アルケミストの恋愛事情

ねんねこ

文字の大きさ
88 / 139
9話 アルケミストの武器

07.シノからのお願い

しおりを挟む
 戻って来たアロイスにお疲れ様と声を掛けながら、それとなく得物の件はどうなったのか訊ねてみる。

「あの、アロイスさん? シノさんとの打ち合わせは終わったと言っていましたけど、えーっと、その、どうなりました……?」
「どうも何も、一先ずシノには欠けた部分の補修を頼んだ。何でも良い、と答えたので後でお前の工房に材料が無いか見に行くと言っていたぞ」
「えっ、そうなんですか? えー、何かあったかなあ……」

 シノを待たせてしまう事になるので、地下の工房へ戻る事にした。彼女が扱う素材を早く決めないと、アロイスに得物を持たせないまま戦わせる事になる。そんな事をすれば、怪我が悪化するのは必至。
 彼の傷が癒えるまで何事が無いとも限らないし、早々にシノと素材の打ち合わせを終えるべきだ。

「じゃあ、みんな! 私、地下に行って来ます! 付き合って頂いて有り難うございました!!」

 何故かその一瞬、自身の得物を眺めていたヘルフリートと目が合った。ゾッとするような感情の無い双眸、それはかつて何度か目にした。ウィルドレディアの言葉が甦る。しかし、こちらが何か訊ねるよりも早く爽やかな笑みを顔に浮かべたヘルフリートその人から手を振られてしまった。

 ***

 地下へ下りて来たメイヴィスは、鍛冶場前でシノと遭遇した。彼女はどうやら自分達がやって来るのを待っていたようで、「遅い」、と一言だけそう漏らす。

「シノさん、私に用事だったみたいですけど……」
「そうそう。お前さ、アロイスの大剣の欠け部分に上手い事嵌る素材とか持ってない? 何やっても良いって依頼人がそう言うから、色々とお楽しみ武器にしたいんだけど」
「それを本人の前で言っちゃうあたり、シノさんだよなあって。今思ってます」

 恐る恐るアロイスの様子を伺うも、彼は穏やかな笑みを浮かべているだけだった。自分の持ち武器の話なんだけどな。
 ともあれ、シノのお眼鏡に適う素材は無かったかと思考を巡らせる。
 ずっと前、まだ夏で海でのボランティアへ行った時、アロイスにはそれとなく術式が簡単に起動出来る大剣に改造しようかという話をした事があった。単純に、魔法はあまり使わないアロイスの『魔法』部分を強化出来る素材が良いだろうか。

 ――いやでも、私も一緒に戦うって考えてるのにそんな所を強化して良いのか……?
 あの騎士が唯一、普通にしか扱えない魔法の部分。それを自分が担う事で上手い事天秤を釣り合わせようとしていたはずなのに。

「そういえばメヴィ、ミスリルはどうなった?」
「え? ああ、ミスリルは……加工の目処、立って無いですね。うーん、探してみます。今の一瞬で色々考えましたけど、やっぱり前に言った通り魔法補強系の素材が良いだろうし」
「まあ、騎士職であと鍛えられるのは魔法しかないな」
「……そうだ、丁度私、自分用の杖も造ろうと思っているんですよね」
「や、流石に鍛冶場で杖は無理だわ」
「いやいや、それで、何かの拍子に使えそうな素材が出来たら譲ります」

 へぇ、とシノは笑みを浮かべた。何かを企んでいるような、斜に構えた表情だ。

「そりゃいい。楽しみにしてるよ、メヴィ」
「どこへ行くんですか?」
「んー、あたしは師匠みたいに腕が立つ訳じゃ無いからさ。設計図、作っておく」
「悪いな、シノ。だが何が出来上がっても、要は折れさえしなければ問題無い。気負わずにやってくれ」

 うるせ、と憎まれ口を叩いたシノは鍛冶場へと入って行った。アロイスはああ言ったが、シノは事、鍛冶にに対して妥協はしない。心配しなくとも、簡単に折れてしまうような補強はしないはずだ。

「アロイスさん、私も工房で錬金術に励みます。ちょっと今日は退屈な作業になると思うので、ロビーに居た方が良いと思います」
「そうか……。怪我をしているからな、特にやる事も無くて暇そうだ」
「えーっと、たまにはヒルデさんとか、ヘルフリートさんとかとお喋りを楽しむのはどうでしょうか?」
「……それもそうだな。ではメヴィ、また後で」

 アロイスは心なしか退屈そうにロビーへと上がって行ってしまった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

三歩先行くサンタさん ~トレジャーハンターは幼女にごまをする~

杵築しゅん
ファンタジー
 戦争で父を亡くしたサンタナリア2歳は、母や兄と一緒に父の家から追い出され、母の実家であるファイト子爵家に身を寄せる。でも、そこも安住の地ではなかった。  3歳の職業選別で【過去】という奇怪な職業を授かったサンタナリアは、失われた超古代高度文明紀に生きた守護霊である魔法使いの能力を受け継ぐ。  家族には内緒で魔法の練習をし、古代遺跡でトレジャーハンターとして活躍することを夢見る。  そして、新たな家門を興し母と兄を養うと決心し奮闘する。  こっそり古代遺跡に潜っては、ピンチになったトレジャーハンターを助けるサンタさん。  身分差も授かった能力の偏見も投げ飛ばし、今日も元気に三歩先を行く。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

物語は始まりませんでした

王水
ファンタジー
カタカナ名を覚えるのが苦手な女性が異世界転生したら……

縫剣のセネカ

藤花スイ
ファンタジー
「ぬいけんのせねか」と読みます。 -- コルドバ村のセネカは英雄に憧れるお転婆娘だ。 幼馴染のルキウスと共に穏やかな日々を過ごしていた。 ある日、セネカとルキウスの両親は村を守るために戦いに向かった。 訳も分からず見送ったその後、二人は孤児となった。 その経験から、大切なものを守るためには強さが必要だとセネカは思い知った。 二人は力をつけて英雄になるのだと誓った。 しかし、セネカが十歳の時に授かったのは【縫う】という非戦闘系のスキルだった。 一方、ルキウスは破格のスキル【神聖魔法】を得て、王都の教会へと旅立ってゆく。 二人の道は分かれてしまった。 残されたセネカは、ルキウスとの約束を胸に問い続ける。 どうやって戦っていくのか。希望はどこにあるのか⋯⋯。 セネカは剣士で、膨大な魔力を持っている。 でも【縫う】と剣をどう合わせたら良いのか分からなかった。 答えは簡単に出ないけれど、セネカは諦めなかった。 創意を続ければいつしか全ての力が繋がる時が来ると信じていた。 セネカは誰よりも早く冒険者の道を駆け上がる。 天才剣士のルキウスに置いていかれないようにとひた向きに力を磨いていく。 遠い地でルキウスもまた自分の道を歩み始めた。 セネカとの大切な約束を守るために。 そして二人は巻き込まれていく。 あの日、月が瞬いた理由を知ることもなく⋯⋯。 これは、一人の少女が針と糸を使って世界と繋がる物語 (旧題:スキル【縫う】で無双します! 〜ハズレスキルと言われたけれど、努力で当たりにしてみます〜)

拾われ子のスイ

蒼居 夜燈
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞】 記憶にあるのは、自分を見下ろす紅い眼の男と、母親の「出ていきなさい」という怒声。 幼いスイは故郷から遠く離れた西大陸の果てに、ドラゴンと共に墜落した。 老夫婦に拾われたスイは墜落から七年後、二人の逝去をきっかけに養祖父と同じハンターとして生きていく為に旅に出る。 ――紅い眼の男は誰なのか、母は自分を本当に捨てたのか。 スイは、故郷を探す事を決める。真実を知る為に。 出会いと別れを繰り返し、命懸けの戦いを繰り返し、喜びと悲しみを繰り返す。 清濁が混在する世界に、スイは何を見て何を思い、何を選ぶのか。 これは、ひとりの少女が世界と己を知りながら成長していく物語。 ※週2回(木・日)更新。 ※誤字脱字報告に関しては感想とは異なる為、修正が済み次第削除致します。ご容赦ください。 ※カクヨム様にて先行公開(登場人物紹介はアルファポリス様でのみ掲載) ※表紙画像、その他キャラクターのイメージ画像はAIイラストアプリで作成したものです。再現不足で色彩の一部が作中描写とは異なります。 ※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

悪役令嬢の心変わり

ナナスケ
恋愛
不慮の事故によって20代で命を落としてしまった雨月 夕は乙女ゲーム[聖女の涙]の悪役令嬢に転生してしまっていた。 7歳の誕生日10日前に前世の記憶を取り戻した夕は悪役令嬢、ダリア・クロウリーとして最悪の結末 処刑エンドを回避すべく手始めに婚約者の第2王子との婚約を破棄。 そして、処刑エンドに繋がりそうなルートを回避すべく奮闘する勘違いラブロマンス! カッコイイ系主人公が男社会と自分に仇なす者たちを斬るっ!

魅了の対価

しがついつか
ファンタジー
家庭事情により給金の高い職場を求めて転職したリンリーは、縁あってブラウンロード伯爵家の使用人になった。 彼女は伯爵家の第二子アッシュ・ブラウンロードの侍女を任された。 ブラウンロード伯爵家では、なぜか一家のみならず屋敷で働く使用人達のすべてがアッシュのことを嫌悪していた。 アッシュと顔を合わせてすぐにリンリーも「あ、私コイツ嫌いだわ」と感じたのだが、上級使用人を目指す彼女は私情を挟まずに職務に専念することにした。 淡々と世話をしてくれるリンリーに、アッシュは次第に心を開いていった。

処理中です...