど、長期戦になり次第にこちらが追い詰められてしまったことを思い返す。
攻撃を食らって後方にふっ飛ばされたことも。思ったより、あれは結構痛かった。魔力装甲が守ってくれているから生身の身体の方は無事ではあるものの、それでもやっぱり攻撃を受ければ衝撃が襲ってくる。
「リュネール・エトワール……」
また、助けられてしまった。あの時、撫でられた事を思い返す。
今回ばかりは私たちでやるしか無いと思っていた不安の中、彼女は現れた。ちょっとだけ様子が変ではあったけど、それでもボロボロになった私の事を助けてくれた。
正確には回復魔法をかけてくれたんだけどね。
あんな姿を見せてしまって、咄嗟に謝ってしまったけどリュネール・エトワール……いや司は優しく宥めてくれた。そして私が無事であるという事を自分の事のように喜んでくれていた。
それが嬉しかったなー。
自分の頭に手を乗せれば、まだあの時のぬくもりが残っているような気さえした。
うん、私結構重症かもしれないな。こんなに司の事が好きだったなんてね……思えば、襲撃された時だって優しくしてくれたし、あの時も撫でられたな。
いつから好きになったなんて言うのはもう分かっているから良い。
同じ女の子とは言え、私は好きになってしまった。もっと話をしたいし、一緒に遊びたい。でも彼女は野良の魔法少女だから、普通では会えない。
CONNECTで連絡先交換しているのだから、それで連絡取れば良いと思うかも知れないけど司だって、何かをしているはず。忙しそうにしているかも知れない。それを考えると中々自分から連絡が出来ない。
だって迷惑はかけなくないし。
こういう所が駄目なんだなとは思ってる。
こっちから積極的にアプローチを仕掛けなければ、司は私のこの想いとかには気づいてくれないのも分かってる。いっそのこと、もう突撃しようかという思いもあったけど、結局は何も出来ないでいる。
それに、リュネール・エトワールこと司を好きな人は他にも居て、ホワイトリリーもとい白百合先輩というライバルも居る。結局、選ぶのは司だから私たちにできるのは交流を繰り返して、向こうにもこちらを好きになってもらうように頑張ることくらい。
でも、さっきも言った通り彼女は野良の魔法少女で普通に会うのは結構難しい。何せ、リュネール・エトワールの目撃されている地域は茨城県全体である。鹿行、県央、県北、県西、県南……全ての地域だから。
県西とか県北とかの地域の中に、更に町や市がある訳で……選択肢が多すぎて、真面目な話、会うには運が必要。
だから一番確実なのはCONNECTでの連絡。折角、連絡先があるんだから使うべきなんだろうけど……。
「はあ」
毎回、彼女のことを思う度に心臓がバクバクいってる。そこまで好きだというのはもう認めざるを得ない。まあ、既にこうやって自覚しているから認めるも何もないんだけどね。
「いっそのこと、魔法省に所属してくれれば良いのに」
なんてね。
彼女にだって事情はある。だから魔法省ではなく、野良で行動しているんだっていうのはもう分かってる。私自身ももう少し、頑張らないと。
そんな事を思う私に、茜さんからリュネール・エトワールが来るという知らせが届いた時、ドキッとしたのはまた別の話。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。
タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。
しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。
ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。
激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。
召喚されたら無能力だと追放されたが、俺の力はヘルプ機能とチュートリアルモードだった。世界の全てを事前に予習してイージーモードで活躍します
あけちともあき
ファンタジー
異世界召喚されたコトマエ・マナビ。
異世界パルメディアは、大魔法文明時代。
だが、その時代は崩壊寸前だった。
なのに人類同志は争いをやめず、異世界召喚した特殊能力を持つ人間同士を戦わせて覇を競っている。
マナビは魔力も闘気もゼロということで無能と断じられ、彼を召喚したハーフエルフ巫女のルミイとともに追放される。
追放先は、魔法文明人の娯楽にして公開処刑装置、滅びの塔。
ここで命運尽きるかと思われたが、マナビの能力、ヘルプ機能とチュートリアルシステムが発動する。
世界のすべてを事前に調べ、起こる出来事を予習する。
無理ゲーだって軽々くぐり抜け、デスゲームもヌルゲーに変わる。
化け物だって天変地異だって、事前の予習でサクサククリア。
そして自分を舐めてきた相手を、さんざん煽り倒す。
当座の目的は、ハーフエルフ巫女のルミイを実家に帰すこと。
ディストピアから、ポストアポカリプスへと崩壊していくこの世界で、マナビとルミイのどこか呑気な旅が続く。
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』
ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。
全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。
「私と、パーティを組んでくれませんか?」
これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!
異世界帰りの少年は現実世界で冒険者になる
家高菜
ファンタジー
ある日突然、異世界に勇者として召喚された平凡な中学生の小鳥遊優人。
召喚者は優人を含めた5人の勇者に魔王討伐を依頼してきて、優人たちは魔王討伐を引き受ける。
多くの人々の助けを借り4年の月日を経て魔王討伐を成し遂げた優人たちは、なんとか元の世界に帰還を果たした。
しかし優人が帰還した世界には元々は無かったはずのダンジョンと、ダンジョンを探索するのを生業とする冒険者という職業が存在していた。
何故かダンジョンを探索する冒険者を育成する『冒険者育成学園』に入学することになった優人は、新たな仲間と共に冒険に身を投じるのであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる