純愛パズル

久遠寺風卯(ペンネーム)

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第1話 記憶の片隅

記憶の片隅(2)

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             2

 時間は正午前。法事が終わると帰る者もいれば、昼ご飯を食べて帰る者もまだまばらに残っていた。
 一つ一つのお膳の食事を、台所から大広間に運んで並べてゆく、ふぶき。
 ライムも手伝って運び、来ている妖怪達の前に置く。
 談話しながら食事を味わったり、酒を飲み交わしたりする妖怪達。
 しかし、その中で一だけが浮いた存在の様にお膳の食事が目の前に置いてあっても一口、いや箸も手をつけることなく、あぐら座りで静かに医学の本に目を通していた。
 観月は妖怪の女達に囲まれて、お座敷遊びなどをして呑気に過ごしていた。
 お膳や料理、酒と運んでいるのはライムやふぶきだけではないが、暇さえあれば、立ち止まって一の様子を二人は心配していた。
 今は穏やかな席でも、いつ険悪な雰囲気を醸し出し、喧嘩で大騒ぎになるか不安だった。
 慌しい台所で、作っていた煮付け等などの料理を小皿一枚ずつ盛り付けながら、口をムッと尖らせて不満げな顔で呟くふぶき。
「早く目障りな連中はさっさと帰ればいいものを。」
 ふぶきとは違い、ライムは火を扱う所で、一つの鍋に沢山のお吸い物を作っていた分を、お玉で、汁物用の器に注いでいた。
「ふぶき様……誰かに聞こえますよ。」
 零れない様にしっかりと目で確認しながら、ふぶきに注意を促していた。

         ◆

 それからどれぐらい経ったのだろう。
 賑やかな宴会の様に楽しく過ごしていたのも長く持たないものだ。

 ガシャン

 酒がまだ入ったままのグラスを乱暴に、お膳へ置き、一人の妖怪、山男が扇子を偉そうに仰ぎながら、わざわざ皆に聞こえるくらいの大きな声で突然、本に読み耽る一の名を呼んだ。
「杉浦殿~! よくもまあ、のこのこと……この場に平然と顔を出せたものですな~。」
 顔が赤くなり酔っているのは明らかだと思う者もが多いが、そこには険悪な雰囲気も出ていた。
 一は、読んでいた医学の本を閉じて、大きな声で話し掛けて来る彼の向かい側の席に、座って食事を取る山男と目を合わせる。しかし、彼は一切言葉を発しない。
 そんな一を無視しては、その山男は話し続けた。
「杉浦殿は葬儀以来、一度も法事に参加していなかった……それが十七年ぶりに来られた。これはどういった風の吹き回しですかな~? 」
 人を偉そうに見下すような態度で話し掛けて来る山男に、どう答えようか迷っていると、二人の間へ遮るように、ふぶきが声を発した。
「私が招待したんだよ。近々、経営している宿を九州に移転させると共に、この家も取り壊して、引っ越す予定になっているからね。」
 ふぶきは、いつでも出入り可能な襖の近くで、お膳付の食事を取りながら山男の会話に入る。
 彼女の言葉に棘はないけれど、冷徹な雰囲気は漂っている。
「九州……? 」
 一は首を傾げながら、ふぶきの言葉に疑問を持つ。
 二、三日前、確かに自宅宛で彼女から十七回忌法事の手紙付きの招待状が届いていたが、引っ越しの事は内容に書かれていなかった。また急な話だなあと一自身が内心驚いた。
「九州って言っても、大分さ。あそこは温泉の地で有名だからね。」
 ふぶきは、大分での新しい生活と仕事が出来る時期がどんどんと近付いて来ると思うと、とても生き生きとした表情とやる気を出している。
 そんな彼女の話を聞いていると、どっから出て来たのか気配を消して、一の頭にライムが遠慮もなく体重を傾けて顔を出す。
「そうなんですか!? 実は四月から杉浦様も九州の福岡で小児科クリニック開業なんですよ! 今までは気分ゆるゆるで他の病院とクリニック掛け持ちやらなんやりでしたけど。ねぇ、杉浦様。」
「うぐっ、お、重い~! 」
 ライムは、さりげなく会話に入り、悪気もなくそのままの体制でいた。しかし、一は彼女の体重に自分自身の身体が耐え切れず、傾き背筋が曲がってしまう。
 ライムは見かけの体重は軽そうに見えても、本来の姿は獣、そして一の身長よりも巨大な狼だ。
 彼にとっては腰を痛めるのではないかと思うほど本当に重く感じるのだ。
 そんなことはお構いなしにライムは一の身体が傾いた途端、彼の為に用意されていた料理の品をつまみ食い。それも一口というレベルではなく、どんどん口に運んでいき、気付けば全て空になった。
 一は、やっと退いてくれたライムにホッする。が、痛めた背中をさすりながら料理の品に目線を送る。目が点になるくらい驚き、まだ側にいたライムの襟首を捕まえて、苛立ちながら彼女の頬を伸ばす。
「ああ、しばらくは、クリニックと病院を行ったり来たりにはなるだろうけどな。」
 一はライムを叱りながら、今後の新しい暮らしの出来事を、少しだけだが一もふぶきに話して聞かせた。
「ライムが、なりひたって言うんれすか~? 」
「惚けるな。人の飯を勝手に平らげやがって! 」
 ふぶきは、そんな二人のやり取りになれているのか注意することなく、楽しそうに会話を続けた。
「へー! なら、今度はいつでも気が向いたら顔を出せるじゃないの。」
「わーい! そしたら、ドライブがてらに三人で行きましょう! 」
 ふぶきと一は、まだ九州に移り住んでいるわけではないのに、ライムはもう大分に行く気満々の様子。彼の仕置きから逃れると、なんでもなかったかのように喜びながらはしゃぐ。
「あー……でも、観月様は難しいかもですね。俳優業がありますから。」
 ライムがお座敷遊びに夢中になっている観月を見ていると、彼は三人の会話に気付き、目線を彼らに向けて会話に入り込んだ。
「確かに人間様の芸能界ってやつに職をつけているがだ。俺は妖怪、鴉天狗様だぜ? 行こうと思えばいつだって飛んで来れるさ。」
 そんな会話をしていると、観月が持つスマホの着信音が鳴る。
 胸元や袖の中を手で探り、見つけるとそれを取り出して耳にあてて電話に出る。
「はい。もしもし。」
 すると、第一声から大きな声を出す観月のマネージャーから電話が掛かってきた。
『烏間さん! あなた今、何処にいるんですか!? 』
「東北の遠野にいますけど……何か問題事でもありましたか? 」
『大有りだよ!! 今日は大事な映画の記者会見なんだよ!? 主役の君がいないと困るんだよ!! 烏間さんは、今芸能界じゃ人気絶好超の有名人イケメン俳優なんだよ!? 急に居なくなっちゃダメじゃないか! また世間の人やマスコミ、他の芸能人達からも色々記事やらSNSで叩かれるよ!?  』
 観月は掛かってきたマネージャーとの会話で眉間に皺が寄る。
「電話なのに、まるぎ声……。」
 一は呆れた顔で観月の方を見る。周りの皆も静まるくらい静かに観月とマネージャーの会話を聞き耳立てていた。
「っ、分かりましたよ。十分後また連絡します。少々お待ちを。」
 一端、電話を切ると観月は、深い溜め息を吐く。
「勝手に抜け出して来たんですね。観月様。」
 ライムに指摘されると「るっせー。」と言って捻くれる観月。
 彼は、妖怪・鴉天狗という存在の立場がある。だが、妖怪の世界でだけでは生きてはいけない。一と一緒に東京で暮らすようになって十六年の間に観月は、とある東京の街の道端で、技能事務所の人にスカウトを受けたことで、俳優デビューすることになった。
 今やドラマ、バラエティ、舞台、時代劇、歌手と様々に大きく活動している。
 と、言っても。今のこの派手な髪色長髪の髪型ではなく、黒く短い髪型のカツラを被っての出演だ。長い髪は観月にとってはとても大切なこと。当初は事務所の人からは、髪をカットしてくるように指示を受けていたが、彼はそのことには首を立てず「髪を切るって話になるなら、この話はなかったことで。」と断り帰るつもりでいた。しかし、強引に引き止められ、カツラを被っての出演となった。
 芸能界に入った以上、本当は里帰りなんて出来る対場ではない。特に有名になればなるほどだ。
「どうするんだよ? 戻るのか? 東京に。」
 一は、観月が東京に戻るなら一緒に帰ろうかと淡い期待をする。が、そう上手く事が運べば良い話なのだが、虚しくもそうはならないのがお約束な展開だ。
「戻る。わけねぇだろ。いつものことをするだけさ。」
 大広間の高い壁にある神棚と一緒に立て掛けられて古代の丸い手鏡を手に取って、自分の顔が鏡に映ることを確認し、認識出来たか思うと鏡が一瞬だけ眩く光る。
 目が眩んだのも束の間、手に取っていた丸い手鏡は神棚に戻っていて、目の間には、もう一人の観月が現れていた。
「雲外鏡、悪いが緊急事態だ。いつものように、俺の代わりを務めてくれ。」
 鏡の妖怪、雲外鏡は自分の鏡を覗いた者の姿なら、誰の姿にも変身出来て、鏡の外に出ることも可能な能力を持っている。
 観月は、自分に化けてくれた雲外鏡に、行先の場所のメモを手渡した。
「お役目とあらば。」
 上から下まで見ても本物そっくりだ。声も観月そのもの。普通の人ならドッペルゲンガーかと思うに違いないがうらいだ。
「頼んだぞ。また折り返し連絡する。」
 観月の姿で雲外鏡は何もない場所で、円を人差し指で大きく描く。
 描かれた範囲だけに謎の空間が開いた。
 それは霊道。妖怪や死んだ人々が通れる道でもあり、異空間でもある。これを使いこなせて移動出来るのは、妖怪に死神、幽霊類いや怪奇な能力を持つ存在だけだ。
 雲外鏡は、霊道の中に入り観月の代わりに東京へと向かって行った。
「これで問題は解決。」と、観月は安堵する。その一方で、一やライムにふぶきの三人は、白い目で彼を見つめた。
「なんだよ? 俺なんか悪いことしたか? 」と返事を返すと、三人が同時声を揃えて「した。」と呟いた。
「何を? 」
 雲外鏡に対して接した自分のやり方に何か不手際でもあったのだろうかと考える。
「本当に分からないんですか!?  」 
 ライムは、観月へ獣の様に唸る態度をとる。
「最低。自分の撒いた騒ぎを全部、雲外鏡に押し付けて任せるなんて。しかも、パシリ扱いとは。」
 ふぶきはライムと同じ思いなのか、自分の冷気を観月の方へ向け軽蔑するように睨み付ける。
「寒っ! ぱしりって……嫌な言い方はやめろ。生憎だが、こっちは芸能人の前に人間でもない。妖怪だ。それに俺は自分のルールで生きる性分なんだよ。」
 観月の偉そうな態度には一も呆れてしまう。
「悪いことは言わねぇ。たまには雲外鏡に「ありがとう。」とか優しい言葉の一つくらい掛けてやれよ観月。」
「何を偉そうにっ! 自分だって、俺と同じように雲外鏡を使うこと多いだろ! 一。」
 観月の言う通り、雲外鏡をたまに自分の代わりとして使う時もあるのは事実。しかし、一の代わりに働いてくれた分、雲外鏡には感謝の言葉や、何かしらのお礼を密かにしていたのだった。
「俺はいつもちゃんと雲外鏡が仕事を終えてくれたら、感謝の気持ち伝えているけど」
「久しぶりにムカつくぜ。一。」
そんな話題を逸らすことも束の間。山男が怒鳴り出した。
「話をすりかえないでいただきたい! 私は杉浦殿に聞いているのです! 何故十七年ぶりにこちらの土地に来たのかを! 」
 重たい空気の中、一がこの家に足を踏み入れて法事に来たのを良く思っていない者達が、彼に冷たい視線を向ける。
「……」
 そんなことは、自分自身が良くわかっていた。
 ここに来た時から、先に招かれた妖怪らの一部の者達は一を受け入れていない。忌み嫌うように、人種差別的な目を向けられていた。けれど、それだけではなく、怒りなども含まれているのだろう。と、一は心の中で感じていた。
 それでも、彼は未だに口を閉じ、何も語らずにいた。
「記憶を思い出した上で、この地に来られたわけではございますまい。」
「……」
 ただ、山男から目を逸らすことなく静かに耳を傾け、話を聞き続けていた。
 一の表情は冷静、いや無表情だ。こんな罵倒なことを言われても、怒りどころも悲しみも、何もかもが心に刺さらない。
「本来なら、とおの昔にあなたはこの地に足を踏むこと来ることも……いや、我々と出逢うなど無縁なはずだ。」
 山男は決して、食事の席から離れているわけではない。一もそうだ。
 お互いに向き合って会話をしている。しかし、山男だけが一方的に嫌みのように話し続けているだけだった。
 観月は、お座敷遊びを続けるつもりだったが、賑わっていた雰囲気をぶち壊している山男に苛立ち、声を少し低く落としながら目を細めて彼に視線を送って注意する。
「口を慎め。法事が終わったとはいえ、姫君の十七回忌だぞ。」
 しかし、山男は態度を改めることもなく、嫌み事は続く。
「それがなんだと言うのです? 亡きわらびはもうこの世にはいない。冥土に還ったか、あるいは成仏し転生されている。だいたい、法事など元々は人間共が勝手に作り出した行事。
 我々には不必要な事ではないですかな? 」
 観月は、こういった辛気くさい空気や嫌な雰囲気は好きではないし、我慢出来ずにいた。
 山男をどう黙らせるか、など考えるよりも先に身体が動き、手の平から錫杖を取り出し、仕込み刀を抜き、使って彼を脅そうと静かに近づこうとする。
 けれど、仕込み刀が抜け出て来ない。氷付けられてカチッコチに固まっていた。
 氷雪の能力だと分かると、ふぶきしかいないと思い彼女に目を向ける。
「落ち着きな。観月……早まった真似は止めな。」
 観月にしか聞こえない程度の声で、ふぶきは口ずさむように呟き、彼を諭した。
 幸にも、一の傍にはライムがいる。万が一、何か騒動が起こっても二人を押さえつけることも、止めることも容易い。と、ふぶきは目線を観月に送り、待ち耐えろと眉間に皺を寄せつつも説得する。
「杉浦殿、ここにあなたが来られるのは亡き蕨様のはからい。幸福な力のおかげと言うことをお忘れでしょう? ははははっ! なんたる暢気な人間よ。」
 調子に乗ってか天狗の様に嘲笑い、一を皆から孤立させるように酷く罵る様に言う山男。
 すると、他の妖怪達も声を上げる。
「亡くなった蕨様が可哀想……。」だの「記憶がないからと言う理由で、お墓参りどころか法事にも一度も顔を出さないで……今頃になって来るなんて何を考えておられるのやら。」や「理不尽な男よ。」と批判の声が飛び交い出す。
 ライムは一の隣で、彼の表情を覗き見る。
 一は、これだけ大勢の批判を駆っても、反発どころか悔しい表情もしない。
 まだまだ飛び交う言葉。
「この、薄情者。」だの「ひとでなし。」と続く。
 すると、川童は酒を注ぎながら、とんでもないことを口に出した。
「蕨様は、何故このような男を慕ったのか理解出来ませんなあ。ろくな男じゃない。」
 一人が言うと今度は大天狗が、漬物を噛みながら不満を言う。
「まだ五百年前に付き合われていた人間の方がマシだったのでは? 」
 川童と大天狗が言い終えると、また山男が嘲笑いながら言う。
「いやいや、七十年前ぐらいの人間の方がマシだった気がしますよ~! 」
 ライムは、妖怪達から何を言われても耐えている一に対し、尊敬していた。
 けれど、彼女にはもう我慢できなかったのか獣のように唸り、狼の姿になって懲らしめてやろうかと考え行動し始める。
 そんな中、一は額を押さえて身体が少しだけ傾く。
 一自身にも、よく分からない。突然、周りの声が遠くなっていく。耳鳴りも長く鳴り響く。
 それと同時に、身体も重く圧し掛かり、頭痛もし出す。
 視界さえもぼやけ始める。
「あははははははっ!」と妖怪達の笑い声が飛び交う。
 一は、一端落ち着こうと目を瞑って、眉間に皺を寄せる。
「……。」
 目を瞑ると、一は一瞬意識が飛び、フラッと眠りに落ちた。
 すると、眠ったかと思いきや、すぐに目を開くと人格が変わったように目を細めて立ち上がる。
 そして、目の前にいる山男の胸倉を掴み、壁に強く叩きつけた。
「っ!? な、何をする!! 貴様っ! 」
 山男は、一に胸倉を掴まれながらも、抗い足をバタつかせながら彼を睨み付ける。
「面白れーことをほざくじゃねぇか。俺らの方がマシとは、初耳だな。」
 一は、先程と打って変わって冷静差も落ち着きもない。
 性格や言葉使いも何もかもが彼らしくない。彼自身の身体の周りには、何かの霊が憑りついている。それは、ここにいる皆が感付いた様子で、あれほど騒ぎたてていた妖怪達の声は静まり返る。
「テメーらは、今も昔もこいつと変わりなく罵倒や陰で悪口をほざいていただろうが。
 笑わせる。減らず口だけは専売特許……いや一人前の様だな。」
 一に憑りついた霊は、彼の身体を借りて言葉を吐いた。
 冷徹な顔で、山男を見下ろすように顔を近づける。
「人間風情が偉そうに! 」
 それでも山男は、態度を変えることなく反抗し続けた。
  一自身の身体を使って霊が次にとった行動は、胸倉を掴んだ右手とは別のもう一つの空いた左手から、刀が出て来る。
「ヒイイイイッ! 」
 偽物ではなく本物の刀であるから、山男は斬り殺されると慌てふためく。
 霊は一の身体を使って、左手だけで刀の柄を掴み、鞘から素早く引き抜いた。
 そして、グサッと山男の顔隣の襖に刀を突き刺した。
「今すぐ、この妖刀で冥土に送ってやってろうか? 老いぼれの妖怪共。」
 霊は冷徹な表情から一転し、殺気立った目をしていた。
 山男は身体全体がガクガクと震え怯えていた。
豹変した杉浦の行動にふぶきは「そのぐらいにしておきな。津九一つくいち。」と叫んだ。
「相変わらず、こいつには過保護だな。」
 そう霊の名を叫び止めたふぶきに対して、津九一は口元をくの字にひん曲げて笑い、呟き、掴んでいた胸倉を放した。そして、一の身体から霊の気配を消す。
 すると、一は意識が戻り、今目覚めたかのように、目をぱっちりと開いた。
「ん? 」
 目の前に起こっている状況に着いて行けず、首を傾ける。
 山男が泡を吹いて、気絶している。
襖には刀が突き刺さったまま。鞘は畳に転がっている。
 周りの食事台や皿、料理や飲み物は散らばり散乱もしている。
 妖怪達は一の突然の豹変した態度に恐怖し、戦いて彼から距離を置いて様子を見ていた。
「俺……。」
 自分が気を失っている間に憑りついた霊が一体、何をしたのか分からない。だが、怖がらせるような行動を取ったのだということは理解出来た。
 一は、暗い顔をしながら、無言で突き刺された刀を引き抜き鞘に納めた。
 ふぶきは、心配そうに一に掛け寄り「杉浦? 大丈夫かい? 」と声を掛けた。
 けれど、一は一切ふぶきの顔を見ようとせず、他の妖怪達の表情も見ることなく、ふらりと「少し、外の空気吸ってくる。」と言って大広間を一人で出て行った。

             ◆

 一は屋敷の瓦屋根に一人で上り、寝そべって青空を仰ぎ見る。
「……。」
 そして。持ってきていた音楽プレイヤーを取り出し、イヤホンを耳につけて静かに音楽を聞く。癒しのメロディーを聞きながら、ゆっくりと流れる雲を見る。
「俺は……どうして何も覚えてないんだ? 」
 気付けば、無意識に自分の口から勝手に言葉がこぼれた。
 元々、ここへ来たのは、ふぶきから十七回忌に招待を受けたからだ。
 本当は、知りもしない相手の法事には参加しないはずだった。でも、知り合いでもある彼女からの誘いなら、行かないわけにもいかなかった。
 しかし、この屋敷を訪ればどこか、懐かしい感じがする。
 そう、ふぶきにライム、観月居て……そしてもう一人、誰かが居た気がした。
 思い出そうとすると、酷く強い頭痛に苛まれる。
 目を瞑り、眉間に皺を寄せながら悔しい思いをしながら唇を噛んで悩んでいると、外からふぶきの大きな声が聞こえた。
「杉浦ー! ちょっと手伝ってくれる? 」
 ふぶきは、瓦屋根に上っていることを常に知っていたのか、屋根を仰ぎ見ながら一の名を呼んだ。
 一は身体を起こして、下に居るふぶきを静かに見下ろした。
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