76 / 139
8話 魔道士の国
12.漠然とした不安
しおりを挟む
***
2時間後。
現在、シルベリア王国の国境付近をアロイスと共に彷徨いている。ヴァレンディアに居た時はそうでもなかったのだが、国境に近付いただけでこの冷え込み。流石は大陸における凍土と名高いシルベリアだ。
ちなみに、フィリップの館でアイテムを揃えておいた。硬い魔物だと聞いていたので、幾つかの魔法炸裂系アイテム。そして、万が一こちらへ突進とかして来た時の為の強力な結界アイテムだ。
一番はアロイスの邪魔にならない事。付与術式なんかも持って来たのでサポートも出来るはず。
――あれ。そういえば……2人だけで魔物の討伐に行くのって、初めてじゃないか?
いや、確かにそうだ。今までギルドにいた頃は絶対にもう一人か二人か居たはずだ。
「メヴィ?」
「あ、はい。ど、どうしました?」
――これ大丈夫か?
いくらアロイスがアホみたいに強くても、事実上自分はお荷物。今まではそれを数で補ってきた。メイヴィス・イルドレシアというのはただのアイテムボックスだからだ。アイテムボックスは自分で戦ったりなどしない。
駆け抜ける嫌な予感。それは明確な質量を持っているかのようだ。何か起こるんじゃないのか、良くない事が。
「明かりを付けてくれないか? よく見えない」
「え、はい。とっても明るくしていいですか?」
「ああ」
光球を打ち上げる。太陽には程遠い、人工的な冷たい光が網膜を焼いた。考え事をしていた為に光り加減をミスしたようだ、かなり目が痛い。それはアロイスも同じだったようだ。目を眇め、打ち上げられた光の球を見ている。
「ご、ごめんなさい。ちょっと明るくし過ぎました」
「それは構わないが、何か考え事か? 問題が起きているのなら早めに言ってくれ」
「いや、別に……何でも無いんです。魔物討伐してたら、ギルドのみんなはどうしているのかな、って、そう思っただけで」
ふ、とアロイスが笑う。
「元気にしているだろうさ。ずっとヴァレンディアにいる訳でも無い。ギルドへ帰る時に土産でも買って帰ろう」
そうなんだけど、そうじゃない。
いやでも、いつだってアロイスがいる時のクエストは成功してきたはずだ。この不安はきっと、恒常的に抱えている臆病な気質の延長上にあるもの。ただのたんなる思い込みだ。
それより、今やるべき事を遂行しなければ。人数がいないって事はつまり、やらかしたミスを拭ってくれる仲間もいないという事になる。
獣のような低い呻り声が鼓膜を叩く。恐らく急に出現した光に驚いた魔物が集まって来たのだろう。
「さて、お目当ての魔物はいるかな?」
「い、いなかったら……どうしますか?」
「出て来るまで、出現する魔物を全て処理する。ここ一帯はアトノコンの縄張りだ。俺達が縄張り荒らしをしている以上、直ぐに姿を現すさ」
「そ、そうなんですね」
結果的に言えば、メイヴィスの心配は杞憂に終わった。姿を現したのはまさにフィリップから教えて貰った通りの姿。そして、コゼット・ギルドに居た時は一度だって見た事の無い魔物だった。
削りだした水晶のような形をした鉱物を背に負った巨大なウサギ。水晶のような鉱物は形こそそれに似ているが、放つ輝きはパールなどのそれに似ているだろう。それらで全身をコーティングしたウサギは元気に飛び跳ねている。
間違い無い。コイツがアトノコンだ。見るからに硬そうだし、そもそもアロイスの大剣は刃を通す事が出来るのだろうか。
覚えた不安が、徐々に徐々に形になっていく。こんな魔物、物理攻撃で討伐出来るものなのだろうか。
直ぐさま魔石の結界を展開。ローブに手を突っ込み、氷の術式を内包したガラス玉を取り出す。雷、炎系統も持っていたがこれらは火事になりかねないので自重した。
「あ、アロイスさん……、これ……!」
「ああ、見た事の無い魔物だな。速そうだ」
――いや、そっちじゃない! 物理攻撃が効かなさそうだって言ってるの!!
呑気に笑みを浮かべているアロイスの大剣。その切っ先が3体に増えたアトノコンの1体を捕らえた。
2時間後。
現在、シルベリア王国の国境付近をアロイスと共に彷徨いている。ヴァレンディアに居た時はそうでもなかったのだが、国境に近付いただけでこの冷え込み。流石は大陸における凍土と名高いシルベリアだ。
ちなみに、フィリップの館でアイテムを揃えておいた。硬い魔物だと聞いていたので、幾つかの魔法炸裂系アイテム。そして、万が一こちらへ突進とかして来た時の為の強力な結界アイテムだ。
一番はアロイスの邪魔にならない事。付与術式なんかも持って来たのでサポートも出来るはず。
――あれ。そういえば……2人だけで魔物の討伐に行くのって、初めてじゃないか?
いや、確かにそうだ。今までギルドにいた頃は絶対にもう一人か二人か居たはずだ。
「メヴィ?」
「あ、はい。ど、どうしました?」
――これ大丈夫か?
いくらアロイスがアホみたいに強くても、事実上自分はお荷物。今まではそれを数で補ってきた。メイヴィス・イルドレシアというのはただのアイテムボックスだからだ。アイテムボックスは自分で戦ったりなどしない。
駆け抜ける嫌な予感。それは明確な質量を持っているかのようだ。何か起こるんじゃないのか、良くない事が。
「明かりを付けてくれないか? よく見えない」
「え、はい。とっても明るくしていいですか?」
「ああ」
光球を打ち上げる。太陽には程遠い、人工的な冷たい光が網膜を焼いた。考え事をしていた為に光り加減をミスしたようだ、かなり目が痛い。それはアロイスも同じだったようだ。目を眇め、打ち上げられた光の球を見ている。
「ご、ごめんなさい。ちょっと明るくし過ぎました」
「それは構わないが、何か考え事か? 問題が起きているのなら早めに言ってくれ」
「いや、別に……何でも無いんです。魔物討伐してたら、ギルドのみんなはどうしているのかな、って、そう思っただけで」
ふ、とアロイスが笑う。
「元気にしているだろうさ。ずっとヴァレンディアにいる訳でも無い。ギルドへ帰る時に土産でも買って帰ろう」
そうなんだけど、そうじゃない。
いやでも、いつだってアロイスがいる時のクエストは成功してきたはずだ。この不安はきっと、恒常的に抱えている臆病な気質の延長上にあるもの。ただのたんなる思い込みだ。
それより、今やるべき事を遂行しなければ。人数がいないって事はつまり、やらかしたミスを拭ってくれる仲間もいないという事になる。
獣のような低い呻り声が鼓膜を叩く。恐らく急に出現した光に驚いた魔物が集まって来たのだろう。
「さて、お目当ての魔物はいるかな?」
「い、いなかったら……どうしますか?」
「出て来るまで、出現する魔物を全て処理する。ここ一帯はアトノコンの縄張りだ。俺達が縄張り荒らしをしている以上、直ぐに姿を現すさ」
「そ、そうなんですね」
結果的に言えば、メイヴィスの心配は杞憂に終わった。姿を現したのはまさにフィリップから教えて貰った通りの姿。そして、コゼット・ギルドに居た時は一度だって見た事の無い魔物だった。
削りだした水晶のような形をした鉱物を背に負った巨大なウサギ。水晶のような鉱物は形こそそれに似ているが、放つ輝きはパールなどのそれに似ているだろう。それらで全身をコーティングしたウサギは元気に飛び跳ねている。
間違い無い。コイツがアトノコンだ。見るからに硬そうだし、そもそもアロイスの大剣は刃を通す事が出来るのだろうか。
覚えた不安が、徐々に徐々に形になっていく。こんな魔物、物理攻撃で討伐出来るものなのだろうか。
直ぐさま魔石の結界を展開。ローブに手を突っ込み、氷の術式を内包したガラス玉を取り出す。雷、炎系統も持っていたがこれらは火事になりかねないので自重した。
「あ、アロイスさん……、これ……!」
「ああ、見た事の無い魔物だな。速そうだ」
――いや、そっちじゃない! 物理攻撃が効かなさそうだって言ってるの!!
呑気に笑みを浮かべているアロイスの大剣。その切っ先が3体に増えたアトノコンの1体を捕らえた。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです
白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。
ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。
「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」
ある日、アリシアは見てしまう。
夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを!
「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」
「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」
夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。
自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。
ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。
※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
アリエッタ幼女、スラムからの華麗なる転身
にゃんすき
ファンタジー
冒頭からいきなり主人公のアリエッタが大きな男に攫われて、前世の記憶を思い出し、逃げる所から物語が始まります。
姉妹で力を合わせて幸せを掴み取るストーリーになる、予定です。
義務ですもの。
あんど もあ
ファンタジー
貴族令嬢の義務として親の決めた相手に嫁いだが、夫には愛する人がいた。夫にないがしろにされても、妻として母として嫁としての義務を果たして誠実に生きたヒロインの掴んだ、ちょっと歪んだ幸せとは。
拾われ子のスイ
蒼居 夜燈
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞】
記憶にあるのは、自分を見下ろす紅い眼の男と、母親の「出ていきなさい」という怒声。
幼いスイは故郷から遠く離れた西大陸の果てに、ドラゴンと共に墜落した。
老夫婦に拾われたスイは墜落から七年後、二人の逝去をきっかけに養祖父と同じハンターとして生きていく為に旅に出る。
――紅い眼の男は誰なのか、母は自分を本当に捨てたのか。
スイは、故郷を探す事を決める。真実を知る為に。
出会いと別れを繰り返し、生命を懸けて鬩ぎ合い、幾度も涙を流す旅路の中で自分の在り方を探す。
清濁が混在する世界に、スイは何を見て何を思い、何を選ぶのか。
これは、ひとりの少女が世界と己を知りながら成長していく物語。
※基本週2回(木・日)更新。
※誤字脱字報告に関しては感想とは異なる為、修正が済み次第削除致します。ご容赦ください。
※カクヨム様にて先行公開中(登場人物紹介はアルファポリス様でのみ掲載)
※表紙画像、その他キャラクターのイメージ画像はAIイラストアプリで作成したものです。再現不足で色彩の一部が作中描写とは異なります。
※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
掃除婦に追いやられた私、城のゴミ山から古代兵器を次々と発掘して国中、世界中?がざわつく
タマ マコト
ファンタジー
王立工房の魔導測量師見習いリーナは、誰にも測れない“失われた魔力波長”を感じ取れるせいで奇人扱いされ、派閥争いのスケープゴートにされて掃除婦として城のゴミ置き場に追いやられる。
最底辺の仕事に落ちた彼女は、ゴミ山の中から自分にだけ見える微かな光を見つけ、それを磨き上げた結果、朽ちた金属片が古代兵器アークレールとして完全復活し、世界の均衡を揺るがす存在としての第一歩を踏み出す。
私と母のサバイバル
だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。
しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。
希望を諦めず森を進もう。
そう決意するシェリーに異変が起きた。
「私、別世界の前世があるみたい」
前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?
無能妃候補は辞退したい
水綴(ミツヅリ)
ファンタジー
貴族の嗜み・教養がとにかく身に付かず、社交会にも出してもらえない無能侯爵令嬢メイヴィス・ラングラーは、死んだ姉の代わりに15歳で王太子妃候補として王宮へ迎え入れられる。
しかし王太子サイラスには周囲から正妃最有力候補と囁かれる公爵令嬢クリスタがおり、王太子妃候補とは名ばかりの茶番レース。
帰る場所のないメイヴィスは、サイラスとクリスタが正式に婚約を発表する3年後までひっそりと王宮で過ごすことに。
誰もが不出来な自分を見下す中、誰とも関わりたくないメイヴィスはサイラスとも他の王太子妃候補たちとも距離を取るが……。
果たしてメイヴィスは王宮を出られるのか?
誰にも愛されないひとりぼっちの無気力令嬢が愛を得るまでの話。
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる