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最終章『妖精世界』

Act.04:三人集まれば……

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「やっとこうして話せますね。リュネール・エトワール……いえ、司さんと呼べば良いでしょうか?」
「誰かに聞かれるかもしれませんし、やめた方が良いかもです」
「あ、そうですね。えっと、リュネール・エトワール」

 二人に手を引っ張られて向かった先の休憩室は、それなりの広さがあった。自動販売機もざっと六台くらい設置されていて、中にカップ麺の自販機もある。
 他には流しや、給湯器等も設置されている。お昼休みとかに結構人が来そうな場所ではある。でもまあ、既にお昼休みの終わっている午後に魔法省に来ていたので、現状はわたしとホワイトリリーとブルーサファイアの三人しか居ない。

 とはいえ、本来の名前で呼び合うのはここを通りかかった職員たちとかに聞かれてしまう恐れがある。二人は問題ないだろうけど、わたしは出来れば隠しておきたい。
 自身の名前を公表するのは本来の姿で来た時だ。来る事がそもそもあるのかって話になるが、念の為ね。

 そんな休憩室の椅子に三人で座ってるのは別に良い。問題なのは、二人ともわたしの隣に座っているという事だ。要するにわたしを挟む形で左右に座っている。
 ギリギリ三人座れるくらいなので、そこそこ窮屈な感じがするしめっちゃ密着するんだよね。魔法少女の状態とはいえ……。

「何故二人とも左右に……」
「それは勿論、リュネール・エトワールの隣に居たいからですよ」
「私もです」
「……」

 そう言ってさらに身体を寄り付かせてくる二人。
 いやいや……一応、吹っ切れたとはいえまだそんな密着するのは慣れてないって!? 魔法少女の姿でもやっぱり女の子特有の甘い香りがする。

 って、何言ってんだ。

 いや、確かにそういう感じの香りはする。よく、女の子と密着するとそういう香りがするって言われてるよね。実際の所は分からなかったけど、あれは本当だったのか。

 って、そんな下らないこと考えるのはよそうか。

「リュネール・エトワールは、魔法省に所属しないのですか? もっとお話とかしたいです」
「野良でやっているのには事情があるっていうのは分かってますけど……」

 魔法省に所属する。
 まあ、確かに普通は所属するを選ぶよね。魔法少女として戦うつもりはないという少女たちは除くとして。

 以前は、中身が問題だったけど今はそれはない。
 とはいえ、やっぱり二人には申し訳ないけど、今の所は魔法省に所属する予定もするつもりもないのが現状だ。

「CONNECTがある」 
「それはそうですけど……ほら、忙しい時とかだったら迷惑じゃないでしょうか」
「テキストチャットがある」

 何も通話しなくても、テキストチャットがあるのだから、忙しくても大丈夫だと思うが……電話だったら何かしてる途中にかかってくると迷惑かもしれないが。

「え? でもテキストでも忙しい時とかに送らても迷惑じゃないですか?」
「テキストなら別に迷惑じゃない。忙しい時に文が届いても後から見れるし」

 何かしている時に送られても、別に一旦保留にして後から見れば良い。もし、緊急連絡だったらその時は電話でかけるのが一番だ。

 テキストに迷惑要素はないと思う。まあ、スパムみたいなやつとか、あまりにもしつこいのは流石にNGだけど。
 普通に話したいのであれば、別に問題はない。もし、電話で話したい時とかは、緊急以外はまずテキストで今の状態を聞くのも良いだろう。

 とりあえず、彼女たちが迷惑だと思う必要はない。それにわたしって、ニートだし……16歳ならバイトとかもできるから、やってないならニートって言っても良いよね。
 学生だったら学生だけど……わたしは通ってないし。

「良いんですか?」
「ん」

 わたしは別に二人と話したくない訳ではない。だからそんな事気にせずに、CONNECTを使って送ってくれて良いんだ。
 忙しい時もあるだろうけど、テキストであれば後から見れる。全然迷惑ではないのだ。

「ありがとうございます」
「ん。別にお礼を言われる程ではない」

 わたしがそう言えば、二人とも何処か明るい顔になる。いや、別にさっきまでが暗かったとかではなく、目に見えて明るくなったという感じだ。

「……」

 話が続かない。
 いや、わたしから話題を出せれば良いのだが、出せるような物がないのも事実。相変わらず、二人揃ってわたしにくっつくように座っているが……。

 でも、別に嫌と言う感じではない。
 改めて思う。魔法少女という存在ではあるけど、中を見れば普通のまだ年端の行かない女の子なんだなって。最初こそは、負担が減らせれば良いなと思っていたけど、それは気付かぬ内に守りたいという気持ちに変わっていた。

 だからもう一度誓おうじゃないか。わたしはわたしの目の届く範囲では、魔法少女たちを守ると。勿論、全てを救える自信はない。大きく離れた二箇所に出現する場合も考えられるから。
 出来る限り……わたしは守れたら良いなと思う。魔法省ではない魔法少女もね……勿論、悪意で魔法を使ってる人に関してはわたしも止めに入るよ。

「そう言えば、黒い魔法少女ブラックリリーでしたっけ? 彼女と行動していたそうですけど」
「あ、それは私も聞きました。あの魔法少女は何者ですか?」

 二人揃ってわたしを見てくる。
 うーん、ブラックリリーか……まあ何となく話に出てくるとは思ったけど……魔法少女襲撃の犯人です、とは流石に言えない。普通は言うべきなんだろうけど……。

 ――妖精世界を元に戻してあげたい。

 あの日、ブラックリリーが告げた目的を思い返す。
 妖精世界を戻してあげたい、という彼女の純粋な願い。これが魔力を集めていた目的だった。勿論、彼女たちも仮に元に戻せたとしても誰も居ないというのは理解している。

 だけど、と彼女はそこで言葉を止め続ける。

『ララたちの故郷があのままなんて辛いじゃない?』

 と。
 そう言ったブラックリリーの目には強い意志が宿っていた。あれは単純にやめようと言った所でやめるつもりはないという事を暗に言ってたと思う。わたしも少し気圧されしまった。

 ただ、誰も居ないと言ってたけど、今回は向こうはラビという妖精を、こっちはララという妖精をお互いに知れたのは良かった事だとは思ってる。ラビは一人じゃないって事が分かったから。向こうだってララが一人じゃないって事が分かったはずだ。

 さて、じゃあどうしたら戻せるのか?
 それは、わたしたち魔法少女や地球上に今や充満している魔力だ。これは元は妖精世界の物だから、この魔力を戻せば可能かも知れない。そう言ってた。

 道理で世界中の魔力を一回集めても足りないって言ってた訳だ。それもそのはず……世界一つを元に戻すなんて想像を絶する長い長い道のりだ。ブラックリリーもわたしも生きている内に達成できるか怪しい所。

 それは承知の上で行動している。例え何十年かかろうとも。何が彼女を動かしているかは分からないけど……でも、それならわたしが止めたり捕まえたりするのはおかしいかな。

 別に悪い事ではないのだから。でも、実害はないとは言え襲ったのも事実だし、うーん……どうすれば良いんだろう。ブラックリリーの事についても考える必要があるなあ。やる事いっぱいだ。

 ただ、そんな事ならもっと早く言ってくれれば良かったのにと思う気持ちもある。わたしの魔力程度で良いなら、喜んで協力したと思う。ブラックリリーも吸魔の短剣なんて使わずに言ってくれば良かったのに。

 でもそれは無理か。その時点では、まだわたしとブラックリリーは面識がない訳だし、相談できるはずない。もう少し早く彼女と会えてたら何か変わってたのかなあ? ……まあ、過ぎた事を今更考えても意味がないし、今の事を考えようか。

「ん。ただの友達」

 何ていうかちょっと苦しい返しだったかも知れない。
 友達……そう言ってしまったが、向こうはわたしの事をどう思ってるんだろうか? 一緒に行動したり、話したりした感じでは別にわたしは嫌われてないようには見える。

 分からないけど。

「友達、ですか……新たなライバルでしょうか」
「ですね。これは、その子にも話を聞かないといけませんね」
「え?」

 あれ? 何か予想していたのと違うぞ? 何でお二人さん、そんな燃えてるの?

「リュネール・エトワール! その子を紹介して下さい」
「さい!」
「えぇ……」

 二人が顔を近付かせてわたしに言ってくる。
 紹介して、と言われも困るかも……いや、一応会うことは出来る。連絡先も住んでる所も知らないけど、今日の夜に会う約束をしているので、そこで会えるのは確かだ。

 どうしたものかな……わたしはホワイトリリーとブルーサファイアの二人を見る。何でそんなに燃えてるのかは分からないが、別に悪いことをしようという感じではなさそう?

 うーむ。

「ん。会えたら言っておく。けど、会ってくれるかは分からない」
「はい、そこは大丈夫です。その時はその時です」
「ん」

 取り敢えず、今日の夜に会った際にこの事を話してみよう。向こうが応じるかは分からないけど……。



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