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8〈過去3〉
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どこか不安そうだけど、すんなりと部屋の中に入ってきた。ベッドの上に座らせると、いつもは夢の中でしか存在しない光景になっていた。
「リツ……くん?」
「……もう、やめたら」
「えっ」
くるくる回るタイプの椅子に座って背を向けた。意識すると鼓動が早くなっていく。
「あんなの、やめたらいいのに……そんなに大事なもんなの」
「……それって、さっきの子達みたいのと遊んでることに対して、かな?」
「本気じゃ、ないんでしょ。あんたは、誰にだって本気なんかじゃないんだ」
相手に向けているというより、呟いてるに近かった。どんな顔をしているのか気になるけど、振り返れない。
「……うん。そう、だね。俺は誠実じゃないよね。言い訳するみたいになっちゃうけど、俺から付き合ってなんて言った子はいないんだ。彼女よりも前の、友達になろうとも言ってない。勝手に集まっていたんだけど、まぁ都合がいいから強くは言ってなかったんだ。でも、それは……ただ面倒を後に回しただけだったよね」
声が聞こえなくなって少しだけ首を動かすと、携帯をいじっているみたいだった。やがて満足したようにこっちを見る。目が合ったけど、それに関しては気にしていないみたいだった。
「消しちゃった。随分シンプルになったなぁ……あ、この際電話番号も変えちゃおうかな。……本当は前から切りたかったんだ。君のおかげで割り切れた。ありがとう」
「……っ」
なんだか、よく分からないけどムカついた。清々しい顔をしていたからかもしれない。よく知らないけど、彼女達じゃなくてこいつに天罰が下ればいいと思った。
「さっきは助かった。リツくんにはあまり好かれてないと思ってたから……お兄ちゃんって言ってくれたことも嬉しかった。ねぇ、リツって呼んでもいい?」
立ち上がり、近づく間にこんなことを吐いていた。節々にイラつく言動があったけど今は堪えて、俺のことも好きに呼んで、なんて言っている男の隣に座った。
心の距離も縮まったと勘違いした兄様は、楽しそうにこちらを向く。
「やっぱり嫌? リツって呼ぶの」
「別に……」
でもこの顔が、自分みたいに染まっていくのだと思ったら許せてしまった。
「じゃあ……ナオって呼ぶ」
「……うん。なんか恥ずかしいね、あはは。無理して家族とは思わなくてもいいけど、リツとは普通に仲良くなりたいんだ」
「……っ」
あまりに素直だと、馬鹿に見えるらしい。で、馬鹿は少しだけ……可愛く見えるようだ。
「ねぇ今度俺の買った本も読んでみて。もっと沢山貸借りしよ」
……小学生か。
それから本当にめっきりと女遊びは減ったようだ。俺より先に帰っていることもあったし、休みの日も家にいる。元々ゲームも趣味だったらしく、二人で部屋に籠る日も多くなった。
会話も増えて、すんなりと言葉を返せるようになった。それは側から見たら、実に兄弟らしかったと思う。父さんも、お母さんも前より明るくなっていた。
俺がもっと馬鹿で元気なところを出せるような人で、ナオも紳士で優しい奴でなかったら、もっと下品な会話もあったかもしれない。でもそれだけはお互いになんとなく避けていた。気になったけど、それを口にしたら困った顔をするのが容易に想像できる。
ある夜、一人でしていた。パソコンとか携帯には頼らず、頭の中で前よりも鮮明に、言葉や声も本人に近づけたもので。ちょうど吐き出したタイミングで扉が叩かれたから、飛び上がりそうになった。
「リツ? 今、大丈夫?」
「……っ、はぁ……クソ」
この部屋に入らせる訳にはいかない。でも頭の中がぼうっとしてて、このまま中へ呼んだら意外とどうにかなるんじゃないかとも思ってしまった。結局眠いから後にしてと、メッセージを打って横になる。もやもやと、ぐちゃぐちゃする。ああ、なんだろう。いや、答えなんか初めから知ってる。
「……好き、だ」
キラキラとした可愛いものじゃなかった。今すぐ俺だけのものにしたい。独占したい。今まで関わった女、そいつらに対してやったことが羨ましい、憎い。
泣いていた。なんでも一人で大丈夫だと思っていたのに、こいつのことに関するとすぐに流れてしまう。もう嫌だ、苦しい。欲しい……急に上手くいかないかなぁ。いきなり抱きしめられたら多分、顔や言葉には出さないけどずっとくっついてる。何も言えない分、強くしがみつく。それをきっとナオも分かってくれる……。
俺は、優しいお兄ちゃんが……好き。
「リツ……くん?」
「……もう、やめたら」
「えっ」
くるくる回るタイプの椅子に座って背を向けた。意識すると鼓動が早くなっていく。
「あんなの、やめたらいいのに……そんなに大事なもんなの」
「……それって、さっきの子達みたいのと遊んでることに対して、かな?」
「本気じゃ、ないんでしょ。あんたは、誰にだって本気なんかじゃないんだ」
相手に向けているというより、呟いてるに近かった。どんな顔をしているのか気になるけど、振り返れない。
「……うん。そう、だね。俺は誠実じゃないよね。言い訳するみたいになっちゃうけど、俺から付き合ってなんて言った子はいないんだ。彼女よりも前の、友達になろうとも言ってない。勝手に集まっていたんだけど、まぁ都合がいいから強くは言ってなかったんだ。でも、それは……ただ面倒を後に回しただけだったよね」
声が聞こえなくなって少しだけ首を動かすと、携帯をいじっているみたいだった。やがて満足したようにこっちを見る。目が合ったけど、それに関しては気にしていないみたいだった。
「消しちゃった。随分シンプルになったなぁ……あ、この際電話番号も変えちゃおうかな。……本当は前から切りたかったんだ。君のおかげで割り切れた。ありがとう」
「……っ」
なんだか、よく分からないけどムカついた。清々しい顔をしていたからかもしれない。よく知らないけど、彼女達じゃなくてこいつに天罰が下ればいいと思った。
「さっきは助かった。リツくんにはあまり好かれてないと思ってたから……お兄ちゃんって言ってくれたことも嬉しかった。ねぇ、リツって呼んでもいい?」
立ち上がり、近づく間にこんなことを吐いていた。節々にイラつく言動があったけど今は堪えて、俺のことも好きに呼んで、なんて言っている男の隣に座った。
心の距離も縮まったと勘違いした兄様は、楽しそうにこちらを向く。
「やっぱり嫌? リツって呼ぶの」
「別に……」
でもこの顔が、自分みたいに染まっていくのだと思ったら許せてしまった。
「じゃあ……ナオって呼ぶ」
「……うん。なんか恥ずかしいね、あはは。無理して家族とは思わなくてもいいけど、リツとは普通に仲良くなりたいんだ」
「……っ」
あまりに素直だと、馬鹿に見えるらしい。で、馬鹿は少しだけ……可愛く見えるようだ。
「ねぇ今度俺の買った本も読んでみて。もっと沢山貸借りしよ」
……小学生か。
それから本当にめっきりと女遊びは減ったようだ。俺より先に帰っていることもあったし、休みの日も家にいる。元々ゲームも趣味だったらしく、二人で部屋に籠る日も多くなった。
会話も増えて、すんなりと言葉を返せるようになった。それは側から見たら、実に兄弟らしかったと思う。父さんも、お母さんも前より明るくなっていた。
俺がもっと馬鹿で元気なところを出せるような人で、ナオも紳士で優しい奴でなかったら、もっと下品な会話もあったかもしれない。でもそれだけはお互いになんとなく避けていた。気になったけど、それを口にしたら困った顔をするのが容易に想像できる。
ある夜、一人でしていた。パソコンとか携帯には頼らず、頭の中で前よりも鮮明に、言葉や声も本人に近づけたもので。ちょうど吐き出したタイミングで扉が叩かれたから、飛び上がりそうになった。
「リツ? 今、大丈夫?」
「……っ、はぁ……クソ」
この部屋に入らせる訳にはいかない。でも頭の中がぼうっとしてて、このまま中へ呼んだら意外とどうにかなるんじゃないかとも思ってしまった。結局眠いから後にしてと、メッセージを打って横になる。もやもやと、ぐちゃぐちゃする。ああ、なんだろう。いや、答えなんか初めから知ってる。
「……好き、だ」
キラキラとした可愛いものじゃなかった。今すぐ俺だけのものにしたい。独占したい。今まで関わった女、そいつらに対してやったことが羨ましい、憎い。
泣いていた。なんでも一人で大丈夫だと思っていたのに、こいつのことに関するとすぐに流れてしまう。もう嫌だ、苦しい。欲しい……急に上手くいかないかなぁ。いきなり抱きしめられたら多分、顔や言葉には出さないけどずっとくっついてる。何も言えない分、強くしがみつく。それをきっとナオも分かってくれる……。
俺は、優しいお兄ちゃんが……好き。
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