アルケミストの恋愛事情

ねんねこ

文字の大きさ
91 / 139
10話 出張! シルベリア!

01.すれ違う思惑

しおりを挟む
 アロイスの怪我は完治し、大剣の補強も済んでから1週間。ヴァレンディア魔道国へ戻ってからは3日間が経過した。

「うわあ……」

 白い雪、白い地面、吐き出す息は白く凍る。
 年中真冬の大地、シルベリア王国の国境付近に来ていたメイヴィスはあまりの寒さに愕然と息を吐き出した。寒い、とにかく寒い。ヴァレンディアは既に春の陽気に包まれていただけに、まるで別世界へ来たようだと錯覚してしまう程だ。

「ふふ、寒いな。メヴィ」
「あ、アロイスさんは全然寒そうに見えませんけど……!」
「まさか。俺だって人間だ。寒い時には寒さを感じているさ」

 それは確かにそうなのだろうが、分厚い雲に覆われた空を見ている騎士サマは心なしか楽しそうで、とても寒さを感じているようには見えない。
 とはいえ、防寒具は錬金術で完全保温性のコートに変えて来た。実際に寒いのは、コートに触れていない部分。手袋と袖の隙間だとか、マフラーの少し空いた部分とか、顔面だ。それでも身体の芯が凍るような寒さだが。

「何だか、ヴァレンディアでは春だったのが嘘みたいですね」
「王国は年中、冬で雪が降っているからな。気候を完全に無視したこの大地の謎は、未だに解明されていないそうだ。どうだ、メヴィ? 調べてみる気は無いか?」
「アロイスさん……。私は天候学者でも、地質学者でもなく錬金術師なんですよ」
「ああ。知っているさ」

 何故、シルベリアにいるのか。
 事の発端は一昨日にまで遡る。

 ***

 正午、今までお休みしていた分を取り戻すかのようにユリアナにアイテムの納品をしたメイヴィスは地下の工房で休憩していた。錬金アイテムは何故か馬鹿売れするので、たくさん作っても取り敢えずは全て売れる。次から次に錬金術に触れるのは、勉強になってとても良いと言えるだろう。

「――メヴィ、少し良いだろうか」
「ふわっ!? あ、ああ、アロイスさん!? どっ、どうしましたか!?」

 前々からそうだったが、アロイスは工房へ入ってくる時のノックとドアを開けるタイミングが同時だ。それはノックの意味がないと思ったが、未だにその事実を教えられずにいる。
 ともあれ、急に乗り込んで来た彼はいやに真剣な顔をしていた。改まっている、とも言える。

 まさか、護衛の任を下りるという通達だろうか。あり得なくも無い。何せ、アロイスは元騎士。他に割りの良い仕事など幾らでもあるし、ヘルフリートやシノ曰く、一カ所に留まるのを嫌うとの事だ。
 急にギルドへ戻ると言い出しても不思議ではない。
 アロイスに合わせて、メイヴィスもまた背筋を正した。恐々と死刑宣告を待つ。

「メヴィ、俺は考えたのだが……」
「な、何をですか……?」

 息を呑む。
 これまでにないくらい真剣な顔をしたアロイスは、ゆっくりとその考えを口にした。

「――シルベリア王国に行ってみないか?」
「は?」
「隣の王国だ。ヴァレンディアとはまた違った雰囲気だし、折角、隣の大陸に来たのだから見に行ってみるのも悪くないだろう。どうだ?」

 ――いや、どうだ? って言われても……。何で急に……?
 全く唐突な申し出に、メイヴィスは一瞬だけ言葉を失った。彼が言わんとする事は理解出来るが、どうして今なのか。もっと生活が落ち着いて、来週くらいでもよくないか?

 そう思うと同時、まさかアロイスが何の目的も無く、ただ観光で遠くへ足を伸ばそうと言っている訳では無いと思い直す。
 シルベリアへ行く理由、理由、理由――

「……あ」

 ――そうか、素材集めだ! アロイスさんは、私の為に素材集めへ行こうと提案してくれているんだ!
 確かに、シルベリアのような特殊な大地にはそこにしかない素材がたくさんある。行って損は無いどころか、珍しい素材を手に入れるチャンスではないだろうか。

 メイヴィスはキラキラとした目を護衛騎士へと向けた。流石は経験豊富な騎士サマ。考える事が凡人の自分とは一線を画している。

「行きます! とにかく、防寒具を作りますね!」
「ああ、そう言うと思っていた。実はヒルデが、雪の綺麗な土地だと言っていてな。気にはなっていたんだ」
「雪? 確かに、シルベリアの上質な水を含む雪は良い素材になりそうですね!」
「素材……?」

 可愛らしく小首を傾げるアロイスを見て、不意に理解した。
 ――あっ、これ別に素材とか気にしてくれていた訳じゃなく、特に考えず観光に行きたかっただけなんですね、アロイスさん!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。 ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。 「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」 ある日、アリシアは見てしまう。 夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを! 「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」 「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」 夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。 自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。 ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。 ※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

アリエッタ幼女、スラムからの華麗なる転身

にゃんすき
ファンタジー
冒頭からいきなり主人公のアリエッタが大きな男に攫われて、前世の記憶を思い出し、逃げる所から物語が始まります。  姉妹で力を合わせて幸せを掴み取るストーリーになる、予定です。

義務ですもの。

あんど もあ
ファンタジー
貴族令嬢の義務として親の決めた相手に嫁いだが、夫には愛する人がいた。夫にないがしろにされても、妻として母として嫁としての義務を果たして誠実に生きたヒロインの掴んだ、ちょっと歪んだ幸せとは。

拾われ子のスイ

蒼居 夜燈
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞】 記憶にあるのは、自分を見下ろす紅い眼の男と、母親の「出ていきなさい」という怒声。 幼いスイは故郷から遠く離れた西大陸の果てに、ドラゴンと共に墜落した。 老夫婦に拾われたスイは墜落から七年後、二人の逝去をきっかけに養祖父と同じハンターとして生きていく為に旅に出る。 ――紅い眼の男は誰なのか、母は自分を本当に捨てたのか。 スイは、故郷を探す事を決める。真実を知る為に。 出会いと別れを繰り返し、生命を懸けて鬩ぎ合い、幾度も涙を流す旅路の中で自分の在り方を探す。 清濁が混在する世界に、スイは何を見て何を思い、何を選ぶのか。 これは、ひとりの少女が世界と己を知りながら成長していく物語。 ※基本週2回(木・日)更新。 ※誤字脱字報告に関しては感想とは異なる為、修正が済み次第削除致します。ご容赦ください。 ※カクヨム様にて先行公開中(登場人物紹介はアルファポリス様でのみ掲載) ※表紙画像、その他キャラクターのイメージ画像はAIイラストアプリで作成したものです。再現不足で色彩の一部が作中描写とは異なります。 ※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

掃除婦に追いやられた私、城のゴミ山から古代兵器を次々と発掘して国中、世界中?がざわつく

タマ マコト
ファンタジー
王立工房の魔導測量師見習いリーナは、誰にも測れない“失われた魔力波長”を感じ取れるせいで奇人扱いされ、派閥争いのスケープゴートにされて掃除婦として城のゴミ置き場に追いやられる。 最底辺の仕事に落ちた彼女は、ゴミ山の中から自分にだけ見える微かな光を見つけ、それを磨き上げた結果、朽ちた金属片が古代兵器アークレールとして完全復活し、世界の均衡を揺るがす存在としての第一歩を踏み出す。

私と母のサバイバル

だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。 しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。 希望を諦めず森を進もう。 そう決意するシェリーに異変が起きた。 「私、別世界の前世があるみたい」 前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

無能妃候補は辞退したい

水綴(ミツヅリ)
ファンタジー
貴族の嗜み・教養がとにかく身に付かず、社交会にも出してもらえない無能侯爵令嬢メイヴィス・ラングラーは、死んだ姉の代わりに15歳で王太子妃候補として王宮へ迎え入れられる。 しかし王太子サイラスには周囲から正妃最有力候補と囁かれる公爵令嬢クリスタがおり、王太子妃候補とは名ばかりの茶番レース。 帰る場所のないメイヴィスは、サイラスとクリスタが正式に婚約を発表する3年後までひっそりと王宮で過ごすことに。 誰もが不出来な自分を見下す中、誰とも関わりたくないメイヴィスはサイラスとも他の王太子妃候補たちとも距離を取るが……。 果たしてメイヴィスは王宮を出られるのか? 誰にも愛されないひとりぼっちの無気力令嬢が愛を得るまでの話。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。

処理中です...