129 / 137
最終章『妖精世界』
Act.43:部分再生
しおりを挟む「あの辺を試しに再生してみますか」
再び妖精世界にやって来たわたしたち。しかし、今日はブラックリリーも居ないし、ララも居ない。その理由と言うのが、ブラックリリー……香菜が体調を崩したからである。
ララからの連絡が来たのは朝。どうも熱を出してしまったらしくて、今日は行けないとの事だった。そこまで重い訳ではないけど、ララは看病のために香菜に付き添うみたい。
香菜のお母さんも、心配して仕事を休もうとしたのだが香菜がそれを止めたみたい。香菜としてはお母さんにあまり負担をかけたくないんだなと何となく分かる。
そんな訳で、今回この妖精世界に来ているのはわたしとラビのみ。
まずはお試しということで、精霊の森の近くの何処かを再生しようかと思い、わたしたちは今精霊の森の出口……結界が守っている範囲ギリギリの場所にやって来ている。
「やっぱり魔物が居ますね」
「だね」
そこから先に広がる荒廃した大地……そこには、やはり彷徨っている影が複数確認できる。魔物だろうけど、地球の魔物よりは小さいようにわたしには見える。
まあ、地球にも小さい魔物っていうのは存在するけど、そこまで多くない。脅威度が低くても図体だけはでかい魔物が多いし、小さい魔物の方が珍しいというレベルだ。
なんで妖精世界の魔物は小さいのか?
それは分からないが、わたしたちは一つだけ仮説がある。これはわたしやラビではなく、ララが言った事なんだけどね。
妖精世界はこの精霊の森を除き、他の場所は魔力が薄かったりなかったりしている場所があるだろう、と思ってる。魔力がない場所では、魔物は魔力を取り込む事が出来ない。
魔物の生態とかについては、解明出来ていない。それもそのはずで、魔物は倒すとそのまま魔石を残して消えてしまうから研究しようにも研究が出来ないという厄介な感じなのだ。
そして個体によっても攻撃方法だとか、移動方法だとか色々と変わっているためこれと言い切れない。
話を戻すが、そんな生態不明である魔物という生命体については分かってない方が多い。しかし、妖精世界のこの荒廃した土地の蔓延っているのを見た感じでは、魔力がなくても動けるというのは分かる。
最初は大きかったかもしれない。しかしこの世界は滅んでしまっており、恐らく生命はティターニアを含む精霊を除き、何も居ないだろう。魔物は何を食べるのかは分からないが、餌なるものがなければ生き物と同様に死んでいくのではないか?
まあ、何が言いたいのかと言えば簡単で、餌がないから魔物は小さくなってしまってのではないか、と言う事だ。
後は魔力が薄いからかも知れないというのもある。魔力についても分からない事が多く、結局これと言った原因というのは不明。だがしかし、魔物の世界に魔力があったならばどうだろうか?
妖精世界の魔力が流れずとも、最初からその世界に魔力があって、その魔力で生きていたら……当然魔物は魔力のないこの世界では魔力を蓄えることが出来ない。
まあ、謎は多いけど……小さい理由というのは環境の違いっていう線が濃厚なのは確かだろう。
「ん。そう言えばこの状態で外行っても大丈夫なのか分からない」
ここで一つ思い出す。
いや忘れちゃダメな事ではあるが、うっかりしていた。今までわたしたちが居たのはこの精霊の森の内側だ。精霊の森の中なら問題なく過ごせていたが、外はどうなのか……これについてはまだ調べてなかった。
ティターニアの話からして、外は非常に魔力が薄いという事は分かったが、わたしたちは別に魔力で生きている訳ではない。確かに魔力が混ざってはいるけど、大事なのは空気である。
まあでも、精霊の森の中で普通に過ごせているので空気はあるのかもしれない。精霊の森にだけあるという可能性も否定できないけど。
「私たち精霊は魔力がないとあれですが、あなたは地球人ですし問題なさそうですが……実際、ここは精霊の森ではありますが、この場所では普通に過ごせています。それに一応同じ世界ですしね」
それはそうなんだけどね。
さて、どうするか……思い切って出てみるか? でもなあ……ちょっと怖いというのもある。魔力装甲が守ってくれるとは思うけど……。
「ん……」
だがしかし。
ここで止まるのもあれなので、まずはちょこっとだけ結界の外に手を出してみる。数秒ほど伸ばしてみたが、特に何も感じない。同じように足も出してみるが、特に何もなし。
「……よし」
ちょっと怖いというのもあるが、何かあったらすぐに結界内に引っ張ってもらえるように、ラビとティターニアと手を繋いだ状態で、徐々に外へ出てみる。
「っ」
反射的に目を瞑ったりしてしまうが特に何もなかった。
ただ強いて言うなら結界内よりも、何だか身体が重いようなそんな感じだ。しかし、自分を守ってくれている魔力装甲が削られているような感じはしない。
「大丈夫……かな?」
「そのようですね……それにしても、結構勇気がいると思うのですが」
「ん。怖かったのは事実」
「ふふ、司でも怖い事はあるんですね」
「それは勿論……」
怖いものがない人なんてむしろ居るのかな? 居るのかもしれないけど、大体は一つか二つは持ってそうだが。
「ラビも大丈夫?」
「一応大丈夫ですね。ただあまり長居は出来ないかもしれませんけどね」
「ん」
まあ、ラビは妖精だからね。
精霊と似ていて、魔力がない場所は妖精にとってもそこまで良い場所とは言えないのだ。確か体内の魔力で、どんな場所でも行けるんだったっけ? 流石に火の中とかそういう場所は無理かもしれないが。
「早速再生してみますか……と言いたい所ですが、ここは結界の外ですから」
「ん。そうだね。……というかティターニアは大丈夫なの?」
「精霊たちにはきついでしょうけど、私はこれでも精霊王なので」
「そっか」
精霊王だから……何回その言葉言ってるんだろうか。まあ、本人が大丈夫と言うなら大丈夫なんだろうけどね。
「来ましたね」
「ん」
そう忘れていけないのが、ここは結界の外だという事だ。
さて、魔力に惹かれる魔物たちが、魔力を多く持っているわたしたちが結界の外に出たらどうするか? 誰でも分かる通り、魔物はこちらに向かってくる訳だ。
「丁度良いですね」
「え?」
応戦しようと思ったのだが、ティターニアが前に出てくる。その行動に、わたしとラビはきょとんとする。
「私の力を見てもらいましょう」
いや、あなたの力は既に精霊の森の再生で見ているから、どれだけ強いかは察してるけども。……とは言え、やめるつもりはないみたいで、ティターニアが戦闘態勢に入ってしまった。
仕方がないので、他の魔物が来ないか周りを警戒することにした。
「雷鳴よ鳴り響け。――アークサンダー」
刹那。
天空より一筋の光が大地に向けて落ちる。迸る雷光……光は物凄い轟音と共に地面に到達。そして辺り一面を眩い光が照らし、白く染め上げる。
しばらくして、光も消え、眩しく瞑っていた目を開くと、さっきまでこちらに向かってきていたはずの魔物は見当たらず、その場所には魔石が複数落ちているだけだった。
「少しやりすぎましたかね?」
「……」
うん。
さっきの轟音と言うか雷を放ったのはティターニアなのは間違いないだろう。そしてその威力……魔物が小さいので何とも言えないのだが、決して弱くはない威力だろう。
「再生以外にも私は戦えるというのは分かってもらえたでしょうか」
「ん。……既に森を再生させている時点でとてつもないというのは分かってたけど」
ちょっと呆れた感じにわたしは言う。
そもそも、精霊を統べている精霊王が戦えないなんて誰が思うだろうか? 中には居るかも知れないけどね……ティターニアの姿はぶっちゃけ人間の一人の女の子にしか見えないし。
まず見ない目の色の組み合わせでもあるし。
「取り敢えず、周囲に居た魔物は一掃したので、再生させてみますね」
「ん」
もう何も言うまい。
そんな訳でティターニアは精霊の森を再生させていた時のように、詠唱を始める。空と大地に大きな魔法陣が姿を表し、光を放つ。後は精霊の森を再生した時と同じように超常現象が起き、再生を果たすのだった。
……うん。やっぱりとんでもないね、流石は精霊王。
彼女に協力したのは、正解だったかもしれない……でもまあ、それでも妖精世界の再生というのはとてつもなく長いだろう。わたしたちが生きているうちに終わるかは分からないが……協力すると決めたのはわたしなのでこのまま頑張ってみるつもりだ。
……ホワイトリリーやブルーサファイアにも協力してもらうべきだろうか? いや、彼女たちに手伝ってもらっても何も変わらなさそうだし、保留かなぁ?
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。
タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。
しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。
ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。
激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。
召喚されたら無能力だと追放されたが、俺の力はヘルプ機能とチュートリアルモードだった。世界の全てを事前に予習してイージーモードで活躍します
あけちともあき
ファンタジー
異世界召喚されたコトマエ・マナビ。
異世界パルメディアは、大魔法文明時代。
だが、その時代は崩壊寸前だった。
なのに人類同志は争いをやめず、異世界召喚した特殊能力を持つ人間同士を戦わせて覇を競っている。
マナビは魔力も闘気もゼロということで無能と断じられ、彼を召喚したハーフエルフ巫女のルミイとともに追放される。
追放先は、魔法文明人の娯楽にして公開処刑装置、滅びの塔。
ここで命運尽きるかと思われたが、マナビの能力、ヘルプ機能とチュートリアルシステムが発動する。
世界のすべてを事前に調べ、起こる出来事を予習する。
無理ゲーだって軽々くぐり抜け、デスゲームもヌルゲーに変わる。
化け物だって天変地異だって、事前の予習でサクサククリア。
そして自分を舐めてきた相手を、さんざん煽り倒す。
当座の目的は、ハーフエルフ巫女のルミイを実家に帰すこと。
ディストピアから、ポストアポカリプスへと崩壊していくこの世界で、マナビとルミイのどこか呑気な旅が続く。
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』
ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。
全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。
「私と、パーティを組んでくれませんか?」
これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!
異世界帰りの少年は現実世界で冒険者になる
家高菜
ファンタジー
ある日突然、異世界に勇者として召喚された平凡な中学生の小鳥遊優人。
召喚者は優人を含めた5人の勇者に魔王討伐を依頼してきて、優人たちは魔王討伐を引き受ける。
多くの人々の助けを借り4年の月日を経て魔王討伐を成し遂げた優人たちは、なんとか元の世界に帰還を果たした。
しかし優人が帰還した世界には元々は無かったはずのダンジョンと、ダンジョンを探索するのを生業とする冒険者という職業が存在していた。
何故かダンジョンを探索する冒険者を育成する『冒険者育成学園』に入学することになった優人は、新たな仲間と共に冒険に身を投じるのであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる