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5話 上位魔物の素材収拾
08.魔物の王
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「ひぇっ……!? あれ、私達って確か毒トカゲの討伐クエで来たんですよね? 減って無くない……?」
メイヴィスはぽつりとそう呟いた。
というのも、湿地帯の出口へと走っていたのだが気付けば毒トカゲに取り囲まれどうしようもない状況に。幸い、毒トカゲは討伐対象であると同時に解毒剤の原材料でもあるので毒で苦しい思いをする事は無いが、そうでなくともこの数だ。今日の晩御飯にされかねない。
しかも、とメイヴィスはチラっとエサイアスに視線を移した。彼は遠近両用、物理を嗜む魔道職である。彼は良い。居てくれて本当に助かっている。
しかし自分は技術職。
戦闘は専門外であり、今回は身を護る為のアイテムしか持っていない。せめて氷魔法をベースにしたマジック・アイテムでも持参していれば話は違ったのだが、ローブを漁ってみても結界用の魔石しか見つからなかった。
――ごめんなさい、エサイアスさん!
心中で合掌し、どうすべきか思案する。もういっそ、自分は置いて行ってくれて構わない。足を引っ張ってギルドメンバーに死亡者を出すくらいならば、役に立たない自分がその役目を買って出てもいいくらいだ。
術式を展開したエサイアスが辺り一帯を氷付けにする。結界のお陰で術式を作る時間を稼げているにあたり、自分と彼の相性は悪くは無いのかもしれない。
雑魚処理に長けたエサイアスは地道にトカゲの数を減らしている。魔法を1つ撃てばごっそりトカゲの波が消えるので、魔力さえ底を突かなければ抜けられるか?
「メヴィ」
「はい!?」
「魔力を回復するようナ、アイテムはあるのカ?」
「す、すいません、今日は持ってないんです……!」
そうか、と事も無げにエサイアスは頷いたが、もしかしなくてもガス欠だろうか。
「エサイアスさん、ここに結界用の魔石ならあります!」
「それが無くナルと、術式ガ編めなくナル」
「た、確かに……!!」
魔道職は基本的に後衛。エサイアスは剣技を織り交ぜた魔剣士系の立ち振る舞いをするので遠近両用だが、大抵の場合魔法を撃とうと思ったら発動まで如何に時間を稼ぐのかが問題になってくる。
こう魔物の数が多くては、得手という程では無いエサイアスの剣技では魔物の処理が追い付かない。結界はどう足掻いても必須だ。
「ロード以前の問題ダナ。撤退路はナイか!?」
「え、えーっと、見渡す限りトカゲで埋まってますね。何か気持ち悪……」
しかし、これらはどこから湧いて出て来たのだろうか。こんなに密集して生活する魔物だった? いや、縄張り争いをする生き物だったはずだ。寄り集まり過ぎている。まるで、脅威から揃って逃げ出し、その過程で別の縄張りにいた同種達が混在してしまったかのような――
雷に打たれたような閃き。それを伝えるべく、顔を上げたメイヴィスは、結界内で術式を紡ぐエサイアスへと仮説を口走った。なお、そんな彼は大分憔悴していて、もうそう多くの魔法は撃てないであろう事が伺える。
「あの、エサイアスさん! この魔物達、逃げて来てるんじゃないですか?」
「……逃げて来て、イル? 何かカラ?」
「はい。私達は逃げている毒トカゲの群れに、突っ込んでしまったのではないでしょうか? だってほら、ここには――上位の魔物が棲み着いているわけだし」
「……あっ」
急に思い付いたただの単なる閃きだった。しかし、それは結果的に言えば当たっていたのかもしれない。
先程まで障害物でも排除するかのように毒を撒き散らし、警戒していたトカゲ達がまるで波でも引くかのようにサーッと流れて行く。人間共に執着していた魔物にしては呆気なく、そしていやに性急にだ。
人間や魚人の足よりずっと速い足で、蜘蛛の子を散らすようにやがては毒トカゲ達の姿は嘘のように見えなくなった。
最初に対峙した時には分からなかった、膨大で確かな魔力の流れに身震いする。
「こっちダ!」
「うぐっ……!」
振り返れずにいるとエサイアスから思い切りローブを引っ張られた。首が一瞬だけ絞まり、潰れた蛙のような声が押し出される。
クエストを受けていたメンバーと離れ離れになってしまった元凶。王たる証しの冠を煌めかせた、スケルトンの王様がゆらりと立っていたのを見る。それは足音も気配も無く近付き、魔力の強烈な圧だけを放っていた。
「マズイぞ、コッチを見てイル……!」
「な、何だか逃がしてくれそうにないですね」
瞬間、全く予備動作も無しに肉のない骨だけの手の平が向けられた。身構える暇すらない。紫電を放つボールのようなものが飛来した。それはメイヴィスが常日頃から発動させている魔石結界を完膚無きまでに破壊し、結界の核である魔石をも粉々に分解する。
「こ、壊れた……!? あんなの、私達が食らったら一瞬で黒焦げですよ!」
隣に立つエサイアスは渋い顔をしているのみだ。当然である。こんなの、ソロで相手をするような魔物ではない。
「ひぇっ……!? あれ、私達って確か毒トカゲの討伐クエで来たんですよね? 減って無くない……?」
メイヴィスはぽつりとそう呟いた。
というのも、湿地帯の出口へと走っていたのだが気付けば毒トカゲに取り囲まれどうしようもない状況に。幸い、毒トカゲは討伐対象であると同時に解毒剤の原材料でもあるので毒で苦しい思いをする事は無いが、そうでなくともこの数だ。今日の晩御飯にされかねない。
しかも、とメイヴィスはチラっとエサイアスに視線を移した。彼は遠近両用、物理を嗜む魔道職である。彼は良い。居てくれて本当に助かっている。
しかし自分は技術職。
戦闘は専門外であり、今回は身を護る為のアイテムしか持っていない。せめて氷魔法をベースにしたマジック・アイテムでも持参していれば話は違ったのだが、ローブを漁ってみても結界用の魔石しか見つからなかった。
――ごめんなさい、エサイアスさん!
心中で合掌し、どうすべきか思案する。もういっそ、自分は置いて行ってくれて構わない。足を引っ張ってギルドメンバーに死亡者を出すくらいならば、役に立たない自分がその役目を買って出てもいいくらいだ。
術式を展開したエサイアスが辺り一帯を氷付けにする。結界のお陰で術式を作る時間を稼げているにあたり、自分と彼の相性は悪くは無いのかもしれない。
雑魚処理に長けたエサイアスは地道にトカゲの数を減らしている。魔法を1つ撃てばごっそりトカゲの波が消えるので、魔力さえ底を突かなければ抜けられるか?
「メヴィ」
「はい!?」
「魔力を回復するようナ、アイテムはあるのカ?」
「す、すいません、今日は持ってないんです……!」
そうか、と事も無げにエサイアスは頷いたが、もしかしなくてもガス欠だろうか。
「エサイアスさん、ここに結界用の魔石ならあります!」
「それが無くナルと、術式ガ編めなくナル」
「た、確かに……!!」
魔道職は基本的に後衛。エサイアスは剣技を織り交ぜた魔剣士系の立ち振る舞いをするので遠近両用だが、大抵の場合魔法を撃とうと思ったら発動まで如何に時間を稼ぐのかが問題になってくる。
こう魔物の数が多くては、得手という程では無いエサイアスの剣技では魔物の処理が追い付かない。結界はどう足掻いても必須だ。
「ロード以前の問題ダナ。撤退路はナイか!?」
「え、えーっと、見渡す限りトカゲで埋まってますね。何か気持ち悪……」
しかし、これらはどこから湧いて出て来たのだろうか。こんなに密集して生活する魔物だった? いや、縄張り争いをする生き物だったはずだ。寄り集まり過ぎている。まるで、脅威から揃って逃げ出し、その過程で別の縄張りにいた同種達が混在してしまったかのような――
雷に打たれたような閃き。それを伝えるべく、顔を上げたメイヴィスは、結界内で術式を紡ぐエサイアスへと仮説を口走った。なお、そんな彼は大分憔悴していて、もうそう多くの魔法は撃てないであろう事が伺える。
「あの、エサイアスさん! この魔物達、逃げて来てるんじゃないですか?」
「……逃げて来て、イル? 何かカラ?」
「はい。私達は逃げている毒トカゲの群れに、突っ込んでしまったのではないでしょうか? だってほら、ここには――上位の魔物が棲み着いているわけだし」
「……あっ」
急に思い付いたただの単なる閃きだった。しかし、それは結果的に言えば当たっていたのかもしれない。
先程まで障害物でも排除するかのように毒を撒き散らし、警戒していたトカゲ達がまるで波でも引くかのようにサーッと流れて行く。人間共に執着していた魔物にしては呆気なく、そしていやに性急にだ。
人間や魚人の足よりずっと速い足で、蜘蛛の子を散らすようにやがては毒トカゲ達の姿は嘘のように見えなくなった。
最初に対峙した時には分からなかった、膨大で確かな魔力の流れに身震いする。
「こっちダ!」
「うぐっ……!」
振り返れずにいるとエサイアスから思い切りローブを引っ張られた。首が一瞬だけ絞まり、潰れた蛙のような声が押し出される。
クエストを受けていたメンバーと離れ離れになってしまった元凶。王たる証しの冠を煌めかせた、スケルトンの王様がゆらりと立っていたのを見る。それは足音も気配も無く近付き、魔力の強烈な圧だけを放っていた。
「マズイぞ、コッチを見てイル……!」
「な、何だか逃がしてくれそうにないですね」
瞬間、全く予備動作も無しに肉のない骨だけの手の平が向けられた。身構える暇すらない。紫電を放つボールのようなものが飛来した。それはメイヴィスが常日頃から発動させている魔石結界を完膚無きまでに破壊し、結界の核である魔石をも粉々に分解する。
「こ、壊れた……!? あんなの、私達が食らったら一瞬で黒焦げですよ!」
隣に立つエサイアスは渋い顔をしているのみだ。当然である。こんなの、ソロで相手をするような魔物ではない。
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