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最終章『妖精世界』
Act.47:悩める司
しおりを挟む「……」
再生の進む妖精世界を、精霊の森の中でも一番高い木の上で立って見渡しながらわたしは考える。この一番高い木は、精霊樹と言うらしいけど、特に周りの木と変わった所はない。
まあ、強いて言うなら一番高いと言う所だろうか? 後は確かに他の木と比べると強く魔力を感じれる。
最初、この世界にやってきた時よりも広がっている自然。それは精霊の森が再生したから……そして今はそんな精霊の森の外側にも徐々に伸びて行っている。
精霊の森は当分は結界で守っておくようだが、もし周りが安全になったら結界を解除するとか言ってたかな。結界がない方が、魔力の循環も広がるから。
と言っても、現状安全とは言い難い。
魔物が周囲に結構いるから。これでも大分片付けたのだが、やはり何処かから湧いているのか……それとも、見えない範囲に居た魔物が寄って来ているのか分からないが、ともかく魔力のある場所目指す魔物が多い。
わたしたちもずっと妖精世界に居られる訳ではないから、わたしたちが居ない間はティターニアと精霊が対処してくれているみたい。
ただティターニアはともかく、精霊たちは魔力の薄い場所は危険なので、森からの支援や遠距離攻撃で対応しているそう。
「どうしたの? そんな所でぼうっとして」
「ん……アウロラ」
「疲れたの? まあ、本当に色々としてるものね……普通は疲れるわ」
そう言いながら、わたしの手のひらに収まる程度の小人サイズの少女、アウロラがわたしの周りを飛び回る。
「疲れてはないけど、ちょっと色々と考え事」
少し疲れているのは事実だが、別にそこまでのものではない。
これまでの事を振り返っていた。一番わたしを悩ませているのはやはり、雪菜、蒼、ラビに告白された事だろうか。告白自体ではなく、その告白に対する答え。
わたしは皆が好きだ。
だから、誰なんて選べない……でも、これは答えにはならない。皆が好きだから……全員の告白を断る事は簡単だ。ただそうした場合、皆との関係はどうなるのだろう。
ラビは覚悟できているからこそ、皆告白したと言っていたがそれでもやはり……。
怖い。
まあ、これなんだろうな。自分でも分かっているけど……だがこのまま答えを出さずに居るのはもっと駄目だろう。
わたしが一緒に居たい人……好きな人。皆が好き……それは、どういう意味での好きだ? 恋愛的か? 友達的か?
「なるほど。ズバリ恋の悩みね!」
「!」
「その反応、図星だったみたいね。誰か好きな人でもできたの?」
「ん……なんて言えば良いか」
わたしに好きな人が出来たのではなく、好きになった人が告白してきたと言う事。それに対してわたしは答えが出せないで居る……何故だか自然とアウロラに対して零してしまった。
アウロラ。
彼女は人でもなければ妖精でもない。それなら何か? 精霊である。そう、つまりティターニアの直轄と言えば良いのかな? 取り合えず、精霊と言う存在である。
少し前に、わたしの前に姿を現してはティターニア同様、お礼をしてきた感じだ。力も回復し、余裕も出来たので姿を現したと言ってた。
『他の精霊はまだ恥ずかしがってるみたい。まあ、人見知りだからねえ……』
アウロラから聞いた感じでは、他の精霊たちもお礼を言いたそうにわたしたちの事を隠れて見ていたようだったが、人見知り? らしく恥ずかしがっていたそう。
精霊がどういう感じなのかは分からないけど、人見知り……何というか意外だった。
アウロラは正直絡みやすいと言うか話しやすかったので、何時の間にか普通に会話する所まで来ていた。
ただアウロラは精霊だけど、普通の精霊ではない。どういう事かと言えば、精霊は精霊でも精霊王みたいな全てを統べる存在も居る訳だ。
でも、精霊王だけでは手が回らないとかもあるだろう。
会社とか国だって、一人がやっている訳ではない。つまり、アウロラは会社で言うなら中間管理職的な存在であると言う事。一部の精霊を指揮するリーダー的な存在だ。
「なるほどねえ。もてもてだね」
「……」
「冗談だって。でもそれについては、やっぱり他者がとやかく言うのは出来ないかな。誰を選ぶのか、選ばないのか……選択するのはされた側だから」
「分かってる、んだけどね」
「そうよね。ただ一つ言えることは……本気で選ぶならお互いが幸せになれる相手を選ぶと言う所かな? ま、つまり君が一緒に居て幸せだと思える人を選ぶ事だよ」
一緒に居て幸せと思える相手、か。皆と居る時が賑やかで楽しく、幸せな気がするよ。
「恋愛は複雑ねえ……妖精もそうだけど。もういっその事全員もらっちゃえば?」
「いやいや、それは流石に……」
「そう? 妖精世界の国なんて、一夫多妻が普通よ? ……あ、でも君の場合同性だもんね。一妻多妻?」
「ふふ、何それ」
思わずクスリと笑ってしまう。
それを言うなら、一夫多妻の漢字を変えて一婦多妻とかじゃないかな? いや、凄いどうでも良い話だけど。
「なるほど、君の笑顔は確かに破壊力があるね」
「え?」
「何でもないよ。悩みに悩みぬけば良い。そこに答えを見いだせるはず。時にははっきりと言わないと駄目な事もある。中途半端では駄目。ちゃんとどっちかを選ぶ……それが一番大事」
「ん」
この場合において、中途半端と言うのは駄目な答えだろう。断るか、付き合うか。その二択のみが選べる選択肢だ。
断っても断らなくても、恐らくわたしたちの関係はちょっと変わるだろう。ちょっとと言うレベルで済むかは分からないけど。
でもまあ……そうだよね。こればっかりは、わたし自身で答えを出すしかない。他者に相談した所で、当人の問題なのでどうしようもないのだ。
「悩む事は別に悪い事じゃないわ。まあ、悩み過ぎて体調不良とかを起こしたらそれは流石に悪いけど」
「体調は一応大丈夫」
今の所は、ね。
特に身体から感じる異常はないし。それに無理はしないつもりである。わたしよりも、ティターニアの方が心配なんだけど。
「あはは! まあ、ティタ様は張り切っているからね。大分再生も進んでいるし」
「ん。何故そんな張り切ってるの?」
「それは分からないけど、多分、今までずっと話し相手が居なかったからじゃないかな? 私たちも森の再生前は、あまり余裕もなかったからティタ様とも話せてなかったしね」
「そっか」
「ずっと一人でこの森を維持してくれていたから。私たちを守るためにね」
そっか。
ティターニアはわたしたちが来るまではずっと森を維持して居たんだもんね。力だも大分失っていたし、油断も出来ない状態。話し相手も居らず、ずっと。
「ん」
「改めて私からもありがとう。おかげで森は再生したし、私たちも徐々に元気を取り戻せているわ」
「再生したのはティターニアだけどね」
「それでも、ティタ様を助けてくれたのは君たちだから」
「ん。気にしないで」
乗りかかった舟だしね。
それに、こちらとしてもティターニアや精霊たちが協力してくれているは何とも心強い。精霊の森の周辺にも緑が戻りつつある。
再生とかそう言うのはティターニアたちがやっているので、わたしたちの主な役割は魔物退治に、周辺調査。それからもしもの時の魔力供給とかである。
周辺の調査については、精霊たちは森の外には出られないからね。魔物についても、精霊たちでも十分対応できるが彼女たちは再生した森を守ったりしているので無駄な負担をさせたくないし。
魔力供給については、その名称通りだ。精霊も魔力がなければ何も出来ないし、最悪魔力がなくなれば消滅してしまう。
ティターニアも魔力は無限ではないから、何かあった時に魔力を渡せるように備える感じだ。まあ、それについてはララの魔法の瓶が活用できる。魔石も使えるしね……。
「世界の再生って、最初聞いたときは何言ってるんだって思ったけど、実際こう見ると何かやれそうな気がするわね」
「ん。ティターニアやアウロラたち精霊のお陰」
「褒めても何も出ないわよ。でも、私たちだけでは無理だったかもしれないわね」
時間がかかるのは承知の上さ。
どれだけかかるかは、分からないけど……それでもこうやって実際進んでいるのも事実。何時か……きっと完全に再生した妖精世界が見えれればよいな。
最も、わたしが生きている内に終わらない可能性もあるし、むしろそっちの方が高いかもしれない。
今、出来る事をするだけ。
そしてわたしも……考えなければならない。これからの事を。
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