臆病な元令嬢は、前世で自分を処刑した王太子に立ち向かう

絃芭

文字の大きさ
2 / 24
第一章 因縁の世界へ転生

002

しおりを挟む
 かたん、と何かが床に落ちた音でわたしはハッと我にかえる。視界の端で落とした筆箱を拾う腕が目に入ったがそんなことはどうでもいい。

 ここはどこ?そもそもなぜわたしは生きている?

 確かに首を切られて生涯を終えたはず。でもそれなら今の状況に説明がつかない。混乱する頭に今すぐ叫びだしたい衝動に駆られるが、意識の底にある何かがそれを強く押さえつけた。

 声を出したいのに出せない。何かがわたしの存在を主張を出すことを阻む。前方では教師と思わしき男性が眠たくなる声で授業をしていた。授業をしているといっても顔をあげる勇気がないわたしには声しか聞こえないのだが。

 とりあえず、机に置いてあるものを確認する

。まずはノート。罫線の上にはびっしりと文字が書かれていて‪”‬わたし‪”‬は真面目な性格であったことが窺える。木製の机の左端に並んだ二本のシャープペンシルは機能性重視で色も紫と水色と清楚な印象。そして教科書。太字のところにマーカーが引かれていて大事なところがよく分かる。こういう授業の受け方もあるのか、とひとり感心していると資料集の裏表紙が目に留まった。黒の油性ペンで書かれた文字列をゆっくりと指でなぞる。

 2年2組  雪見 茉衣

 ゆきみまい、と心のなかで復唱してこの異変にようやく気づいた。

なぜはこの文字が読める?

母国とは似ても似つかぬ書体。それでも、分かる。読み方もこれが漢字というものであるということさえも知識として頭の中に入っている。

 ぞくりと背筋が寒くなった。こんな文字を習った記憶は当たり前だがどこにもない。ノートに視線を落とすがやはり読める。文章も数式の意味も理解ができた。なのに、それに紐付く記憶がない。いつ習ったのか、そのときどんなことを思ったのか全く思い出せない。

   文字だけじゃない。シャープペンシルもマーカーなんて道具もわたしの時代には存在しなかった。

 なぜ知っているのだろう。じわじわと恐怖が頭の中を侵食していくのを感じていると、授業の終わりを知らせる鐘の音が響いた。突如鳴り出した大きな音に反射的に顔をあげて。今度こそ、わたしは気を失いそうになった。

 教室を埋め尽くす、黒。髪の色。わたしの世界では金に銀、赤など色とりどりだったのに。
 
 何より、その色は。

 からすのように真っ黒なそれは、聖女セイラと同じ色だった。

 
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

婚約破棄を伝えられて居るのは帝国の皇女様ですが…国は大丈夫でしょうか【完結】

恋愛
卒業式の最中、王子が隣国皇帝陛下の娘で有る皇女に婚約破棄を突き付けると言う、前代未聞の所業が行われ阿鼻叫喚の事態に陥り、卒業式どころでは無くなる事から物語は始まる。 果たして王子の国は無事に国を維持できるのか?

冤罪で婚約破棄したくせに……今さらもう遅いです。

水垣するめ
恋愛
主人公サラ・ゴーマン公爵令嬢は第一王子のマイケル・フェネルと婚約していた。 しかしある日突然、サラはマイケルから婚約破棄される。 マイケルの隣には男爵家のララがくっついていて、「サラに脅された!」とマイケルに訴えていた。 当然冤罪だった。 以前ララに対して「あまり婚約しているマイケルに近づくのはやめたほうがいい」と忠告したのを、ララは「脅された!」と改変していた。 証拠は無い。 しかしマイケルはララの言葉を信じた。 マイケルは学園でサラを罪人として晒しあげる。 そしてサラの言い分を聞かずに一方的に婚約破棄を宣言した。 もちろん、ララの言い分は全て嘘だったため、後に冤罪が発覚することになりマイケルは周囲から非難される……。

皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜

百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。 「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」 ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!? ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……? サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います! ※他サイト様にも掲載

【12月末日公開終了】これは裏切りですか?

たぬきち25番
恋愛
転生してすぐに婚約破棄をされたアリシアは、嫁ぎ先を失い、実家に戻ることになった。 だが、実家戻ると『婚約破棄をされた娘』と噂され、家族の迷惑になっているので出て行く必要がある。 そんな時、母から住み込みの仕事を紹介されたアリシアは……?

婚約者を奪った妹と縁を切ったので、家から離れ“辺境領”を継ぎました。 すると勇者一行までついてきたので、領地が最強になったようです

藤原遊
ファンタジー
婚約発表の場で、妹に婚約者を奪われた。 家族にも教会にも見放され、聖女である私・エリシアは “不要” と切り捨てられる。 その“褒賞”として押しつけられたのは―― 魔物と瘴気に覆われた、滅びかけの辺境領だった。 けれど私は、絶望しなかった。 むしろ、生まれて初めて「自由」になれたのだ。 そして、予想外の出来事が起きる。 ――かつて共に魔王を倒した“勇者一行”が、次々と押しかけてきた。 「君をひとりで行かせるわけがない」 そう言って微笑む勇者レオン。 村を守るため剣を抜く騎士。 魔導具を抱えて駆けつける天才魔法使い。 物陰から見守る斥候は、相変わらず不器用で優しい。 彼らと力を合わせ、私は土地を浄化し、村を癒し、辺境の地に息を吹き返す。 気づけば、魔物巣窟は制圧され、泉は澄み渡り、鉱山もダンジョンも豊かに開き―― いつの間にか領地は、“どの国よりも最強の地”になっていた。 もう、誰にも振り回されない。 ここが私の新しい居場所。 そして、隣には――かつての仲間たちがいる。 捨てられた聖女が、仲間と共に辺境を立て直す。 これは、そんな私の第二の人生の物語。

自国から去りたかったので、怪しい求婚だけど受けました。

しゃーりん
恋愛
侯爵令嬢アミディアは婚約者と別れるように言われていたところを隣国から来た客人オルビスに助けられた。 アミディアが自国に嫌気がさしているのを察したオルビスは、自分と結婚すればこの国から出られると求婚する。 隣国には何度も訪れたことはあるし親戚もいる。 学園を卒業した今が逃げる時だと思い、アミディアはオルビスの怪しい求婚を受けることにした。 訳アリの結婚になるのだろうと思い込んで隣国で暮らすことになったけど溺愛されるというお話です。

「では、ごきげんよう」と去った悪役令嬢は破滅すら置き去りにして

東雲れいな
恋愛
「悪役令嬢」と噂される伯爵令嬢・ローズ。王太子殿下の婚約者候補だというのに、ヒロインから王子を奪おうなんて野心はまるでありません。むしろ彼女は、“わたくしはわたくしらしく”と胸を張り、周囲の冷たい視線にも毅然と立ち向かいます。 破滅を甘受する覚悟すらあった彼女が、誇り高く戦い抜くとき、運命は大きく動きだす。

処理中です...