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最終章『妖精世界』
Act.33:妖精世界『フェリーク』④
しおりを挟む「うわ、温度差というか雰囲気差がひどい」
「でしょう? ここがこの方向の終着点ですね。特に木しかありませんでした」
「ん、だね」
一応方角的には北に向かっていたのだが、そこの終着点にいまわたしとラビは到着していた。そして、そこから先はガラリを雰囲気が変わり、真っ黒な雲に覆われた暗闇の世界が広がっていた。
夜というものであればまだ良かったが、空を見ても月も星もなく、本当に暗闇の世界と言う感じだ。そんな荒廃した大地にうごめく影も見える。
ラビとララが魔物と言っていたやつだと思う。地球で見る魔物よりもかなり小さいけど、大きいのも居る。何というか大きさはばらつきがあるみたいだ。
そして綺麗にこの領域と真っ二つに分断されている。
「あ、司。危ないので、今は指一本でも外に出さないでくださいね。外側についてはまだ何も分かってないですから」
「ん、分かった」
ちょっと気になって、外に手を出しそうになってたみたいだ。危ない危ない……慎重にすると言ったのはわたし自身なのに、何やってんだって話だ。
森の外については、この後ララとブラックリリーを合流した時に再び相談というか、会議? するみたいだ。外も大丈夫なら、魔物を倒すのは出来るだろうけど……。
どうなんだろうか?
調べない事には分からないし、今考えても意味ないか。
「本当にこの場所だけなんだね」
「そうですね。何が原因かは分かりませんけど、今はこの領域内が安全と言えるでしょう。ただ、この領域も分かってない事が多いですし、突然消えると言う事も考えられます。早めに外についても調べる必要がありそうですね」
「突然消えるのは流石に勘弁願いたい……」
突然この領域が消えた場合、どうなるかは分からない。
ただでさえ、ここは未知の世界なのである。ラビとララからすれば妖精世界に帰ってきたと言う感じだろうけど、二人が居た時の面影はもうないだろう。
「今度は別の方向に行ってみましょうか」
「ん」
そう言って、また歩き出そうとした所で二つの影がわたしたちの目の前に降りて来る。
「居た居た。端っこまで行ってたのね」
「あ、ブラックリリー」
「少し探したよ」
空から降りてきたのは、ララとブラックリリーだった。二人は、空から様子を見ると言う事で空間魔法で空間を作ってそれを足場にして上に登って行ったのだが……。
「それにしても、向こう側は確かに酷い有様よね……これ」
ブラックリリーが、領域の外側を見て呟く。
まあ、雰囲気が阿呆なくらい、ガラリと変わっているから気持ちは分かる。わたしだって、そう思ったのだから。
「建物のようなものは見えるが、そこも多分魔物の巣屈になってるだろうね」
「こちらはまだ何も分かっていませんが……そちらはどうですか?」
二人は空から見ていたはずなので、わたしたちよりも良く見えたのではないだろうか。ラビが二人に問いかけると、二人はお互い顔を見合わせて頷く。
「ここから南の方向に気になるものを見つけたんだ」
「気になるもの?」
「ええそうよ。何かこう……塔みたいな?」
「塔?」
「そう。うーんと何て言えば良いのかな……」
「素が出てる」
「あ! コホン。何て言えば良いのかしら」
今更直さんでもとは思うが、そう突っ込むのは野暮なのでやめておこう。
「ファンタジーのライトノベルに時々出て来る、試練の塔的な何かと言えば分かりやすいかもね」
「ララ……」
ほうほう。ララもライトノベルを読む、と。何だか馴染んでるな? いや、悪い事ではないけどね。そう言うのに出て来る塔と言えば……ふむ。
確かに下手な例を出されるよりは、イメージしやすいけど。
「ま、まあ。そんな感じの塔よ。実際見た方が早いわね。で、その塔なんだけれど……」
「空から見た感じではかなり高そうだったね。他にも何だか禍々しい煙のようなものが上の方を覆い隠しているように見えた」
天高くまで聳える塔。上の方は黒い雲のような煙のようなもので覆われている……いきなりファンタジー感が増してないか? 黒いけむというか雲に覆われた高い塔とか、それどこのダンジョン……。
まあ、ただの塔ではないのは確かな気がする。
「それ、どのくらいの位置にあったんですか?」
「正確な距離は分からないが、かなり遠い位置だと思う。ここから見て結構小さく見えていたから。天まで伸びているのに」
「なるほど……そんな塔、妖精世界に昔ありましたっけ?」
「ボクの記憶上では、ないね」
「そうなると、私たちが居ない間に出来た物と考えた方が良さそうですね。もしかしたら、私たちが忘れているだけかもしれませんが……少なくとも私もララと同じで記憶にはないですね」
ラビとララでも見た事がない塔、と。
それはつまり、ラビの言っている通り二人が地球に居る間に新しくできた物って言う事になる。ただし、忘れていると言う可能性もある。
二人が居ない間に出来たって言うのも大分気になる話である。だってそうだろう? 妖精世界にはもう誰も居ない可能性が高いのに、塔を建てられる存在が居ると言う事になる。
もちろん、ララとラビは歪に飲み込まれた訳だから、妖精世界を最後まで見ていない。だから生き残りが居ても可笑しくはないとも考えられる。
謎が謎を呼ぶ……妖精世界はどうなってしまってるのだろうか。
ただ一つ言えることは、その謎の塔には何かがあると言う事くらいかな? ないというもの考えられるけど、聞いた限りでは明らかに異質だし。
「まあ、取り合えず見てもらえれば良いわ。さ、行くわよ」
「へ?」
「空からじゃないと見れないから、ほら早く」
「ん」
こちらに手を差し出してくるブラックリリー。
何となくさっきの話でイメージはついたけど……まあ、折角こう言ってるんだし見せてもらおうかな。私はその手を掴む。
「足場を作るから、気を付けてね」
「ん」
そう言って、ブラックリリーは空中に空間を二つ作ってくれる。片方にブラックリリーが乗り、もう片方にわたしが乗る。そして念の為なのか、手はしっかりを掴んでいる状態だ。
バランス崩してそのまま地面に急降下とか、いくら魔法少女の状態だからと言ってそれは怖い。トラウマになる人も居るのではないだろうか……。
そのまま、ブラックリリーに続いて空間の足場に次々と飛び移っては高度が高くなっていく。ラビは人型になっているからまだ辛うじて見えるが、ララはもう小さくなりすぎて見えない。何かが居るって言うのは分かるんだけどね?
「この辺りで良いかしらね。それで、さっき言ってた塔って言うのがあれよ。見えるかしら?」
一定の高さまで、登った所でブラックリリーは止まり、指を指して塔の場所を教えてくれる。その場所に目を向けると、そこには言われた通り、確かに何かに出てきそうな塔が見えた。
てっぺんは見えない。ただ、二人が言ってた通りの黒い雲のような煙のようなものが、その塔の上部を覆い隠していた。
「あれが……ん。確かに何かファンタジーに出てきそうな塔」
「こう、何て言うのかしらね。伝えにくいのよね。ララの言った説明の方が伝わるって言うのもあれよね……もしかしてライトノベルとか読んでるのかしら?」
「多少は、ね」
そんな多くを読んでいる訳ではないが、読んでない訳でもない。時々息抜きというか、気分転換というか……まあ読みたい時に読む感じだな。
「そうなのね……」
多分、読んだ事ある人とかならララの例えの方が恐らく伝わる。
ともかく、あれが塔。距離は大分ありそうかな? 何かあるかもしれないのけど、まだあそこまで行けるかなんて分からないしなぁ。
取り合えず、外に出ても大丈夫なのかの確認が先だろうね。この領域の外に出ても行動できるのであれば……良いんだけどね。
そうすればあの塔を目指せるかもしれない。でも問題は時間だよな……こっちでいろいろしている間にも、地球では時間は過ぎているはず。
時間差はどれくらいだろうか。
ブラックリリーを連れてきた時は、あまり経過してなかったから分からない。一旦地球に戻った方が良いかな。
体感で1時間半くらいは経過している気がする。
まあ、わたしは学校も何もないから良いが……ブラックリリーは親が居るはずなので居なかったら疑問に思われるだろうし。
うん、一旦帰って時間の経過を確認すべきか。
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