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16:危機に瀕したピヨちゃん
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(しかし、なんとしても正妃をここから一旦追い出す必要があるな)
そう考えて、何か良い方法がないかを考えた。何か別のことに気を反らさせたい。
『なら、僕が少し囮になろうか??』
(囮……もし可能ならこの部屋の外で大きな音などを出してもらえるとありがたいのですが……)
『任せて。ティラノたん、ちょっと待っていてね』
そう言って僕の側を立ち去ったらしいヨグ様。姿は見えなかったがどうやら僕の背後にそれこそくっつくか否か程度の距離にいたらしく、移動した際に僅かにその衣服が僕の背中を擦って行った。
つまり、僕は透明全裸の状態で、後、数ミリで触れるような距離感に見えない変態がはぁはぁしながらずっとくっついていた、なんなら間違いなく匂いは嗅がれていただろうという事実に少し正気度を失ったが、
ドン!!
という爆音が響いてきたので、ちゃんと貢献してくれたとしてこの件については不問としよう。しかし、意外にも正妃は動じていない様子だ。
(……あれだけの音がしても平静を保っているなんて……いや、そうか)
この女は、自身が害されないという自負が強い。これについては母上曰く「お姉様は、この世界の神に愛されている前半ストーリーのヒロインなのよ。だからよっぽどのことがない限りは強制力にまもられるから動じないのよね」とのことだった。
意味はわからなかったけれど、あの女は何かに守られているから自分が害されることがないと考えているらしい。
(だとしたら、どうすれば……)
そう考えた時、僕はある案が浮かぶ。うまくいくかは少し賭けだが仕方がない。
僕は近くにあった布を羽織り、こっそり部屋の外にでた。それから、透明化を解いてドアをノックした。
「正妃様、大変でございます」
「なにがあったのですか??」
「不審者がこの塔に侵入いたしました。そのため、一旦安全な場所に避難いただきたく」
そう声をかけるとしばらく沈黙が流れた。
(うまくいかなかったか??疑うような要素はなかったと思うけれど……)
「分かりました」
「では、失礼いたします」
そう言って扉を開いた。正妃はランタンをもったままこちらを見つめている。そしてしばし沈黙する。
「どうかいたしましたか??」
「いえ、見慣れない顔だと思って……」
疑われたかもしれないが、その辺りは適当にごまかせる。
「はい、私は見習いの魔術師でございますゆえ、本来であれば正妃様とお目通しなど敵わぬものなのです」
この塔は、王族の幽閉または魔術師の研究施設となっている。だから、見習いの魔術師が出入りしていることは不思議ではない。そして、布しか羽織れるものがなかったので、騎士という言い訳はできない。
しばらくマジマジとこちらを見ているその瞳の奧に映る感情に背筋が何故かゾワリとした。
「貴方、名前はなんというの??」
「ルークと申します」
咄嗟に偽名を名乗る。ちなみに特に意味はないが個人的に好きな名前を名乗っておいた。
「ルーク。良い名前ね。それにとても美しい顔をしているわ」
その言葉に血の気が引いていく。あからさまに正妃が女性の顔で僕を見ている。
(あの噂は本当だったのか……)
王妃様は番である国王陛下だけを愛されている。けれど何故か見目麗しい男達を召し抱えては要職に就かせているという。
「ありがとうございます」
「ふふふ。いいわね。貴方は若い頃の国王陛下に似ているわ。でももっと儚げで繊細でもあるわね……ふふふ。私の側に仕えれば最高の栄誉が約束されるわ、どうかしら」
そう言って、正妃の長い爪の指先が僕の顎に触れた。全身に鳥肌が立つ。
(気持ち悪い)
人に触られるのが耐えられないのに、自身がこの世で最も憎んでいる女に触られて気分が良い訳がない。正妃が僕を見つめてきたのでその瞳を睨んで、「忘れろ」と記憶操作の魔法をかけた。
「記憶操作」の魔法は相手の目を見る必要がある。ただし、それさえ出来れば短時間その動きを止められる。そして、僕は正妃に命じた。
「僕とここで会ったことは忘れる。別の用事を思い出して、お前は自身の部屋に帰る」
そう魔法をかければ、正妃はふらふらとまるで操られているようにその場を去っていった。
(くそ、気持ち悪い。早く終わらせて洗いたい)
『そうだね、ティラノたん、お清めが必要だ。可哀そうに、いますぐ僕が舐めてあげようか??』
いつの間にか戻ってきたらしい変態から、さらなる自体の悪化の提案を受けたので一旦無視して、そのまま無言で部屋に戻る。
そして、置かれている木箱のひとつをどかして、隠されていた壁のひとつだけ外れるレンガを抜いて、中から日記帳を取り出した。
(これでミッション完了です。さっさと帰りますよ)
『ええ、まだ消毒していないのに??ねぇどうせならこの他人の家でちょっとエッチでスリリングなことをしない』
変態からの言葉を無視して、ナイアさんをとっとと呼んでその場を去ろう、そう思ったとき、僕は自身の状態を忘れていたことに気付くことになる。
「お前は誰だ!!なにをしている!!」
そう考えて、何か良い方法がないかを考えた。何か別のことに気を反らさせたい。
『なら、僕が少し囮になろうか??』
(囮……もし可能ならこの部屋の外で大きな音などを出してもらえるとありがたいのですが……)
『任せて。ティラノたん、ちょっと待っていてね』
そう言って僕の側を立ち去ったらしいヨグ様。姿は見えなかったがどうやら僕の背後にそれこそくっつくか否か程度の距離にいたらしく、移動した際に僅かにその衣服が僕の背中を擦って行った。
つまり、僕は透明全裸の状態で、後、数ミリで触れるような距離感に見えない変態がはぁはぁしながらずっとくっついていた、なんなら間違いなく匂いは嗅がれていただろうという事実に少し正気度を失ったが、
ドン!!
という爆音が響いてきたので、ちゃんと貢献してくれたとしてこの件については不問としよう。しかし、意外にも正妃は動じていない様子だ。
(……あれだけの音がしても平静を保っているなんて……いや、そうか)
この女は、自身が害されないという自負が強い。これについては母上曰く「お姉様は、この世界の神に愛されている前半ストーリーのヒロインなのよ。だからよっぽどのことがない限りは強制力にまもられるから動じないのよね」とのことだった。
意味はわからなかったけれど、あの女は何かに守られているから自分が害されることがないと考えているらしい。
(だとしたら、どうすれば……)
そう考えた時、僕はある案が浮かぶ。うまくいくかは少し賭けだが仕方がない。
僕は近くにあった布を羽織り、こっそり部屋の外にでた。それから、透明化を解いてドアをノックした。
「正妃様、大変でございます」
「なにがあったのですか??」
「不審者がこの塔に侵入いたしました。そのため、一旦安全な場所に避難いただきたく」
そう声をかけるとしばらく沈黙が流れた。
(うまくいかなかったか??疑うような要素はなかったと思うけれど……)
「分かりました」
「では、失礼いたします」
そう言って扉を開いた。正妃はランタンをもったままこちらを見つめている。そしてしばし沈黙する。
「どうかいたしましたか??」
「いえ、見慣れない顔だと思って……」
疑われたかもしれないが、その辺りは適当にごまかせる。
「はい、私は見習いの魔術師でございますゆえ、本来であれば正妃様とお目通しなど敵わぬものなのです」
この塔は、王族の幽閉または魔術師の研究施設となっている。だから、見習いの魔術師が出入りしていることは不思議ではない。そして、布しか羽織れるものがなかったので、騎士という言い訳はできない。
しばらくマジマジとこちらを見ているその瞳の奧に映る感情に背筋が何故かゾワリとした。
「貴方、名前はなんというの??」
「ルークと申します」
咄嗟に偽名を名乗る。ちなみに特に意味はないが個人的に好きな名前を名乗っておいた。
「ルーク。良い名前ね。それにとても美しい顔をしているわ」
その言葉に血の気が引いていく。あからさまに正妃が女性の顔で僕を見ている。
(あの噂は本当だったのか……)
王妃様は番である国王陛下だけを愛されている。けれど何故か見目麗しい男達を召し抱えては要職に就かせているという。
「ありがとうございます」
「ふふふ。いいわね。貴方は若い頃の国王陛下に似ているわ。でももっと儚げで繊細でもあるわね……ふふふ。私の側に仕えれば最高の栄誉が約束されるわ、どうかしら」
そう言って、正妃の長い爪の指先が僕の顎に触れた。全身に鳥肌が立つ。
(気持ち悪い)
人に触られるのが耐えられないのに、自身がこの世で最も憎んでいる女に触られて気分が良い訳がない。正妃が僕を見つめてきたのでその瞳を睨んで、「忘れろ」と記憶操作の魔法をかけた。
「記憶操作」の魔法は相手の目を見る必要がある。ただし、それさえ出来れば短時間その動きを止められる。そして、僕は正妃に命じた。
「僕とここで会ったことは忘れる。別の用事を思い出して、お前は自身の部屋に帰る」
そう魔法をかければ、正妃はふらふらとまるで操られているようにその場を去っていった。
(くそ、気持ち悪い。早く終わらせて洗いたい)
『そうだね、ティラノたん、お清めが必要だ。可哀そうに、いますぐ僕が舐めてあげようか??』
いつの間にか戻ってきたらしい変態から、さらなる自体の悪化の提案を受けたので一旦無視して、そのまま無言で部屋に戻る。
そして、置かれている木箱のひとつをどかして、隠されていた壁のひとつだけ外れるレンガを抜いて、中から日記帳を取り出した。
(これでミッション完了です。さっさと帰りますよ)
『ええ、まだ消毒していないのに??ねぇどうせならこの他人の家でちょっとエッチでスリリングなことをしない』
変態からの言葉を無視して、ナイアさんをとっとと呼んでその場を去ろう、そう思ったとき、僕は自身の状態を忘れていたことに気付くことになる。
「お前は誰だ!!なにをしている!!」
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