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2009年作品
猫バス女
しおりを挟む「私、猫バスに乗りたいの!」
去年の夏の終わり、そう叫んだのは、さくらだった。
隣町にキャンパスのある有名私立大四年生の四人組との合コンの席。ただ数合わせのためにだけ呼ばれた同級生のさくらが、なんで、あんなことを言い出したのか……
乾杯をすまし、お互いの紹介もすみ、お酒も入って、さあ、これからって時に、いままでの話題とは何の脈絡もなく、唐突に、その一言が飛び出した。
その瞬間、美乃莉は、男たちに向けて、笑顔を浮かべていた。でも、唇の端を引きつらせ、強い視線でさくらをにらんでる。その隣、男たちに媚びるようにドジっ娘・萌えキャラを演じていた瑞希も素に返った表情でさくらを見つめるばかり。
さっきまで和気藹々としていた席は、一瞬にして沈黙包まれ、男女七対の目がさくらに釘付けになっていた。
――頭のおかしいヤツ
だれが言ったのか、ぽつりとつぶやいたのが聞こえた。
美乃莉に気があるのか、美乃莉の前に陣取って、盛んにいろいろと話しかけていた上場企業のめがね御曹司(オススメ度:☆☆☆)は、さくらを馬鹿にした表情で見、あざけるように鼻を鳴らしただけだった。そして、何事もなかったかのように、美乃莉に話しかけはじめた。
その隣、瑞希の前の席、近くの市の市長さんの息子(美形・オススメ度:☆☆☆☆)は、
「猫バス? あんなのいるわけないじゃん! だいたい、あんなのに夜道で出くわしたら、こえーこえー! なぁ? そう思うだろう、瑞希ちゃん?」
同意を求められた瑞希も、そ、そうねぇ~ だとか、どうともとれるような返事をしている。さっきの一瞬、本性がでた表情を見られたかしらとでも、思案していたのかな? 市長の息子(オススメ度:☆☆☆☆)の言葉なんて聞いていなかった。
で、瑞希の隣、さくらの向かいの席についている有名推理作家の息子で、一世を風靡したことのあるアイドルが母だとか言うロン毛の美男(超美形・オススメ度:☆☆☆☆☆)は、
「へぇ~ 猫バスかぁ~ あれって、トトロだっけ? 実際にいたら、面白いだろうねぇ~ 空飛んだりするんだよね? 実際に似たもの作ろうと思ったら、大変だろうな~ 空とぶ車を作るなんて、そんな技術は、まだないし、運転するのも難しそうだよねぇ~? 将来は猫バスなんていいけど、とりあえず今は、タイヤ四本ついてる車乗り回す方がよくなくない?」
そういいながら、軽くこっちにウィンクして、格好をつけてビールをあおった。
すごく様になってる。格好イイ!
私(瑞希とは反対の美乃莉の隣)の前の席には、いろいろなテレビ・映画で脇役として欠かせない俳優の息子で、昔、一曲だけチャートインしたことがある歌手を母に持つ男の子(残念ながら、顔は父親似・オススメ度:☆☆☆)が、よくとおる澄んだ声で、
「猫バスかぁ 俺も乗ってみたいな! ねぇ、さくらちゃん、さくらちゃんだったら、猫バス乗ってどこへ行きたい? 俺なら、猫バスで、東北の方へ行ってみたいな。白神山地とか、自然がいっぱいあってさ。空気がうまくて……」
そういいながら、私の前の席を立ち、さくらの前の席へ歩いていっちゃった。
結局、さっきまで楽しくおしゃべりしあっていた男がいなくなり、つまらなさそうな私の相手をしてくれたのが、さくらの前にいたロン毛の超美形(オススメ度:☆☆☆☆☆)。
これって、かえってラッキーかも。私、目の前の男についつい見とれちゃった。ほんとに、ほんとに、格好イイ男子!
私たちは、それから三ヶ月ぐらい付き合い、恋をして、愛し合い、裏切られ、傷ついた。
私がいいなと思うなら、他の女の子たちもいいと思うに決まってる! しかも、彼は誠実さなんて、これっぽっちもない人間だったし……
それからも、何度か他の男たちとデートをしたけど、結局、コレという男には出会うことはなかった。
美乃莉と瑞希は、そもそも御曹司や市長の息子と付き合ったりすらもしなかったみたいだし。
結局、私たち三人は、今も合コン三昧。でも、もう、女子が一人足りなくて、数合わせに一人呼ぶ必要があっても、さくらだけは呼ばない。あんな空気を読まない、頭のおかしな女なんて……
今日は、ゼミで卒論の進捗状況を報告に大学へいく日。でも、出発の時間まで、まだまだ時間があったので、テレビでワイドショーを見ている。ワイドショーの中では、芸能界のいろいろな情報が飛び交い、ちまたの話題にあふれている。やがて、ひとつのニュースが……
昨日、今年デビューしたばかりの若手俳優が婚約発表の記者会見を開いた。
テレビ・映画ではひっぱりだこの脇役俳優の息子で、母はヒット曲を一曲だけもつ歌手という若手俳優。今年、大学を卒業して、俳優デビューしたばかりだけど、その父親譲りの演技力と、母親譲りの甘い美声でお茶の間の人気をさらい、決して美形とはいえないながらも、中年女性のアイドルといわれるようになった人。
婚約した相手の女性は、ひとつ年下の一般女子大生のAさん。来年、彼女が卒業してから籍をいれ、式を挙げるのだとか。そして、そのAさん、猫バスが大好きな人なんだという。
あさって、私たちはまた、合コンの予定が……
私たち三人は、三人そろって、相変わらず彼氏もいない、恋人もいない。世間でよくいわれる花の女子大生なんて、私たちには関係のない言葉。さびしいさびしい大学四年生。無味乾燥なわびしい人生。
でも、私、その合コンで、心の底から、きっと唐突に、こう叫んでしまうんだろうな!
「私も、猫バスに乗りたいの!」
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