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#3.「先輩、耳も弱いんですか?」

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「お待たせしました先輩。お、ちゃんと座って待ってますねーえらいえらい♪」

優香が俺の後ろに立ったかと思うとポンポンと小さい手で頭を撫でられる。それだけでも十分なのに、スイッチが入っているのか、ついでと言わんばかりに首に息を吹きかけたり、指でつーっと首筋を撫でてくるものだから仕方なく優香の手をつかみ、止めた。

「もう、先輩がこんなのが良いって言うからやってあげてるんですよ……それを止めるって。
あ、もしかして、恥ずかしいから、とか? ……あー無言ってことはそうなんですね。なるほどなるほど……」

 そう言いながらまた首筋を触ろうとする優香の手をまたつかんで制す。おそらく反応を楽しんでいるのだろう。

「こんなの、見せたASMRにはなかっただろうって? さあ、それはどうでしょう。もしかしたら入ってたかもしれませんよ~? 寝落ちとかして聴いてなかったり」

 俺がだいたいASMRを聴くのは昼間なので寝落ちはまず無いのだが……まあ優香は知ってるわけないからしょうがないか。

「さて、じゃあ、本題に移りましょうか」

 優香が方に手をおいてきたと思うとその瞬間にぐっぐっと圧力を感じる。

「最初はマッサージからですけど……! これ、きつくないですかぁ!? 先輩がっしりしてて、うまく手に力、入ら、ないっ!」

 中学の頃に陸上をやっていたこともあって、確かに周りと比べたら筋肉はついてる方だ。それに、優香の手は本当に小さい。犬とか猫くらいのサイズ。ほんとに。

「はあ、ちょっと休憩……」

 数分やったところで優香は疲れて横にあった椅子に座ってしまった。

「先輩、昔はこんな体じゃなかったのにな……」

 そうつぶやきながらシャツの裏に隠れている腹を見るためなのか、俺のシャツに手をかけてくるのでまたまた止めることになった。

「ちょっと、見せてくださいよ! ……え? 別に見られても減るもんじゃないだろうに」

 それでもダメなものはダメなので、なんとか優香をなだめることになった。

「むぅ……いつか絶対見てやる」

 頬を膨らませながら悔しがる優香を横目にASMRの内容を確認する。
ちなみに、今のマッサージはASMR作品の最初のトラックに収録されているものだ。
 もしこのまま順番通り行くとしたら次は……
 
 ハグしながらの囁き――
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