婚約破棄が確定している悪役で聖女の私は国外追放されて自由になるはずだった。

ひよこ麺

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01.プロローグ

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「ベラトリクス、お前は邪悪な魔女だと分かった。この婚約は破棄する」

待ち望んだ言葉だった。これでやっと私は自由になれるのだ。
そう思うと頬を涙が伝う。その涙の雫だけがあたたかくこの冷たい世界で唯一私をあたためてくれるもの。

「お受けいたします。ソレイユ殿下」

短く必要な言葉だけを紡いだ唇。その言葉をこの世の憎しみを凝り固めたような表情で見つめる元婚約者の第二王子。思えば一度だって心を交わすことはなかった人。

歩み寄れば変わったのかと聞かれるととても難しい。ベラトリクスこと私はあまりにも周りに救いのない少女だから。

「そして、我々をたばかった罪は重い。お前をオリオン公爵家から除籍し、このまま国外追放とする」

その言葉を聞いて後ろに控えていた護衛騎士、見慣れた冷血漢が私の腕を引いた。この男はウィリアム・ヴァン・オリオン。血のつながらない私の義兄あに

そして、オリオン公爵家の嫡男で現在は近衛騎士として宮廷につかえている。
その冷えた氷のような瞳で何度私をないもののように扱ってきたのだろうか。複雑な家庭環境とはいえ彼がベラトリクスを妹として気遣ったことは一度もない。

そして、今や元公爵令嬢の私にとってこの人は義兄あにですらない。

(願ったり叶ったりでしょうけど……)

私はウィリアムに連れられて、馬車に乗せられた。

公爵家の印のついた馬車、ではなく何の印もない簡素な馬車。これから私は国外へ平民として追放される。

けれどそこにあるのは絶望ではない、希望。

(やっと自由になれるのね……)

そう思った瞬間、自然と微笑んでいた。

「……そんなに追放されるのが嬉しいのか?」

目の前でまるで彫像のように整った顔を歪めてウィリアムが言った。
黒い髪に蒼い瞳の美貌の男。けれどベラトリクスにとっては憎いだけの男。

「そうですね、。私は嬉しいです」

オリオン公爵家にはふたつの爵位がある。公爵と伯爵。ウィリアムはまだ公爵を継いでいないのでその場合は便宜上、もうひとつの位の低い方で呼ぶのが一般的だ。

先ほどまでは一応兄と妹ではあった。しかし今は公爵家の嫡男と平民。私は弁えて言葉を口にする。
やっとここまで来たのに殺されたりしたら水の泡だから。

しかし、なぜかその氷のように冷たい蒼い瞳が怒りの色をたたえているのが分かった。敬意を払ったのに不思議なことだ。

だから意趣返しとばかりに私は言葉をつづけた。

「やっと私は自由になれますから」

しかし、私はその言葉を告げるべきではなかったと後で思い知ることになるがこの時は何もわからなかった。

ただ、馬車は夕暮れの中をひた走る。もうほとんど暗くなっている空がまるでこの先を暗示しているようなとても嫌な色をしていた。
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