4 / 17
04.勇者は心を失う
しおりを挟む
ゼファーが馬車の扉を開いて、ゼファーは僕を振り返りもせずに外に降りた。
拘束されているので自力で降りられないのだが、開いた先に立っているゼファーの表情はまるで汚物でも見るようないつも以上に蔑んだものだったが、すぐにその手下に乱暴に外に下ろされた。
その場所に僕はまったく見覚えがなかった。
性格には、この異世界に来てからほぼ聖都から出たことがないのでそもそも見覚えのある場所の方が少ないが、そこがあまり良い場所でないことはすぐに分かった。
鬱蒼とした森はその中が昼なお暗いだろうことが分かるようなそんな陰鬱さをはらんでいた。けれど、頬を撫でるように吹いている風はどこか懐かしい涼しいものだった。
(そうだ、もし僕が元の世界にいればきっと今頃は秋だったかもしれない……)
秋の帰り道にフッと感じたようなあの澄んだ香りのする風だ。けれど、そこまで考えた瞬間、凪のように動かなかった感情が震えるのが分かった。
ー帰りたい。家に帰りたい。
涙がほほを伝うが表情が変わらない。
「さぁ、さっさと勇者様を魔王様の元に届けましょう」
愉悦に満ちた声色でそう言ったゼファーに対してもはや怒りの感情も何も湧かなかった。
二度と元の世界に戻れないならもうどうでもよかった。抵抗してもまた恐ろしい思いをするのならいっそのことこの先にいるだろう魔王様に殺してもらう方がよほど幸福だとすら思える。
予想通り鬱蒼とした森の中を進んだ。
裸足の足に何かが刺さったような気がしたが、痛みをわずかに感じるだけで心のようにどうやら痛覚も鈍くなってしまったようだった。
そこからしばらく歩くと、目の前に墓石のような石板があることに気づいた。その石板に何か言葉が書かれているようだったがこの国の言葉が読めない僕は何もわからなかった。
そんな僕の背を誰かが押した。特に抵抗するつもりもなかった体はそのまま石板の上に倒れこんだ。
「ここは魔王城へ入るための隠れワープスポットなんです。古の勇者が発見したものだそうです」
ゼファーの言葉の意味がすぐには分からなかったが、すぐに自身の周りが薄緑色の光に覆われていくのが分かった。
そして、自身がそのまま無装備で拘束されたまま魔王城に送り込まれるという事実を把握したが、もうどうでもよかった。
「勇者様、では、いってらっしゃい、そして……」
ー永遠にさようなら。
とてもうれしそうなゼファーの笑い声と共に自身の体の感覚が完全に消えていくのがわかった。そして、短い時間ののちに真っ暗な得体のしれない場所に自身が転移したのが分かった。
「……ここが魔王城か??」
無意識につぶやいた言葉だった、当然返事など求めていない。しかし……、
「そうだよ。……どうして人間がいるの??」
拘束されているので自力で降りられないのだが、開いた先に立っているゼファーの表情はまるで汚物でも見るようないつも以上に蔑んだものだったが、すぐにその手下に乱暴に外に下ろされた。
その場所に僕はまったく見覚えがなかった。
性格には、この異世界に来てからほぼ聖都から出たことがないのでそもそも見覚えのある場所の方が少ないが、そこがあまり良い場所でないことはすぐに分かった。
鬱蒼とした森はその中が昼なお暗いだろうことが分かるようなそんな陰鬱さをはらんでいた。けれど、頬を撫でるように吹いている風はどこか懐かしい涼しいものだった。
(そうだ、もし僕が元の世界にいればきっと今頃は秋だったかもしれない……)
秋の帰り道にフッと感じたようなあの澄んだ香りのする風だ。けれど、そこまで考えた瞬間、凪のように動かなかった感情が震えるのが分かった。
ー帰りたい。家に帰りたい。
涙がほほを伝うが表情が変わらない。
「さぁ、さっさと勇者様を魔王様の元に届けましょう」
愉悦に満ちた声色でそう言ったゼファーに対してもはや怒りの感情も何も湧かなかった。
二度と元の世界に戻れないならもうどうでもよかった。抵抗してもまた恐ろしい思いをするのならいっそのことこの先にいるだろう魔王様に殺してもらう方がよほど幸福だとすら思える。
予想通り鬱蒼とした森の中を進んだ。
裸足の足に何かが刺さったような気がしたが、痛みをわずかに感じるだけで心のようにどうやら痛覚も鈍くなってしまったようだった。
そこからしばらく歩くと、目の前に墓石のような石板があることに気づいた。その石板に何か言葉が書かれているようだったがこの国の言葉が読めない僕は何もわからなかった。
そんな僕の背を誰かが押した。特に抵抗するつもりもなかった体はそのまま石板の上に倒れこんだ。
「ここは魔王城へ入るための隠れワープスポットなんです。古の勇者が発見したものだそうです」
ゼファーの言葉の意味がすぐには分からなかったが、すぐに自身の周りが薄緑色の光に覆われていくのが分かった。
そして、自身がそのまま無装備で拘束されたまま魔王城に送り込まれるという事実を把握したが、もうどうでもよかった。
「勇者様、では、いってらっしゃい、そして……」
ー永遠にさようなら。
とてもうれしそうなゼファーの笑い声と共に自身の体の感覚が完全に消えていくのがわかった。そして、短い時間ののちに真っ暗な得体のしれない場所に自身が転移したのが分かった。
「……ここが魔王城か??」
無意識につぶやいた言葉だった、当然返事など求めていない。しかし……、
「そうだよ。……どうして人間がいるの??」
9
あなたにおすすめの小説
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう
水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」
辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。
ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。
「お前のその特異な力を、帝国のために使え」
強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。
しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。
運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。
偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!
悪役令嬢の兄でしたが、追放後は参謀として騎士たちに囲まれています。- 第1巻 - 婚約破棄と一族追放
大の字だい
BL
王国にその名を轟かせる名門・ブラックウッド公爵家。
嫡男レイモンドは比類なき才知と冷徹な眼差しを持つ若き天才であった。
だが妹リディアナが王太子の許嫁でありながら、王太子が心奪われたのは庶民の少女リーシャ・グレイヴェル。
嫉妬と憎悪が社交界を揺るがす愚行へと繋がり、王宮での婚約破棄、王の御前での一族追放へと至る。
混乱の只中、妹を庇おうとするレイモンドの前に立ちはだかったのは、王国騎士団副団長にしてリーシャの異母兄、ヴィンセント・グレイヴェル。
琥珀の瞳に嗜虐を宿した彼は言う――
「この才を捨てるは惜しい。ゆえに、我が手で飼い馴らそう」
知略と支配欲を秘めた騎士と、没落した宰相家の天才青年。
耽美と背徳の物語が、冷たい鎖と熱い口づけの中で幕を開ける。
弟勇者と保護した魔王に狙われているので家出します。
あじ/Jio
BL
父親に殴られた時、俺は前世を思い出した。
だが、前世を思い出したところで、俺が腹違いの弟を嫌うことに変わりはない。
よくある漫画や小説のように、断罪されるのを回避するために、弟と仲良くする気は毛頭なかった。
弟は600年の眠りから醒めた魔王を退治する英雄だ。
そして俺は、そんな弟に嫉妬して何かと邪魔をしようとするモブ悪役。
どうせ互いに相容れない存在だと、大嫌いな弟から離れて辺境の地で過ごしていた幼少期。
俺は眠りから醒めたばかりの魔王を見つけた。
そして時が過ぎた今、なぜか弟と魔王に執着されてケツ穴を狙われている。
◎1話完結型になります
獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果
ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。
そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。
2023/04/06 後日談追加
【完結】国に売られた僕は変態皇帝に育てられ寵妃になった
cyan
BL
陛下が町娘に手を出して生まれたのが僕。後宮で虐げられて生活していた僕は、とうとう他国に売られることになった。
一途なシオンと、皇帝のお話。
※どんどん変態度が増すので苦手な方はお気を付けください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる