臆病な元令嬢は、前世で自分を処刑した王太子に立ち向かう

絃芭

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第二章 王太子の登場

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    矢継ぎに発せられる質問の意図が分からず困惑してしまう。それは茜音さんも同様のようで、二人して首を傾げた。何が何だかという様子のわたしたちに、これは推測だが、と一条さんは前置きした。

「雪見の国に現れた聖女とやらは、恐らく特別な力を持っていない」
「で、でも、聖女様の御利益は本物でした!痛みが和らいだ気がすると上機嫌で患者は口を揃えて」
「痛みとは感情の一種だ。主観的なものに過ぎず、人智を越えた力が関与したとは言いきれない。たとえば悩みや愚痴、様々な出来後を話しただけでも随分と軽い気持ちになるだろう。それと同じだ」

 そういえばカイラ様は民衆にとても好かれていた。それが人柄だけでなく傾聴力にも惹かれたのだとしたら。

「余程聞き上手だったんだろうな。身分制度がない国から来た聖女の反応はさぞ多彩で新鮮だったに違いない」
「そ、んな……」

 一条さんの仮説は筋が通っていて反論の余地がない。とはいえ今まで聖女の特別な力を信じていた分、衝撃は大きかった。こんがらがった頭でその事実を何度も反芻するうち、ひとつの考えが頭に浮かんだ。

「アレン様がわざわざわたしを処刑した理由が分かったかもしれません」

 わたしの言葉に、二人は驚いたような表情になる。思いついたわたしでさえにわかには信じがたかった。いつの間にか喉がからからに乾いていて、すっかり温くなってしまった紅茶を飲み干す。

「母国では王族に他国の血を入れない風習だったのです。そして、その時の周りの高位貴族の令嬢は結婚一歩手前でした」

 当時十八歳だったわたしもそうなるはずだった。そのために朝から晩まで教育を受けたのだ。だが、カイラ様を愛しているアレン様にとっては到底受け入れられる話ではない。

「聖女様に特別な力がないことが絶対露見しないという保証はありません」

 バレたらどうなるかは想像に難くない。まず間違いなく王太子の婚約者からは外れるだろう。

「だからこそ、わたしを亡き者としたのです。万一に露見しても婚約者から外させないために」

 

 もしわたしが生きていたら婚約者の差し戻しということになりかねない。だからこそ婚約解消ではなく処刑して、物理的に選択肢を断ったのだ。

 話し終えたわたしは、細く息を吐いた。ただの妄想だと一蹴されるかもしれないが、事実だという仄かな確信があった。一抹の不安はあったものの、一条さんも茜音さんも矛盾点を指摘しない。突飛な発想がいよいよ現実味を帯び始める。

 重苦しい沈黙が場を支配してから、どれだけ時間が経っただろうか。誰ひとりとして一言も発さない状況に耐え兼ねたわたしは話題を変えることにした。

「アレン様は必ずわたしたちの前に再び現れるでしょう。」
「そうだな。あれで諦めるような奴ではないだろう」

 別れ際のことを思いだしているのか、一条さんはうんざりというふうに眉をしかめた。権力を盾に幅を利かせる人間を嫌う一条さんのことだ、アレン様の存在は神経を逆撫でするのだろう。


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