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第五章:真実の断片と
109.海の国の王子と王太子と不幸令嬢03
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そして、クレメントは決めた。とりあえず自身で方が付くものは一旦片してしまおうと。
「そう騒いでも何も変わらない。そして、魂が見えているから問う。クリストファーを今支配しているお前は誰だ??」
問いかけてその瞳を静かに見つめる。すると先ほどまで騒いでいたクリストファーが大人しくなる。そして、静かに口を開いた。
「……俺がクリストファーでないと見抜くとは……やはり」
「何が言いたい??」
「お前から、かすかに兄上の気配を感じる。全てではないが、俺のもっとも大切な人の気配がする」
そう言ってクレメントを見つめている、その眼差しはクリストファーではないことがクレメントにはすぐにわかった。なぜならクリストファーであればこのような憧憬を含むような瞳で彼を見ることがないからだ。
むしろ、なんとも言い難い表情で彼はいつもクレメントを見る。それについて一番近いのは多分無関心だ。だから今彼に向けているそれが奇妙でならない。
「兄上は、家族の中で浮いていた。けれど兄上は俺に優しかった。そして兄上だけが俺を真剣に叱ってくれた。だから、俺は兄上が好きだった。兄上が微笑んで俺の側にいてくれたらよかった。それなのに、兄上はよりにもよって俺の婚約者と懇意になった。婚約者のことは嫌っていないけれど、兄上を奪うなら別だ。兄上は……」
支離滅裂なことを言っているようだが、この話にクレメントは聞き覚えがあった。
(これは、アトラス王国に伝わる我々の先祖である神、スサ様の話に似ている)
かの神は気性が荒いことで有名で、自身の婚約者を奪った兄神とその婚約者が許せず、妊娠していた元婚約者を殺した。とされている。
「……もしかして貴方は我々の先祖にあたる神……」
「そうだ。俺はスサだ。お前は俺の子孫なのになぜ兄上の気配がする、お前は……」
そう血走る目でクレメントを捉えたがしばらくして、まるでとても穏やかな表情に変わる。
「ああ、そうか。お前は、俺の子孫で兄上の魂の一部を持っているのか。そうか。ははは、そうか。ならお前に危害は加える訳にはいかないな。お前は、俺の望んだものだから……。本当は俺はずっと兄上を愛していた。婚約者も愛していた。ふたりとも愛していた。それなのにふたりに裏切られたと思って、許せなかった。そしてそれが原因で兄上と決別することになったこともより俺を絶望させた。けれど……お前がいるということは兄上は俺を許してくれたのか、あるいは偶然でも許されたのかもしれない」
そう言ってクリストファー、いやスサは泣きはじめた。
「許したかはしらない。ただ、ここに私はいる」
「そうか、そうか。ああ、すまない。またしても苦しめてしまったのか、けれど安心してほしい。俺はもう去ろう。そうしてお前たちを今度こそ見守るものになろう」
「そう騒いでも何も変わらない。そして、魂が見えているから問う。クリストファーを今支配しているお前は誰だ??」
問いかけてその瞳を静かに見つめる。すると先ほどまで騒いでいたクリストファーが大人しくなる。そして、静かに口を開いた。
「……俺がクリストファーでないと見抜くとは……やはり」
「何が言いたい??」
「お前から、かすかに兄上の気配を感じる。全てではないが、俺のもっとも大切な人の気配がする」
そう言ってクレメントを見つめている、その眼差しはクリストファーではないことがクレメントにはすぐにわかった。なぜならクリストファーであればこのような憧憬を含むような瞳で彼を見ることがないからだ。
むしろ、なんとも言い難い表情で彼はいつもクレメントを見る。それについて一番近いのは多分無関心だ。だから今彼に向けているそれが奇妙でならない。
「兄上は、家族の中で浮いていた。けれど兄上は俺に優しかった。そして兄上だけが俺を真剣に叱ってくれた。だから、俺は兄上が好きだった。兄上が微笑んで俺の側にいてくれたらよかった。それなのに、兄上はよりにもよって俺の婚約者と懇意になった。婚約者のことは嫌っていないけれど、兄上を奪うなら別だ。兄上は……」
支離滅裂なことを言っているようだが、この話にクレメントは聞き覚えがあった。
(これは、アトラス王国に伝わる我々の先祖である神、スサ様の話に似ている)
かの神は気性が荒いことで有名で、自身の婚約者を奪った兄神とその婚約者が許せず、妊娠していた元婚約者を殺した。とされている。
「……もしかして貴方は我々の先祖にあたる神……」
「そうだ。俺はスサだ。お前は俺の子孫なのになぜ兄上の気配がする、お前は……」
そう血走る目でクレメントを捉えたがしばらくして、まるでとても穏やかな表情に変わる。
「ああ、そうか。お前は、俺の子孫で兄上の魂の一部を持っているのか。そうか。ははは、そうか。ならお前に危害は加える訳にはいかないな。お前は、俺の望んだものだから……。本当は俺はずっと兄上を愛していた。婚約者も愛していた。ふたりとも愛していた。それなのにふたりに裏切られたと思って、許せなかった。そしてそれが原因で兄上と決別することになったこともより俺を絶望させた。けれど……お前がいるということは兄上は俺を許してくれたのか、あるいは偶然でも許されたのかもしれない」
そう言ってクリストファー、いやスサは泣きはじめた。
「許したかはしらない。ただ、ここに私はいる」
「そうか、そうか。ああ、すまない。またしても苦しめてしまったのか、けれど安心してほしい。俺はもう去ろう。そうしてお前たちを今度こそ見守るものになろう」
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