132 / 137
最終章『妖精世界』
Act.46:禁断の塔
しおりを挟む「来ましたね」
「ん。ティターニア、再生した所はどんな感じ?」
色々あった昨日から一日が経過し、わたしたちは再び妖精世界へやって来ていた。今回はブラックリリーもラビも居る。
以前、一部分をお試しに再生してもらった場所にやって来ると、見事に自然が復活しているのが見える。わたしは既に見ているから驚く事はしないが、ブラックリリーとララはちょっと驚いている様子。
「言われた通り、結界を張らずに置いておきました。あの時から魔物は一体くらいしか来ませんでしたね」
「そうなの?」
「はい。少し私がやり過ぎたのかもしれませんね……この近くには今の所、魔物は再出現してませんので」
あれが少し……? よし、気にするのはやめておこう。
「どうだった?」
「そうですね、やはり結界がない方が外へ魔力が広がるのでやはりこちらの方が再生は早いかもしれません。ほら見てください」
「?」
そう言ってティターニアが指さした場所に見えるのは、再生した場所の外にある一つの花。荒廃している土地に、一本の花が咲いていたのだ。
「花……」
「私が特に手を加えた訳ではないのですが、いつの間にか咲いてましたね。この外に」
そっか。
この再生した場所の魔力がこの花を咲かせたのだろうか? 良く見たら周りにも、枯れている花や木が見えるが、何だか少しだけ元気になっているように見える。
「このまま結界を張らずに、再生を進めればもしかしたら思うより早く再生するかもしれませんね」
「だね。……でも」
「ええ、分かっています。魔物ですよね」
ティターニアの言葉に頷く。
確かに結界なしの効果なのかもしれないが、このまま進めていくには一つの問題点がある。それがティターニアが言ったように魔物の存在。
結界がなければ当然魔物は、魔力の豊富な場所にやって来るだろう。そしてそれを蓄えて、大きくるなるかもしれない。
魔物が暴れだしたら、折角再生した森も台無しになる。だから、魔物の対策が必要なんだけど……この世界にはどれだけの魔物が居るのか想像がつかない。
魔物を倒す組織もなければ、倒す人も居ない。そんな世界で、魔物が出現し続ければ……もうあっちこっちに居るだろうね。
「取り合えず、まずはこの精霊の森の周辺を再生していきますか」
「そうだね。範囲を広げても、手が回らなくなるだろうし」
地道にコツコツと。これがやはり一番、確実だろう。
精霊の森を拠点にして、そこから徐々に広げていく……と言う訳ではなく、まずは精霊の森周辺の再生を行うつもりだ。
精霊の森が拠点なのは間違いないけどね。
何かあっても、精霊の森なら結界もあるので安全だしね……何かはあって欲しくはないけど。本当、どれだけかかるんだろうね。
でも、こうやって再生できる手段……力は整っている。主にティターニアのお陰ではあるけど、準備は整っているのだ。だから再生は可能……それがどれだけかかろうとも、再生ができると言うのは良い事ではないだろうか。
「あ、そうだ」
「どうかしましたか?」
「ん。ちょっと聞きたい事があって」
「聞きたい事ですか?」
ふと思い出す。
ブラックリリーと見た、南の方にあった謎の塔。天まで届く塔で、上部は煙のような雲に覆われていて見えない。何と言うか、禍々しい塔だなって思ってた。
もしかすると、ティターニアなら知っているかなと思ったのだが。
「ん。……精霊の森から南の方角にずっと行った先に何か禍々しい塔があったけど、ティターニアは知ってるかなって」
「南の方角……空まで伸びている塔ですか?」
「ん。上部の方は雲で見えないけど」
煙のような雲で上部は覆われてる。なので、当然てっぺんは見えない。ただ異様に存在感を放っていたから気になるんだよね。
「……なるほど、見えるのですね」
「え?」
「あ、すみません。恐らくその塔は禁断の塔です」
「禁断の塔……?」
禁断の塔……? 何か名前からして良い物じゃないような気がする。
「良い物ではない……まあ確かにそうかもしれませんね。あの塔については、実は私もそこまで分かっていないのです。この名称も精霊の中で呼んでいるものですしね」
「そうなの?」
「はい。あの塔は地球で言うと南極の部分にあるのですが、塔周辺は著しく魔力が乱れ、天候も不安定な場所です」
南極の部分、か。
あれ、そうなるとラビの国は南極に近い位置にあったと言う事か? いや、それは今どうでも良いか……まあ、空から見てもかなり遠くにあるように見えてた。
ただ気になるのは、そんな塔にラビたちが気付いてないと言う事。いくら遠くても、空からは遠くに見えた訳だし、お城とかの高い建物からも見ようと思えば見える気はするが。
「魔力乱れが激しい上、天候も不安定。魔力嵐もこちらには出てきませんが、塔周辺では何度も繰り返し発生しています。はっきり言って、危険地域と言っても過言ではありません。魔力の薄い場所よりも危険かもしれませんね」
「怖」
「それで、妖精たちが気付かなかった、見覚えがないって言うのはあの塔、どういう訳か妖精には見えないようになっていたようです」
「妖精には見えない……」
「原理は不明です。そもそも、魔力乱れの激しい所に行くのは精霊では少々リスクが高いですからね。魔力の薄い場所よりも危ないかもです」
「そんなに……」
そもそも、魔力嵐とか魔力の乱れって言うのが良く分からないけど。
ただ何となく想像は出来る。魔力嵐についてはラビが話していたからね。地球で言う台風みたいなものって。ただ、地球の台風と違うのは海上で生まれるのではなく、突発的に生まれると言う点。
魔力がある場所なら何処でも発生する可能性はある。海上云々関係なく、地上でも発生するようだし、地球の台風よりも質が悪い。
「ですが、そんな塔が妖精にも見えるようになっていると言うのは少々気になりますね」
「ん」
妖精には見えないようになっていた(らしい)けど、ララとブラックリリーが空で見たのだから、間違いなく妖精も見えるようになっているのが分かる。どうして今になって見えるようになったのか。
「まあ、今の所は特に何もないのでそっとしておくしかありません。下手に塔に向かった所で、何が起きるか分かりませんからね」
「ん。わたしたちの目的はあくまで、妖精世界の再生」
手がかりが全くなかった時は、あの塔に行っていたかもしれないが、精霊王であるティターニアとの出会いによって手がかり所か、再生にかなり近付けた訳だ。
今更、行こうとは思わない。ただこちらに何か害を及ぼすようなものなのであれば、対応するしかないのだが……。
南極の位置にあると言う事だが、そうなると反対側の北極にも同じような塔とかあったりするのだろうか。ここからでは流石に確認はできないけど。
さっきの話で、エステリア王国があった場所、精霊の森のある場所は南極よりだって言うのは分かったし。
「塔については今これ以上考えても意味はありませんね。再生の方、進めて行きましょうか」
「うん」
ティターニアにすら不明な変な塔の事を、地球人であるわたしが考えた所で何が分かる訳でもないし、時間の無駄になる。この時間は、再生の方に充てるべきだろう。
結界なしの試運転……試運転って言うのは変かな?
ともかく、結界なしの再生については上手く行ったと言えば良いだろうか。再生した所から魔力が生み出されて、荒廃した大地の方へも流れて行ったからか、再生してない場所にも花が咲いたのだ。
ティターニアの言っていた事は正解なのかもしれない。結界で魔力を外に出さないようにするよりも、こうやって出した方が連鎖効果? で周りも徐々に元気を取り戻すかもしれない。
流石に再生ではないから、枯れ木すら残っていない木については効果がないかもしれない。でも、これによって活性化が進めば……。
先は長いけど、コツコツやっていくしかないね。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。
タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。
しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。
ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。
激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。
召喚されたら無能力だと追放されたが、俺の力はヘルプ機能とチュートリアルモードだった。世界の全てを事前に予習してイージーモードで活躍します
あけちともあき
ファンタジー
異世界召喚されたコトマエ・マナビ。
異世界パルメディアは、大魔法文明時代。
だが、その時代は崩壊寸前だった。
なのに人類同志は争いをやめず、異世界召喚した特殊能力を持つ人間同士を戦わせて覇を競っている。
マナビは魔力も闘気もゼロということで無能と断じられ、彼を召喚したハーフエルフ巫女のルミイとともに追放される。
追放先は、魔法文明人の娯楽にして公開処刑装置、滅びの塔。
ここで命運尽きるかと思われたが、マナビの能力、ヘルプ機能とチュートリアルシステムが発動する。
世界のすべてを事前に調べ、起こる出来事を予習する。
無理ゲーだって軽々くぐり抜け、デスゲームもヌルゲーに変わる。
化け物だって天変地異だって、事前の予習でサクサククリア。
そして自分を舐めてきた相手を、さんざん煽り倒す。
当座の目的は、ハーフエルフ巫女のルミイを実家に帰すこと。
ディストピアから、ポストアポカリプスへと崩壊していくこの世界で、マナビとルミイのどこか呑気な旅が続く。
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』
ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。
全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。
「私と、パーティを組んでくれませんか?」
これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!
異世界帰りの少年は現実世界で冒険者になる
家高菜
ファンタジー
ある日突然、異世界に勇者として召喚された平凡な中学生の小鳥遊優人。
召喚者は優人を含めた5人の勇者に魔王討伐を依頼してきて、優人たちは魔王討伐を引き受ける。
多くの人々の助けを借り4年の月日を経て魔王討伐を成し遂げた優人たちは、なんとか元の世界に帰還を果たした。
しかし優人が帰還した世界には元々は無かったはずのダンジョンと、ダンジョンを探索するのを生業とする冒険者という職業が存在していた。
何故かダンジョンを探索する冒険者を育成する『冒険者育成学園』に入学することになった優人は、新たな仲間と共に冒険に身を投じるのであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる