38 / 139
5話 上位魔物の素材収拾
01.解毒キット
しおりを挟む
しとしとと決して激しくはないが、そうであるが故に止みそうにない雨が降っている。湿気てはいるが秋特有の冷たい風が濡れた身体を冷やしていくのを感じながら、ぐったりとメイヴィスは溜息を吐いた。
「どうしよう、これから……」
皆が一様に疲れ切っている様子で明確な答えは返って来ない。
自然的に出来た洞窟はとても土臭く、余計に不安な気持ちを煽る。
今日、ここへはクエストで来た。魔物の討伐、という実にありきたりでよくあるクエスト。メンバーは自分に加え、ナターリア、ヘルフリートとエサイアスだ。
なお、エサイアスについては魚人である。かなり人間味が強いせいか、輝く透明な鱗は目の周りにのみ煌めいているのが伺えた。ナターリアは獣人で、自分とヘルフリートは人間なので奇しくも基本三種と呼ばれる人口上位三種が一堂に会している事となる。
「寒くないカ?」
不意にエサイアスがそう訊ねた。それはナターリアというより、人間である自分とヘルフリートへ向けた言葉だ。魚人特有の舌足らずさが、何となく可愛い。
そんな彼の言葉にメイヴィスとヘルフリートは揃って首を横に振った。
「寒くないです」
「ああ、大丈夫だ。火でも起こしたいところだが――この雨で、しかもこの状況じゃな……」
そうだ、とこんな時にでも猫かぶりを忘れないナターリアが手を打つ。
「メヴィ、何か身体を温められるアイテムは持ってないのっ?」
「ご、ごめん。今日は解毒系アイテムしか持って無い……」
「ありゃ、そっか。そうだよね。アイテムも、嵩張るし!」
そもそもどうしてこんな事になったのか。話は3時間程前に遡る。
***
3時間前はまだ、どんよりとした雲は立ちこめているが雨は降っていない、そんな空模様だった。
「雨、降りそうですね」
「そうだな。雨が降る前に――は、流石に無理か。まあ、風邪を引く前には帰りたいな」
そう言ってヘルフリートが爽やかに笑う。
ここは湿地帯の入り口だ。コゼット・ギルドに程近い場所にある、珍しい薬草やら魔物やらが生息する地。ここの管理人とやらがうちのギルドと贔屓してくれていて、魔物の討伐というクエストを毎回掲示してくれるのだ。
そんな湿地帯でのクエストに同行した今日の面子。実に統一性は無いものの、一応全員顔見知りである。ナターリアが持って来たクエストなのだが、それに暇人達が寄り集まった。
残念な事にアロイスは朝から見掛けなかったので今日は自主休日かもしれない。とはいえ、例えギルドに居たとしても声を掛ける勇気は無かっただろうが。
「今日のクエストは何だっただろうカ。もう一度、確認してくれないカ?」
「今日は何故か大量繁殖した毒トカゲの駆除がクエストですよっ! メヴィが解毒アイテムを大量に持っているので、毒でも浴びたのなら早めに相談してくださいねっ! エサイアスさん!」
「それはいいガ、大量に……具体的にはどのくらい持っている? 遠慮無しに使うと、無くなってしまったりはしないのカ?」
大丈夫ですよ、とメヴィは笑みを浮かべる。
「こんな事もあろうかと、かなり昔に作った解毒キットを持ってきました。毒トカゲの毒さえ採集出来れば、何と解毒剤の無限生成が可能! とはいえ、今回は毒トカゲ戦しか想定していないので、他の魔物の毒性物質は解毒出来ないんですけどね」
「おお! 君は本当に便利なアイテムを一杯持っているんだな。今度、刃物の艶出しとか作ってくれないか?」
「そういうアイテムは全てお隣の鍛冶屋に提供しているので、そちらと交渉してくださいね!」
ワカッタ、とエサイアスが大きく頷く。喋り方で色々と台無しだが、基本的には落ち着いたお兄さんのような人物なのだ。安全が確認出来た事で多少なりとも心にゆとりが生まれたのだろう。
あ、とメイヴィスは不意に思い出したように手を打った。
「そうだ、普通に毒を浴びない為に持って来たアイテムもあるので、そっちも配りますね。短期間とはいえ、毒なんて有害な物質浴びたくないですもんね!」
「そうだナ。そもそも、毒さえあびなけれバ、解毒剤は要らナイからな……」
教会で売られている聖霊布。シスターが三日三晩祈りを捧げ、魔力とはまた違った神聖を持つ布で作ったお守り。それを1人1つずつ持たせる。流石に物理攻撃を弾く為の結界を編み込みたい訳ではなかったので、魔石で毒攻撃を凌ぐアイテムを作るのは憚られた。コスト的な面でだ。
人によっては不謹慎だ何だと言ってきそうだったので、原材料の話は伏せる事とする。特に騎士であったヘルフリートなんかは苦言の一つでも漏らしてきそうだ。
「どうしよう、これから……」
皆が一様に疲れ切っている様子で明確な答えは返って来ない。
自然的に出来た洞窟はとても土臭く、余計に不安な気持ちを煽る。
今日、ここへはクエストで来た。魔物の討伐、という実にありきたりでよくあるクエスト。メンバーは自分に加え、ナターリア、ヘルフリートとエサイアスだ。
なお、エサイアスについては魚人である。かなり人間味が強いせいか、輝く透明な鱗は目の周りにのみ煌めいているのが伺えた。ナターリアは獣人で、自分とヘルフリートは人間なので奇しくも基本三種と呼ばれる人口上位三種が一堂に会している事となる。
「寒くないカ?」
不意にエサイアスがそう訊ねた。それはナターリアというより、人間である自分とヘルフリートへ向けた言葉だ。魚人特有の舌足らずさが、何となく可愛い。
そんな彼の言葉にメイヴィスとヘルフリートは揃って首を横に振った。
「寒くないです」
「ああ、大丈夫だ。火でも起こしたいところだが――この雨で、しかもこの状況じゃな……」
そうだ、とこんな時にでも猫かぶりを忘れないナターリアが手を打つ。
「メヴィ、何か身体を温められるアイテムは持ってないのっ?」
「ご、ごめん。今日は解毒系アイテムしか持って無い……」
「ありゃ、そっか。そうだよね。アイテムも、嵩張るし!」
そもそもどうしてこんな事になったのか。話は3時間程前に遡る。
***
3時間前はまだ、どんよりとした雲は立ちこめているが雨は降っていない、そんな空模様だった。
「雨、降りそうですね」
「そうだな。雨が降る前に――は、流石に無理か。まあ、風邪を引く前には帰りたいな」
そう言ってヘルフリートが爽やかに笑う。
ここは湿地帯の入り口だ。コゼット・ギルドに程近い場所にある、珍しい薬草やら魔物やらが生息する地。ここの管理人とやらがうちのギルドと贔屓してくれていて、魔物の討伐というクエストを毎回掲示してくれるのだ。
そんな湿地帯でのクエストに同行した今日の面子。実に統一性は無いものの、一応全員顔見知りである。ナターリアが持って来たクエストなのだが、それに暇人達が寄り集まった。
残念な事にアロイスは朝から見掛けなかったので今日は自主休日かもしれない。とはいえ、例えギルドに居たとしても声を掛ける勇気は無かっただろうが。
「今日のクエストは何だっただろうカ。もう一度、確認してくれないカ?」
「今日は何故か大量繁殖した毒トカゲの駆除がクエストですよっ! メヴィが解毒アイテムを大量に持っているので、毒でも浴びたのなら早めに相談してくださいねっ! エサイアスさん!」
「それはいいガ、大量に……具体的にはどのくらい持っている? 遠慮無しに使うと、無くなってしまったりはしないのカ?」
大丈夫ですよ、とメヴィは笑みを浮かべる。
「こんな事もあろうかと、かなり昔に作った解毒キットを持ってきました。毒トカゲの毒さえ採集出来れば、何と解毒剤の無限生成が可能! とはいえ、今回は毒トカゲ戦しか想定していないので、他の魔物の毒性物質は解毒出来ないんですけどね」
「おお! 君は本当に便利なアイテムを一杯持っているんだな。今度、刃物の艶出しとか作ってくれないか?」
「そういうアイテムは全てお隣の鍛冶屋に提供しているので、そちらと交渉してくださいね!」
ワカッタ、とエサイアスが大きく頷く。喋り方で色々と台無しだが、基本的には落ち着いたお兄さんのような人物なのだ。安全が確認出来た事で多少なりとも心にゆとりが生まれたのだろう。
あ、とメイヴィスは不意に思い出したように手を打った。
「そうだ、普通に毒を浴びない為に持って来たアイテムもあるので、そっちも配りますね。短期間とはいえ、毒なんて有害な物質浴びたくないですもんね!」
「そうだナ。そもそも、毒さえあびなけれバ、解毒剤は要らナイからな……」
教会で売られている聖霊布。シスターが三日三晩祈りを捧げ、魔力とはまた違った神聖を持つ布で作ったお守り。それを1人1つずつ持たせる。流石に物理攻撃を弾く為の結界を編み込みたい訳ではなかったので、魔石で毒攻撃を凌ぐアイテムを作るのは憚られた。コスト的な面でだ。
人によっては不謹慎だ何だと言ってきそうだったので、原材料の話は伏せる事とする。特に騎士であったヘルフリートなんかは苦言の一つでも漏らしてきそうだ。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
三歩先行くサンタさん ~トレジャーハンターは幼女にごまをする~
杵築しゅん
ファンタジー
戦争で父を亡くしたサンタナリア2歳は、母や兄と一緒に父の家から追い出され、母の実家であるファイト子爵家に身を寄せる。でも、そこも安住の地ではなかった。
3歳の職業選別で【過去】という奇怪な職業を授かったサンタナリアは、失われた超古代高度文明紀に生きた守護霊である魔法使いの能力を受け継ぐ。
家族には内緒で魔法の練習をし、古代遺跡でトレジャーハンターとして活躍することを夢見る。
そして、新たな家門を興し母と兄を養うと決心し奮闘する。
こっそり古代遺跡に潜っては、ピンチになったトレジャーハンターを助けるサンタさん。
身分差も授かった能力の偏見も投げ飛ばし、今日も元気に三歩先を行く。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
縫剣のセネカ
藤花スイ
ファンタジー
「ぬいけんのせねか」と読みます。
--
コルドバ村のセネカは英雄に憧れるお転婆娘だ。
幼馴染のルキウスと共に穏やかな日々を過ごしていた。
ある日、セネカとルキウスの両親は村を守るために戦いに向かった。
訳も分からず見送ったその後、二人は孤児となった。
その経験から、大切なものを守るためには強さが必要だとセネカは思い知った。
二人は力をつけて英雄になるのだと誓った。
しかし、セネカが十歳の時に授かったのは【縫う】という非戦闘系のスキルだった。
一方、ルキウスは破格のスキル【神聖魔法】を得て、王都の教会へと旅立ってゆく。
二人の道は分かれてしまった。
残されたセネカは、ルキウスとの約束を胸に問い続ける。
どうやって戦っていくのか。希望はどこにあるのか⋯⋯。
セネカは剣士で、膨大な魔力を持っている。
でも【縫う】と剣をどう合わせたら良いのか分からなかった。
答えは簡単に出ないけれど、セネカは諦めなかった。
創意を続ければいつしか全ての力が繋がる時が来ると信じていた。
セネカは誰よりも早く冒険者の道を駆け上がる。
天才剣士のルキウスに置いていかれないようにとひた向きに力を磨いていく。
遠い地でルキウスもまた自分の道を歩み始めた。
セネカとの大切な約束を守るために。
そして二人は巻き込まれていく。
あの日、月が瞬いた理由を知ることもなく⋯⋯。
これは、一人の少女が針と糸を使って世界と繋がる物語
(旧題:スキル【縫う】で無双します! 〜ハズレスキルと言われたけれど、努力で当たりにしてみます〜)
拾われ子のスイ
蒼居 夜燈
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞】
記憶にあるのは、自分を見下ろす紅い眼の男と、母親の「出ていきなさい」という怒声。
幼いスイは故郷から遠く離れた西大陸の果てに、ドラゴンと共に墜落した。
老夫婦に拾われたスイは墜落から七年後、二人の逝去をきっかけに養祖父と同じハンターとして生きていく為に旅に出る。
――紅い眼の男は誰なのか、母は自分を本当に捨てたのか。
スイは、故郷を探す事を決める。真実を知る為に。
出会いと別れを繰り返し、命懸けの戦いを繰り返し、喜びと悲しみを繰り返す。
清濁が混在する世界に、スイは何を見て何を思い、何を選ぶのか。
これは、ひとりの少女が世界と己を知りながら成長していく物語。
※週2回(木・日)更新。
※誤字脱字報告に関しては感想とは異なる為、修正が済み次第削除致します。ご容赦ください。
※カクヨム様にて先行公開(登場人物紹介はアルファポリス様でのみ掲載)
※表紙画像、その他キャラクターのイメージ画像はAIイラストアプリで作成したものです。再現不足で色彩の一部が作中描写とは異なります。
※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
悪役令嬢の心変わり
ナナスケ
恋愛
不慮の事故によって20代で命を落としてしまった雨月 夕は乙女ゲーム[聖女の涙]の悪役令嬢に転生してしまっていた。
7歳の誕生日10日前に前世の記憶を取り戻した夕は悪役令嬢、ダリア・クロウリーとして最悪の結末 処刑エンドを回避すべく手始めに婚約者の第2王子との婚約を破棄。
そして、処刑エンドに繋がりそうなルートを回避すべく奮闘する勘違いラブロマンス!
カッコイイ系主人公が男社会と自分に仇なす者たちを斬るっ!
魅了の対価
しがついつか
ファンタジー
家庭事情により給金の高い職場を求めて転職したリンリーは、縁あってブラウンロード伯爵家の使用人になった。
彼女は伯爵家の第二子アッシュ・ブラウンロードの侍女を任された。
ブラウンロード伯爵家では、なぜか一家のみならず屋敷で働く使用人達のすべてがアッシュのことを嫌悪していた。
アッシュと顔を合わせてすぐにリンリーも「あ、私コイツ嫌いだわ」と感じたのだが、上級使用人を目指す彼女は私情を挟まずに職務に専念することにした。
淡々と世話をしてくれるリンリーに、アッシュは次第に心を開いていった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる