不透明な奇蹟

久遠寺風卯(ペンネーム)

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序章

出逢いと別れ、そして葛藤の日々

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 特別な人間なんて、この世には誰一人としていない。障害も苦労もしたことない人もいるはずがない。自分の幸せなんて人それぞれだし、そう思うのは他人が決めるのではない。決めるのは自分だ。
 しかし、人の繋がりは人生では欠かせないもの。
 それは時に、良い未来に導いたり、そうではなかったり、自分と相手のお互いの気持ち、信頼や価値観がスレ違えば、別れ、そしてまた違う人達と出逢いの繰り返し。
 将来の進路、夢、仕事を探したりする時の選択肢も一緒だ。
 相手にまたは他人に求め過ぎたり、深入り、干渉しすぎると関係は崩れたりすると、見えていた理想の未来さえも、希望も失ってしまう。
 希に他人の言葉に振り回されて人生をめちゃくちゃにされて、出逢いと別れが交差する。
 望まない結末で簡単に打ち砕かれる場合もある。
 それは誰しも突然に起こりえるのかもしれない。

               ◆

 西暦二〇〇四年(平成十六年)十二月。
 ある東京の街中で一人の金髪の少女、清水白きよみずましろは傘を差して携帯を自分の耳に当てて、誰かと電話で話しながら泣いていた。
 雪か雨なのか分からないみぞれが降ってくる。
 外の空気がいつもより寒い。彼女はそう感じる。
 白は電話した相手と本当なら、とある喫茶店で待ち合わせしていた。
 行くか行かないか。会うか会わないか。
 そのことで悩み、思考と心の精神が両方、凄く胸が苦しく哀しみ、目からは涙が溢れ、頬を伝い流れた。
 白は途方もなく歩いていると、足は待ち合わせ場所の喫茶店へ運んでいた。
 店内には待ち合わせの約束をしていた電話の相手、青年男性が二席座れる席で一人腰掛けて、白を待っていた。
 何も知ることなく、喫茶店の店内から外に居る彼女と電話で話していた。
 青年は白が喫茶店の外に居るとは気付かず通話を続けている。
 白は、その彼が店内に居ることを確認すると、唇を強く噛みしめる。
 あと二、三歩くらい歩けば店内に喫茶店へ入れる。けれど彼女は立ち止まり、踏み止まった。
 青年から目をそらすように、頭を下に下げた。
 そして震える声で通話を通して言葉を繋ぐ。
「あなたに会えて、幸せで楽しかったです。色んなっ、たくさんのものを見せてくれた。夢を見させてくれた。それだけで……私はっ、もう充分です。」
 喉がつっかえる程、心が痛く、とても哀しかった。
 本当は店内に居る青年と、きちんとお互いに面と向かって会い、気持ちを伝えるべきなのだろう。
 しかし、白には出来なかった。勇気がなかった。
「ありがとう……ございました。もうっ、あなたには、二度と会いません。」
 彼女は泣いていた涙を手で拭い、覚悟を決めるようにして「さようなら。」と呟いた。
 そして携帯の通話を切り、喫茶店の店内を見ずに通り過ぎていった。
 項垂れ途方に暮れるように、行き先を考えず街を歩く。
 彼女は歩きながら、手で携帯の画面に映る通話履歴を削除していく。
 先程まで電話していた青年の連絡先の電話番号にメアドも震える手で削除した。
 すると、先程消した携帯番号から電話が掛かって来た。
 白は周囲の辺りを見渡し、距離は遠かったが、その青年の姿が見えると逃げるように走り出した。
 すると丁度、バス停にバスが登頂着しに来る。
 彼女はそこに向かって行きながは手を大きく振り、大きな声で停車してくれるように声を掛ける。
 バスは停車し、間に合うと白は息を荒げながら差していた傘を閉じ、急いで乗り込んだ。
 座席は所々、空いていた。
 彼女は、一人だけ座れる座席に腰掛けた。
 バスの中で窓の外を眺める。青年が通る道の方ではない。反対側の景色だ。哀しく切ない表情をしながら、頭を隣の窓に軽くくっつけた。
 白が乗ったバスは出発し、その街を通り過ぎて行った。
 彼女が乗っているバスが通り過ぎたことも知らずに、待ち合わせをしていて先に喫茶店に来ていた青年が、傘を差して走り、彼女を探していた。
 しかし二人は、すれ違ってしまった。そして別れる形となった。
 お互い、望まぬ形で。
 白はバスの中で声を上げることなく泣いた。泣き続けた。
 そして次のバス停でバスが乗車すると彼女は下りてバスが通り過ぎ、見えなくなるとタクシーを捕まえてボロアパートである自宅に帰って来た。
 家には母親が今から仕事に行く様子だったが、帰って来た白、娘の表情と顔色の悪さに心配し声を掛ける。
「白、和輝さんとは……会って来たの? 」
 母親は、言葉を選ぶように繋いで白に尋ねる。
「会ってないよ。」
 白は、顔色が悪くなっていた。
 自分の部屋のノブに手を掛け、立ち止まり母親の顔も見ずに答えた。
「でも、電話で伝えた。もう、あなたには……二度と会わないって。」
 部屋の扉を開けて白は、先程の喫茶店で電話していた青年、和輝という人の顔や彼と三ヶ月過ごした日々を考えないようにして話す。
「私のせいで、和輝さんの人生を苦しめて縛るのはっ、違うから。」
 白は苦笑いしながら母親に振り向いて答えた。
「あの人には、幸せになってほしいから。」
 和輝の隣に居るのは自分じゃない。
 もっと相応しい人がいる。
 自分は子供で彼は大人だ。
 しかも彼は、同じ世界に居ても遠い存在で、手に届かない。生きている世界が違う人だ。
 一緒に過ごせた時間や彼の傍に居られたことが、おかしかったのだ。
「だから私は、これでいいの。」
どっち道、遅かれ早かれ離れることにはなっていた。
 これで良かったんだ。望んだ形ではなかったけれど。
「白……。」
 母親は、娘が無理している表情に心配になる。
「あの人の隣に居れた。奇跡なようなものだったんだもん。」
 陽気に笑いながら、落ち込んでない。吹っ切れたみたいにして、部屋の電気を付けて、着ている冬のコートを脱いでハンガーに掛ける。
「でも、あなたの夢はどうするの? 和輝さんと約束したんでしょ? 」
 母親に夢という言葉に白は目を大きく開いた。
 そして、陽気に笑う表情から一変して、怖い顔で母親に怒鳴り叫んだ。
「うるさいなあ!  夢なんて、もう、どうでもいいんだよ! 」
 白はそう伝えると自分の部屋に入り、バンッ! と強く扉を閉めて一人閉じこもった。
 彼女は扉の前で、背中を合わせ、ずるずるとゆっくり背をしゃがみ込み、床に手を付いて座る。
「消えてしまいたいよ。」
 白と和輝と約束した。
 何年後になるかは分からないし、道は違うけれど、きっと何処かでまた会う時は別の形で。お互いの夢を応援する。
 そう誓い合った二人の約束は、世間の目により批判を買い、打ち砕かれた。残酷だった。
 白はこの頃、小学六年で十二歳だった。

                ◆                                                        

 彼女は天真爛漫で素朴な子で家族から愛されていたが、五歳の頃になると父親と母親の価値観が合わなくなり、弟とも口論となり、家庭崩壊。十一歳の時に離婚。
 白は母親に引き取られ日本へ来ることになり、弟は父親が引き取りアメリカで別々の暮らしになった。
 日本での新しい環境暮らしに不安もあったけれど、楽しく人生過ごせたら良いなあ。と思った。
 しかし、初日登校日からクラスの男子生徒達から、白の顔は母親似で髪色は父親似であることを理解してくれず「本当にアメリカ人かよ。日本人なのにわざと髪の色染めてるんじゃないのか?」や「英語で何か喋ってみろよ!」など囃し立てられたり、髪を引っ張ったりし、彼女はそれに反発してクラスの生徒とは気まずくなった。
 けれど、クラスの一人の男子生徒と関わり、白に好印象を持つ生徒と仲良くなっていった。
 そして十二歳の九月下旬。
 白は、ある舞台を祖母達家族と観に行くことになった。
 しかし舞台を見ている間に腹痛となりトイレに行き、済ませて会場に戻ろうとするけれど迷ってしまい戻れなくなり困りうろうろ歩き回っていると。
 楽屋の外の廊下で、俳優の浅倉和輝あさくらかずきと出逢い、付き合っている女性との喧嘩を目撃してしまった。
 余計なお世話で白は仲裁に入り、話し合いをすることを進める。
 しかし、付き合っている女性から白は突き飛ばされて階段から落下してしまい、和輝のとっさの助けにより白には怪我はなく、彼が軽症負傷することになった。
 けれど白と和輝は、そのことがきっかけで三ヶ月だけ信頼、親しい関係を築く。
 付き人として芸能界のことや舞台に番組のスタジオ内など、他の俳優や女優さんらとの関わりを知る。
 そんな中、和輝とは別の俳優、堤陽太つつみ陽太という高校の少年とも出逢い、彼は白に諭すようにアドバイスをして、和輝と距離を置き離れることを伝える。
 白は和輝から距離を取り離れることを決断する。が、それより先に色々な人達から批判を浴びてしまう。そのことが引き金となり、白と和輝はもう二度と会わないことを誓い別れることになったのだ。
 しかし、それだけでは終わらなかった。その事を知る人達は白に批判し学校側や生徒、近所の人達との関係が決裂する。
 白は精神的ストレスに追い込まれ、グレて不良ヤンキーになり、喧嘩など様々なことを自由奔放にストレス解消のように現実逃避をし荒れた。
 そして月日は流れ、白が高校に上がっても相変わらずヤンキーを続けていた。
 そんな中で数々の奇跡な出逢いが自分自身を変えよう。全うな人生を歩み、いつか自分の夢を叶えようと平穏な学校生活励むことにし、ヤンキー脱却し、元の自分を取り戻した。
 が、前のようには上手く行かず、ヤンキー魂的なことが抜けず、何処に行っても上手く行かなかったが頑張った。
 しかし、大学一年で退学。
 大学卒業まで行こうと思ったが、ついに環境を変えようと進路を変えた。
 それでも芸能界で活動することが夢であることには変わりはなく、自分の意識でオーディションを受けること決める。
 しかし金髪姿では和輝や陽太に会うのは怖く、また色々な人達に批判を買われかねない。
 白は、焦げ茶髪のカツラを被りオーディション書類に応募し、合格する。
 書類類にはハーフであることや地毛金髪などのことは伏せた。
 元ヤンキーであったことなど秘密にし芸能界の世界に飛び込んだのである。
 が、同じプロダクション事務所に所属するモデル俳優、天宮流斗と、ひょんなことから彼に、焦げ茶髪ではなく地毛金髪でハーフであることも元ヤンキーであることもバレてしまうのだった。
 しばらく内密にしてくれと彼に口止めをし、近々、落ち着いたら事務所側などに報告することも伝えます。
しかし、落ち着くことなく白は二十八歳になった。

               ◆

 そして時は、西暦二〇二二年(令和四年)。
 白は見事に夢を叶え、雑誌やCD、ドラマ、バラエティ、歌番組と人気話題沸騰中になるくらいの有名人『カメレオン女優』になったのである。
 が、相変わらず地毛金髪ハーフであり、元ヤンキーであることは芸能界側や世間にも秘密にしていた。
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