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第1話 記憶の片隅
記憶の片隅(3)
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3
ふぶきに頼まれたのは、食器洗いだった。
一は、台所で大量の食べかす、飲み物等のグラス、取り皿やお椀を食器専用のスポンジに食器用洗剤つけて綺麗に素早く洗う。
「ありがとうね。あんたが居ると助かるよ。」
ふぶきは、残飯処理や、使い終えたのや、もうしばらく使わない食器類を木箱に直しながら、一に礼を伝える。
「いえ、お役に立ててなによりです。俺には、こんなことぐらいしか出来ませんから。」
一は、まるでどこかふぶきに対して他人行儀だった。
( おかしい。俺は、ふぶきにこんな話し方をしていたか? )
以前はこんなはずじゃなかった。もっと、打ち解けて敬語ではなく溜口で親しく話していた気がする。そう思いつつも一はふぶきに話し掛けた。
「あの口うるさい奴らの事は気にする必要はないからね。人間嫌いな連中の戯言だと思って言わせておけばいいんだからさ。」
ふぶきは顔を穏やかにして励ます言葉を掛けてくれたが、一を良く思っていない妖怪達の険悪な雰囲気を見れば、気にしないわけにもいかない。
「俺、片づけを終えたら東京に戻ります。法事も終わったし、ここは……俺の居るべき場所じゃない気がするので。」
一は心苦しく思いながら、ふぶきにそう伝えると、意外にもふぶきは引き止めるそぶりもなく心よく一が帰ることに納得してくれた。
「そう。残念だね……。まあ、あんたが元気そうにしている姿が見られただけでも、良しとしますか。」
そんな会話をしていると、ライムが気配を消してか突然、顔を出して「え~!? 帰っちゃうんですか!? もうちょっと居ましょうよ~! だいたい二、三日泊まる予定だったじゃないですか~! 」と子供の様に床で駄々をこねて、一とふぶきの前で騒ぎだした。
「ライムと観月は泊まればいいさ。このまま。俺は一人で帰るから。」
ライムは、ムッとした顔で一を帰らせまいと、彼の腕をぎゅっと強く両腕で掴んでいる。
ふぶきは、彼女の事を後回しにして「よし! なら後で野菜やらなんやらを荷物送ってあげるから、東京でも福岡でも頑張んな。」と一に伝えた。
「あ、ありがとうございます。」
「でもその前に、ちょっと待っててくれない? 渡したい物があるんだよ。」
◆
数分後、ふぶきは蔵にしまい込んでいた大きな段ボ―ル一箱を一の前に持って来た。
「実は十七年前にあんたがこの屋敷に残して行った品物が、いくつか残っていたからさ。処分するか売り物、あるいは持って帰るかしてくれないかい。」
ふぶきは、スパッと簡単に決めてくれれば帰っていいからと言ってはいたが、本当は返す気ないのではないかと思いはじめる。
「わ、分かりました」
一は、段ボールの中を覗き込む。
「でも、そんな物、残して屋敷を出たっけな~? 」
だいたい十七年という月日が経っても残っているものなのか。適当に始末していても良かった感じだが、それよりも何よりここで過ごした記憶だけは、ほとんどごっそりと抜け落ちている。気がした。
「ま、いっか。さっさと仕分けして帰ろう。」
中身を一つ一つ出して、品を確認する。が。
「全然記憶にない代物ばかりなんだが……。」
一は、呆れた顔をしながら仕分けはじめた。
ほとんど、おもちゃやぬいぐるみにトランプ、囲碁やオセロ、人生ゲーム等の部屋で遊ぶゲーム類ばかりが出てくる。十七年前は三十歳ぐらい。遊び呆ける暇もなく忙しい仕事に追われる日常なはずだが、こんな物を一体誰としたんだかと思いながら、いらない物に分ける。
するとその中に、一つだけ細い筒のような箱に目が留まる。
手に取り、箱を空けて中身を見る。
それは簪だった。
朝顔と飾りが着いた綺麗な簪。明らかに女性が使う物だ。何でこんな品がと不思議に思う。
「俺が誰かの為に、わざわざ買って、渡したのか? 」
うーんと顎に手を乗せて考える。
この屋敷に残して来た品なら、一度は誰かの手に渡った物なのは確かだ。
「もしかして、あの写真の女?」
一は、簪を手にして仏間部屋へ向かって行く。
大広間には、もうほとんど誰も居なくなっていた。
ライムと観月が座布団や障子を設置したりして、片付けていた。
「あれ? 帰ったんじゃなかったのか? 」
観月は一に声を掛けるが、彼は無視をして仏壇に供えてある写真の女性と持っている簪を比べて見る。
「俺が? これを……? 」
未だ疑問に思っていると、誰かの声が聞こえた。
『大切にするわ。ありがとう。一。』と、言う女性の明るい声がする。気がした。
次の瞬間、また再び頭痛に苛まれる。
「くっ! なんなんだ! 」
額を押さえながら考えていると、脳裏にふっと、今まで忘れていた言葉や記憶が、映像の様に浮かんでくる。
写真の女性やふぶき、ライムや観月、妖狐と十七年前の記憶が流れ込んで来る。
急激な情報がドッと入り込んだせいか、混乱と頭痛が苛まれる。
立っているのも辛くなる中で、一は仏壇のある座布団に座り、写真に手を伸ばす。
最後の映像に、自分が簪を持って歩く映像が見える。それを、棺桶まで近付いて誰かの手に持たせる。
「なんで……ここにはもうないはずなのに。」
そう呟くと一は意識が飛び、ガチャン! と仏壇の道具を散らばせてひっくり返すほどにぐったりと倒れた。
「一!? 」
「杉浦様!? 」
意識が遠のく中で、一は心配そうに見て駆け寄るライムと観月の姿が目に映る。
しかし、強制の様に瞼が重くなる。
一は、手に持つ朝顔の簪を無意識に握りしめて気絶した。
◆
気絶した一の意識は、夢の中。
一が握りしめていた物が、過去に起きた出来事を、忘れてしまった十七年前の記憶も全て色鮮やかに思い出すことになるとはつゆ知らずに。
彼の物語と出逢い失った少女との物語の時代が巻き戻る。
ふぶきに頼まれたのは、食器洗いだった。
一は、台所で大量の食べかす、飲み物等のグラス、取り皿やお椀を食器専用のスポンジに食器用洗剤つけて綺麗に素早く洗う。
「ありがとうね。あんたが居ると助かるよ。」
ふぶきは、残飯処理や、使い終えたのや、もうしばらく使わない食器類を木箱に直しながら、一に礼を伝える。
「いえ、お役に立ててなによりです。俺には、こんなことぐらいしか出来ませんから。」
一は、まるでどこかふぶきに対して他人行儀だった。
( おかしい。俺は、ふぶきにこんな話し方をしていたか? )
以前はこんなはずじゃなかった。もっと、打ち解けて敬語ではなく溜口で親しく話していた気がする。そう思いつつも一はふぶきに話し掛けた。
「あの口うるさい奴らの事は気にする必要はないからね。人間嫌いな連中の戯言だと思って言わせておけばいいんだからさ。」
ふぶきは顔を穏やかにして励ます言葉を掛けてくれたが、一を良く思っていない妖怪達の険悪な雰囲気を見れば、気にしないわけにもいかない。
「俺、片づけを終えたら東京に戻ります。法事も終わったし、ここは……俺の居るべき場所じゃない気がするので。」
一は心苦しく思いながら、ふぶきにそう伝えると、意外にもふぶきは引き止めるそぶりもなく心よく一が帰ることに納得してくれた。
「そう。残念だね……。まあ、あんたが元気そうにしている姿が見られただけでも、良しとしますか。」
そんな会話をしていると、ライムが気配を消してか突然、顔を出して「え~!? 帰っちゃうんですか!? もうちょっと居ましょうよ~! だいたい二、三日泊まる予定だったじゃないですか~! 」と子供の様に床で駄々をこねて、一とふぶきの前で騒ぎだした。
「ライムと観月は泊まればいいさ。このまま。俺は一人で帰るから。」
ライムは、ムッとした顔で一を帰らせまいと、彼の腕をぎゅっと強く両腕で掴んでいる。
ふぶきは、彼女の事を後回しにして「よし! なら後で野菜やらなんやらを荷物送ってあげるから、東京でも福岡でも頑張んな。」と一に伝えた。
「あ、ありがとうございます。」
「でもその前に、ちょっと待っててくれない? 渡したい物があるんだよ。」
◆
数分後、ふぶきは蔵にしまい込んでいた大きな段ボ―ル一箱を一の前に持って来た。
「実は十七年前にあんたがこの屋敷に残して行った品物が、いくつか残っていたからさ。処分するか売り物、あるいは持って帰るかしてくれないかい。」
ふぶきは、スパッと簡単に決めてくれれば帰っていいからと言ってはいたが、本当は返す気ないのではないかと思いはじめる。
「わ、分かりました」
一は、段ボールの中を覗き込む。
「でも、そんな物、残して屋敷を出たっけな~? 」
だいたい十七年という月日が経っても残っているものなのか。適当に始末していても良かった感じだが、それよりも何よりここで過ごした記憶だけは、ほとんどごっそりと抜け落ちている。気がした。
「ま、いっか。さっさと仕分けして帰ろう。」
中身を一つ一つ出して、品を確認する。が。
「全然記憶にない代物ばかりなんだが……。」
一は、呆れた顔をしながら仕分けはじめた。
ほとんど、おもちゃやぬいぐるみにトランプ、囲碁やオセロ、人生ゲーム等の部屋で遊ぶゲーム類ばかりが出てくる。十七年前は三十歳ぐらい。遊び呆ける暇もなく忙しい仕事に追われる日常なはずだが、こんな物を一体誰としたんだかと思いながら、いらない物に分ける。
するとその中に、一つだけ細い筒のような箱に目が留まる。
手に取り、箱を空けて中身を見る。
それは簪だった。
朝顔と飾りが着いた綺麗な簪。明らかに女性が使う物だ。何でこんな品がと不思議に思う。
「俺が誰かの為に、わざわざ買って、渡したのか? 」
うーんと顎に手を乗せて考える。
この屋敷に残して来た品なら、一度は誰かの手に渡った物なのは確かだ。
「もしかして、あの写真の女?」
一は、簪を手にして仏間部屋へ向かって行く。
大広間には、もうほとんど誰も居なくなっていた。
ライムと観月が座布団や障子を設置したりして、片付けていた。
「あれ? 帰ったんじゃなかったのか? 」
観月は一に声を掛けるが、彼は無視をして仏壇に供えてある写真の女性と持っている簪を比べて見る。
「俺が? これを……? 」
未だ疑問に思っていると、誰かの声が聞こえた。
『大切にするわ。ありがとう。一。』と、言う女性の明るい声がする。気がした。
次の瞬間、また再び頭痛に苛まれる。
「くっ! なんなんだ! 」
額を押さえながら考えていると、脳裏にふっと、今まで忘れていた言葉や記憶が、映像の様に浮かんでくる。
写真の女性やふぶき、ライムや観月、妖狐と十七年前の記憶が流れ込んで来る。
急激な情報がドッと入り込んだせいか、混乱と頭痛が苛まれる。
立っているのも辛くなる中で、一は仏壇のある座布団に座り、写真に手を伸ばす。
最後の映像に、自分が簪を持って歩く映像が見える。それを、棺桶まで近付いて誰かの手に持たせる。
「なんで……ここにはもうないはずなのに。」
そう呟くと一は意識が飛び、ガチャン! と仏壇の道具を散らばせてひっくり返すほどにぐったりと倒れた。
「一!? 」
「杉浦様!? 」
意識が遠のく中で、一は心配そうに見て駆け寄るライムと観月の姿が目に映る。
しかし、強制の様に瞼が重くなる。
一は、手に持つ朝顔の簪を無意識に握りしめて気絶した。
◆
気絶した一の意識は、夢の中。
一が握りしめていた物が、過去に起きた出来事を、忘れてしまった十七年前の記憶も全て色鮮やかに思い出すことになるとはつゆ知らずに。
彼の物語と出逢い失った少女との物語の時代が巻き戻る。
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