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最終章『妖精世界』
Act.42:二人の少女の独白
しおりを挟む「……」
スマホの中に入っている、CONNECTと言うアプリのメッセージ画面を開いたまま胸の部分にスマートフォンを移動させる。
「思い切って二人で会えないかってメッセージを送れたのは、私の勇気の証だと思いたい」
メッセージの送信相手は、リュネール・エトワール……いえ、如月司という一人の少女。そして私の好きな子でもある。それは友達とかそういう感じではなく、恋愛的な方の好き、だ。
同性なのにおかしいと思われるかもしれないけど、好きなってしまったのはどうしようもないよね。まあそれで、この前、ホワイトリリーこと白百合先輩が私にこう告げてきた。
『私、司さんに告白しました』
その言葉に、打撃を受けたような感覚に襲われた。
とはいえ、私たちは同じ人を好きになってしまったライバルだし、告白については別に気にしてない。告白をした所で、答えるのは司なのだから。
わざわざ言う必要はない事だと思う。だけど、それをあえて言ったと言う事は私に対しての宣戦布告と言う事なのだろうか?
「宣戦布告……か」
まだそうと決まった訳ではないものの、わざわざ私に言ってきた事には意味があるのでは? と私は思ってしまう。
それとも……私も早く告白しろ、と暗に伝えてきたのだろうか。白百合先輩は普段は、大人しく言葉遣いも丁寧でありクラスの中でも人気があると言うのは友達の話で聞いた事がある。
随分と大人っぽいなとは思っていたのだけど、司が介入してからかなり変わったと思う。何より、以前より笑顔を見せるようになったし、表情も増えてるし。
……司が変えたと言う事なのかな? それを言ったら私も大分変ってるような気がする。
司とは最近はあまり話せてない気がする。この前の司の友達と言っていたブラックリリーと言う魔法少女と会う時に少し話したくらいだろうか?
後間違いなく、ブラックリリーも司の事を好いている。本人は自覚はないようだけど、間違いはないと思う。白百合先輩もそう言っていたし。
向こうは私たちと違って野良なので司と会うのは結構自由だ。そしてこの前の異常事態の時、彼女と一緒に行動をしていた。
少し妬けてしまったけど、そんな彼女の協力があったから司が反転世界にやって来れたし、手の回らなかった地域の魔物をいち早く倒し、被害を抑えられたのも事実。
ブラックリリーの使うテレポートの魔法。あれがなかったら……移動に時間がかかっていたと思う。時間がかかるという事は、もっと被害が広がっていたかもしれないと言う事。
そして野良であるにも関わらず、魔法省の協力してくれた、と茜さんが言ってた。支部長である茜さんがそう言ったのであれば、間違いないのだろう。
魔法省の中には、そんなブラックリリーの事をちょっと怪訝そうに見ている人も居たらしく、彼女はそれには気付いていたようで、それでも何も言わずに協力をしてくれたとの事。
ブラックリリーがそんな目で見られてた理由って言うのが、以前の魔法少女襲撃事件の男が証言した第三者の容姿に似ているから、なんだよね。
確かに似ていた。だから私も白百合先輩も少し警戒はしていたものの、実際話せば普通の少女。私たちよりは年上な気はするけど、悪い事をする子には見えなかった。
ただそんな裏で暗躍していたと言われる黒い魔法少女は、あれっきり全然目撃もされてなければ、事件も発生していない。魔法省に怖気づいたのかは分からないけど、全然情報がないものだから忘れている人も居るかも。
「ううん、今考える事じゃないかな」
もう一度スマートフォンを見る。
「ふう」
このままでは駄目だ。
それはもう分かっている事なんだけど、どうしても一歩を踏み出せなかった。仮に告白したとして、振られた場合、今までの関係が壊れてしまうのではないか? という不安。
……動かなければ何も変わらない。
そう、何も変わらない。だからこそ、私は今回は決心した。白百合先輩がわざわざ言った事は、宣戦布告として捉えよう。それならば……私も動くしかないよね?
「頑張れ、自分」
土曜日はまだ先なのに、緊張しているのか心臓がバクバク言ってる。そんな自分を落ち着かせるために、気合を入れ直す。
「白百合先輩……その宣戦布告、受け取りましたからね」
私しか居ない部屋に、私のそんな声が響くのだった。
□□□□□□□□□□
「……?」
「どうかしたの?」
いきなり動きを止めたからなのか、妹の冬菜に首を傾げられました。
「いえ、何でありませんよ」
「そう?」
「はい。すみません、冬菜」
「大丈夫だよー」
「ふふ」
双子の妹である冬菜の髪を再び梳かし始めます。
今さっき、誰かに宣戦布告のような事を言われたような気がします。いえ、宣戦布告って何だよと言う話になるんですけどね。
蒼ちゃんでしょうか? この前、私は蒼ちゃんに対して告白したことを告げましたし、人によっては宣戦布告に聞こえるかもしれませんね。
とはいえ、蒼ちゃんに対しての宣戦布告というのもあながち間違いではないのですけどね。どっちが選ばれても恨みっこなしと約束もしましたし。
二人とも振られたその時は、一緒に泣こうとも言いましたね……私たちに出来るのは告白くらいですし。それに答えるのは司さんなんですから。
ですが、もう一つだけ懸念事項も増えましたね。
それはやっぱり、ブラックリリーという司さんの友達? らしい子の事です。彼女の雰囲気からして、間違いなく彼女も司さんに好意を持っています。本人には自覚がないようですけどね。
つまりライバルが一人増えたことになります。自覚ないって言うのも結構厄介ですが、彼女は野良。つまり、時間は私たちよりもあるでしょうし、同じ野良である司さんとは自由に会えるのではないでしょうか?
この前の異常事態の時も共闘したと言う事ですし。魔法省にも協力してくれたって、茜さんも言ってましたので、間違いはないですね。
少し妬けますが……。
ただ一つ気になるのが、そんなブラックリリーは魔法少女襲撃事件の時の男が言っていた、黒い魔法少女に似ていると言う事です。
魔法省の人も、それもありちょっと注意深くブラックリリーを見ていたと言ってましたね。実際話した感じでは何の変わりもない普通の女の子な感じがしますし、悪い事をするようには思えなかったんですよね。
最初は警戒していましたが……。
「ありがとう、雪菜! 今度はわたしが雪菜の髪を梳かすね」
そうこう考えている内に、冬菜の髪を梳かし終えるとお礼を言われますが、別にいつもの事ですしお礼の必要はないと思うんですよね。と言うより姉妹なのですから。
「どういたしまして。いえ、私は別に良いですよ」
「だめ!」
「えぇ……」
今度は冬菜が私の髪を梳かすと言ってきたのですが、私は別に一人でもやれますし大丈夫と言いたかったのですが、冬菜に却下されてしまいました。
でもまあ……別に断る必要もないですし、ここは大人しくやってもらう事にしますか。と言うかそうしないと冬菜が解放してくれなさそうですね。
「それならお願いしますね」
「任せて!」
あ、冬菜の名誉のために言っておきますが、冬菜も自分で色々できますよ。私が居ない時とか、忙しい時とかは頼んできませんし、自分でやりますから。
ふと思います。
ブラックリリーは分かりませんが、仮に彼女も司さんに告白した場合……司さんは誰を選ぶんでしょうか。私だったら嬉しいですけど……。
「……」
今更ながら結構、緊張しますね……。冬菜の何処か心地良い感じの髪の梳かし方に目を細めながら、私はそんな事を考えるのでした。
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