最強の魔王様は最弱勇者だけは殺せない〜前世の可愛い甥っ子がヤンデレ魔王になってしまいました

ひよこ麺

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04.勇者は心を失う

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ゼファーが馬車の扉を開いて、ゼファーは僕を振り返りもせずに外に降りた。

拘束されているので自力で降りられないのだが、開いた先に立っているゼファーの表情はまるで汚物でも見るようないつも以上に蔑んだものだったが、すぐにその手下に乱暴に外に下ろされた。

その場所に僕はまったく見覚えがなかった。

性格には、この異世界に来てからほぼ聖都から出たことがないのでそもそも見覚えのある場所の方が少ないが、そこがあまり良い場所でないことはすぐに分かった。

鬱蒼とした森はその中が昼なお暗いだろうことが分かるようなそんな陰鬱さをはらんでいた。けれど、頬を撫でるように吹いている風はどこか懐かしい涼しいものだった。

(そうだ、もし僕が元の世界にいればきっと今頃は秋だったかもしれない……)

秋の帰り道にフッと感じたようなあの澄んだ香りのする風だ。けれど、そこまで考えた瞬間、凪のように動かなかった感情が震えるのが分かった。

ー帰りたい。家に帰りたい。

涙がほほを伝うが表情が変わらない。

「さぁ、さっさと勇者様を魔王様の元に届けましょう」

愉悦に満ちた声色でそう言ったゼファーに対してもはや怒りの感情も何も湧かなかった。

二度と元の世界に戻れないならもうどうでもよかった。抵抗してもまた恐ろしい思いをするのならいっそのことこの先にいるだろう魔王様に殺してもらう方がよほど幸福だとすら思える。

予想通り鬱蒼とした森の中を進んだ。

裸足の足に何かが刺さったような気がしたが、痛みをわずかに感じるだけで心のようにどうやら痛覚も鈍くなってしまったようだった。

そこからしばらく歩くと、目の前に墓石のような石板があることに気づいた。その石板に何か言葉が書かれているようだったがこの国の言葉が読めない僕は何もわからなかった。

そんな僕の背を誰かが押した。特に抵抗するつもりもなかった体はそのまま石板の上に倒れこんだ。

「ここは魔王城へ入るための隠れワープスポットなんです。古の勇者が発見したものだそうです」

ゼファーの言葉の意味がすぐには分からなかったが、すぐに自身の周りが薄緑色の光に覆われていくのが分かった。
そして、自身がそのまま無装備で拘束されたまま魔王城に送り込まれるという事実を把握したが、もうどうでもよかった。

「勇者様、では、いってらっしゃい、そして……」


ー永遠にさようなら。

とてもうれしそうなゼファーの笑い声と共に自身の体の感覚が完全に消えていくのがわかった。そして、短い時間ののちに真っ暗な得体のしれない場所に自身が転移したのが分かった。

「……ここが魔王城か??」

無意識につぶやいた言葉だった、当然返事など求めていない。しかし……、

「そうだよ。……どうして人間がいるの??」
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