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最終章『妖精世界』

Act.03:魔法省茨城地域支部③

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「まずは、皆を助けてくれてありがとう」
「ん」
「あのままだったらどうなっていたか分からなかったわ」

 茜と対面すると、まず彼女は深く頭を下げてお礼を言ってくる。支部長がそんな頭下げて良いのか……と思うが、それだけ感謝しているということなのだろう。わたしも、助けられて良かったと思ってるけど。

 今回はちょっとだけ苦戦というか、面倒だったけどね。ブラックリリーが居なかったら詰んでたかも知れない。

「支部長が野良の魔法少女にそんな頭下げて良いの?」
「魔法少女たちを助けられなくて、何が支部長よ。今回の件で私たちの無力さを改めて痛感したわ」

 苦しい顔をする茜。
 それもそうか……支部長という立場ではあるけど、普通の人間が魔物が出現した時に出来ることは限られてる。それに、茜はこの支部の一番偉い人だ。所属している魔法少女に何も出来ないっていうのもあるんだろうなあ。

「それは仕方がない。でも、魔導砲の試作型があるんじゃ?」
「一応、試作型は完成しているのよ。ただ……今回は予想外の出来事だったし、脅威度Sの魔物相手に使う訳にも行かないでしょう? 魔法少女たちに負担をかけてしまうわ」

 普通の人間は魔物の前では無力だ。
 だから、仮に試作型を使おうとしても必ず護衛として魔法少女が居ないと危険だろう。試作型の魔導砲が何処まで通用するかわからない訳だしね。

 実際テストしようという計画はあったらしいけど、今回の騒動でやむなく断念。ただ、念の為という事で自衛隊の一部戦車には魔導砲の試作型が搭載されてたようだ。結局使う機会はなかったので、効果は不明。

「なるほど」
「とにかく、今回は本当に助かったわ。それでお礼の方なのだけれど」

 ありがとうというだけで終わるかと思ったら、違うらしい。

「貴女が何を欲しいかは分からないけど、魔法少女なら魔石かしら?」

 そう言って、茜が取り出したのはそこそこ大きめな魔石。ただ一つではなく、複数個あって単純に数えた感じでは10個くらいあるな。しかも、何か結構強い魔力を感じる。

「この魔石は魔法省内で鑑定した結果、A級魔石と出た物よ。まあ、強い魔力を持っているのは確かね」
「A級?」
「あ、野良だものね、知らないわよね。魔石は魔法省では等級分けされているのよ」
「等級?」
「ええ。一番下がD級魔石、一番上がS級魔石となってるわ」

 茜の説明からすると、魔石には等級と言うものがあるらしく、一番下がD級魔石となってるそうだ。そこから順に、C級、B級、A級、S級となるようだ。そして、魔石の魔力量、その魔力の純度を元に算出されるそう。

 大きさは重要ではない。
 大きくても魔力が少ない魔石というのも存在しており、大きさ=魔力量ではない。鑑定方法については教えてくれなかったが、取り敢えず専門のチームが鑑定し、先程述べた二つを元に等級を出すようだ。

 大体脅威度と比例するようで、脅威度がAの魔物から出る魔石はB~A級が多いらしい。

 へえ。魔法省では魔石に等級を付けてるんだね。これについてはわたしも初耳だったけど……別に気にする所ではないか。で、そんな等級がAの魔石を茜はわたしに渡そうとしてくるが、正直魔石は結構有り余ってるんだよね。

 むしろ、その魔石を魔導砲とか、技術関係に役立てて欲しいっていうのがわたしの本音である。

「魔石は、要らない。わたしに渡すくらいなら技術関係に役立てて」

 それで技術が進み、普通の人間でも魔物にダメージを与えられるようになれば彼女たちの負担も減るだろうし。でもまあ、それはやっぱりただの妄想でしかないのだろうか?
 でも一応、魔導砲の試作型が魔物に効いたっていう話は流れてたし、希望はあるか。

「え、でも……」
「ん。生憎、魔石は割と持て余してる」
「それもそうよね……」

 普通に考えれば魔石は嬉しいのかも知れないけど、わたしはちょっと特殊だし。ブラックリリーと行動していた時の魔物の魔石とか、今まで出現していた魔物の魔石とか、思ったより手持ちが多いんだよね。勿論、横取りとかはしてない。
 まあ、それは多分わたし自身の魔力量が多いからなんだろうなとは思ってる。最初、ラビと出会った時に「近年稀にすら見ない逸材よ」と言われていたからね。

 そして今は更に魔力量も増えているし、魔力の質も高くなっているという事。今まででも十分異常だったのに、更に上に行くのか……自分自身の事ではあるけど末恐ろしいな。

「そうなると、私に渡せるのがないわね……あ、お金とかなら」
「……」
「うっ……そんな目で見ないで頂戴」

 普通見た目15歳かそこらの子にお金とか言うか?
 いやまあ、魔法少女たちは国からの支援金が出ているはずなので、その発想が出てもおかしくはないのか……いくらくらいかは分からないけど、決して少なくないと思う。

 と言うかあくまで魔法省に所属している魔法少女に対してである。わたしは見ての通り、野良の魔法少女なので国からの支援金などは貰えない。
 支援金がなくても、宝くじのお金がそのままあるから別にあれだけど……良く考えたら、わたしって財産とかも引き継いでいるからリッチガール? 下らない事を考えるのはやめておこう。

「何も要らない。お礼だけで十分」

 本当である。
 別にわたしは何かを貰いたいという欲はない。お金だって、それもまた技術系の予算にでも回してほしいよね。助けているのは完全なるわたしの意思だから。
 何かの対価を得ようとしてやっている訳ではない。

「欲のない子ね……」
「ん」
「でもまあ、そこまで言うのだったら無理矢理渡すことはしないわ。でも、これだけは受け取って欲しい」

 そう言って今度取り出したのは、一枚の紙だった。ただ普通の紙ではなく、中には感謝状と書かれている。え? 感謝状?

「感謝状?」
「ええそうよ。貴女は茨城地域の魔法少女を多く助けてくれた。だからこれが渡されて当然じゃない? 野良だから扱いとしても民間人だしね」
「なるほど」
「取り敢えず、これは最低でも受け取ってほしいわ」
「……ん。分かった」

 感謝状を受け取る日が来るとは思わなかったが……一応野良って魔法少女でも民間人なのか。いやまあ、確かに未所属だしそうだよね。茜もこう言ってる訳だし、感謝状は受け取っておこうかな。

 素直に感謝状を受け取る。
 ただ手に持っているとあれなので、ステッキさんの出番である。受け取った感謝状をステッキに近付ければ、スゥっと中に入っていった。これ、真面目に便利だよね。

「ふう。さて、これだけでは足りないのは確かだけれど……取り敢えず私の用はこれで終わりね」
「ん」

 かかった時間は思ったより短く、30分くらいだった。わたしは何も受け取らないっていう意思を見せた影響かな? 感謝状だけは受け取ってるけど、これはむしろ受け取らないと失礼だろう。

「そうそう。リュネール・エトワール」
「ん?」

 椅子から立つと、茜に名前を呼ばれる。

「ホワイトリリーとブルーサファイアが貴女と会いたがってるわよ」
「二人が?」
「ええ。まあ、実際はもっと会いたい子は居るだろうけど、特に二人はね。はい、入ってきなさいな」

 そう言って茜はドア付近に移動し、閉まっていたそのドアを開く。

「「え? きゃあ!?」」

 すると、何という事でしょう。
 女の子二人がバランスを崩して部屋の中に倒れてきたではないか。

「ホワイトリリーに、ブルーサファイア?」

 倒れてきたのはもう見覚えのある二人だった。しかも変身している状態だった。見回りの帰りとかだろうか? 魔法省も見回りはしているはずだろうし、あり得るか。

「ひ、久し振りですね、リュネール・エトワール……イタタ」

 ぶつけたであろう場所を擦りながら起き上がるのはホワイトリリー。

「大丈夫?」
「はい何とか。魔力装甲があるので」

 変身しているから転んだ程度では、傷はつかないか。でも、一応衝撃とか痛みはあるはずなので、念の為ヒールをかけておく。勿論、ブルーサファイアの方にも。

「ありがとうございます……」
「ん。気にしないで」 

 さて、二人は何でそこに居たのだろうか? まあ、茜を見た感じでは大分前から気付いていたっぽいけど。でも、良かった。二人共元気そうで。

「あの、お、お話しませんか?」
「私も!」

 二人揃って同じ事を言う、ホワイトリリーとブルーサファイア。
 お話、か……時間はあるし、別に問題ないかな。それにわたしも、二人と久し振りに話したい気持ちもあるし。

「ん」
「三階の休憩室を自由に使って良いわよ」
「ありがとうございます、茜さん!」
「ふふ。ごゆっくり」

 そう言って悪戯っぽい顔をしてみせる茜。あーこれは、二人がわたしに対して好意を抱いているの気付いてるみたいだ。意外と鋭いからなあ、茜。

「行きましょう!」
「ん」

 そんな訳でわたしは二人に手を引かれて、その場を後にするのだった。




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