俺の恋人はタルパ様

迷空哀路

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4〔練習〕

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新たな新兵器を、暗い部屋の中で体に当てる。今日は合うものが見つからなかったので、CDは無しだ。
「あ、待って……っ、もう無理だって……。ごめんなさい……っ。ん、分かったぁ……ここ? こんなとこ触っても……ん、あっ、あ」
買うつもりのなかった筆を使って、耳や足の付け根をそっと撫でる。びくびくと体が跳ねるのに、ジンは肝心なところを触らせてくれない……という設定。我慢して、焦らしてー的なシチュが燃えるのだ。
「ここなんて何も感じなかったのにぃ……あっ、指の間、くすぐったい、はぁ……っ、こんなことされて……」
俺の体こんな風になったの、ジンのせいだよ。いつか本人に言いたいセリフナンバーワン。
「好きっ、あ……ジン、好き」
この世にいない人物を思い浮かべて、好きになって、自分を慰めている。
この世で最も切ない恋をしているのは自分なのではないか。だって、どこを探してもいないんだから……俺の中だけに存在する、いや俺の中にすら、ほんのちょっぴりだ。俺が忘れたら、全て消えてしまう小さな存在。
相手のことを知らないまま、見えないまま好きだと言ってみる。多分好きだから。好きになるから、きっと……。
「早く……早く会いに来て。寂しいよ。ジン……」
そっとジンの一部という設定のものを、頰に擦り寄せる。次は温めてみようかな。


せっかくジンを買ったので、準備を進めた。今度は後ろを広げる為の道具を買う。
想像とは違い全然上手くいかなくて、痛くて嫌になって目を閉じる。涙が流れた時だった。一瞬見えた気がした。
薄くうすーくぼんやりと、全身でもないけれど、こちらを見下ろす長髪の美しい人が。
「ジン……」
その顔は優しかった。やっと会いに来てくれたのかな。
その甲斐もあってか、指一本の抜き差しは苦労せずできるようになっていた。気持ちいい部分はまだ分からない。

これをやってる間のイメージはずっと同じだった。
ベッドの端にジンが座っていて、俺はベッドの上で苦戦中。視線は本に向いていて、穏やかな表情だ。
こんな状況で無視されているのがいい。綺麗な横顔を穴が開くほど見つめて、ジンの為に広げていく。
ただ時折苦しくなるから、そんな時は何も言わずにこっちを向き、薄く笑みを浮かべて、軽く頭を撫でて……また本に戻る。
そうするとやっぱり体温が上がってしまうから、優しい彼を求めている自分もいた。苦痛を和らげるコツだろうか。
「待ってて……もう少しで、できるから」
ぼんやりとしたジンは何も言わない。頭の中で俺の考えた言葉が、ジンの声で再生される。
『無理をするな。急がなくてもいい。お前ができるようになるまで、待っていてやる』
「……ありがと。でも、俺も早く繋がりたいから頑張る。好き……好きだよ」
声に出すことで更に満たされた。頭の中の会話ばっかりで、実際喋るのはあまりしてこなかったから、これからの会話はなるべく口にしよう。外ではできないけど。
「外で無意識に言っちゃったらどうしよう。慰めてね。あ、ジンなら恥ずかしいのも、そういうプレイにしちゃうのかな」
今日もジンの一部を枕元に置いて眠る。誰かに見られたら絶対に引かれるな、これ。


こつこつと毎日続けて、目に見える成長は自分の体だった。口の中にちょっとだけ咥えられるようになったし、小さい物なら後ろに入るようになった。たまに良い場所に当たって、うまく動かせば、それだけで達せるようになりそうだ。
もちろんまだジンのは入らない。でも入り口に当てたり、それっぽく尻に触れさせるだけでも、体は期待している。付け根やワキに挟んでいると、知らないうちに濡れていた。
「やばい……感じるとこが増えていく。あちこち敏感になってきちゃった」
ジンのせいだよーと言ってみるけど、今どこにいるかは分からない。
「一途だなぁ。ま、浮気する相手もいないんだけどさ。尽くしても返ってくるか分かんないのに、こんなに一生懸命になっちゃって。健気じゃない? ねぇねぇどうよ、こういうの好き?」
『……』
「ふふ……ジン。いいよ、何も言わなくて。……愛してるよ、おやすみ」

どうしても、ジンの中で感じたい部分があった。まぁもちろんそこも大事なんだけど……。
自分のじゃダメだった。もっと大きくて、暖かい手が欲しい。頭を撫でて、全身に触れてほしい。その願いは日に日に強くなっていた。その辺の人に土下座して、頭を撫でてもらおうと考えたぐらいだ。

もやもやとしたまま、適当に町をぶらつく。たまたま入った裏道に、コスプレショップがあった。いかがわしいものではなく、アニメのキャラクターを再現したコスチュームが並んでいる。
「神父とかやばいだろ。軍服、タキシードも似合わないはずがないわ。あ、怪盗! 怪盗だろあいつ」
マスクの下でぶつぶつ呟く。一応まだ不審者扱いはされていないようだ。
広い店で、三階まであるらしい。せっかくなので全部見てみる事にする。
「ウィッグか……」
ずらりとマネキンの頭部が並んでいる。ちょっとギョッとなったけど、近づいてみた。思ったよりもサラサラで綺麗な髪だ。淡い色が特に美しい。
「……これは」
ジンだった。女性のマネキンだけど。
金髪のストレートはよく見かける。でもなかなかドンピシャの巻き具合が今まで見つからなかった。しかしこれは、色味も手触りも申し分ない。上は真っ直ぐで、下はふわふわの緩い巻き髪。
感動してじっくり触っていたら、後ろから店員の視線を感じた。買った。
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