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3話 鍛冶師と錬金術師とミスリル
02.ミスリルと元騎士
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シノに背を押され、ロビーをうろうろと歩き回っていたところ、案外すぐにアロイスその人を発見する事が出来た。掲示板付近でぼんやりと突っ立っている。何か用事があるようにも見えるし、ただただそこにいるだけのようにも見える。
大きく深呼吸し、その後ろ姿に声を掛けた。
「あ、ああ、あろっ、アロイスさん!」
「うん? どうした、メヴィ」
どこか遠くを見ていた目がの焦点が合う。少し離れた所から見守るシノの視線をひしひしと背中に感じながらも、慌ただしく、そして辿々しくメイヴィスは口を開いた。
「あの、今日、その……クエストに行く約束をして、ましたような気がするんですけど」
「ああ、したな」
「えぇっと、あ、はい。あの、シノさんが……良い感じのクエストをですね、その、持って来てて」
「それに行くか? 同行するが」
「あのっ、でも、アロイスさんにとっては、あまりうま味がないクエストっていうか」
「要領を得ないな。少し落ち着け、何を慌てているんだ?」
何に慌てているかと言われれば、アロイスの――しかも先約である彼との約束を蹴って、常人にはあまり必要の無いクエストへ行こうとしている事実にである。自身の存在と主張が酷く図々しいものに思えて来て悲しい。
しかし、錬金術は謂わば取り柄のない自分に唯一与えられた特技であり、趣味であり、生涯学習である。冷静に考えれば、どちらを優先すべきか。それは分かっているはずだ。
気持ちに無理矢理整理を着ける。アロイスは腕に自信のある元騎士だし、いてくれるのならば大変助かる。ほとんど役に立たない自分の負担を一身に背負う事になるだろうシノの負担を確実に減らせるからだ。
が、同時に彼に迷惑を掛けたくないという気持ちが混在している。
「落ち着いたか? それで、どんなクエストなのかを聞こうか。俺にとって役に立たないものであるかは、俺が決めよう」
「そうか、ならこれは依頼書だ」
「わっ!?」
いつの間にか背後に近付いて来ていたシノ。業を煮やしたのか、ほとんど押し付けるようにして依頼書をアロイスへと渡す。
そんな態度など意に介した様子も無く、素早く依頼書に目を通すアロイス。1分の半分くらいで顔を上げた。
「ミスリルか。そういえば、貴族連中が一時期騒いでいたな。俺も現物は見た事が無い。確かに、俺にとっては不要の長物か」
「なら、メヴィは次の機会に誘いな。尤も、世話になってんのはメヴィの方なんだろうけど」
「いやいい。同行しよう。お前達は2人で魔物の討伐クエストへ行くつもりか?」
にんまり、とシノはその綺麗な顔に不釣り合いな邪悪な笑みを浮かべた。
「着いてくる気? 当然だけれど、あたし達にはミスリルが必要だ。研究の為にね。お前の取り分はあまり多くは無いけれど。まあ、換金するのなら1グラムでもかなりの金になるだろうけれどね」
「構わないさ。金なんて掃いて捨てる程ある。俺は物持ちが良くてな、散財する機会も無い。金銭面は考慮してくれなくていいぞ」
「ボランティアって事でオーケー?」
「ああ、それでいい。お前達が怪我なんかしたら、寝覚めも悪い事だしな」
――とんでもない事になってきている。
オロオロと一連のやり取りを見ていたメヴィは、堪らず口を挟んだ。流石に私利私欲の為に無関係な人間を、決して安全とは言えないクエストには巻き込めない。しかも、ボランティアだなんて。
「いや、あの、無理しなくていいですから! アロイスさんも、生活にはその、困ってない、のかもしれないですけど……!」
「何度も言うようだが、気にしなくて良い。ミスリルとやらも、この目で見てみたい事だしな」
ふぅん、と散々人を煽っておきながら少し不満げな声を漏らすシノ。結果的には彼女の思い通りに進んでいるようだし、何が不満だというのか。
「あれだな、あたしが言うのも変な話だけど、お前お人好しが過ぎるよ。誰が言い出した訳じゃ無いけど、ここはギルド。利益は貪欲に貪らないと、財産なんざすぐ無くなるよ」
「ふふ、金の使い道があるのは良い事だ。没頭出来るものがあるという訳だろう? そういう所が、俺にとってみれば少し羨ましいな」
「……お前、元騎士だって言ってたな。詮索はしない主義だから聞かないけど、趣味とか目標とか持った方が良いぞ。生き飽きるなんて、人間の所行じゃない」
深い溜息を吐いたシノはアロイスから依頼書を受け取ると、こう付け足した。
「メヴィ、お前、確か大口の仕事取ってるんだって? ローブ作る依頼。今日相手にする魔物、毛皮着てるぞ。良かったな」
そのままシノはクエストを受理する為、カウンターへと歩いて行ってしまった。
代わり、アロイスが口を開く。
「毛皮も採集するのか?」
「あ、はい。丁度良いし……」
「そうか。毛皮のどの部分なら傷を付けても構わないだろうか? 採集作業を手伝おう」
「えっ、どの部分……!? えーと、背中は傷付けないで欲しい、です」
「分かった」
「あの、すいません、手伝って貰っちゃて。ありがとうございます」
ふ、と笑ったアロイスはいつも通りの文言を紡いだ。
「ああ、構わんさ」
シノに背を押され、ロビーをうろうろと歩き回っていたところ、案外すぐにアロイスその人を発見する事が出来た。掲示板付近でぼんやりと突っ立っている。何か用事があるようにも見えるし、ただただそこにいるだけのようにも見える。
大きく深呼吸し、その後ろ姿に声を掛けた。
「あ、ああ、あろっ、アロイスさん!」
「うん? どうした、メヴィ」
どこか遠くを見ていた目がの焦点が合う。少し離れた所から見守るシノの視線をひしひしと背中に感じながらも、慌ただしく、そして辿々しくメイヴィスは口を開いた。
「あの、今日、その……クエストに行く約束をして、ましたような気がするんですけど」
「ああ、したな」
「えぇっと、あ、はい。あの、シノさんが……良い感じのクエストをですね、その、持って来てて」
「それに行くか? 同行するが」
「あのっ、でも、アロイスさんにとっては、あまりうま味がないクエストっていうか」
「要領を得ないな。少し落ち着け、何を慌てているんだ?」
何に慌てているかと言われれば、アロイスの――しかも先約である彼との約束を蹴って、常人にはあまり必要の無いクエストへ行こうとしている事実にである。自身の存在と主張が酷く図々しいものに思えて来て悲しい。
しかし、錬金術は謂わば取り柄のない自分に唯一与えられた特技であり、趣味であり、生涯学習である。冷静に考えれば、どちらを優先すべきか。それは分かっているはずだ。
気持ちに無理矢理整理を着ける。アロイスは腕に自信のある元騎士だし、いてくれるのならば大変助かる。ほとんど役に立たない自分の負担を一身に背負う事になるだろうシノの負担を確実に減らせるからだ。
が、同時に彼に迷惑を掛けたくないという気持ちが混在している。
「落ち着いたか? それで、どんなクエストなのかを聞こうか。俺にとって役に立たないものであるかは、俺が決めよう」
「そうか、ならこれは依頼書だ」
「わっ!?」
いつの間にか背後に近付いて来ていたシノ。業を煮やしたのか、ほとんど押し付けるようにして依頼書をアロイスへと渡す。
そんな態度など意に介した様子も無く、素早く依頼書に目を通すアロイス。1分の半分くらいで顔を上げた。
「ミスリルか。そういえば、貴族連中が一時期騒いでいたな。俺も現物は見た事が無い。確かに、俺にとっては不要の長物か」
「なら、メヴィは次の機会に誘いな。尤も、世話になってんのはメヴィの方なんだろうけど」
「いやいい。同行しよう。お前達は2人で魔物の討伐クエストへ行くつもりか?」
にんまり、とシノはその綺麗な顔に不釣り合いな邪悪な笑みを浮かべた。
「着いてくる気? 当然だけれど、あたし達にはミスリルが必要だ。研究の為にね。お前の取り分はあまり多くは無いけれど。まあ、換金するのなら1グラムでもかなりの金になるだろうけれどね」
「構わないさ。金なんて掃いて捨てる程ある。俺は物持ちが良くてな、散財する機会も無い。金銭面は考慮してくれなくていいぞ」
「ボランティアって事でオーケー?」
「ああ、それでいい。お前達が怪我なんかしたら、寝覚めも悪い事だしな」
――とんでもない事になってきている。
オロオロと一連のやり取りを見ていたメヴィは、堪らず口を挟んだ。流石に私利私欲の為に無関係な人間を、決して安全とは言えないクエストには巻き込めない。しかも、ボランティアだなんて。
「いや、あの、無理しなくていいですから! アロイスさんも、生活にはその、困ってない、のかもしれないですけど……!」
「何度も言うようだが、気にしなくて良い。ミスリルとやらも、この目で見てみたい事だしな」
ふぅん、と散々人を煽っておきながら少し不満げな声を漏らすシノ。結果的には彼女の思い通りに進んでいるようだし、何が不満だというのか。
「あれだな、あたしが言うのも変な話だけど、お前お人好しが過ぎるよ。誰が言い出した訳じゃ無いけど、ここはギルド。利益は貪欲に貪らないと、財産なんざすぐ無くなるよ」
「ふふ、金の使い道があるのは良い事だ。没頭出来るものがあるという訳だろう? そういう所が、俺にとってみれば少し羨ましいな」
「……お前、元騎士だって言ってたな。詮索はしない主義だから聞かないけど、趣味とか目標とか持った方が良いぞ。生き飽きるなんて、人間の所行じゃない」
深い溜息を吐いたシノはアロイスから依頼書を受け取ると、こう付け足した。
「メヴィ、お前、確か大口の仕事取ってるんだって? ローブ作る依頼。今日相手にする魔物、毛皮着てるぞ。良かったな」
そのままシノはクエストを受理する為、カウンターへと歩いて行ってしまった。
代わり、アロイスが口を開く。
「毛皮も採集するのか?」
「あ、はい。丁度良いし……」
「そうか。毛皮のどの部分なら傷を付けても構わないだろうか? 採集作業を手伝おう」
「えっ、どの部分……!? えーと、背中は傷付けないで欲しい、です」
「分かった」
「あの、すいません、手伝って貰っちゃて。ありがとうございます」
ふ、と笑ったアロイスはいつも通りの文言を紡いだ。
「ああ、構わんさ」
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