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2話 花の咲く家
02.ヒルデの回想
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謎が謎を呼ぶ。今ここにナターリアの姿は無いし、恐らくギルドにもいないが、どうして今、彼女の名前が出て来たのか。しかし、ナターリアは顔が広い、主に女性に対し。ヒルデガルトと知り合いだった、という推測は正しいはずだ――
「えーっと、それで何で私をクエストに誘って来たんでしたっけ?」
「俺はお前にクエストへ誘って良い、と言ったはずだぞ」
――それはさっき聞きましたッ!!
やれやれ、と肩を竦めるアロイス。彼ではなく、ヒルデガルトに訊いているのだが。しかし、それまで黙っていたヘルフリートまで便乗する。
「ああ、俺は場のノリで。だが、人数は多い方が良いだろう?大丈夫、俺だってそれなりに役には立つさ!」
「すいません、ヘルフリート殿。私に付き合わせてしまった。メイヴィス殿、私、実は女性の友人が欲しいのです」
「はい?友達が何だって言いました?」
あまりにも突拍子且つ脈絡の無い目的に素が出た。素っ頓狂な声を上げてしまったが、ヒルデガルトはええ、と深く頷く。
「お話は今朝にまで遡ります」
「え、まさか回想にでも入るつもりですか?」
***
午前8時、ヒルデガルト・シェルベはギルドに備え付けられたテーブルに腰掛け、ナターリアと食事を楽しんでいた。彼女はヒルデガルトがギルドに加入して初めて出来た友人である。
「それで、どうしてあたしを呼んだのかなっ!」
朝から元気よくそう訊ねるナターリアに笑みを手向けたヒルデガルトは、単刀直入に本題へと入る。要らない前会話はあまり好ましくないからだ。
「ナターリア、実はですね……。私は女性の友人をもっと増やしたいのです」
「えっ、まだそこで躓いてたの!?すごいねっ、もう友達百人くらい作ってるものだと思ってたよっ!」
「そ、そんな馬鹿な。友達百人なんて常識的に考えてそう簡単に作れるはずがありません!」
「いや、比喩っていうか、そっち系ね?うーんでも、そうだなぁ、メヴィはどうっ!?」
「メヴィ?」
そう、と静かな笑みを浮かべるナターリア。その手にはバターブレットを持っている。
「メイヴィス・イルドレシア。私の親友なんだよっ!それに、丁度アロイスさん以外、興味も無いしピッタリだと思うなあ」
「え、それは何がピッタリなのでしょうか?」
「アロイスさん以外、眼中に無いんだから、友達ポジ取るのなんて楽勝!って事だよ!それに、メヴィは食べ物とか恵んであげるとすぐに打ち解けられるよっ!」
「な、成る程。流石はナターリア。事、対人関係において貴方の右に出る者はいませんね」
何か引っ掛かるものがあったが、気のせいという事にした。一瞬だけ表情が消えて真面目な顔をしたと思われたナターリアだが、次の瞬間にはニンマリと笑みを浮かべる。
「今日私はクエスト受けちゃってて、そろそろギルドを出なきゃいけないけど、メヴィをクエストに連れて行く時に、アロイスさんを誘うといいよっ!」
「一緒にクエスト!?唐突ではありませんか?」
「でも、ギルドでやる事って言ったらクエストくらいしかなくない?」
「それは確かに……。しかし、何故アロイス殿を?」
「メヴィはとっても弱いのっ!だから、知っている人を一人くらい連れてないと、一緒に来てくれないんだっ!アロイスさんとメヴィは夏イベで仲良くなってるはずだし、メヴィはアロイスさんの事がだーい好きだからねっ!きっと喜ぶよっ!」
「それもそうですね。アロイス殿はたくさんの人から好かれるような清廉潔白な御仁。彼がいれば、メイヴィス殿も安心するでしょう。私の事だけでなく、彼女の事まで気に掛けるとは、ナターリアは本当に視野が広い」
嵐の前の静けさじみた、薄い笑みを浮かべたナターリアが僅かに首を傾げた。
「あたしはヒルデのそういう全然恋愛脳じゃない所、好きだよっ!」
「恋愛?何故いきなりそんな話に?」
「ううんっ、いいの!うっかり要らない事ゲロっちゃったけど、何にも分かってないならその方が助かるしっ!」
言いながらナターリアが席を立つ、今からクエストだと言っていたし、そろそろ出発するのだろう。釣られてヒルデガルトも立ち上がった。
手を振ってナターリアと別れ、次はアロイスを捜す。
彼は確か、朝ギルドでチラッと見掛けたはずだ。クエストへ行っていなければ、まだどこかにいるはず――
「あっ、アロイス殿!少しよろしいですか」
掲示板付近を彷徨いていたアロイスがノロノロと首を動かしてこちらを見――たと、思ったら行きすぎた。もう一度声を掛ける。
「アロイス殿、私です!」
「ああ、ヒルデか。こう人が多いと、誰が俺を呼んだのか判断が付かなくてな。すまん」
掲示板から離れてやって来た彼は今日も重そうな鎧をガッチリ着込んでいる。そんな彼の大きな体躯の背後から、もう一人顔を覗かせた。
「おや、ヘルフリート殿も一緒でしたか」
「ああ、おはよう。実は少し前までアロイス殿と手合わせをしていたんだ。やっぱり強くて、今日も負けてしまったが」
それで、と肩に落ちて来た髪束を払ったアロイスが穏やかに訊ねる。
「何か用事があったんじゃないのか?」
「はい、実は。私と一緒に、メイヴィス殿を誘って、どこかクエストへ行って頂けませんか?」
「うん?ちょっとよく意味が分からないが……」
「そのですね、女性の友人が欲しいとナターリアに相談したところ、メイヴィス殿が適任だと紹介して貰ったのです。ですが、メイヴィス殿はその、知らない人物とは性質上、一緒にクエストへは行かないそうなので」
「成る程、そうだろうな。メヴィは存外に強かに生きている。命の危険性があるギルドのクエストに、力量が定かではない共を連れて行きはしないだろう。分かった、俺も同行しようか。彼女とはクエストに行く約束もしていた事だしな。ヘルフリート、お前はどうする?」
話を振られたヘルフリートは見本のような笑みを浮かべた。彼は笑うのがとても上手で羨ましい。何と言うか、「ああ笑ってるな」、という感じがあるのだ。笑っているのかいないのか分からない、とよく言われる自分とは違って。
「俺も同行しますよ。どうせ、今日は暇だし」
「お前、いつも暇だと言っているじゃないか……何の為にギルドにいるんだ。ともあれ、ヒルデ。友が増えるのは良い事だ、宜しくするといい」
「ええ、勿論です」
「えーっと、それで何で私をクエストに誘って来たんでしたっけ?」
「俺はお前にクエストへ誘って良い、と言ったはずだぞ」
――それはさっき聞きましたッ!!
やれやれ、と肩を竦めるアロイス。彼ではなく、ヒルデガルトに訊いているのだが。しかし、それまで黙っていたヘルフリートまで便乗する。
「ああ、俺は場のノリで。だが、人数は多い方が良いだろう?大丈夫、俺だってそれなりに役には立つさ!」
「すいません、ヘルフリート殿。私に付き合わせてしまった。メイヴィス殿、私、実は女性の友人が欲しいのです」
「はい?友達が何だって言いました?」
あまりにも突拍子且つ脈絡の無い目的に素が出た。素っ頓狂な声を上げてしまったが、ヒルデガルトはええ、と深く頷く。
「お話は今朝にまで遡ります」
「え、まさか回想にでも入るつもりですか?」
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午前8時、ヒルデガルト・シェルベはギルドに備え付けられたテーブルに腰掛け、ナターリアと食事を楽しんでいた。彼女はヒルデガルトがギルドに加入して初めて出来た友人である。
「それで、どうしてあたしを呼んだのかなっ!」
朝から元気よくそう訊ねるナターリアに笑みを手向けたヒルデガルトは、単刀直入に本題へと入る。要らない前会話はあまり好ましくないからだ。
「ナターリア、実はですね……。私は女性の友人をもっと増やしたいのです」
「えっ、まだそこで躓いてたの!?すごいねっ、もう友達百人くらい作ってるものだと思ってたよっ!」
「そ、そんな馬鹿な。友達百人なんて常識的に考えてそう簡単に作れるはずがありません!」
「いや、比喩っていうか、そっち系ね?うーんでも、そうだなぁ、メヴィはどうっ!?」
「メヴィ?」
そう、と静かな笑みを浮かべるナターリア。その手にはバターブレットを持っている。
「メイヴィス・イルドレシア。私の親友なんだよっ!それに、丁度アロイスさん以外、興味も無いしピッタリだと思うなあ」
「え、それは何がピッタリなのでしょうか?」
「アロイスさん以外、眼中に無いんだから、友達ポジ取るのなんて楽勝!って事だよ!それに、メヴィは食べ物とか恵んであげるとすぐに打ち解けられるよっ!」
「な、成る程。流石はナターリア。事、対人関係において貴方の右に出る者はいませんね」
何か引っ掛かるものがあったが、気のせいという事にした。一瞬だけ表情が消えて真面目な顔をしたと思われたナターリアだが、次の瞬間にはニンマリと笑みを浮かべる。
「今日私はクエスト受けちゃってて、そろそろギルドを出なきゃいけないけど、メヴィをクエストに連れて行く時に、アロイスさんを誘うといいよっ!」
「一緒にクエスト!?唐突ではありませんか?」
「でも、ギルドでやる事って言ったらクエストくらいしかなくない?」
「それは確かに……。しかし、何故アロイス殿を?」
「メヴィはとっても弱いのっ!だから、知っている人を一人くらい連れてないと、一緒に来てくれないんだっ!アロイスさんとメヴィは夏イベで仲良くなってるはずだし、メヴィはアロイスさんの事がだーい好きだからねっ!きっと喜ぶよっ!」
「それもそうですね。アロイス殿はたくさんの人から好かれるような清廉潔白な御仁。彼がいれば、メイヴィス殿も安心するでしょう。私の事だけでなく、彼女の事まで気に掛けるとは、ナターリアは本当に視野が広い」
嵐の前の静けさじみた、薄い笑みを浮かべたナターリアが僅かに首を傾げた。
「あたしはヒルデのそういう全然恋愛脳じゃない所、好きだよっ!」
「恋愛?何故いきなりそんな話に?」
「ううんっ、いいの!うっかり要らない事ゲロっちゃったけど、何にも分かってないならその方が助かるしっ!」
言いながらナターリアが席を立つ、今からクエストだと言っていたし、そろそろ出発するのだろう。釣られてヒルデガルトも立ち上がった。
手を振ってナターリアと別れ、次はアロイスを捜す。
彼は確か、朝ギルドでチラッと見掛けたはずだ。クエストへ行っていなければ、まだどこかにいるはず――
「あっ、アロイス殿!少しよろしいですか」
掲示板付近を彷徨いていたアロイスがノロノロと首を動かしてこちらを見――たと、思ったら行きすぎた。もう一度声を掛ける。
「アロイス殿、私です!」
「ああ、ヒルデか。こう人が多いと、誰が俺を呼んだのか判断が付かなくてな。すまん」
掲示板から離れてやって来た彼は今日も重そうな鎧をガッチリ着込んでいる。そんな彼の大きな体躯の背後から、もう一人顔を覗かせた。
「おや、ヘルフリート殿も一緒でしたか」
「ああ、おはよう。実は少し前までアロイス殿と手合わせをしていたんだ。やっぱり強くて、今日も負けてしまったが」
それで、と肩に落ちて来た髪束を払ったアロイスが穏やかに訊ねる。
「何か用事があったんじゃないのか?」
「はい、実は。私と一緒に、メイヴィス殿を誘って、どこかクエストへ行って頂けませんか?」
「うん?ちょっとよく意味が分からないが……」
「そのですね、女性の友人が欲しいとナターリアに相談したところ、メイヴィス殿が適任だと紹介して貰ったのです。ですが、メイヴィス殿はその、知らない人物とは性質上、一緒にクエストへは行かないそうなので」
「成る程、そうだろうな。メヴィは存外に強かに生きている。命の危険性があるギルドのクエストに、力量が定かではない共を連れて行きはしないだろう。分かった、俺も同行しようか。彼女とはクエストに行く約束もしていた事だしな。ヘルフリート、お前はどうする?」
話を振られたヘルフリートは見本のような笑みを浮かべた。彼は笑うのがとても上手で羨ましい。何と言うか、「ああ笑ってるな」、という感じがあるのだ。笑っているのかいないのか分からない、とよく言われる自分とは違って。
「俺も同行しますよ。どうせ、今日は暇だし」
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