疲れたあなたの背中をそっと押すサプリ、あるいはプラセボ

しかまさ

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2010年作品

眠れぬ夜

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「お前、俺のこと好きだろう?」

 帰ろうとしている私を呼び止めて、何を言うかと思えば、陽介のバカはそんなことを言い出した。

「ハァ~!?」

 私のどこをどう見れば、そんなことになるというの?

「いつも、俺の周りにいるし、俺にだけ笑顔向けるし」

 なに調子こいてるのだか?
 単に教室の席が隣どおしで、出席番号も近いから、班分けのときに一緒になりやすく、一緒にいる時間が長いだけじゃない! それに、だいたい、私はだれにでも笑顔で接するように心がけているのだ! 陽介にだけなんて、ありえない!

「なに、バカ言ってるんだか!」
「なぁ? 正直に言えよ」

 え~い、うっとうしい!

「じゃね、バイバイ、おバカさん」
「おい……」

 私は、そのまま後ろも見ずに帰ってきた。



 今日の放課後の出来事思い出すたび、なんだかバカバカしい気分になる。

 だいたい、私のどこをどういう風にみれば、陽介を好きなように見えるっていうの……
 私が好きなのは……

 私、ベッドの横の壁に張ってあるアイドルのポスターをうっとりと眺めた。
 真っ白な歯の笑顔。スマートでしなやかな体つき。全然、陽介に似たところなんてない!

 ふん! 陽介なんて、お呼びじゃないわ!

 私、いつものように、儀式ばって、そのアイドルの名前をそっとつぶやいた。
 すごく、すごく幸福な気分になった。



 机に向かい今日出た宿題に取り掛かる。
 いつもなら、これぐらいの分量、三十分もあれば済んでしまうのに、今日に限ってはなぜだか、一時間経っても、半分も進んでいなかった。
 いつもの集中力がつづかない。
 問題に集中し、考えようとするのだけど、すぐに、『お前、俺のこと好きだろう?』ってフレーズが浮かんでくる。
 そのたびに、違う! そんなわけない! って否定して、その理由を頭の中であれこれ思い浮かべる。そんなことの繰り返し。

 はぁ~、これじゃ、宿題が終わらないよ!

 でも、なんだか、あのフレーズを思い浮かべるたびに、さっきから頬が熱くなっている気がする。

 私、どうしちゃったのだろう?



 結局、宿題をあきらめて、ベッドにもぐりこみ、目を閉じると、また、『お前、俺のこと好きだろう?』ってフレーズが……

 もう、面倒くさい!
 否定も肯定もしない! なにも考えない! なにも、なにも……

 枕を抱きしめて、ぎゅっとまぶたを閉じる。

『お前、俺のこと好きだろう?』

 だめ、やっぱり、あのフレーズが頭に浮かんでくる。

 もう、どうしちゃったの?

 そういえば、あの時、私、ビックリして、困惑して、呆然としていたけど、でも、心の片隅で、ちょっぴりうれしいような気分があった気がする。

 え? どうして?

 私、私……
 そのまま、寝付くことも出来ず、ベッドに入って、眠ろう、眠ろうと努力を重ねたけど、かえって目がさえた。
 目覚まし時計のカチカチいう音がやけに大きかった。

 どうしよう? 私、どうしちゃったんだろう?

 ふっと、脳裏に、陽介のニカッと笑う笑顔が浮かんだ。
 そういえば、陽介、今日の国語の時間に、先生に指されてチンプンカンプンな答えをしていたっけ。

 クスッ

 そんなことを思い出していたら、四月から今までの陽介の数々の失敗を、次から次へと思い出してしまった。

 クスクス……

 ベッドの中で、おなかを抱え、噴き出している私。なかなかとまらない。
 でも、一通り笑い終えた頃、私、そのまますとんと眠りの中へ落ちていた。
 なかなか眠れなかったのに、どうしてだろう? 不思議。
 きっと笑い終えたときに、こう心に決めたのが、効果があったのかな?
 明日、陽介に質問してみようって、

『あんた、私のこと好きでしょう?』

 陽介のヤツ、どう答えるかな? 驚いて、ビックリして、そして、家に帰った後も、私のときみたいに、私のことを考えて、なかなか寝付けられなかったりしてね。ふふふ、いい気味。
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