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最終章『妖精世界』
Act.34:妖精世界『フェリーク』⑤
しおりを挟む「あまり時間は変わってないね」
「みたいですね」
あの後、一度地球に戻り時間の経過の確認をしていた。どうやら、時間については地球とほぼ一緒みたいでそこまで気にする必要はなくなった。
時間が一緒とは言え、わたしは問題ないがブラックリリーについては家族が居る訳なので、時間を見て帰らないと駄目だろう。
ララは妖精なので、一人で動けるだろうけど聞いてみた感じではブラックリリーと一緒に居るとの事。要するに、ブラックリリーが帰る場合はララも帰ると言う事だ。
「ブラックリリー……香菜は無茶する時があるからね。心配だし、彼女が帰る時は一緒に帰るよ」
わたしとラビにだけ聞こえる声で、そう言ってくるララ。ララの心配する気持ちは分かる。香菜は身体が弱いっていうのもあるし、魔法少女の状態でも魔力が少ない。
「ん」
魔力が少ない事については、譲渡や魔石等でなんとかやれるだろうけど、身体が弱いと言うのは先天的な物であって、魔法少女の力ではどうしようもない。
本体……本来の姿、変身前の姿での体調というのは魔法少女になっても変わらないので、香菜が体調を崩すとブラックリリーになっても同じという事だ。
「時間の差はない事が分かったし、また戻ろうか」
「だね」
「ですね」
「ん」
まだ今日は時間があるので、再びわたしたちはゲートを抜けて妖精世界へ戻る。まあ、時間を確認するためだったし、時間の流れが一緒と分かれば地球感覚で調査とかができる。
ゲートを抜けると、再び謎の森に出る。
日の光が差し込み、緑がある場所……だけどこれは、妖精世界全体ではなく、このゲートがある場所を基準に半径約3キロ程の範囲のみなのである。
何故か魔力があり、周りに居る魔物は襲ってくる気配はない。何ともまあ、摩訶不思議な場所だなと思う。ラビの話では精霊の森かもしれないとの事。
なんでも妖精の上位存在である精霊が住まう森と言われているようで、ちょくちょく不思議な現象が起きていたそうだ。
別名としては聖域と言うらしい。聖域……要するに精霊は妖精たちにとっての神様と言う感じだろうか?
因みに、滅ぶ前の森はもっと広くかなり広範囲だったっぽい。
それでも、16年間もこの一部領域だけが残っているのは確かに謎だよね。最初は精霊の森全体が残っていたけど徐々に狭くなって行き、今の範囲になったと言う可能性もある。というかラビはそう考えているみたいだ。
でも、知っての通り確証がない。
何せ、周りは既に滅びの地……荒廃している土地しかなく、精霊の森だと言う事を特定できる要素がない。だから、ここが精霊の森であるかどうかは分からないままだ。
「本当に不思議としか言えませんね」
この森以外にも気になる所もある。それが、ブラックリリーとララが空中で見た時に発見した謎の塔。ずっとずっと南の方にそびえ立つ、上部が黒い雲みたいな煙みたいな物に覆われててっぺんが見えない塔。
現状、あれについては何かありそうな塔とだけしか分からない。それに行くにしても、この森の領域から出る事になる。
今居るこの場所は大丈夫だが、外が安全という保証はない訳で。
「そう言えば別名で聖域? だっけ? 精霊って妖精にとっては神様みたいな存在?」
「そうですね……精霊と一言で言っても色々ありますからね。例えば火の精霊とか水の精霊のように、それぞれに精霊が宿っているとか、魔法は精霊が力を貸してくれているとか、そんな感じです」
「ん……」
「これは記録されていた事ですが、エステリア王国の初代国王と王妃は精霊王と会った事があると言われています」
「精霊王……?」
「はい。妖精書庫にそう記されていました。初代国王と王妃は全ての精霊を統べる存在である精霊王と出会った、と」
「それだけ?」
「記録者は全員が私みたいに王族とかではないので、当時の記録者は見る事がそもそも出来なかったのではないでしょうか。初代の国王と王妃だけしか会えてないとありますしね」
「なるほど」
「最も……記録されているとは言え、本当に会えたかは当時の本人しか分からないですけどね。それ以降、精霊王が姿を見せる事はなかったようです」
「見捨てたとか?」
「それも分かりませんね。初代国王と王妃は会えたってだけで会った時に、何を話していたかまでは流石に記録されてませんでした」
まあ、それもそうか。
記録者って言うのは、当代の記録者が死亡または辞めた場合においてランダムで選ばれるって前、ラビが言ってたし。
死亡した時に引き継がれると言うのは分かるけど、辞めた場合っていうのは良く分からない。ランダムで選ばれるのに、任意で辞められると言う事だろうか。
「あーそれですね。これも原理が不明ですが、一応辞める事も可能です。とあるキーワードを妖精書庫のある場所で唱えると、辞められます」
「そうなんだ……」
「ただ暗黙の了解というか、ルールとして最低でも1年は全うするようにという風潮が出来てます。一応、記録者っていうのは一般人なら一般人ですが、一応特殊な位置付けですし。記録者と言う事を周りに言うか言わないかは当代の者の自由です。ひっそりと記録する者も居れば、記録者になったと言って大々的に言う人も居たようです」
「なるほどね」
「中には全く記録しない人も居たようですが、その時は強制的に記録者という役割をはく奪されてます。何だか良く分からないシステムと言うか原理ですね。作った人は何者なのでしょうね」
「はく奪もあるんだ……それも全部、その謎の原理と言うか妖精書庫の?」
「ですです。正直、これを作ったのは神様なのではないかと思うくらいですよ」
まあ確かに。
ランダムで選ばれる、自由に辞められる、サボっていると強制的に辞めさせられる……なんだこの、万能のは自動システムは。
どういう基準でサボっていると判断しているのかも気になる。こんなのを作れるのは確かにそんな存在くらいかもしれないね。魔法が便利な力とは言え、流石にこれを魔法の一言で片付けるのは無理だな……。
いやまあ、魔法や魔力については妖精世界でも謎が多い訳だけど。
「大分話が逸れてしまった気がしますが、精霊って言うのは……確かに地球で言う神様みたいな存在かもしれませんね。特に日本のように」
「八百万の神々?」
「はい。あらゆるものに神様が宿っていると言うそれです。妖精世界でもそういう考えを持つ人は少なからず居ましたから」
「何か何処か似ているようで違う感じだね、地球と妖精世界」
「ですね……」
あれこれ話している内に、今度は方角的には西かな? この方向の終着点が見えて来る。領域の端っこを超えるとガラリを雰囲気が変わるから分かりやすい。
「本当何もないね……」
「そうですね。真っ暗な荒廃した大地が続いているだけみたいです」
こちらも同じように、綺麗に分断されている感じだ。この領域の外はやはり、全部こうなってしまっているのだろう。
因みにブラックリリーとララはさっきと同じように、また空中から色々と調べているみたい。今回はそこまで高い位置には居なく、地上からでもちょっとではあるけど見える感じの位置に居る。
「やっぱり、この領域内の木は元気ですね」
「分かるの?」
「触ってみれば分かりますよ。ですが、一つ先に行ったら枯れ木……」
わたしが触った所で分かる気はしないけど……一応、触ってみる。
うん、普通の木である。でも確かに……何かこう、何て言うのかな? 言葉じゃ言えないけど、何か生きている感じがする。ラビはこれの事を言ったのかな。
「司、これを見てください!」
「ん?」
そう考えていると、ラビが何かを見つけたようで声を上げたので、わたしはラビの居る場所へと移動する。何を見つけてんだろうか?
「石碑?」
「っぽいです」
向かった所にあったのは、わたしの身長よりも高い石碑のようなものだった。文字みたいなのは書かれているけど、掠れ過ぎているのもあって読めない。
……そもそも、ここは妖精世界なので日本語で書かれている可能性は低いよね。
「うーん、読めませんね」
「ラビも?」
「はい。触った感じだとそこまで古い感じはしないんですけどね」
「ん。確かに……」
見た感じでもそこまで古いようには見えないし。
「「!?」」
その時だった。
わたしの手とラビの手が石碑上でぶつかると、眩い光が石碑から放たれた。その光はさらにわたしたちを包み込んでいく。
わたしはラビの手を離さないように掴んでいたが、徐々に意識が薄れていき……そのまま気を失ってしまったのだった。
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