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プロローグ
「お前はもう用済みよ」
王妃である母が、明らかに私を殺すために連れてきただろう鎧をしっかりと着込んだ騎士を従えながら、そう告げた時は、泣きたい気持ちになった。
私は、生まれてこの方ずっと病弱な双子の兄の身代わりとして男装して王子を演じてきた。
双子という存在を忌みとする風習があるというこの国で、心中した者の生まれ変わりとされる男女の双子を産み落としたことは、隣国の姫君であり何の汚点もなかった母にとって唯一にして最大の汚点だったことは言葉の端々から察していた。
だからこそ、後継ぎである兄のみを生まれたことにして、名前すら与えられず、病弱に生まれてまともに外の光も浴びることができない兄の身代わりとして、私は精一杯、兄と母のために今日まで生きてきたのだ。
それは、兄が、ひとりで生まれてきた愛される姫君である妹が一心に受けてきた愛情のひとかけらでも向けてもらいたかったからだった。
「用済み??私は今までお母様の指示に従い、兄の代わりに尽くしてきました。それなのに私を殺すおつもりですか??」
しかし、母の表情は冷たいままだった。年子で生まれた妹には母として慈しむように微笑むこの人は私にはいつも冷たい表情しか向けることはない。
「言葉のままの意味よ。お前みたいな忌み子を今まで生かしていたのは、可愛いルーファスがずっと病床に伏していたからだ。けれどルーファスを治すことができる特効薬が見つかってあの子は元気になったのよ。そうなれば身代わりはもう必要ない、だからお前はその役目を終えて死ぬべきなのだ」
冷たく言い放たれた声が、石造りの冷たい部屋に小さくこだました。
この部屋は秘密の隠し部屋で私の私室。粗末なベッドと机があるだけの殺風景な部屋の唯一の出口を塞ぐように、母と騎士が立っているということは逃がすつもりはないということだとすぐに分かった。
私が双子の兄と入れ替わっていることは、生まれた時から決して知られてはいけない秘密だ。この秘密は父王にすら明かされていない。
だから、私をなかったことにするつもりなのだろう。
双子の片割れだった、ただそれだけの理由で愛されることもなく、私自身として生きることも許されなかった。それでも私は少しでも母親に愛されたくて精一杯努力した。
ここで殺されるのだとしても最期に一度だけでいいから抱きしめて誉めてほしかった。
「お願いです、最期に私の頑張りを一度だけでいいから認めてください。そうすれば……」
「くださらない」
しかし、そんなささやかな望みすら何の感情もない声でつぶされてしまった。
「何度も言っているだろう。お前は生まれてはいけなかった。本来ルーファスが健康であれば、お前は生まれてすぐに殺していた。お前は私の唯一の汚点。むしろ今日まで生かしたことに感謝してほしいくらいよ」
その言葉がすべてだった。母にとって私とは存在するだけで目障りな存在であり、兄と妹とは違う生き物であるということなのだろう。
理解はずっとしていたが直接言葉にされたことで、嫌でも理解しないといけなかった。
(……どうして、私は……いままで必死だったのかな、こんなことになるならばもっと自由にふるまえばよかった。そうすれば……お母様には愛されなくても誰かひとりは愛してくれただろうか……)
思い返した記憶の中、兄として振る舞って生きてきた私を私として愛している人はひとりもいない。兄を愛しているだろう人たちはいたけれど。
そうして考えた時、ふたりの側近だった幼馴染たちが浮かんだ。
ひとりは騎士で伯爵家の嫡男のノクス。私を守るためにその体に一生消えない傷を負いながらも『殿下のために追ったこの傷は俺の勲章だ』と言い切った豪胆で優しい人。
もうひとりは、公爵家の次男のアルバス。とても賢く私だけでは理解できなかった勉強をいつも真剣に教えてくれた、少し意地悪なところもあるけど頼りになる人。
(もう一度、ふたりに会いたかったな……)
頬を一粒の涙が伝った時、なんの慈悲もなく腹を鋭い刃が貫いた。
ゴブッ
口から血が溢れて纏っていた白いドレスの胸元に真っ赤な血が零れ落ちていく。死ぬ瞬間はスローモーションに見えると聞いたことがあったがそれは本当だったようだ。
「ノクス……アルバ……スッ」
愛してくれたふたりすら私の存在を知らないままこの世から消えるのだ、そして、私の努力のすべてを兄が奪っていくのだ、すべてすべて……。
失われつつある意識の中、私を突き刺した騎士が私にだけ聞こえる声で小さくささやいた。
「……これで貴方は自由になれる」
その言葉の意味が分からぬまま、私はそのまま意識を完全に失った。
王妃である母が、明らかに私を殺すために連れてきただろう鎧をしっかりと着込んだ騎士を従えながら、そう告げた時は、泣きたい気持ちになった。
私は、生まれてこの方ずっと病弱な双子の兄の身代わりとして男装して王子を演じてきた。
双子という存在を忌みとする風習があるというこの国で、心中した者の生まれ変わりとされる男女の双子を産み落としたことは、隣国の姫君であり何の汚点もなかった母にとって唯一にして最大の汚点だったことは言葉の端々から察していた。
だからこそ、後継ぎである兄のみを生まれたことにして、名前すら与えられず、病弱に生まれてまともに外の光も浴びることができない兄の身代わりとして、私は精一杯、兄と母のために今日まで生きてきたのだ。
それは、兄が、ひとりで生まれてきた愛される姫君である妹が一心に受けてきた愛情のひとかけらでも向けてもらいたかったからだった。
「用済み??私は今までお母様の指示に従い、兄の代わりに尽くしてきました。それなのに私を殺すおつもりですか??」
しかし、母の表情は冷たいままだった。年子で生まれた妹には母として慈しむように微笑むこの人は私にはいつも冷たい表情しか向けることはない。
「言葉のままの意味よ。お前みたいな忌み子を今まで生かしていたのは、可愛いルーファスがずっと病床に伏していたからだ。けれどルーファスを治すことができる特効薬が見つかってあの子は元気になったのよ。そうなれば身代わりはもう必要ない、だからお前はその役目を終えて死ぬべきなのだ」
冷たく言い放たれた声が、石造りの冷たい部屋に小さくこだました。
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だから、私をなかったことにするつもりなのだろう。
双子の片割れだった、ただそれだけの理由で愛されることもなく、私自身として生きることも許されなかった。それでも私は少しでも母親に愛されたくて精一杯努力した。
ここで殺されるのだとしても最期に一度だけでいいから抱きしめて誉めてほしかった。
「お願いです、最期に私の頑張りを一度だけでいいから認めてください。そうすれば……」
「くださらない」
しかし、そんなささやかな望みすら何の感情もない声でつぶされてしまった。
「何度も言っているだろう。お前は生まれてはいけなかった。本来ルーファスが健康であれば、お前は生まれてすぐに殺していた。お前は私の唯一の汚点。むしろ今日まで生かしたことに感謝してほしいくらいよ」
その言葉がすべてだった。母にとって私とは存在するだけで目障りな存在であり、兄と妹とは違う生き物であるということなのだろう。
理解はずっとしていたが直接言葉にされたことで、嫌でも理解しないといけなかった。
(……どうして、私は……いままで必死だったのかな、こんなことになるならばもっと自由にふるまえばよかった。そうすれば……お母様には愛されなくても誰かひとりは愛してくれただろうか……)
思い返した記憶の中、兄として振る舞って生きてきた私を私として愛している人はひとりもいない。兄を愛しているだろう人たちはいたけれど。
そうして考えた時、ふたりの側近だった幼馴染たちが浮かんだ。
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もうひとりは、公爵家の次男のアルバス。とても賢く私だけでは理解できなかった勉強をいつも真剣に教えてくれた、少し意地悪なところもあるけど頼りになる人。
(もう一度、ふたりに会いたかったな……)
頬を一粒の涙が伝った時、なんの慈悲もなく腹を鋭い刃が貫いた。
ゴブッ
口から血が溢れて纏っていた白いドレスの胸元に真っ赤な血が零れ落ちていく。死ぬ瞬間はスローモーションに見えると聞いたことがあったがそれは本当だったようだ。
「ノクス……アルバ……スッ」
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失われつつある意識の中、私を突き刺した騎士が私にだけ聞こえる声で小さくささやいた。
「……これで貴方は自由になれる」
その言葉の意味が分からぬまま、私はそのまま意識を完全に失った。
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