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2日後。
私が起きた頃にはドラゴンさんは既に来ていて、ルイ様は私と朝食を取ると、再び森を離れた。
「もし良かったら一緒に食事しませんか」
ドラゴンの姿のまま家に入ることもなく昨日1日を過ごした様子のドラゴンさんを、翌朝に朝食に誘う。
「いいのか?」
私が声をかけるとは思っていなかったのか、私が来たことに驚いたような顔で聞き返してくる。
「はい。いつもルイ様と一緒に食事をするので、ひとりで食べるのは寂しくて」
「そういうことなら喜んで」
そう言うとすぐに人型になったドラゴンさんとともに広間に向かう。
あまり話したことがなかったから少し不安はあったけど、そんな不安は必要なかったようで、ドラゴンさんもルイ様みたいに、食事の手を止めては度々話してくれた。
「サラはここの料理だと何が好き?」
「ん~……、全部美味しいから迷いますね。
でもやっぱり、たまに焼いてくれるお菓子が好きです」
「あははっ、食事というよりおやつの方か~」
「もちろんご飯も好きですよ。
けど甘味はいつもは食べないし、たまにしか出てこないから特別感あって好きなんです」
「なるほどな。じゃあ毎日会えるあいつより俺の方が特別感あって好きだったり?」
そうなるとちょっと話が違ってくるかも。
日頃良くしてくれるルイ様は、私にとっては特別だ。
なんて返そうか迷って何も言えない私を、ドラゴンさんは笑う。
「冗談。力も見た目も優しさも、何ひとつとして俺があいつに勝ってる自信はないからな。どう考えても彼の方が魅力的だ」
「そんな事ない……とは言えませんが、ドラゴンさんにも素敵なところはあると思います」
「たとえば?」
「……ドラゴンの姿になれるとか?」
「それ素敵なところか?人間には怖がられてばかりだったけど」
「素敵なところです。
鱗の色は綺麗だし、羽とか牙とか大きい身体も、もうなにもかもカッコいいじゃないですか!」
「ありがとう。人間に褒められるのは初めてだな」
「それは人間がよく知りもせず勝手に魔物すべてを悪いものだと思ってるから……。
ここにいる魔物さんたちもですが、みんなのことを知れば、褒められまくると思います!」
「あんな優しい魔王がいるかって話だしね」
「本当ですよ」
「君がちゃんとあいつを見てくれていて嬉しい。あいつだけじゃなくて、魔物たちのことも俺のことも“魔物”じゃなくて“個”として見てくれる」
「そんなの当たり前じゃないですか」
「そうだけど、それがなかなかできないのが人ってもんだよなぁ」
「……それはそうかもしれませんね」
私もここに来るまでは、“魔物”という括りでしか物事を考えてなかったから、恐れてばかりだったし。
「あ、そうだ。食事が終わったら少しだけ勉強を手伝ってもらえませんか?分からないところがあって」
「勉強?俺あいつと違って何も教えられないけど」
「文字を教えて欲しいんです」
「文字か。それなら俺も多少はわかるから、俺のわかる範囲でよければ手伝う」
「ぜひお願いします!」
「任せて。
でもなんで文字の勉強を?そんなのしなくても、会話はできるし別に困らないと思うけど」
「ルイ様にお手紙を書こうと思った時に全然上手く書けなくて、恥ずかしいし申し訳なくて、練習しよう思いました」
「なるほど。
いいな、手紙。そのうち俺にも書いてよ」
「上手く書けるようになったら書きますね」
「楽しみにしてる。
そうと決まればこの後一緒に勉強しようか」
「はい」
食事を済ませると、食器を片してノートを広げる。
教えやすいようにと隣に座ったドラゴンさんが私を見つめる。
「……なんですか?」
「いや、なんでもない。始めようか」
まずはドラゴンさんの書く字を見ながら、綺麗な文字を書く練習をする。
ガタイが良いし強そうだから勢いのある字をイメージしていたけれど、それとは違ってとても丁寧で綺麗な字だった。
どれくらい時間が経ったか、お手伝いさんがおやつを持ってきてくれて、一旦休憩することにした。
「サラはこの国の王子のことどう思う?」
紅茶をひと口飲んだと思うと、唐突に聞かれた。
「王子様に何かあったんですか?
つい最近ルイ様にも同じことを聞かれたんですが」
「そういうわけではないが、君も相手がいてもいい歳だと思ってな。話題にしやすい男が王子くらいしか思いつかなかっただけだ」
「なるほど」
ルイ様もそういう意図で聞いてきたのかな。
「それで?あいつにはなんて答えたんだ?」
「考えてみたこともない、と答えました」
「そうか。
村にはいい男はいなかったのか?」
「私は村の人たちにはあまりよく思われていませんでしたから……」
「なぜだ?こんな綺麗な顔の人間を放っておく意味がわからん……」
「綺麗かどうかは置いておいて、私が魔力を持ってるから、魔王がやって来るかもしれないと思ったのではないでしょうか」
「はっ、人間はアホだなぁ。あいつが一度した約束を破るわけが無いのに」
「そうですよね」
「あいつくらいの力があればこの国くらいなんて事ないのに、大人しくしているからこんなめんどくさいことに……」
“めんどくさいこと”の意味はよくわからなかったが、ルイ様が大人しくここに居る理由はわかる気がする。
「ルイ様は争い事が好きではないように見えました」
「あぁ、そうだな。あいつの両親はそれで死んだからな。
でもいつまでもそんなこと言ってると、また同じことが起こると薄々気づいてるはずだ」
「……どういう意味ですか?」
「優しさだけじゃ大切なものは守れないって話」
わかるような、わからないような……。
「さあ、そろそろ勉強再開するか」
「はい」
その後も何度か休憩を挟みつつ、ドラゴンさんは何時間も私の勉強に付き合ってくれた。
そして夕食も一緒にとって明日の食事と勉強の約束をした後、邸宅の外へ戻っていった。
私が起きた頃にはドラゴンさんは既に来ていて、ルイ様は私と朝食を取ると、再び森を離れた。
「もし良かったら一緒に食事しませんか」
ドラゴンの姿のまま家に入ることもなく昨日1日を過ごした様子のドラゴンさんを、翌朝に朝食に誘う。
「いいのか?」
私が声をかけるとは思っていなかったのか、私が来たことに驚いたような顔で聞き返してくる。
「はい。いつもルイ様と一緒に食事をするので、ひとりで食べるのは寂しくて」
「そういうことなら喜んで」
そう言うとすぐに人型になったドラゴンさんとともに広間に向かう。
あまり話したことがなかったから少し不安はあったけど、そんな不安は必要なかったようで、ドラゴンさんもルイ様みたいに、食事の手を止めては度々話してくれた。
「サラはここの料理だと何が好き?」
「ん~……、全部美味しいから迷いますね。
でもやっぱり、たまに焼いてくれるお菓子が好きです」
「あははっ、食事というよりおやつの方か~」
「もちろんご飯も好きですよ。
けど甘味はいつもは食べないし、たまにしか出てこないから特別感あって好きなんです」
「なるほどな。じゃあ毎日会えるあいつより俺の方が特別感あって好きだったり?」
そうなるとちょっと話が違ってくるかも。
日頃良くしてくれるルイ様は、私にとっては特別だ。
なんて返そうか迷って何も言えない私を、ドラゴンさんは笑う。
「冗談。力も見た目も優しさも、何ひとつとして俺があいつに勝ってる自信はないからな。どう考えても彼の方が魅力的だ」
「そんな事ない……とは言えませんが、ドラゴンさんにも素敵なところはあると思います」
「たとえば?」
「……ドラゴンの姿になれるとか?」
「それ素敵なところか?人間には怖がられてばかりだったけど」
「素敵なところです。
鱗の色は綺麗だし、羽とか牙とか大きい身体も、もうなにもかもカッコいいじゃないですか!」
「ありがとう。人間に褒められるのは初めてだな」
「それは人間がよく知りもせず勝手に魔物すべてを悪いものだと思ってるから……。
ここにいる魔物さんたちもですが、みんなのことを知れば、褒められまくると思います!」
「あんな優しい魔王がいるかって話だしね」
「本当ですよ」
「君がちゃんとあいつを見てくれていて嬉しい。あいつだけじゃなくて、魔物たちのことも俺のことも“魔物”じゃなくて“個”として見てくれる」
「そんなの当たり前じゃないですか」
「そうだけど、それがなかなかできないのが人ってもんだよなぁ」
「……それはそうかもしれませんね」
私もここに来るまでは、“魔物”という括りでしか物事を考えてなかったから、恐れてばかりだったし。
「あ、そうだ。食事が終わったら少しだけ勉強を手伝ってもらえませんか?分からないところがあって」
「勉強?俺あいつと違って何も教えられないけど」
「文字を教えて欲しいんです」
「文字か。それなら俺も多少はわかるから、俺のわかる範囲でよければ手伝う」
「ぜひお願いします!」
「任せて。
でもなんで文字の勉強を?そんなのしなくても、会話はできるし別に困らないと思うけど」
「ルイ様にお手紙を書こうと思った時に全然上手く書けなくて、恥ずかしいし申し訳なくて、練習しよう思いました」
「なるほど。
いいな、手紙。そのうち俺にも書いてよ」
「上手く書けるようになったら書きますね」
「楽しみにしてる。
そうと決まればこの後一緒に勉強しようか」
「はい」
食事を済ませると、食器を片してノートを広げる。
教えやすいようにと隣に座ったドラゴンさんが私を見つめる。
「……なんですか?」
「いや、なんでもない。始めようか」
まずはドラゴンさんの書く字を見ながら、綺麗な文字を書く練習をする。
ガタイが良いし強そうだから勢いのある字をイメージしていたけれど、それとは違ってとても丁寧で綺麗な字だった。
どれくらい時間が経ったか、お手伝いさんがおやつを持ってきてくれて、一旦休憩することにした。
「サラはこの国の王子のことどう思う?」
紅茶をひと口飲んだと思うと、唐突に聞かれた。
「王子様に何かあったんですか?
つい最近ルイ様にも同じことを聞かれたんですが」
「そういうわけではないが、君も相手がいてもいい歳だと思ってな。話題にしやすい男が王子くらいしか思いつかなかっただけだ」
「なるほど」
ルイ様もそういう意図で聞いてきたのかな。
「それで?あいつにはなんて答えたんだ?」
「考えてみたこともない、と答えました」
「そうか。
村にはいい男はいなかったのか?」
「私は村の人たちにはあまりよく思われていませんでしたから……」
「なぜだ?こんな綺麗な顔の人間を放っておく意味がわからん……」
「綺麗かどうかは置いておいて、私が魔力を持ってるから、魔王がやって来るかもしれないと思ったのではないでしょうか」
「はっ、人間はアホだなぁ。あいつが一度した約束を破るわけが無いのに」
「そうですよね」
「あいつくらいの力があればこの国くらいなんて事ないのに、大人しくしているからこんなめんどくさいことに……」
“めんどくさいこと”の意味はよくわからなかったが、ルイ様が大人しくここに居る理由はわかる気がする。
「ルイ様は争い事が好きではないように見えました」
「あぁ、そうだな。あいつの両親はそれで死んだからな。
でもいつまでもそんなこと言ってると、また同じことが起こると薄々気づいてるはずだ」
「……どういう意味ですか?」
「優しさだけじゃ大切なものは守れないって話」
わかるような、わからないような……。
「さあ、そろそろ勉強再開するか」
「はい」
その後も何度か休憩を挟みつつ、ドラゴンさんは何時間も私の勉強に付き合ってくれた。
そして夕食も一緒にとって明日の食事と勉強の約束をした後、邸宅の外へ戻っていった。
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