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最終章『妖精世界』
Act.32:妖精世界『フェリーク』③
しおりを挟む「凄い空気が重く感じる」
「外側はこんな感じになってしまっている」
不思議な領域の外れ、すぐ目の前には黒い雲に覆われ、日の光もない荒廃した大地が続いていた。一方、反対側……わたしたちが来た方向を見れば、自然が残り明るい光に照らされている森。
「これがララも言ってた謎の領域なのね」
「ん、そうらしい」
「確かにこっちは凄く変な感じがするけど、森の方は心が落ち着くような感じがするわね」
「ブラックリリーも?」
「ええ」
わたしだけではなく、ブラックリリーも森の方に居るとやっぱり良い感じだそうで。一体、この領域は何なのだろうか?
口調で察する通り、ブラックリリーも変身して来ている。どうせ、わたしとラビとララしかこの場には居ないのだから素の方で喋れば良いのに。まあ、時々素が出る時があるけど。
その辺りは一応徹底? しているらしい。
「こんな感じに、ここから先は何もない」
「ん。この領域は一体……」
「分からないね。ただ事前調査した感じでは、この森の領域はここを中心に半径おおよよ3キロメートルは続いている」
「3キロ……思ったより狭い?」
「さあ? でも、そもそもこんな領域がある事自体可笑しいからね」
「確かに」
うーむ、謎は深まるばかりだな。
とは言え、わたしとブラックリリーの場合は妖精世界に来たのはこれが初めてなのだから、謎ばかりでも何ら可笑しくはないんだけど、それでも二人を見る感じでは可笑しいのだろう。
「取り合えずボクとブラックリリーは空中から周りを見渡してみるよ。ラビリア様とリュネール・エトワールはどうするんだい?」
「そうですね……わたしたちは地上から調べてみます」
「了解。領域外は何が起きるか分からないから、気を付けて」
「もちろんですよ。領域外に行く事になった時は、まずは私から行きますし」
「無理しないようにね」
「分かっています」
そこで話が終わり、ララとブラックリリーはブラックリリーの空間を生み出す魔法宙に足場を作り、それを登っていく。やっぱり空間魔法便利過ぎない?
気付いたらもう見えないくらいの高さまで行ってしまったようで、この場にわたしとラビだけが残される。
「さて、わたしたちも動きましょうか」
「ん。でもどこから行くの?」
「確証はありませんでしたので、まだララには言ってないのですが……この不思議な領域について一応心当たりがあります」
「え?」
「わたしの国……エステリア王国は、周囲が森に囲まれた大国でした」
「?」
「もちろん、道路とかは整備されていますが、それは別として王国を囲う森の一つに精霊の森と呼ばれていた森がありました」
「精霊の森……?」
急にエステリア王国について話し始めたラビに、少し驚きつつもその話をわたしは静かに聞く。精霊の森と呼ばれる森が、ラビの暮らしていたエステリア王国を囲う森の中にあったらしいのだ。
「はい。他と比べで良い意味での異常な魔力が漂っていた森でして、あまりの濃度に魔力を多く持つ者以外が入ると気分が悪くなったりするくらいでしたね」
「良い意味なのそれ……」
「魔力が強い濃度が濃い、というのは確かにあまり魔力を持たない人だときついでしょうけど、多くを保有する者にとっては、良い物なのですよ」
「そうなんだ……」
「まあ、魔力については置いとくとしますが、精霊の森……わたしたち妖精の上位存在とされている精霊が住まう森と言われていまして、別名としては聖域というものがあります」
「聖域、ね。なるほど、聖域……聖なる領域? つまり、ここがそうだと言う事?」
「そうです。ですが、周りは既に荒廃していますので、ここが聖域であるかは分かりません。なので、確証がないと言った感じですね」
「なるほど」
「それかどうかは分かりませんけどね」
「でも、魔力が強いなら、それこそ魔物が寄ってきそうだけど」
わたしたちはそんな話をしながら移動する。
方角的には北かな? そちらの方向にラビの後をついていきながら進んでいく。この森は半径約3キロ程の広さがあるみたいで、中央から歩くのは割と遠かったりする。
魔法少女の状態なので、すぐに着くだろうけどね。ただ、今はラビの後をついて行っているので、そこまでのスピードはない。何処向かっているのか分からないけど。
「そうなんですよね。この森には何故か分かりませんが、そんな強い魔力が循環しています。司も感じませんか?」
「ん。さっきから、結構感じてる」
変身している状態なので、元の姿の時よりも魔力には敏感になっているのもあって、確かにこの辺りには魔力を感じ取れるのだ。
ラビが言う通り、その魔力も何処か力強いものを感じるし、地球で感じる物とは違って濃いと言うか何というか……とにかく、普通ではない感じだ。
ただ、居心地が良いのは変わらない。空気も何処か、地球よりも新鮮に感じるしね……森だからかな? でもその広さは半径3キロ程度しかない訳だが。
「普通なら魔物がやってきそうですが……来ないでいる。何らかの力が守っていると考えられるのですが……」
「ん……」
何らかの力。
つまりは、まだ分からないと言う事だろう。ただ魔物が寄ってこないようにする力って、あるのだろうか? そこは気になる所だな。
「うーん、そもそも魔物なんて、妖精世界にも居なかったですし、そんな力がある訳ないんですよね。まあ、妖精世界にあった何かが魔物に有効だったって言う可能性もありますが」
そう言えばそうだった。
魔物は、別世界の生命体だ。妖精世界はもちろん、地球にも存在してない。妖精世界については、ラビとララが言っていただけで、わたしが見た訳ではないけどね。
見れる訳がないじゃないか。だって、別世界だし……ラビと会う前は、そんな世界が存在しているとか考えてもしなかったんだし。
魔物についても突然現れるってだけしか分からなかったし、どうやったら別世界の生命体だって判断できるんだよって話。
今は、ラビが居るから段々と分かってきているような感じだけど。
この地球は今や、魔力が存在する惑星だ。空気と魔力が一体化しているため、生き物たちは知らぬうちに吸い込み、吐き出す。
それらが繰り返されていった結果、魔力を持つ存在となる。まあ、一般人には魔力は感じれないのだが。
で、その魔力の影響もあって魔法少女という特別な存在も生まれた訳だ。ラビが言うには副作用的なものらしいけどね。
魔力は何を起こすか分からない。本当の原初の魔法少女……地球上一人目であるアリス・ワンダーは、ラビの魔力によって変身した。これは直接見たラビが言ってた事なので、間違いないだろう。
まあ、それを言ったらわたしもラビによって魔法少女になった存在ではあるが。
魔物と魔法少女……共通点はどちらも魔力。
魔物は魔力に惹かれて襲ってくるし、魔法少女は魔力を駆使して魔法を使ったりして、魔物を倒す。まあ、魔
物は何故魔力を欲するのか謎ではあるが……。
話が逸れたが、魔物という生命体は妖精世界にも居ない存在で、対抗する手段はない。手段がないと言うか、手段を作る必要がない訳だ。存在してない生命体なのだから。
「話が逸れましたね。ここが精霊の森かどうかは分かりませんけど、もしそうなら不思議な事が起きても可笑しくないのですよね」
「不思議な事?」
「はい。精霊が住まうとさっき言っていたと思いますが、あれは別に迷信だとか、ただの想像だとかそういうのではなく、度々不思議な現象が起きたりしていた森なんですよ」
「願いの木みたいな?」
「願いの木のように願いが叶ったりとかではないですが、何度か自然災害がやってきてもにエステリア王国は無傷だったりとか、地球で言う台風の場合は軌道が逸れたりとかありました。正確には精霊の森付近が無傷というのが正しいでしょうか」
「妖精世界にも台風あるんだ」
「そこですか? まあ、私たちは魔力嵐と呼んでいます。時折、魔力が乱れて嵐を起こすと言う事があったんですよ。どんな物かと言えば、地球の台風とそう変わらない感じですね。ただ地球のように、海上で発生する訳ではなく突発的に、陸地でもなんでも発生しますが」
「……台風より質が悪くない?」
「何度か起きていますし、対処方法もあります。台風のように当たり前という意識が妖精にはもうありましたからね」
「なるほど」
「また少し逸れてしまいましたが、精霊の森はこのように時折不思議な現象を起こすのですよ。だから、本当に精霊は居るのではないか? という風潮が出来た訳です」
「つまり、こうして一部領域が無事なのは精霊が何かをしていると言う事?」
「そう考えていますが、確証がある訳ではないので何とも言えない状態ですね」
まあそれもそうか。
聞いた感じだと、精霊の森は不思議な現象が起きているだけで、妖精たちが実際会ったと言う訳ではないみたいだしね。
「何がこうして守っているのかは、不明ですが……問題はやっぱり魔物ですね」
「あー……荒廃した土地の方に居るんだっけ?」
「はい。と言っても、この領域から見ただけなので詳しい事は分かりませんが……でも、間違いなくあの影のような物は魔物だと思ってます」
妖精世界を再生するにあたって、魔物の存在は確かに邪魔である。だからと言って、全部倒そうにもどれくらいいるか分からないし。
「地道にコツコツ調査していくしかないですね。その時は……」
「ん。もちろん、手伝う」
「ふふ、ありがとうございます」
ただその前に、この領域は大丈夫だけど外は大丈夫なのかというのが気になる。そっちについても、調べないとね。
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