とても快適な生贄?ライフ

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「ずいぶん仲良くなったみたいだね」


ドラゴンさんに勉強を教えてもらっているところに、ルイ様が帰ってきた。


「ルイ様!おかえりなさい」


「ただいま。
ふたりで仲良く何をしていたの?」


「文字の練習です。ここ数日で結構上達したんですよ」


「それはすごいね。あとで見せてくれる?」


「もちろんです!」


私の隣に座っていたドラゴンさんが立ち上がる。


「こいつも帰ってきたことだし、俺は帰る」


「え、もう帰っちゃうんですか?夕飯くらい食べていきませんか?」


「誘ってくれるのは嬉しいが、少し急ぎの用があるから今日は帰るよ。また機会があれば」


「そうなんですか……。
4日間ありがとうございました。気をつけて帰ってくださいね」


「あぁ」


ドラゴンさんはそのままルイ様と話すことも無く帰っていった。


「ルイ様は一緒にご飯食べてくれますか?」


「もちろん。その前に着替えてくるね」


数日ぶりのルイ様との食卓での話題は、主にここ数日の私の勉強についてだった。


「ドラゴンさんって綺麗な字を書くから、お手本としてわかりやすいし、語彙も豊富で話すままに書こうとする私に、たくさんの表現の仕方を教えてくれました」


「あれは努力してるからね。君のその言葉を聞いたら喜ぶと思うよ」


「そうかな」


「私の想像よりも仲良くなっていて驚いたよ」


「仲良くなれると思っていなかったので、私も驚いてます」

 
「意外と面倒見いいよね」


「ですね。なんだかんだ気にかけてくれました」


「ね~。そういうところは可愛いんだよね」


「ルイ様もよくドラゴンさんのことを気にかけてたって聞きましたよ」


「気にかけてたというか、魔物の中で唯一積極的に私に近づいてきてたからありがたくて、そのお返し?がしたくて。
ただ世話を焼くくらいしか思い浮かばなかっただけだよ」


「文字を教えたのもルイ様なんですよね?」


「うん。人間のことが知りたいっていうからその流れで教えたよ」


「最初は仲が悪いのかなって思ってたんですけど、そんな事もないんですね」


最初に私がドラゴンさんと会った時のルイ様は、ドラゴンさんに対して結構冷たかったし、あまり仲が良くないんだと思っていた。
いや、今さっきも全然話してなかったし、まだ少し疑ってはいるけど。

けどルイ様もだけど、ドラゴンさんもルイ様のことを心配してのような発言が多々あったし、お互いがお互いのことをちゃんと想っているんだということを知った。


「あー……。あの日は君があいつに気に入られると嫌だなと思って、早く帰したかっただけ。あいつ気に入った相手に執拗いタイプだから」


「そんな心配しなくても私なんて全然……。ほら、ここ数日一緒にいる時間も多かったですが、何も変わったことはないですよ?」


「君が気に入られてないとは思えないし、それは“契約”を交わしたからっていうのが大きいかも」


「契約?」


「そう。違反したときの罰を決めて、魔法を使って契約しておくんだ。
ちなみに今回の場合は違反したら死ぬから、さすがに下手なことしないだろうとは思ってたよ」


「……えっ」


想像していた以上に罰が重すぎてびっくりした。

 
「ちなみに契約内容は?」


「簡潔に言えば、君の嫌がる事をしないことと君の部屋に入らないことかな」


確かにそういうことをしておいてくれるのは助かるけど、何か嫌がってたり、うっかり部屋に入れてたりしたら死んでたのかもしれないと考えると、普通に怖い。

え、魔物ってそんな怖い契約をあっさり交わしちゃうの?


「何もなくてよかったと改めて思いました」


「私もそう思う。
君のことはもちろんだけど、あいつに傷ついて欲しいわけではないからね」


「そうですよね」


ルイ様はむやみに人を傷つけたりはしないもんね。
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