臆病な元令嬢は、前世で自分を処刑した王太子に立ち向かう

絃芭

文字の大きさ
22 / 24
第二章 王太子の登場

022

しおりを挟む
「そういえば、あの男が言っていた『今回のミス』とはどういうことだ?」
「あ……。アレン様に、件の聖女様の顔に整形しろと迫られたのです。手術は一ヶ月後で、一生傍にいろと」

 ともすれば愛の告白だが、相手はあのアレン様だ。言葉の意味は全く異なる。

「どこまでも不愉快な奴だな。そんな戯言を真に受ける必要はない」

 怒気を孕んだ声音で一条さんが吐き捨てる。正義感故かわたしを思ってなのかは判断つかないが、心強いことに変わりなかった。

「どうやらカイラ様が隣国の王太子に心変わりなされたそうなのです。それでアレン様はそのようなことを……」
「そんな自尊心の塊みたいな人なら嫌気が差して当たり前だわ」
「隣国の王太子様は人格も優れていらっしゃいましたし、お顔もアレン様より整っておりました」
 
 茜音さんの辛辣に言葉につられて、つい余計なことまで喋ってしまった。

 現代風に例えるなら、アレン様は学校一のイケメンで隣国の王太子は顔面国宝級の俳優だ。加えてカリスマ性と絶対的な権威を持ち合わせていたのだからカイラ様が惹かれた理由も分かる。

「そんなすごい人の心を射止めるなんてよっぽど愛嬌があったのね」
「……たぶん、話を聞いて欲しかったのではないでしょうか」

 感心したような茜音さんの言葉に、ぽろりと本音が漏れた。

 上位貴族であればあるほど、心は孤独だ。常に両親の意に従い、付き合う人間も損得で決まる。取り巻きからの言葉は上辺だけの賛同のみで、底の見えない笑みを向けられ、精神は摩耗していく。アレン様もよく愚痴を零していた。

 そんなときに、自分の言葉ひとつで表情をくるくる変える人に出会ったら。

「些細なことで心から怒り、笑う彼女は文字通り陽だまりのような存在でした。機嫌を損なわないように振る舞うだけのわたしとは違います」
「だから何だ? 命を奪っていい理由にはならない」

 即座に切り返された言葉は、こちらが息を呑んでしまうほど鋭かった。

「報いは必ず受けさせる」

 いつもと異なる雰囲気に戸惑うわたしたちに、一条さんは静かにそう告げた。

 


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

婚約破棄を伝えられて居るのは帝国の皇女様ですが…国は大丈夫でしょうか【完結】

恋愛
卒業式の最中、王子が隣国皇帝陛下の娘で有る皇女に婚約破棄を突き付けると言う、前代未聞の所業が行われ阿鼻叫喚の事態に陥り、卒業式どころでは無くなる事から物語は始まる。 果たして王子の国は無事に国を維持できるのか?

冤罪で婚約破棄したくせに……今さらもう遅いです。

水垣するめ
恋愛
主人公サラ・ゴーマン公爵令嬢は第一王子のマイケル・フェネルと婚約していた。 しかしある日突然、サラはマイケルから婚約破棄される。 マイケルの隣には男爵家のララがくっついていて、「サラに脅された!」とマイケルに訴えていた。 当然冤罪だった。 以前ララに対して「あまり婚約しているマイケルに近づくのはやめたほうがいい」と忠告したのを、ララは「脅された!」と改変していた。 証拠は無い。 しかしマイケルはララの言葉を信じた。 マイケルは学園でサラを罪人として晒しあげる。 そしてサラの言い分を聞かずに一方的に婚約破棄を宣言した。 もちろん、ララの言い分は全て嘘だったため、後に冤罪が発覚することになりマイケルは周囲から非難される……。

【12月末日公開終了】これは裏切りですか?

たぬきち25番
恋愛
転生してすぐに婚約破棄をされたアリシアは、嫁ぎ先を失い、実家に戻ることになった。 だが、実家戻ると『婚約破棄をされた娘』と噂され、家族の迷惑になっているので出て行く必要がある。 そんな時、母から住み込みの仕事を紹介されたアリシアは……?

婚約者を奪った妹と縁を切ったので、家から離れ“辺境領”を継ぎました。 すると勇者一行までついてきたので、領地が最強になったようです

藤原遊
ファンタジー
婚約発表の場で、妹に婚約者を奪われた。 家族にも教会にも見放され、聖女である私・エリシアは “不要” と切り捨てられる。 その“褒賞”として押しつけられたのは―― 魔物と瘴気に覆われた、滅びかけの辺境領だった。 けれど私は、絶望しなかった。 むしろ、生まれて初めて「自由」になれたのだ。 そして、予想外の出来事が起きる。 ――かつて共に魔王を倒した“勇者一行”が、次々と押しかけてきた。 「君をひとりで行かせるわけがない」 そう言って微笑む勇者レオン。 村を守るため剣を抜く騎士。 魔導具を抱えて駆けつける天才魔法使い。 物陰から見守る斥候は、相変わらず不器用で優しい。 彼らと力を合わせ、私は土地を浄化し、村を癒し、辺境の地に息を吹き返す。 気づけば、魔物巣窟は制圧され、泉は澄み渡り、鉱山もダンジョンも豊かに開き―― いつの間にか領地は、“どの国よりも最強の地”になっていた。 もう、誰にも振り回されない。 ここが私の新しい居場所。 そして、隣には――かつての仲間たちがいる。 捨てられた聖女が、仲間と共に辺境を立て直す。 これは、そんな私の第二の人生の物語。

【完結】前世の記憶があっても役に立たないんですが!

kana
恋愛
前世を思い出したのは階段からの落下中。 絶体絶命のピンチも自力で乗り切ったアリシア。 ここはゲームの世界なのか、ただの転生なのかも分からない。 前世を思い出したことで変わったのは性格だけ。 チートともないけど前向きな性格で我が道を行くアリシア。 そんな時ヒロイン?登場でピンチに・・・ ユルい設定になっています。 作者の力不足はお許しください。

皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜

百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。 「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」 ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!? ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……? サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います! ※他サイト様にも掲載

自国から去りたかったので、怪しい求婚だけど受けました。

しゃーりん
恋愛
侯爵令嬢アミディアは婚約者と別れるように言われていたところを隣国から来た客人オルビスに助けられた。 アミディアが自国に嫌気がさしているのを察したオルビスは、自分と結婚すればこの国から出られると求婚する。 隣国には何度も訪れたことはあるし親戚もいる。 学園を卒業した今が逃げる時だと思い、アミディアはオルビスの怪しい求婚を受けることにした。 訳アリの結婚になるのだろうと思い込んで隣国で暮らすことになったけど溺愛されるというお話です。

処理中です...