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1話 夏の海と真珠と魚
08.海辺を疾走するタイガーマスク
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素早く置きっぱなしの武器を回収したアロイスがキョロキョロと周囲を見回す。突然の避難勧告に浜辺は混乱を極めていた。
とはいえ、魔物なんてものは街から少し離れればどこにだって生息しているもの。
海水浴客達は慌てながらも、しかし淡々と避難していた。
「あ、アロイスさん!あれじゃ、ないですか?」
そんな中、メイヴィスは浅瀬で跳ねる、凶悪な顔面の魚の魔物を発見。
日光を受けて銀色に輝く体躯。背びれ尾ひれなんかは赤い筋が一本入っていて、少しばかり毒々しく感じる。しかし、そんな特徴をも凌駕する鋭い牙。長く、鋭いそれは恐らく人体を貫通し歯と歯が噛み合わせられるくらいの大変危険な凶器となっている。
目懲らして数を数える。見えているだけでも――2匹、3匹、4匹はいるだろうか。もっと水中に潜んでいるかもしれない。
ポケットの中に手を突っ込むと、使えそうなマジックアイテムの感触が無かった。マズイ、詰んだなこれ。
「メイヴィス、そこに立っていろ。あまり移動するな、落ち合えなくなる」
「え、あ――」
どういう意味なのか、それを訊ねるより先に後ろからアロイスが走り出して自分を追い抜いて行った。水辺は相性が悪いと言っていたが、ものともせず身の丈程もある大剣を片手に颯爽と駆けて行く。
アロイスに気付いた魚の魔物がキシャー、と海洋生物が鳴らしてはいけない、陸地の動物みたいな威嚇の声を上げる。
それをも無視し、海水に腰まで浸かったアロイスへ魔物が襲い掛かった。
魚が海面を跳ねるよりも大きな、ぶんっ、という風切り音がここまで届く。瞬きの刹那には襲い掛かった魔物は真っ二つになって浜辺にべちゃりと不時着した。酷く生臭そうである。
続いて同じように魔物がアロイスへと向かっていったが結果は惨敗。どの魚もアロイスに触れる事すら出来ず両断され、ある者は海の底へ、ある者は海に還る事も出来ず砂浜へと打ち上げられた。
――あ、もうこれ、アロイスさん1人でいいんじゃないかな。
ぽかんと口を開けて一連の光景を見つめていたメイヴィスは慌てて口を閉じ、頭を振った。体幹が強いのか丹田が強いのか、とにかく腰まで海水に浸かっていながら騎士は微動だにしない。
やがて、もう魔物はいないと判断したアロイスがゆっくりと海から上がって来た。相当な重労働だったと思われるが、息一つ乱れていない。
「あ、お、お疲れ様です」
「ああ。金属類を海水につけるのは憚られたからな、この程度の数で済んで助かった。しかし、毎年こうなのか?そうならば、このビーチは海水浴場には向いていないと思うが」
「い、いや……。去年はあまり見ませんでしたよ。たまに、えーっと、その、迷い混んだ魔物が出ただけで」
そうだ。冷静になって考えてみれば、去年のアルト・ビーチは――去年に限らず、一昨年も穏やかなものだったはず。何せ、海のボランティアに来ていると言うのにほとんど遊んで数日間を過ごしたくらいだ。
――あれ、そういえば他のギルメンはどこに行った?
来ているのは自分達だけではない。もっと大人数がいたはずだが。周囲を見回したメイヴィスは見知ったタイガーマスクを発見した。
カラコンでも入れているとしか思えない鮮やかな赤い瞳。海に着ているというのに脱ごうとしないタイガーマスク。割と際どい水着はタイガーマスクとよく似合っていると思われる。ただ、出現する場所を間違っているようにも感じるが。
頼り甲斐のある筋肉を惜しげもなく晒していたその人は、メイヴィス達を見つけると大仰に両手を振った。
「スパーキンッ、スパーキンッ!スパーキンッッ!!やぁ、君達!!海は楽しんでいるか!?夏だ!海だ!そして魔物が大量発生しているッ!!」
暑苦しい中年――オーガスト・ギルドマスターはそう言うと結構離れた場所で立ち止まった。何が楽しいのか盛大な笑い声を上げている。
と、彼の背後からゲンナリした顔のナターリアが顔を出した。彼女は肉食で綺麗系男性を好むので、ギルドマスターは範囲外なのだろう。嫌そうな顔を隠しもしない。なお、そのナターリアはというと気合いの入った赤い大きな花の描かれているビキニを着用している。今日は例のカチューシャも外し、獣人としての抜群のプロポーションを見せつけていた。
夏の暑さよりなお熱いオーガストに対し、メイヴィスは「はぁ……」と気の抜けた返事をした。彼とは長い付き合いだが、未だにテンションには慣れない。
しかしギルドに入って2ヶ月目の騎士は臆する事も無ければ気にした様子も無く、会話をさらりと始めた。変人耐性が高い。
「魔物の大量発生?」
「そうだとも!アロイス、君はよくよく私の話を聞いてくれて嬉しいぞッ!」
「ギルドで対策を取るつもりですか?」
「ああ!ああ!そうなるな!!ビーチに安心と安全を提供するのが、コゼット・ギルドの任務である!」
「何か俺達に用事があって来た訳ですね?」
「話が早くてよろしいッ!まあ、しかし、用事があったのはメヴィの方だな!!ナターリア、例のアレを渡したまえッ!!」
はい、と力無く――疲れ切った様子で頷いたナターリアは酷く見覚えのあるものを目の前に差し出した。
水筒を入れていたバッグより一回り大きいそれは、メイヴィスの私物である。海の家の、ロッカーの中に入れてきた金だの着替えだのが入ったバッグ。
とはいえ、魔物なんてものは街から少し離れればどこにだって生息しているもの。
海水浴客達は慌てながらも、しかし淡々と避難していた。
「あ、アロイスさん!あれじゃ、ないですか?」
そんな中、メイヴィスは浅瀬で跳ねる、凶悪な顔面の魚の魔物を発見。
日光を受けて銀色に輝く体躯。背びれ尾ひれなんかは赤い筋が一本入っていて、少しばかり毒々しく感じる。しかし、そんな特徴をも凌駕する鋭い牙。長く、鋭いそれは恐らく人体を貫通し歯と歯が噛み合わせられるくらいの大変危険な凶器となっている。
目懲らして数を数える。見えているだけでも――2匹、3匹、4匹はいるだろうか。もっと水中に潜んでいるかもしれない。
ポケットの中に手を突っ込むと、使えそうなマジックアイテムの感触が無かった。マズイ、詰んだなこれ。
「メイヴィス、そこに立っていろ。あまり移動するな、落ち合えなくなる」
「え、あ――」
どういう意味なのか、それを訊ねるより先に後ろからアロイスが走り出して自分を追い抜いて行った。水辺は相性が悪いと言っていたが、ものともせず身の丈程もある大剣を片手に颯爽と駆けて行く。
アロイスに気付いた魚の魔物がキシャー、と海洋生物が鳴らしてはいけない、陸地の動物みたいな威嚇の声を上げる。
それをも無視し、海水に腰まで浸かったアロイスへ魔物が襲い掛かった。
魚が海面を跳ねるよりも大きな、ぶんっ、という風切り音がここまで届く。瞬きの刹那には襲い掛かった魔物は真っ二つになって浜辺にべちゃりと不時着した。酷く生臭そうである。
続いて同じように魔物がアロイスへと向かっていったが結果は惨敗。どの魚もアロイスに触れる事すら出来ず両断され、ある者は海の底へ、ある者は海に還る事も出来ず砂浜へと打ち上げられた。
――あ、もうこれ、アロイスさん1人でいいんじゃないかな。
ぽかんと口を開けて一連の光景を見つめていたメイヴィスは慌てて口を閉じ、頭を振った。体幹が強いのか丹田が強いのか、とにかく腰まで海水に浸かっていながら騎士は微動だにしない。
やがて、もう魔物はいないと判断したアロイスがゆっくりと海から上がって来た。相当な重労働だったと思われるが、息一つ乱れていない。
「あ、お、お疲れ様です」
「ああ。金属類を海水につけるのは憚られたからな、この程度の数で済んで助かった。しかし、毎年こうなのか?そうならば、このビーチは海水浴場には向いていないと思うが」
「い、いや……。去年はあまり見ませんでしたよ。たまに、えーっと、その、迷い混んだ魔物が出ただけで」
そうだ。冷静になって考えてみれば、去年のアルト・ビーチは――去年に限らず、一昨年も穏やかなものだったはず。何せ、海のボランティアに来ていると言うのにほとんど遊んで数日間を過ごしたくらいだ。
――あれ、そういえば他のギルメンはどこに行った?
来ているのは自分達だけではない。もっと大人数がいたはずだが。周囲を見回したメイヴィスは見知ったタイガーマスクを発見した。
カラコンでも入れているとしか思えない鮮やかな赤い瞳。海に着ているというのに脱ごうとしないタイガーマスク。割と際どい水着はタイガーマスクとよく似合っていると思われる。ただ、出現する場所を間違っているようにも感じるが。
頼り甲斐のある筋肉を惜しげもなく晒していたその人は、メイヴィス達を見つけると大仰に両手を振った。
「スパーキンッ、スパーキンッ!スパーキンッッ!!やぁ、君達!!海は楽しんでいるか!?夏だ!海だ!そして魔物が大量発生しているッ!!」
暑苦しい中年――オーガスト・ギルドマスターはそう言うと結構離れた場所で立ち止まった。何が楽しいのか盛大な笑い声を上げている。
と、彼の背後からゲンナリした顔のナターリアが顔を出した。彼女は肉食で綺麗系男性を好むので、ギルドマスターは範囲外なのだろう。嫌そうな顔を隠しもしない。なお、そのナターリアはというと気合いの入った赤い大きな花の描かれているビキニを着用している。今日は例のカチューシャも外し、獣人としての抜群のプロポーションを見せつけていた。
夏の暑さよりなお熱いオーガストに対し、メイヴィスは「はぁ……」と気の抜けた返事をした。彼とは長い付き合いだが、未だにテンションには慣れない。
しかしギルドに入って2ヶ月目の騎士は臆する事も無ければ気にした様子も無く、会話をさらりと始めた。変人耐性が高い。
「魔物の大量発生?」
「そうだとも!アロイス、君はよくよく私の話を聞いてくれて嬉しいぞッ!」
「ギルドで対策を取るつもりですか?」
「ああ!ああ!そうなるな!!ビーチに安心と安全を提供するのが、コゼット・ギルドの任務である!」
「何か俺達に用事があって来た訳ですね?」
「話が早くてよろしいッ!まあ、しかし、用事があったのはメヴィの方だな!!ナターリア、例のアレを渡したまえッ!!」
はい、と力無く――疲れ切った様子で頷いたナターリアは酷く見覚えのあるものを目の前に差し出した。
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