アルケミストの恋愛事情

ねんねこ

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8話 魔道士の国

01.船旅の大敵

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 輝く太陽の光を受けて、海面がキラキラと輝いている。白波を斬り裂いて進む船の進行は速い。すぐにでも目的地に着いてしまうと錯覚する程に。

「でも半日掛かるんですよね、マーブル大陸に着くまで」
「そうなるな」

 自由に開け放たれた隣大陸行きの船にて。
 メイヴィスはローブを翻した。グレアムが作成した、女性向けの可愛らしいローブだ。元々は裏地に術式が浮いているだけだったものを、袖の部分と裾の部分に装飾。かなり可愛らしいローブになってしまった。着ているだけで気分が良くなる。

 ちら、と隣に立って海を穏やかに眺めているアロイスへと視線を移す。うん、眼福眼福。

「どうした? 到着するのは正午過ぎだ。少し掛かるな」
「すっ、すぐですよ、きっと!」

 潮風に当たるアロイスを眺めているだけで時間がぐんぐん過ぎていくので、嘘では無かったが彼自身には意味不明な発言だったらしく軽く首を傾げられてしまった。

 現在はマーブル大陸にあるヴァレンディア国を目指している。
 新しい拠点になると同時、スポンサーのあの人が抱える大口の依頼が待っているからだ。ここからはギルドに居た時のように金を稼ぐ為に魔物を討伐するのではなく、素材を集める為に魔物を狩る事になるだろう。アロイスには大変申し訳ないし恐れ多いが、鍛え上げられた戦闘能力を借りなければならない。

「そういえば、着いた後はどうなっている? 俺達は勝手に観光でもしていいのか?」
「ああいえ、お迎えがいるそうです」
「迎えか。優遇されているな」

 まったくですね、とそれとなくアロイスとの会話を楽しむ。こうやって喋っていれば、目的地までなんてすぐだ。

 ***

 ――と、思っていた時期が確かにあった。

「ぐっ……これが船旅の洗礼ってやつ、なんですね……」

 甲板でお喋りし倒していたメイヴィスは早々に船酔いで撃沈した。正直、生まれてこの方船など片手で数える程度にしか乗った事が無かった上、対岸に渡るなど数分しか船に揺られただけだ。そりゃ、数時間船に乗れば船酔いもする。完全に舐めていた。

 とはいえ、喋る事で時間が潰せたのもまた事実。
 船酔いで本格的に具合が悪くなり、ダウンする前にヴァレンディア国の港に到着した。

「あまり人が乗っていないな」

 船から降りて行く乗客を眺めながらアロイスが呟く。言われてみれば、大きな船の割りに降りて行く人々は疎らだ。更に言うのなら。

「何か、私みたいな魔道ローブっぽいの着ている人、多くないですか?」
「……確かに。お前の言う通りだな」
「あの、その意味深な感じ、何かあるんですか?」

 考え込むような挙動を取ったアロイスは頭を振った。

「いや、何でも無い。迎えとやらを――いや、彼女だろうな」
「え?」

 指摘された途端、射貫くような視線を感じて顔を上げる。すぐにアロイスが示したであろう人物と目が合った。
 メイヴィスと同じくらいの背格好、これまた黒い魔道士じみたローブを投げやりに羽織っている。淡い金色のセミロングに、静かではあるが険しい視線の女性、否、少女だろうか。

 何と声を掛けるべきか考え倦ねていると、彼女がスッと近付いてきた。見れば見る程、淡泊な表情をしている。

「お待ちしておりました。メイヴィス・イルドレシア様ですね?」
「え、あ、はい! メイヴィスです!」
「旦那様から貴方を出迎えるよう命じられました、シオンと申します」
「宜しくお願いします」
「ええ、宜しくお願い致します。では早速ですが、まずは館へ赴き、旦那様とお会いになって下さい。客人を歩かせる無礼は重々承知しておりますが、よしなに」

 ペラペラと並べられる言葉に思わず頷く。とにかく展開が速い。一つの事を理解している間に、もう次の話が始まっている。何か急いでいるのだろうか。

「メヴィ、行こうか。旦那様とやらがどんな人物なのか、楽しみだな」
「あ、はい。楽しみですね!」

 本当に楽しみにしている者の顔つきでは無い邪悪さがアロイスにはあったが、触れないでおいた。
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