とても快適な生贄?ライフ

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「明日から数日家を空けることになったんだけど大丈夫?
何か不安とかあれば、今のうちに言ってくれたらできるだけ対応するよ」


ここに来て3ヶ月ほど。
今までは家を空けることのなかったルイ様が、数日家を空けることになったらしい。


「大丈夫です。前に言ってた依頼ってやつですか?」


「うん。これがちょっと遠方で、行ったことない場所だからいつ帰ってこられるか検討つかなくて」


「そうなんですね。
分かりました。気をつけて行ってきてくださいね」


「ありがとう。
珍しいものあったら買ってきてあげるね」


「ほんとですか!?それは楽しみです」


「でもしばらく一緒に食事が出来ないのは残念だなぁ。ここ最近ずっと君と食事をしてたから」


言われてみればここに来てから食事はずっと一緒だったから、一緒にご飯を食べないのは初めてかもしれない。

そう考えると、ひとりご飯はちょっと寂しいかも。


「帰ったらまた一緒に食べましょうね」


「うん。できるだけ早く帰れるようにする。
それと、私がいない時も基本的には同じ生活でいいんだけど、外の魔物たちはピリピリしてる子もいるかもしれないから気をつけてね」


「ピリピリしてるって、なんでですか?」


「私がいない間に変な輩が入って来た時のために、警戒心を強めているんだとは思う。
ここの中で強い魔力を感じたら私が飛んで帰ってはくるんだけど、距離があるとちょっとその感度が鈍くなるから、今回は遠いところに行くぶんみんな警戒心強めかも」


「そういうことですか」


「特に西の方はそっとしといてあげて」


西といえば湖がある方か。


「分かりました」



ルイ様が居ない日々は想像より退屈だった。

食事をとる時くらいしか会わないし特に変わらないだろうと思っていたのに。


外に出れば森の空気が張り詰めている感じがして外に出づらいし、かといって家にいても植物を眺めるくらいで、他にすることも無い。前に買った本は全部読んじゃったし……。

ルイ様は普段特に忙しくなければ広間で書類仕事をしていることが多く、広間にいけばきまって声をかけてくれて、手を止めて雑談をしてくれることも少なくなかった。

時には話さなくてもルイ様が仕事をしている近くで本を読むだけの時もあって、それはそれで居心地がよくて好きだった。


ルイ様からはきっと癒しのオーラみたいなものが出ているんだと思う。

居なくなってからは森全体が重苦しい感じがして、今まで居心地が良かったのはルイ様のおかげな部分が大きいことを理解した。


「サラ様、近頃お元気がないようですが大丈夫ですか?」


「んー、外にも出にくいからやることがなくて。何かやることないですか?」


「そうですね。
読書ならばご主人様の部屋からも本を調達できます。調理係さんに言えば料理をすることも可能ですし、他にも絵や裁縫であれば道具をご用意することが可能です」


思ったよりいろいろできる……。

料理に関しては確実に調理係さんの腕の方が信用できるし、無難に読書かなぁ。


「ルイ様の部屋に勝手に入っても大丈夫でしょうか」


「サラ様が入ることは許可されてますよ。ただ魔具など危険なものもあるので、部屋の入口から見て左側にある扉の奥には行かれませんようにと仰っていました」


「分かりました。じゃあルイ様のお部屋から本を借りてきます」


自分がいない間でも部屋に入っていいなんて、それくらいには信用してもらったということだろうか。

初めて入るルイ様の部屋に緊張しつつ、ドアノブを回す。


「……おじゃましま~す」


誰もいない部屋に呟いて、一歩踏み出す。


ベッド、大きめの机に椅子、壁一面の本棚。

必要なものしか置いてないような部屋だなぁ。

とりあえず端の方から順に本の背表紙を眺めていく。


魔法、魔物、人間、政治、歴史、様々なジャンルの本が並べられている。

娯楽小説しか読んだことがない私には縁のない本ばかり。

これだけたくさんのことをルイ様は勉強してきたのだろうと思うと、自分が情けなくなってくる。

私は魔物に関する本をいくつか借りて部屋に戻る。

魔物の事がいろいろと分かるかもしれないと思って選んだものだったが、人間目線で書いてある本のため、見た目の話など私でも知っていることがほとんどだった。

以前ルイ様から聞いた、魔物の命名についての話とかなかったし。

ただ唯一知らなかったのは、“人に近い形をしている魔物ほど魔力が大きい”ということだった。
あの湖でいた子たちとか、お世話係さんもかな?ルイ様はハーフだしどうなんだろ。

それで、魔力があったらなんなんだろう……。

魔法は練習しないとダメみたいだし、教えてくれる人が居なければ使えないよね?
それとも魔物さんたちは本能的に使えるの?

そんな疑問が湧いてきて、今度は魔法の本を借りにルイ様の部屋にお邪魔する。


そんなふうに過ごしているうちに、あっという間に時間が経って、はや10日。


「サラ様、今夜にはご主人様が戻られるそうです」


「ほんとに?じゃあ今夜は一緒に食事ができそうですか?」


「はい。ご主人様もサラ様のお食事に間に合うよう戻ると仰っていました」


久しぶりにひとりじゃない食事。

もちろん調理係さんの料理はとても美味しいんだけど、ひとりで食べることや本に夢中だったこともあって、あまり食欲もわかなかった。

けどルイ様が帰ってくるなら、また楽しく食事が出来そうだ。
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