とても快適な生贄?ライフ

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「……殺す」


そう呟いたように聞こえた途端、ルイ様の拘束具がちぎれたと思うと、一瞬でドラゴンの姿に変わった。


「ルイ様……?」


初めてみたルイ様のドラゴンの姿は、あのドラゴンさんより少し大きく見えて、綺麗な髪と同じ真っ白な身体で、いつもと変わらない紅い瞳をしていた。

普段のルイ様じゃないけど、どう見てもルイ様だ。

ルイ様、ドラゴンの姿になれたんだ……。知らなかった。

大きな身体によって天井は崩れたが、白い羽が私を守ってくれていた。
王子はというと、投げ飛ばされてあっちの方でのびている。


「サラ、大丈夫?」


「はい。
助けに来てくれてありがとうございます」


「いやそれを言うなら目を離した私が良くなかったから。
こんな目に遭わせてごめんね」


「いえいえ、そんな!ルイ様は悪くないですよ」


警戒心の足りなかった自分が招いたことだ。


「もし良かったら、あの家に一緒に帰ってくれる?」


「はい!」


私はルイ様に促されて、その大きな背中に乗らせてもらう。

飛び上がったルイ様は帰路に着くかと思いきや、その場で振り返ると、城に向かってふっと息を吐いた。

その吐息は白い色をしていて、城を一瞬で包み込む。


「……白い炎?」


「そう。罪のないものは焼けないから安心して」


「はい」


「じゃあ帰ろうか」


そう言うと、私を気遣ってか森の方に向かってゆっくりめに飛んでくれる。


「そういえば、はじめて名前呼んでくれましたね」


「あ……ごめんね、慌てていたから」


「そうじゃなくて、嬉しいんです。
なんで今までは名前を呼んでくれなかったんですか?」


「私たちにとって名前は特別な意味を持つものだから、気軽に呼べなくて」


「あっ、そうですよね。ごめんなさい、私なんて気軽に呼びすぎてた……」


「いや、いいんだよ。君に名前を呼ばれるのは嬉しいから」


ルイ様のおかげで、お城からは結構離れている邸宅にもすぐ到着した。
けれど邸宅の前に着いてもなお、ルイ様の姿はドラゴンのまま。

入らないのか不思議に思っていたら、若干焦った様子でこちらを見てきた。


「……どうしよう。戻り方がわからない」


「……え?嘘でしょ?どうやってその姿になったんですか?」


「すごく腹が立つな~って思って、気づいたらこうなってた」


「じゃあ元に戻ろうと思ったら戻れるのでは?」


「……無理みたい」


「……もしかしてずっとこのまま……?」


「それは困るなぁ」


「私だって困ります」


このままじゃ今までみたいに一緒にテーブルを囲めない。


「ごめん」


でも私のことで優しいルイ様がそこまで怒ってくれたことに関しては、正直嬉しく思ってしまう。


「いえ、私の方こそごめんなさい。
今回のことがなかったら、そもそもこんな事で困ることはなかったのに」


「君が謝ることはないよ。
私もこの姿になれるなんて、数百年生きてもまだ知らないことばかりだね」


いつもの優しい声色で目元を細めるルイ様を、思わず抱きしめてしまう。
抱きしめるといっても、せいぜい足に抱きつくのが精一杯だけど。

この人は本当に優しすぎる。


……もし今ルイ様が人の姿だったら、抱き締め返してくれるんだろうか。

私がそう思った瞬間、ルイ様はみるみるうちに人の姿に戻った。


「サラ!?魔力使った!?」


「え?いや、そんなはずは……。
だって指輪……、してなかったんだった」


そういえばあの部屋で外して、そのまま置いてきちゃった。


「君は簡単に使えちゃうんだから気をつけてってあれほど……。体調は大丈夫?どこか痛かったり苦しかったりしない?」


「大丈夫です。ごめんなさい、人の姿だったら抱きしめ返してくれるのかなとか考えてたら……」


「……それは……理由が可愛すぎて怒れないよ」


ルイ様は笑顔で私を抱きしめてくれた。


「あの」


「ん?」


「……本当にありがとうございました」


「うん。怖い思いさせてごめんね」


「……怖かったです」


「うん、ごめん。私がもっと気をつけるべきだった。
君に保護魔法もかけてるし、基本的にそばに居るから大丈夫だと思ってた。本当に申し訳ない」


「保護魔法……?」


「うん。勝手にごめんね、心配だったから。
でも普通に触れる分には発動しないから、今回のことに関しては意味をなさなかった。
次からは君に触れられないようにしておこう」


「それはルイ様は触れますか?」


「え?うん。魔法をかけた本人だからね」


「それならいいです」


「……サラ」


呼ばれると同時にルイ様の体が離れる。


「はい」


「ひとまずお風呂に入って暖かい格好に着替えようか。
お腹が空いていたら食事も用意するよ」


「お腹空いてます。ルイ様と食べたいです」


「そうしよう。準備ができたら後で広間においで」


「はい」


ルイ様と玄関で別れてひとりになると、家の中だしルイ様の結界もあるから安全なのはわかっているけど、また連れていかれるかもしれないという不安に襲われて、手足が震えてくる。

触られたところを入念に洗うことはしたけど、できるだけ急いで支度を済ませ急ぎ足で広間に向かった。


「ルイ様……っ!」


「どうしたの?何かあった?」


勢いよく扉を開けた私を驚きと心配のまざった顔で見る。


「……あ、いや……あの……」


何も無い。ただ不安に思っただけだなんて言ったら、面倒だと思われるだろうか。


「おいで。食べよう?」


何も言えない私に何も聞かず、優しい口調で私を呼ぶ。


「……はい」


いつも食事は向かい合わせなのに、今日は隣に座ってくれる。


「これ好きだったよね?」


「好きです」


さっそく頂こうとスプーンを手に取るけど、手が震えてうまくすくえない。


「ゆっくりでいいよ。君が食べ終わるまで居るから」


「……はい」


「それと今日はここでみんなで寝ようか」


「いいんですか?」


「うん。楽しそうじゃない?」


「すごく楽しそうです」


「厨房のも呼んでいい?」


「いいに決まってます」


「良かった。見た目は怖いから嫌かな~と思ってたけど、ひとり仲間はずれは可哀想だからね」


「いつも美味しいご飯作ってくれてるのに、今更見た目で嫌だとか思いませんよ」


「魔物は見た目じゃないって初日で気づいてたもんね」


「本当にそうですよ!みんな近づくまでなにも教えてくれないんだから」


たわいもない話をしていたらいつの間にか震えは止まっていて、お腹が空いていたことも思い出した私は、用意された食事をあっという間に完食した。


「美味しかった~」


「良かった。
もう夜も遅いし寝る支度をしよう。ここの机を片付けてベッドを……」


ルイ様の魔法で広間はあっという間にベッドルームへと変化する。


「君はどこで寝たい?」


「真ん中がいいです」


「了解。私はそっちの端にしようかな」


「え、隣じゃないんですか?」


「……さすがに隣はちょっと」


「今日だけだからいいじゃないですかぁ」


「……そうだね」


結局、調理係さん、ルイ様、私、お世話係さん、護衛さんの順で寝ることになった。

みんなで揃って寝ることなんてない。
まだ寝たくないなぁ。


「まだ起きてる人いますか」


小声だから聞こえないかもしれないと思いつつ聞いてみると、全員から返答がある。


「あれ、みんな起きてたんですね」


「そもそも私はほとんど寝なくても大丈夫な生き物なので」


隣からそういうお世話係さんの声が聞こえてくる。


「私は君が寝るのを見届けようと思ってたから」


と、ルイ様。


「ご主人様より先に寝られず……」


護衛さん。


「たのしくて」


調理係さん。


「わかります!私もなんだかワクワクしちゃって眠れなくて」


「私も誰かと寝るのは久々で、なんだかそわそわするよ」


「ルイ様もですか?」


「うん。
寝られるまでみんなでおしゃべりでもしようか」


「いいですね」


私がいちばんに寝てしまったんだけど、寝るまでみんなの声が聴こえててみんながいる感覚があって、とても安心して眠ることができた。
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