とても快適な生贄?ライフ

九 一

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何を話せばいいんだろうか……。

こんな場面に出くわすことが無いため、何を話したらいいか全く分からない。


「サラは」


「はいっ」


「どうやって魔法使い様とお知り合いに?」


あの村と森のことは、この国の人は知っているのだろうか。
一応言わないでおくに越したことはないかな。


「家を追い出された私を、あの方が家に招いて下さったんです」


嘘ではない。


「そうだったのね……。
ごめんなさい、唐突に。こんなことを聞くのは失礼だったかもしれないわね」


「いえいえ!ルイ様はすごく優しくしてくれますし、今では追い出してくれてよかったとさえ思っています」


「サラはすごいわね。私なら家から追い出されてしまったら、そんなふうには考えられないと思うわ」


「私も、出会ったのがルイ様だったから、こうやって言えるんだと思います」


もしルイ様のお母様がご存命だったら、そもそも私は今存在すらできていないだろうし、ルイ様があの家の主じゃなければ、どうなっていたかわからない。


「この国のことも気にかけてくれているようだし、とても優しいお方なのでしょうね」


「はい!」


「サラはやはりあの方の優しいところに魅力を感じたのかしら」


「そうですね。あとあの綺麗なお顔と、ゆったりとした話し方に、ふんわりとした雰囲気なんかも素敵だと思います」


「ふふ、きっとそれはサラにだけね」


「……どういう意味ですか?」


「あなたが可愛いという意味よ」


「えっ、どこでそんな話に?」


「私はサラをひと目見た時から、可愛い方だなと思っていたの」


「それは私もです!
とてもお美しい方だなと思っていました。思わず見惚れてしまうほどに」


「それは嬉しいわね、ありがとう」


最初の微妙な雰囲気はどこへやら、リーシアが話し上手なのもあって、思ったより仲良くなれた気がする。

ふたりで話しているところに、ひとりの人が近づいてきた。


「リーシア。ここに居たのか」


「あら、お兄様。いらしたのね」


「あぁ。思ったより早く仕事が片付いたからな。
ところでこちらの方は?」


「魔法使い様のパートナーの方よ」


「それはそれは。
リーシアの兄、オスカーと申します」


「オスカー様。サラと申します」


「……サラ様」


「ダメよ、お兄様。いくら可愛くても、サラにはもう素敵なお相手がいるんだから」


「私は何も言ってないだろう?」


「目が物語っていたわ」


「綺麗な方だなと思っただけだ。魔法使い様のパートナーの方だと分かっていながら、それ以上があるわけないだろう?」


「まあそれもそうね」


「サラ」


「ルイ様。お話は終わったんですか?」


「うん。
ところでそちらの方は?」


「リーシアのお兄様です」


「オスカーと申します」


「君は父親に似てるな」


「よく言われます」


「……サラに惚れるのは勝手だが、サラを傷つけることは許さないからな」


「もう、ルイ様までそんなことを……。
私を好きになるなんてないですよ」


「いや、父親はどうやら綺麗な人が好きなようだから、父親似のこの子が君に惚れてもおかしくはないだろう。
特に今日はこんなにも綺麗なんだから」


「私は綺麗だなんて、全然そんなことないですから」


今日は綺麗、可愛い、って言われて勘違いしそうになる。


「そんなことない、君は綺麗だよ。
今朝も伝えたのにもう忘れたの?」


「だって、本当に私は」


「君は私をよく綺麗だと褒めてくれるけど、私は自分のことを綺麗だなんて思ってない」


「えっ、なんでですか?こんなにも綺麗なのに」


「そういうこと。私も君にそう思ってる。
だから素直に受け止めてくれると嬉しいな」


「……わかりました」


やり方が上手い……。思わず納得しちゃった。


「君にいい人が出来てよかった」


私たちのやり取りをみていた王様が、優しい笑みを浮かべてルイ様に言う。


「今なら君が王妃のことを自慢してきた気持ちがわかるな」 


冗談だよね?
魔法使いのパートナーだと思われていたら安全だからと、パートナーのフリをしてそう言ってくれてるだけだよね。

私と違ってルイ様は嘘つくのが上手だな。

そう思うと、もう何が本当で何が嘘か分からなくなってきた……。

以前ルイ様が私との時間が好きって言ってくれたのは本当?
綺麗って言ってくれたのはさすがにお世辞かな?
公の場でルイ様と呼んでいいって言ったのは、うっかり言ってしまった私への気遣い?
実は内心怒ってたりする?


「サラ。聞いてる?」


「はいっ……いえ、考え事をしてて……。何でしょうか?」


「お嬢さんが、サラが望むなら令嬢たちを紹介してくれるって言ってるけど、どうする?
話してみてもいいし、疲れていたら今日は帰ってもいい」


「ぜひお願いしたいです!」


「じゃあ私は少し離れたところで待ってるから、何かあったらすぐ呼んで。
サラをよろしくね、お嬢さん」


「はい。お任せください」
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