59 / 139
7話 日常と旅支度
04.グレアムへの依頼
しおりを挟む
ところで、とウィルドレディアはその美貌に麗しい笑みを浮かべる。
「メヴィ、明日のクエストにはナターリアも誘った方が良いわ。貴方の護衛にね」
「えっ、ほ、ホントですか!?」
「私が嘘なんて吐いた事あったかしら。いい? 事情を説明して、ちゃあんと来て貰うのよ」
「はい」
彼女がそう言うからには何か危険があるのだろう。魔女は騎士へ意味ありげな笑みを手向けた。
「ごめんなさいね。貴方の事を信用していない訳ではないのよ。ただ、貴方の腕は2本しか無いもの。純粋な手数の問題よ、あまり気にしないで頂戴ね」
「ああいや、別に気にはしていないさ。雪山を登れそうなのもナターリアだな、良い人選だ」
「聞き分けが良い子は好きよ。では、当日はよろしく」
コツコツ、高いヒールの音を残しウィルドレディアはギルドの奥へと消えて行った。今からオーガストにでも会うのかもしれない。
一方で、取り残されたアロイスはまんじりと考え事をしているようだった。
「アロイスさん?」
「メヴィ、失礼を承知で訊くが彼女は幾つだろうか。振る舞いと見目が合わない女性だな」
「ああいや、それ、ギルド七不思議です」
「またか。とはいえ、七不思議と言う以上7つは不思議があるという事になるが」
「ドレディさんは私に術式を提供してくれる、ギルド一の魔道士なんですよね。ああいう言い方をされましたけど、実際はかなりお世話になってます」
「ああ。あのミスリル採掘場やプロパガティオの時に使ったアイテムの」
「そう、それです」
そこまで答えて一抹の不安が脳裏を過ぎった。
自分は確かに魔道職であるが、複雑な術式を起動させられるような上級魔道士ではない。一般人より多少魔法を扱える程度の腕前だ。
普段はどこからともなく現れたウィルドレディアがアイテムの開発を手伝ってくれるが、流石の彼女でも隣の大陸にまでドロンと現れてくれる訳では無い。
であれば、高威力を伴うマジック・アイテムの凄惨は実質不可能だ。どうしたものかなこれは。
「メヴィ!」
今日はよく名前を呼ばれる日だ。そう思って周囲を見回す。誰だ、みんな知り合いだから誰が呼んだのか分からない。が、アロイスはしっかりと言葉を発した人物に気付いていたようだ。すっと長い指が一点を示す。
「あっ、グレアムさん! 丁度良かった、用事があったんです!」
シノの彼氏であり、元ファッションデザイナーでもあるグレアム。彼には先日から用事があった。
優雅に手を振っているグレアムの元へ駆ける。相変わらず何もかもを包み込むような慈愛に満ちた眼差しだ。
「どうかしたの? アタシに用があるって、ギルマスから聞いたわ」
「そうなんですよ、実は凄く急ぎでローブを繕って貰いたくて! すいません、何せ急だったものだから――」
1週間以内にローブを一着仕上げて欲しいなど、知り合いでなければまず頼めない事案だ。しかし、こちらには時間が無い。という旨を話して頼み込むと、グレアムは意外にも無茶なお願いを快諾した。
「ええ、任せてちょうだい! 例の、烏のローブ。アタシがお裁縫して良いだなんて光栄ね!」
「ええ? いや、そうやってハードルを上げて来るのはちょっと」
「出来次第、あなたかオーガストきゅんに渡しておくわ。報酬は次ギルドへ帰って来た時で良いわよ」
「わー! すいません、本当にすいません」
謝り倒してただの布であるそれをグレアムに託す。彼はイタズラっぽい笑みを浮かべると確認してきた。
「あなたのローブなのね?」
「あっはい。素材が思いの外余ったので、自分用に」
「そう! 腕によりを掛けて作らなきゃね! すぐに使うんでしょう?」
「……あー、グレアムさんもそういう話題、好きですよねえ」
若干呆れた声が漏れたものの、やはりファッションデザイナーは可笑しそうに笑うのみだった。断じて言うが、そういう浮かれた気分を吹っ飛ばすような緊張感なのであまり言及しないで欲しい。
「メヴィ、明日のクエストにはナターリアも誘った方が良いわ。貴方の護衛にね」
「えっ、ほ、ホントですか!?」
「私が嘘なんて吐いた事あったかしら。いい? 事情を説明して、ちゃあんと来て貰うのよ」
「はい」
彼女がそう言うからには何か危険があるのだろう。魔女は騎士へ意味ありげな笑みを手向けた。
「ごめんなさいね。貴方の事を信用していない訳ではないのよ。ただ、貴方の腕は2本しか無いもの。純粋な手数の問題よ、あまり気にしないで頂戴ね」
「ああいや、別に気にはしていないさ。雪山を登れそうなのもナターリアだな、良い人選だ」
「聞き分けが良い子は好きよ。では、当日はよろしく」
コツコツ、高いヒールの音を残しウィルドレディアはギルドの奥へと消えて行った。今からオーガストにでも会うのかもしれない。
一方で、取り残されたアロイスはまんじりと考え事をしているようだった。
「アロイスさん?」
「メヴィ、失礼を承知で訊くが彼女は幾つだろうか。振る舞いと見目が合わない女性だな」
「ああいや、それ、ギルド七不思議です」
「またか。とはいえ、七不思議と言う以上7つは不思議があるという事になるが」
「ドレディさんは私に術式を提供してくれる、ギルド一の魔道士なんですよね。ああいう言い方をされましたけど、実際はかなりお世話になってます」
「ああ。あのミスリル採掘場やプロパガティオの時に使ったアイテムの」
「そう、それです」
そこまで答えて一抹の不安が脳裏を過ぎった。
自分は確かに魔道職であるが、複雑な術式を起動させられるような上級魔道士ではない。一般人より多少魔法を扱える程度の腕前だ。
普段はどこからともなく現れたウィルドレディアがアイテムの開発を手伝ってくれるが、流石の彼女でも隣の大陸にまでドロンと現れてくれる訳では無い。
であれば、高威力を伴うマジック・アイテムの凄惨は実質不可能だ。どうしたものかなこれは。
「メヴィ!」
今日はよく名前を呼ばれる日だ。そう思って周囲を見回す。誰だ、みんな知り合いだから誰が呼んだのか分からない。が、アロイスはしっかりと言葉を発した人物に気付いていたようだ。すっと長い指が一点を示す。
「あっ、グレアムさん! 丁度良かった、用事があったんです!」
シノの彼氏であり、元ファッションデザイナーでもあるグレアム。彼には先日から用事があった。
優雅に手を振っているグレアムの元へ駆ける。相変わらず何もかもを包み込むような慈愛に満ちた眼差しだ。
「どうかしたの? アタシに用があるって、ギルマスから聞いたわ」
「そうなんですよ、実は凄く急ぎでローブを繕って貰いたくて! すいません、何せ急だったものだから――」
1週間以内にローブを一着仕上げて欲しいなど、知り合いでなければまず頼めない事案だ。しかし、こちらには時間が無い。という旨を話して頼み込むと、グレアムは意外にも無茶なお願いを快諾した。
「ええ、任せてちょうだい! 例の、烏のローブ。アタシがお裁縫して良いだなんて光栄ね!」
「ええ? いや、そうやってハードルを上げて来るのはちょっと」
「出来次第、あなたかオーガストきゅんに渡しておくわ。報酬は次ギルドへ帰って来た時で良いわよ」
「わー! すいません、本当にすいません」
謝り倒してただの布であるそれをグレアムに託す。彼はイタズラっぽい笑みを浮かべると確認してきた。
「あなたのローブなのね?」
「あっはい。素材が思いの外余ったので、自分用に」
「そう! 腕によりを掛けて作らなきゃね! すぐに使うんでしょう?」
「……あー、グレアムさんもそういう話題、好きですよねえ」
若干呆れた声が漏れたものの、やはりファッションデザイナーは可笑しそうに笑うのみだった。断じて言うが、そういう浮かれた気分を吹っ飛ばすような緊張感なのであまり言及しないで欲しい。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
三歩先行くサンタさん ~トレジャーハンターは幼女にごまをする~
杵築しゅん
ファンタジー
戦争で父を亡くしたサンタナリア2歳は、母や兄と一緒に父の家から追い出され、母の実家であるファイト子爵家に身を寄せる。でも、そこも安住の地ではなかった。
3歳の職業選別で【過去】という奇怪な職業を授かったサンタナリアは、失われた超古代高度文明紀に生きた守護霊である魔法使いの能力を受け継ぐ。
家族には内緒で魔法の練習をし、古代遺跡でトレジャーハンターとして活躍することを夢見る。
そして、新たな家門を興し母と兄を養うと決心し奮闘する。
こっそり古代遺跡に潜っては、ピンチになったトレジャーハンターを助けるサンタさん。
身分差も授かった能力の偏見も投げ飛ばし、今日も元気に三歩先を行く。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
縫剣のセネカ
藤花スイ
ファンタジー
「ぬいけんのせねか」と読みます。
--
コルドバ村のセネカは英雄に憧れるお転婆娘だ。
幼馴染のルキウスと共に穏やかな日々を過ごしていた。
ある日、セネカとルキウスの両親は村を守るために戦いに向かった。
訳も分からず見送ったその後、二人は孤児となった。
その経験から、大切なものを守るためには強さが必要だとセネカは思い知った。
二人は力をつけて英雄になるのだと誓った。
しかし、セネカが十歳の時に授かったのは【縫う】という非戦闘系のスキルだった。
一方、ルキウスは破格のスキル【神聖魔法】を得て、王都の教会へと旅立ってゆく。
二人の道は分かれてしまった。
残されたセネカは、ルキウスとの約束を胸に問い続ける。
どうやって戦っていくのか。希望はどこにあるのか⋯⋯。
セネカは剣士で、膨大な魔力を持っている。
でも【縫う】と剣をどう合わせたら良いのか分からなかった。
答えは簡単に出ないけれど、セネカは諦めなかった。
創意を続ければいつしか全ての力が繋がる時が来ると信じていた。
セネカは誰よりも早く冒険者の道を駆け上がる。
天才剣士のルキウスに置いていかれないようにとひた向きに力を磨いていく。
遠い地でルキウスもまた自分の道を歩み始めた。
セネカとの大切な約束を守るために。
そして二人は巻き込まれていく。
あの日、月が瞬いた理由を知ることもなく⋯⋯。
これは、一人の少女が針と糸を使って世界と繋がる物語
(旧題:スキル【縫う】で無双します! 〜ハズレスキルと言われたけれど、努力で当たりにしてみます〜)
拾われ子のスイ
蒼居 夜燈
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞】
記憶にあるのは、自分を見下ろす紅い眼の男と、母親の「出ていきなさい」という怒声。
幼いスイは故郷から遠く離れた西大陸の果てに、ドラゴンと共に墜落した。
老夫婦に拾われたスイは墜落から七年後、二人の逝去をきっかけに養祖父と同じハンターとして生きていく為に旅に出る。
――紅い眼の男は誰なのか、母は自分を本当に捨てたのか。
スイは、故郷を探す事を決める。真実を知る為に。
出会いと別れを繰り返し、命懸けの戦いを繰り返し、喜びと悲しみを繰り返す。
清濁が混在する世界に、スイは何を見て何を思い、何を選ぶのか。
これは、ひとりの少女が世界と己を知りながら成長していく物語。
※週2回(木・日)更新。
※誤字脱字報告に関しては感想とは異なる為、修正が済み次第削除致します。ご容赦ください。
※カクヨム様にて先行公開(登場人物紹介はアルファポリス様でのみ掲載)
※表紙画像、その他キャラクターのイメージ画像はAIイラストアプリで作成したものです。再現不足で色彩の一部が作中描写とは異なります。
※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
悪役令嬢の心変わり
ナナスケ
恋愛
不慮の事故によって20代で命を落としてしまった雨月 夕は乙女ゲーム[聖女の涙]の悪役令嬢に転生してしまっていた。
7歳の誕生日10日前に前世の記憶を取り戻した夕は悪役令嬢、ダリア・クロウリーとして最悪の結末 処刑エンドを回避すべく手始めに婚約者の第2王子との婚約を破棄。
そして、処刑エンドに繋がりそうなルートを回避すべく奮闘する勘違いラブロマンス!
カッコイイ系主人公が男社会と自分に仇なす者たちを斬るっ!
魅了の対価
しがついつか
ファンタジー
家庭事情により給金の高い職場を求めて転職したリンリーは、縁あってブラウンロード伯爵家の使用人になった。
彼女は伯爵家の第二子アッシュ・ブラウンロードの侍女を任された。
ブラウンロード伯爵家では、なぜか一家のみならず屋敷で働く使用人達のすべてがアッシュのことを嫌悪していた。
アッシュと顔を合わせてすぐにリンリーも「あ、私コイツ嫌いだわ」と感じたのだが、上級使用人を目指す彼女は私情を挟まずに職務に専念することにした。
淡々と世話をしてくれるリンリーに、アッシュは次第に心を開いていった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる