5 / 21
05.婚約を破棄するために……(視点:ソレイユ)
しおりを挟む
その日、愚かな令嬢の不注意で僕はひとりの令嬢に怪我を負わせてしまった。
彼女の名は知っている。ベラトリクス・ヴァルナ・オリオン公爵令嬢。そして、僕が絶対に婚約しないだろうと考えていた人物でもあった。
彼女のことは幼馴染みで僕の近衛のウィルから聞いていた。曰く不作法で野蛮で成り上がりで性格の悪い平民の娘であると。
僕は清楚で洗練された女性を好む。せめて素直であれば洗練されていなくっても磨けが良いと思うが彼女は他人の話を全く聞かない女だという。
家族である兄からそう判断されるのだ。まったくもって僕の好みの女性ではない。だからあの事故のせいで彼女と婚約することになった時、僕は絶望した。
その絶望に同調するようにウィルは僕を心配してこういった。
「そのうち聖女が現れたならそちらと婚約を結びなおせばいい。王族と聖女の婚姻は絶対だから、たとえ傷物にしたにしても婚約を継続する必要がなくなるはずだ」
「聖女」この国に危機が訪れた時に現れるおとぎ話のような存在。しかしそんなものが本当に現れるのだろうか。
そう疑問を告げればウィルはあまり人に見せない笑みを浮かべた。その笑みは綺麗で思わず息をのむような魅力があるが、それと同時に心臓を冷やされたような寒さもある。
「捏造すればいい」
そう、そうだ。僕にも好きな女性が出来たら、彼女を聖女とすればいいのだ。ウィルの言葉に僕は思わず笑みが浮かんだ。
それから3年の月日が流れ、僕らは学園に通うようになった。
そこで運命的な出会いをした。子爵令嬢のサラサ・ラナ・スピカ。可憐で美しく清楚で素直な彼女に僕はひとめぼれをしたのだ。
そこでウィルの言葉を思い出し、彼女を「聖女」に捏造することにした。
「聖女」について詳しいことはわかっていない。だからこそ何とでも捏造できるはずだった……ここでまたあの女、ベラトリクスが絡むことになるなんて。
サラサより先にベラトリクスに「聖女」の兆候が表れたのだ。それは美しい赤い蝶のような痣が出来てから彼女は多くのものを癒す力を身に着けたのだ。
これはまずいと、サラサにも花の痣が現れたということで入れ墨をして、彼女が「聖女」としてふるまえるように信頼している友人、ネージュ、クリストファー、そしてウィルに協力してもらうことにした。
(どうせベラトリクスが聖女のはずがない、だから……あの痣も力もトリックがあるはずだ)
そうして、同時に思いついたのだ。サラサが「聖女」なら、その対となる「魔女」がいるはずだと。だから僕らはサラサのためにベラトリックスを「魔女」に仕立て上げたのだった。
まず、サラサをいじめていると全くありえない罪を証拠を捏造し作り上げた。(ベラトリクスはあまり学校にいないためそもそもほとんど不可能だった)そうしてそれは元々ベラトリクスをよく思わない学園の生徒に知れ渡り彼女はより孤立していった。
「魔女」とわかれば簡単にベラトリクスを婚約破棄できる。その作戦が功を奏しついに運命の日がやってきた。
「ベラトリクス、お前は邪悪な魔女だと分かった。この婚約は破棄する」
そう告げる。泣いて騒ぐかと思ったベラトリックスはただ静かに涙を流しながら、
「お受けいたします。ソレイユ殿下」
と短く答えた。その姿は凛として美しかった。美しい、僕は自身の感想に驚いた。婚約者ではあったが、周りの噂からほとんど交流はなかった。最低限の贈り物もすべて使用人に頼んでいたし、幼いあの日以降は学園でも疎遠だった。彼女が公の場に姿を見せないのもあってエスコートもダンスもしたことがない。
そこまで来て、妙な胸騒ぎを覚えた。
僕は何故知らない女性である彼女をここまで憎悪したのだろうか。しかし、何を考えてももう後の祭りだ。計画通りに動く必要がある。続けて「魔女」への処遇を言い渡した。
「そして、我々をたばかった罪は重い。お前をオリオン公爵家から除籍し、このまま国外追放とする」
動揺を悟られないようにそう宣言すれば後ろに控えていたウィルが彼女を連行していく。その光景に僕は思わず目を見開く。
炎のような美しい髪は光を弾いてまるで夕焼けのようだった。それは神々しい後ろ姿。
僕はその姿を眺めながら過ちを犯したことに気づいていた。実際見た彼女は不作法で野蛮で成り上がりで性格の悪い平民の娘では少なくともない。
むしろ凛として芯のある娘なのだろう。そして自身の恐ろしい運命にも立ち向かおうとするその姿は苦難を前に立ち向かう「聖女」のそれである。しかしもう発言を取り消したりはできない。僕は真の「聖女」を追い出したろくでなしにそう遠くない未来なってしまうだろう。
そんなこととはつゆ知らず、僕を不安そうに見つめる「偽聖女」の恋人サラサに虚勢をはるように笑みを浮かべた。
彼女の名は知っている。ベラトリクス・ヴァルナ・オリオン公爵令嬢。そして、僕が絶対に婚約しないだろうと考えていた人物でもあった。
彼女のことは幼馴染みで僕の近衛のウィルから聞いていた。曰く不作法で野蛮で成り上がりで性格の悪い平民の娘であると。
僕は清楚で洗練された女性を好む。せめて素直であれば洗練されていなくっても磨けが良いと思うが彼女は他人の話を全く聞かない女だという。
家族である兄からそう判断されるのだ。まったくもって僕の好みの女性ではない。だからあの事故のせいで彼女と婚約することになった時、僕は絶望した。
その絶望に同調するようにウィルは僕を心配してこういった。
「そのうち聖女が現れたならそちらと婚約を結びなおせばいい。王族と聖女の婚姻は絶対だから、たとえ傷物にしたにしても婚約を継続する必要がなくなるはずだ」
「聖女」この国に危機が訪れた時に現れるおとぎ話のような存在。しかしそんなものが本当に現れるのだろうか。
そう疑問を告げればウィルはあまり人に見せない笑みを浮かべた。その笑みは綺麗で思わず息をのむような魅力があるが、それと同時に心臓を冷やされたような寒さもある。
「捏造すればいい」
そう、そうだ。僕にも好きな女性が出来たら、彼女を聖女とすればいいのだ。ウィルの言葉に僕は思わず笑みが浮かんだ。
それから3年の月日が流れ、僕らは学園に通うようになった。
そこで運命的な出会いをした。子爵令嬢のサラサ・ラナ・スピカ。可憐で美しく清楚で素直な彼女に僕はひとめぼれをしたのだ。
そこでウィルの言葉を思い出し、彼女を「聖女」に捏造することにした。
「聖女」について詳しいことはわかっていない。だからこそ何とでも捏造できるはずだった……ここでまたあの女、ベラトリクスが絡むことになるなんて。
サラサより先にベラトリクスに「聖女」の兆候が表れたのだ。それは美しい赤い蝶のような痣が出来てから彼女は多くのものを癒す力を身に着けたのだ。
これはまずいと、サラサにも花の痣が現れたということで入れ墨をして、彼女が「聖女」としてふるまえるように信頼している友人、ネージュ、クリストファー、そしてウィルに協力してもらうことにした。
(どうせベラトリクスが聖女のはずがない、だから……あの痣も力もトリックがあるはずだ)
そうして、同時に思いついたのだ。サラサが「聖女」なら、その対となる「魔女」がいるはずだと。だから僕らはサラサのためにベラトリックスを「魔女」に仕立て上げたのだった。
まず、サラサをいじめていると全くありえない罪を証拠を捏造し作り上げた。(ベラトリクスはあまり学校にいないためそもそもほとんど不可能だった)そうしてそれは元々ベラトリクスをよく思わない学園の生徒に知れ渡り彼女はより孤立していった。
「魔女」とわかれば簡単にベラトリクスを婚約破棄できる。その作戦が功を奏しついに運命の日がやってきた。
「ベラトリクス、お前は邪悪な魔女だと分かった。この婚約は破棄する」
そう告げる。泣いて騒ぐかと思ったベラトリックスはただ静かに涙を流しながら、
「お受けいたします。ソレイユ殿下」
と短く答えた。その姿は凛として美しかった。美しい、僕は自身の感想に驚いた。婚約者ではあったが、周りの噂からほとんど交流はなかった。最低限の贈り物もすべて使用人に頼んでいたし、幼いあの日以降は学園でも疎遠だった。彼女が公の場に姿を見せないのもあってエスコートもダンスもしたことがない。
そこまで来て、妙な胸騒ぎを覚えた。
僕は何故知らない女性である彼女をここまで憎悪したのだろうか。しかし、何を考えてももう後の祭りだ。計画通りに動く必要がある。続けて「魔女」への処遇を言い渡した。
「そして、我々をたばかった罪は重い。お前をオリオン公爵家から除籍し、このまま国外追放とする」
動揺を悟られないようにそう宣言すれば後ろに控えていたウィルが彼女を連行していく。その光景に僕は思わず目を見開く。
炎のような美しい髪は光を弾いてまるで夕焼けのようだった。それは神々しい後ろ姿。
僕はその姿を眺めながら過ちを犯したことに気づいていた。実際見た彼女は不作法で野蛮で成り上がりで性格の悪い平民の娘では少なくともない。
むしろ凛として芯のある娘なのだろう。そして自身の恐ろしい運命にも立ち向かおうとするその姿は苦難を前に立ち向かう「聖女」のそれである。しかしもう発言を取り消したりはできない。僕は真の「聖女」を追い出したろくでなしにそう遠くない未来なってしまうだろう。
そんなこととはつゆ知らず、僕を不安そうに見つめる「偽聖女」の恋人サラサに虚勢をはるように笑みを浮かべた。
12
あなたにおすすめの小説
「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます
七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。
「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」
そう言われて、ミュゼは城を追い出された。
しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。
そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……
「お前を愛することはない」と言われたお飾りの妻ですが、何か?
あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することはない!」「そんな事を言うために女性の寝室に押し入ったのですか? もう寝るつもりで化粧を落として髪をほどいて寝着に着替えてるのに! 最っ低!」
仕事大好き女が「お飾りの妻最高!」と恋愛感情無しで結婚したらこうなるよね、というお話。
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
ゴースト聖女は今日までです〜お父様お義母さま、そして偽聖女の妹様、さようなら。私は魔神の妻になります〜
嘉神かろ
恋愛
魔神を封じる一族の娘として幸せに暮していたアリシアの生活は、母が死に、継母が妹を産んだことで一変する。
妹は聖女と呼ばれ、もてはやされる一方で、アリシアは周囲に気付かれないよう、妹の影となって魔神の眷属を屠りつづける。
これから先も続くと思われたこの、妹に功績を譲る生活は、魔神の封印を補強する封魔の神儀をきっかけに思いもよらなかった方へ動き出す。
殿下、私の身体だけが目当てなんですね!
石河 翠
恋愛
「片付け」の加護を持つ聖女アンネマリーは、出来損ないの聖女として蔑まれつつ、毎日楽しく過ごしている。「治癒」「結界」「武運」など、利益の大きい加護持ちの聖女たちに辛く当たられたところで、一切気にしていない。
それどころか彼女は毎日嬉々として、王太子にファンサを求める始末。王太子にポンコツ扱いされても、王太子と会話を交わせるだけでアンネマリーは満足なのだ。そんなある日、お城でアンネマリー以外の聖女たちが決闘騒ぎを引き起こして……。
ちゃらんぽらんで何も考えていないように見えて、実は意外と真面目なヒロインと、おバカな言動と行動に頭を痛めているはずなのに、どうしてもヒロインから目を離すことができないヒーローの恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は他サイトにも投稿しております。
表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID29505542)をお借りしております。
だから聖女はいなくなった
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」
レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。
彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。
だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。
キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。
※7万字程度の中編です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる