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最終章『妖精世界』
Act.14:ブラックリリー①
しおりを挟む「ん」
ラビと色んな話をした日の翌日。
窓から差し込む光に照らされ、自分の部屋のベッドの上で目を覚ます。ただそこで、違和感に気づく。
「……」
何か妙に窮屈だなと感じ、慌てて布団をめくるとわたしの方に顔をうずめてるように寝ている、一人の少女がそこには居た。金髪碧眼……そのティアラ、どうなってるの? 横になってるのに外れないって。
って、そうじゃなくて。
「ラビ……?」
そう。
そこに寝ていたのは昨日、妖精書庫内でわたしに見せた本当の姿の少女状態のラビだった。しかも、さっき思わず突っ込んでしまったように、彼女の付けているティアラが、横になっていてもピッタリくっついているかのように。落ちる気配がない。重力無視してるよ、このティアラ!
まあ、妖精世界のティアラだから何らかの細工がされているのだろうけどね。ティアラについては確かに気になるけど今は、それ以前の問題である。
「んぅ。おはようございます」
「ん。おはよう。……何でわたしのベッドに居るの?」
「え?」
ラビを軽く揺すると、眠そうな顔をしつつ起き上がる。そこで、わたしの気付いたようで、挨拶してくるけどそうではなく、何故わたしのベッドに居るのかという話だ。
そう言えばラビが寝る所は見た事ないな……ぬいぐるみの姿だったから、知らない内に寝ているんだと勝手に思ってたが、今回は別である。今のラビはぬいぐるみではなく、人型だ。
「あわわ!? ご、ごめんなさい!」
「ん……」
ラビよ、ぬいぐるみの時のキリキリ? した感じの性格は何処行ったんだ。昨日初めて見たばかりだから、今のラビの姿にはまだ慣れてない。
「……別に良いけど」
普通ならこちらも慌てるかもしれないけど、何故かそんな事はなかった。ラビと過ごしていた時間が長いからかな? まだ数ヶ月だけど……アリス・ワンダーとはどのくらい一緒に居たんだろうか?
間違いなく、魔物出現の日までは一緒に居たとは思うけど……。
「久し振りにこの姿になったので、アリスと一緒に居た時の感覚で、ベッドに入っちゃったみたいです」
「ふむ。一緒に寝ていたと……その姿で?」
「はい……すみません。司は何だかアリスと同じ感じがするものですから」
「そうなの?」
魔法少女アリス・ワンダーという名前は原初の魔法少女だから誰もが知ってると思うけど、その性格とかは実際その時に一緒に居た人じゃないと分からない。
どういう人物なのか分からないが……そんな彼女と同じ感じがする、と。
「はい……不思議と居心地が良いんですよね」
「でも、アリス・ワンダーって女の子だよね?」
「そうですよ。変身前も普通に」
「何か可笑しくない? わたしは確かにこの道を選んだけど元は男だよ?」
「それはそうなんですけどね……」
「別に悪い気はしないけど……」
自分で選んだ道とは言え、元は男である。異例な例だろうし、アリス・ワンダーと同じ感じがすると言われてもいまいち何にも感じない。そもそも、そのアリス・ワンダーがどういう人物なのか、不明だけど。
「ん。取り敢えず起きようか」
「はい」
それは一旦置いとくとして、わたしはベッドから立ち上がる。原初の魔法少女の名前が三人出てきたのは意外だったけど、まあでもラビが生み出した魔法少女な訳だし、出てきても可笑しくはないか。
「慣れてる自分の適応力が謎」
一度一階にある洗面所に向かい、顔を洗ってから再び自分の部屋へと戻ってくる。
今着ているパジャマを脱いで、適当に選んだ服を着た所で鏡の前に座る。パジャマも服も、わたしが選んだ訳ではなく、ほぼ全て真白が選んだものになってる。
だけど、それが割と災難というか……何というか。色とかはわたしの好みに合わせてくれてるみたいだけど、他は完全に真白の趣味で選ばれている。その結果、何ともまあ女の子っぽい服が揃ってる訳で。
ズボンとかもあるけど、数は圧倒的に少ない。
うん、自分が選ばなかったのが悪いんだけどさ……後で、自分なりの服も買おうかなと思いつつ。今は取り敢えず、いつものように着替えをしてから髪を梳かす。
手入れもちゃんとするようにと真白に言い聞かせられてるし、ラビが居るからやるしかないのだ。
「大分慣れてきてますね」
「ん……まあ」
櫛で自分の髪を梳かしていると、ラビにそう言われる。自分でも驚くほど慣れるのが早い事に少し驚いているが、悪い事ではないので別に気にする所ではないか。
それにしても、毎回思うけどこの髪、かなりサラサラしてるな……いや、自分の髪なんだけどさ。男の時とは全然違う感じ……ふむ、これが女の子というものなのだろうか?
……まあそれは良いとして。
「髪とかは結ばないんですか?」
「ん……こっちが気に入ってるから」
「そうですか」
「何故そんな残念そうな顔する……」
面倒っていうのも確かにあるけど、ほらリュネール・エトワールの時だって結んでないし、こっちの方が自分的には良いんだ。それを言ったら、何故か残念そうな顔を見せるラビ。
結びたかったんだろうか。
「と言うか……ラビ、その姿でずっと居る感じ?」
「そうですね、久し振りにこの姿になれたので。ただ知っての通り目立つので、外に出る時は向こうの姿になりますよ」
「そっか」
気持ちが分からない訳ではない。
折角元の姿に堂々となれた訳だから、その身体で居たいというのは同感。しかし、ぬいぐるみの時との差が凄いな……いやまあ、向こうは演じていたのかもしれないけど。
「全然性格違うよね……違和感がある」
「それは自覚してます。アリスにも違和感凄いと言われました。アリスの場合は向こうの姿の口調に、ですけどね」
「わたしとは逆だね」
わたしの場合は今の口調に違和感がある。
アリス・ワンダーと会った時は、今の姿らしいし、わたしの時は向こうの姿だったからだけど。
「今日もブラックリリーと会うんでしたよね。また夜とかですか?」
「夜にしようと思ったけど今日は昼間かな。14時位」
「珍しいですね」
「ん。と言っても、まだ時間あるのは変わらない」
今はまだ朝の8時だしね。
身だしなみを揃え終えた所で、わたしたちは部屋を後にする。そのまま階段を使って一階へと降りるのだった。
□□□
「香菜、おはよう。今日は体調とか大丈夫?」
「うん、今日は結構良い方かな」
「良かった。じゃあ、母さん仕事に行ってくるから、気を付けてね。何かあったらすぐ連絡してね」
「ありがとう、お母さん」
「いいのよ」
そう言ってお母さんは仕事に出ていき、家の中には私だけが残される。いつものようにベッドに寝ながら天井を見上げる。うん、今日は結構良い方かな。
「大丈夫かい?」
「まあね……大分慣れてる。慣れちゃいけないんだけどね」
すぐ近くに居るララが私に気を遣ってくれる。
こんな生活が続いてどのくらい経ってるだろうか。今に始まった事ではないから別に、どうという訳ではないけど。体調が良い時とかは普通に外出したりしてるしね。
「今日も彼女と会う予定があるんだろう?」
「うん」
リュネール・エトワールの事を思い浮かべる。
良く分からない子である。並外れた魔法とかを使って魔物をバッサバッサと倒している、野良の魔法少女。この茨城県ではかなり有名だと思う。
この間、思い切って協力をお願いしたらあっさりと承諾されて拍子抜けである。むしろ、もっと早く言ってくれれば良かったのにと言ってくれる始末。
何度か一緒に行動したりしたけど、あの子、かなりのお人好しだ。
将来が結構心配なのが本音。勿論、承諾してくれたのは本当に嬉しかったし、何なら魔力もその時に入れてくれたし。私たちがこれまで集めたものの量をあっさりと一回で超えられたのには流石に度肝を抜かれた。
「規格外だよね」
「彼女はそうだね……原初の魔法少女にすら届くんじゃないかな」
「原初の魔法少女、ね」
推定Sクラス魔法少女と言われてるけど、多分あの子もっと上の方だと思う。
SSクラス魔法少女よりも、更に上……Lクラス魔法少女並なのではないだろうか。でもLクラス魔法少女って謎が多いんだよね……野良だから情報にも限界があるんだろうけど、それでもLクラス魔法少女については、誰もが謎と言ってる。
ネット上を見ても分かるように、話題にならない。驚くほどならない……本当に存在しているのかと疑う人も居るし。
SSクラス魔法少女やSクラス魔法少女は頻繁に話題になるんだけど、やっぱりLクラスは滅多に話題にならない。過去の情報とかを見ても曖昧だったりしてるし。
そんな謎のLクラス魔法少女よりも、原初の魔法少女と例えた方が良さそうだ。ただ気になるのは、そんな原初の魔法少女とLクラス魔法少女の人数が同じ七人という事。
これについては様々な議論があったりなかったり。Lクラス魔法少女は、原初の魔法少女なのではないか? とかね。原初の魔法少女だって並外れた力を持っていたとされてる。ただし、現在の消息は不明。
消息不明な原初の魔法少女と、謎多きLクラス魔法少女。何か引っかかるのは私も同じである。
「考えても仕方ないかな」
分からないものをいくら考えても結果は変わらないだろう。取り敢えず、身支度を済ませようと思い私は起き上がるのだった。
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