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最終章『妖精世界』
Act.26:告白の後
しおりを挟む「司さんは、えっとその……外国人だったんですか?」
告白された場所から駅までの道を歩いている中、雪菜が何処か遠慮がちにそう聞いてくる。
「違う。わたしは生粋の日本人。英語はそこまで喋れない」
「そなんですか?」
「うん。この髪と目の色は、隔世遺伝って言われてる」
「隔世遺伝……」
「うん。母方の先祖にそういう人が居たらしいから、それが遺伝した」
「そうなんですね……」
まあ、本当かどうかは分からない。
ただ真白は隔世遺伝だし、その妹であるわたしも隔世遺伝していると考えるべきだろう。だって、父さんも母さんも黒髪だしね。
血の繋がってない子供、という可能性も考えられるが血の繋がっている家族だっていう証明もあるので間違いない。
「? どうかした?」
雪菜がちらちらと、わたしの髪を見て来る。
髪の毛に何かついているのだろうか? それとも、何処かそれともおかしくなっているのかな? 一応、いつも通り髪は手入れしたはずなのだが……。
「い、いえ……綺麗な髪だなと思いまして。それにしても、リュネール・エトワールの時に結構近いんですね……」
「そう? ありがとう。……ん、そうだね、魔法少女の時と似てるのは確か」
自分の髪を褒められるのは、悪い気はしない。というかちょっと嬉しいかも。
髪色とかがリュネール・エトワールの時に似ているっていうのは、まあ事実なんだけどね……せめて黒が駄目なら金とかでも良かったんだよ?
今更そんな事言っても意味ないけど。
容姿が似ているってだけで、魔法少女と結びつけるのが出来ない。だって、変身後は大きく変わるっていうのが常識になってる訳なので、むしろ、そっくりな方が安全まである。
「……」
「……」
急募。この沈黙を打開する方法。
二人して、手を繋いで歩く……傍から見れば微笑ましい光景だろうけど、実際本人であるわたしたちとしては沈黙が続いているので、気まずい。雪菜に関しては、ついさっき告白された訳だし。
「司さん。今回の告白、驚きましたか?」
「……うん」
正直言って驚いてる。
何時か来るだろうと思ってたけどね。
「何かすみません。ですが、私は司さんの事が好きです」
「うん」
「この気持ちに嘘偽りはありません。それだけは知って欲しいです」
「うん……」
分かってるさ。
「さっきも言ったように今すぐじゃなくて大丈夫です。……司さんの返事、待ってますから」
「うん」
その後は、何事も無かったように気持ちを切り替えた雪菜と、簡単な世間話というかそんなものをしながら、駅へと歩くのだった。
□□□□□□□□□□
「本当にラブレターでしたね」
「うん……」
駅で別れ、自分の家に帰ったわたしは、ラビと雪菜の告白の事について話していた。
何時かは来ると思っていたけど、このタイミングで告白が来るとは思いもよらなかった。だが、告白されたからには、きちんと返さないといけない。
「迷っているんですね」
「うん……何故か分からないけど」
関係を壊したくない?
断ったとして、これから先どういう風になってしまうのか不安なのだろうか? 分からない……第一にわたしは雪菜の事をどう思っている?
「……嫌い、ではない」
嫌いではない。これだけははっきり言える事だ。だが、そこに特殊な感情があるかどうかと聞かれたら、何とも言えない。
「そんな、焦って答えを出さなくても大丈夫ですよ。彼女は待ってくれているんですから……もちろん、返事をしないと言うのは駄目ですが。ゆっくり考えて、答えを出すのが良いと思います」
「ラビ……うん。そうだね」
ぬいぐるみ姿ではなく、その姿でそんな事言われると結構恥ずかしいというか照れるというか。でも、そう。雪菜は待ってくれてるのだから、わたしも良く考えて、自分を向き合ってから答えを出したい。
「彼女も色々と迷った末で、さっきの行動を起こしたはずです」
「ん」
告白はした事はない。
でも、告白するという決断を出来るのは中々凄いものだと思ってる。勇気がなければ多分、出来ない。
仮にわたしだったら、多分……そんな勇気はないから陰から見てるような感じになってるんじゃないだろうか? この姿になる前の、更に高校の時に告白された事はあるけど、今みたいに悩む事はなかった。
……思えば、あの時の対応が正解だったかは分からないな。出来る限り傷つけないように、優しく断ったつもりでいる。
……もう、結構昔の事だけどね。あの時の子は、今何処で何をしているだろうか。幸せに過ごしているなら良いけども。
「だから司も、悩みに悩んでじっくり考えて、答えを出しましょう」
「ん」
「それに、彼女だけじゃないですしね」
「……そうだね」
告白こそ、雪菜が初めてだが他にもわたしというかリュネール・エトワールに好意を抱いている子が居る。そう、ブルーサファイアこと色川蒼である。
「あの子も、近々行動を起こすかもしれませんね。それともう一人」
「え?」
「気付いていないのですか? もう一人……」
ホワイトリリーとブルーサファイアの事は知ってる。だが後一人……いや、心当たりはある。
「ブラックリリー……」
「そうです。彼女もあなたに好意を抱いていますよ。そもそも、反応が既にあれじゃないですか」
「……」
ブラックリリーの事を思い返してみる。
そう言えば今までの素振りにも、何処か可笑しいというか、こちらを意識しているというかそんな行動をしていた事が多々あった気がする。
四人で集まった時も……。
「こう言うのなんて言うんでしたっけ……タラシでしたっけ」
「何故そんな言葉を……」
「ふふふ……それに私だって」
「?」
「何でもないですよ」
「そう? ……タラシとか言われたのは初めてだ」
「本当ですか? 真白に聞いたら、高校生の時でしたっけ? その時も何人かに告白されてたそうじゃないですか」
「真白……」
いつの間にそんな事を……。でもそれは、あくまで前の自分の高校時代。今の自分は、年齢は高校生だけど、行ってないのでまずそこから違う。
「でも今の自分は違うけど……」
「確かにそうですね。でもこれを見てください」
「ぇ?」
「何枚かの手紙がしまわれてますね。そして内容は……」
「勝手に何してるの……というかこれ、ラブレター?」
「恐らくそうですね。多分全部司宛です」
「……」
屋上とか校舎裏とか、体育館裏とかで待ってます、と言う文が綺麗に手入れされている箱の中に数枚ほど入っている。
「もしかしなくても、中学校で何回か告白されてるんじゃないですかこれ」
「うーん……」
全然心当たりがない。
でも……そういえばこの姿になった原因は願いの木だったよね。そして、今の司としての願いを聞いたのか、周りが都合良く書き換えられていた。
だが……流石に都合良すぎやしないだろうか。怖いくらいにしっかりと、過去の基盤まで出来上がっている。最初から真白の妹として生まれたというように。
間違いなく、今のわたしは妹となっているが……。
「ねえラビ。願いの木は本当に世界を書き換えたんだろうか?」
「唐突ですね。でも……確かにここまできちんと過去まで作られているのは、改変というのを飛び越えているような気がします」
改変ではなく一から作った? ……いや、それは流石に。
「一から新たな世界を作った?」
「もしくは、私たちが世界を移動したか」
「ん? 移動?」
「はい。この地球にもありますよね、同じような世界が複数あると言う説が」
「……並行世界」
わたしの口から自然と出た単語に、ラビは静かに頷く。
「それです。まあ、と言っても全くの机上の空論なので何とも言えませんけどね」
「まあね……仮に世界移動したとしても、証明できる方法がないし……」
仮に移動して居たら元の世界に戻れば証明できるだろうが、原因が願いの木という地球の物ではない以上、何とも言えない。
「本当に書き換えただけかもしれませんし……司の言う通り一から作ったという可能性もありますね。他には作り直したとか」
「ん……どれにしても、スケールが違いすぎる」
まず並行世界って……既に妖精世界と魔物の世界の二つがあるのにそこに更に並行世界って。もう何が何だかわからん!
「ですね。考えても仕方ありませんね」
「ん」
そうである。
証明できる方法なんてないし、移動してたとしてもどうすれば良いって話になる。考えるだけ、無駄かもしれないな。
そんなこと思いつつも、少し考えてしまうのだった。
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